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15歳編①

 1996年3月14日―スイーツ界グレートホイップ連合王国首都・スコーン


 カルマンが勇者として旅を始めて1年が過ぎた。現在はシュガトピア王国から海を渡り、グレートホイップ連合王国の探索を終えたばかりで、次の行先をどこにするのか話し合っているところだ。

「次はツブアーヌ王国なんてのはどうでしょう?あちらは宗教に寛容ですし…」

「今の国王、エドモンド2世だろ?あいつ、俺のばーちゃんに嫌がらせしてたから、国王やめるまで、ぜってぇ行かねぇ!!!」

「右に同じ!!!あーしもあの国王ムカつく~」

 1人の巫女の提案に対し、カルマンが機嫌の悪い表情で却下の意見を述べ、精霊ヘーゼルが勇者の意見に同意する。

「そもそも、今のツブアーヌはコシーアの独立運動や、王位継承問題で内部情勢は酷いものだ。私としてはパンヌーク王国を経由してから…」


 旅自体は楽しいのだが、カルマンにとってセレーネの同行は不快としか言いようがなく、集落の長(むらのおさ)から巫女として認められたものの、相変わらず巫女としての実力もカルマン達の足を引っ張る事ばかりな上に、今朝もカルマンが起きると、1人で寝ていたはずのベッドにセレーネがいたり…と、彼にとっては相当屈辱的な事だった。


「………」

 次の行先を話し合う3人に対し、ジュリアは黙り込んだまま喋ろうとしない。それどころか、時折カルマンに目線を向けるたびに、何度もため息をついている。そんな彼女に気づいたのか否か、カルマンはジュリアに…


「ジュリア、お前ならどこにする?次の行先…」

「よ、ヨハンの言う通り、情勢が良くて、比較的近いパンヌーク王国がええと思うけどなぁ…」

「そ…それなら、パンヌークに決まりだな?」

 いつもと違う調子の幼馴染に、カルマンは少しばかり戸惑ってしまう。テーブルで隠れてはいるが、ジュリアの両手には魔法学校から送られてきた1通の手紙が握りしめられている。それは、魔法学校の入学希望者の修行相手になるようにという召集令状であった。



 ジュリアが卒業した魔法学校・マフィン魔法アカデミーは、卒業して2年目で入学希望者に魔法の修行をつけるという掟がある。ジュリアも入学前は、卒業生からの1年間の厳しい修行を経て魔法学校に入学し、首席で卒業した。

『シンシアはんなら、どれだけラクなことか…』

 妹のシンシアも飛び級ではありながら、来年度の入学希望者である。しかし、校長先生の占いによって修業をつける相手が決められるため、今のジュリアには「不安」の二文字が脳内をよぎる。


「だけど、ウチがパンヌークに行くのは遅うなるかもしれんわ。ウチ…魔法学校のしきたりで、この国に残るよう言われとるんよ。」


 1人の魔法少女の衝撃的な言葉に、3人と1人の精霊は一斉に驚きを隠せない。その様子に、ジュリアは1人の幼馴染に目を向ける。

「長くて1年…ウチはカルマン達と別行動になるって、校長先生から言われとるんよ。賢者になるには、どうしてもこのしきたりは避けられへんのや…」

「やっぱり、賢者の家系に生まれた以上…そうなってしまうか。ジュリアが賢者になると言うなら、私は決して止めはしない。」

 いとこが幼馴染に発した言葉に、セレーネは少しばかり安堵の表情を浮かべ、精霊はそんな巫女に不快感を示しつつ…

「ジュリっちが決めた夢じゃん!叶えたいのなら、あーし達は引き止めないよ。」

 ヘーゼルらしい言葉で、魔法少女の夢に背中を押す。

「そりゃ、賢者になるのはお前の昔からの夢だもんな…構わねぇよ?」

「随分とあっさり承諾するんやな…」

 カルマンの言葉に、ジュリアは不満そうな顔をする。

「ウチがいない間、セレーネはんがイタズラしはったら、カルマンは1人で対処できるん?」

「うぐっ…」

 ジュリアの問いに、カルマンは思わず言葉を詰まらせてしまった。

「それにセレーネはんを拒む割には、昨夜はまんざらでもなさそうな寝顔しとったねぇ…」

「確かに、カルマンは悪夢にうなされる度、セレーネが手を握ると、安心したような顔をするな。」

 ジュリアの言葉にヨハンが相槌を打つと、セレーネは青い瞳をきらきらと輝かせ始める。


「う、うるせぇっ!!!こんな巫女がいなくても、悪夢なんて、へ、へ、へ…平気なんだからなっ!!!」


 強がって拒んではいるが、カルマンはこれまで旅をしてきて、1人で悪夢に対処できた試しがない。悪夢を見た夜は、セレーネが彼の手を握っていた。それだけではない。セレーネが手を握ると、必ず彼の夢の中に12歳の時に出会った、祖母とよく似た女勇者が出てくるのである。まぁ、彼女の事はカルマンだけの秘密なのだが。


 しかし、セレーネが手を握ると、なぜその女勇者が出てくるのか…カルマンはまだその理由がわかっていない。そもそも、セレーネを邪険にしている時点で、理解するにはまだ時間を要するだろう。


「大体、グレイさんと合流できれば、この巫女と離れることができるんだ。そうすりゃ、もうイタズラされなくて済むんだからな?」

 旅立ちの時の契約はまだ覚えているようだ。しかし、当のグレイ氏はシュガトピア王国騎士団第7部隊の副隊長に任命され、旅に同行するどころではなくなっている。


「その事、まだ信じとるんやね?それなら、カルマン…ウチと勝負や!ウチが勝ったら、カルマンが想いを寄せてる相手…そして、セレーネはんに対して本当はどう思っとるのか、言うてもらうで?」


 幼馴染の魔法少女の言葉に、カルマンは「ガタッ」と音を立てながら、テーブルに両手をつきつつ、立ち上がる。

「例え相手がジュリアでも、ケンカ売られた以上、受けて立ってやるぜ!!!!!」

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