15歳編③
カルマンとヨハンは精霊のヘーゼルと共に宿に入ると、それぞれ荷物をまとめ始める。
「ホントにああいう言い方でよかったのか?」
「いいんだよ…ジュリアが傷つくよりは…」
ヨハンの問いに答えるカルマンの言葉はどことなく重苦しい。
そもそも、ヨハンとジュリアは親同士が決めた許婚同士だし、カルマンとジュリアも母親同士が姉妹…地位的にも血縁的にも結ばれるのが許されない関係だった。カルマンにとってジュリアは大好きな相手だが、そんな存在だからこそ大切にしたいし、ヨハンと結ばれる事でジュリアが幸せでいられるなら、潔く身を引こう…カルマンはそう判断した。
だけど、どうしてだろうか…こんなに胸が張り裂けそうな想いは…それに、ヨハンの顔を見るのも辛く感じる…カルマンはぐっと感情を押し殺しつつ、ヨハンとヘーゼルに向かって口を開いた。
「2人共…ちょっと1人にさせてくれねぇか?」
突然のカルマンの発言に疑問を持ちつつも、ヨハンとヘーゼルは渋々部屋を出る。それと同時にセレーネが宿屋に戻って来て、ヨハンは試合の結果をセレーネに告げる。
「カルマンは自分の負けだとは言っていたが、お前と瓜二つのカオスジャンクが現れた…あれは審判の私からしたら、無効試合だ。」
いとこからの言葉に、セレーネは愕然とする。
「わ、私…邪魔をするつもりは…」
「それは分かってる…だが、問題はカルマン自身だ。試合の後の発言…普段のカルマンらしくない。普段なら、好きな相手をペラペラ喋りそうなのに…」
幾ら取り繕うとしても、幼馴染の目を誤魔化せるワケなどない。ドアに背を持たれつつ、カルマンは自身の持つ大剣に目を向ける。普段は真紅に輝く大剣ではあるが、今は石になってしまったかの如く、色がくすんでしまっている。カルマン自身の甲冑もそうだ。大剣共々くすんだ色に変わり、まるでカルマンの心を表すかのようにカルマンの全身に重くのしかかる。
「ぐすっ…」
不意にカルマンの目から涙がこぼれ、くすんだ甲冑にぽつりと落ちると、カルマンは瞬く間に白いカッターシャツにチョコレート色のハーフパンツにショートブーツという格好に変わり、カルマンの目の前にはまるで石のように変わり果てた剣がアクセサリーのサイズになって転がった。
「カラン…」
まるで勇者として「失格」の烙印を押されたかの如く、突きつけられた現実に、カルマンは黙々と荷物をトランクにまとめ、宿屋の窓から木を伝って飛び出してしまったのだった。
『勇者じゃなくなった今、旅に出る意味なんてねぇ…』
トランクを抱えたカルマンは、船の時刻表を携え、まるでヨハン達から逃げ出すかの如く、港へ走り出した。
『サヨナラ…勇者だった俺…』