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14歳編⑥

「ザーーーーーーー」


 巫女の集落に大粒の雨が降り注ぐ。あまりにも大量の雨に、流石のカルマン達も本殿から一歩も動けない。

「アカンわ…こないな酷い天気だと、カルマンが外に出られへん。」

 カルマンは母親からの遺伝で、昔から雨で体調を崩す事が多く、酷い時には高熱で寝込むことがある。剣の修行を積んでからは雨で体調を崩す事が減ったが、このような嵐は未だに克服できていない。

「それにさぁ…さっきまでめちゃピーカン晴れだったじゃん!誰だよ、雨ごいした奴ぅ~…」

 ヘーゼルの言う通り、カルマンが本殿を一時的に離れていた時は澄み切った青空だった。このような急な天候の変化がカルマンに影響されないわけにもいかず…


「へっくし!!!」


 風邪で熱を出したカルマンは集落の長の計らいで本殿内にある客間に寝かせられ、寝間着の姿でヨハンから看病を受けている。急な天候の変化に、集落の長は思い当たる事があるようだ。

「ヨハン…この嵐の原因はあの子にあるようです…」

「シュゼット様…本人が原因を認めるか、追放を撤回するかしないと…」

「でも、長として例外を認めるわけにはいきません。追放の原因が自分にある事を、何としてでも認めてもらいます!!それに、勇者様も追放を撤回する気はさらさらないでしょうね。」


 巫女としては半人前で、パーティーの足手まとい。おまけに、2年前に教会に駆け込んで助けを請う自分を払いのけた相手…その上、嫌がる自分にくっついて離れない…この2か月の間、よく我慢してきたものだと、集落の長は思った。


『巫女として、感情のコントロールは大切な事。だからこそ、あの子にも現実を受け入れて、もう一度修行に打ち込んで欲しい…』


 母親として、そして集落の長としての想い…それは、なかなか娘には伝わらないのが現状だ。


 暫くしてカルマンが落ち着いたため、ヨハンが双子の狐の獣人の案内で客間を離れた。扉が閉まったと同時にカルマンは寝返りをうつ。よほどヨハンの治癒魔法が効いているのだろう。カルマンの表情はとても穏やかだ。


「ドスン!!!」


 やがて再び寝返りをうつと同時にベッドから転げ落ちたカルマンは、ぼんやりとした表情で起き上がる。彼には何かが見えるのか、不意に立ち上がり、それを追いかけ始めた。

「勇者…シュトーレン…」

 それは2年前に未来の世界で出会った1人の女勇者の姿だった。譫言のように彼女の名を呼ぶカルマンは、端から見れば夢遊病の患者のように見える。


 カルマンが本殿を出ると、外は大荒れの天気で、そんな嵐の中、カルマンは1人の女勇者の幻を追いかけ続け、やがてご神体の前でピタリと足を止めた。

「勇者…様…?」

 そこにいたのは、1人の女勇者ではなく、まだ半人前の巫女であった。目の前の現実を目の当たりにしたカルマンは、我を忘れたかの如く、巫女に拳を振り上げる。


「なんでだよ!!!何でお前なんだよ!!!あの時…お前らが教会に居なかったら…ばあちゃんは…俺のばあちゃんは助かったかもしれねぇのに!!!!!」


 これまでのうっ憤が湧き出たかのように喚くカルマンに、セレーネはそれを黙って受け入れるしかなかった。

「お前の…お前のせいで…」

 どんな謝罪の言葉を述べたとしても、偉大なる彼の祖母は帰ってこないし、それで済ませられる問題ではない。そんな理屈はお互い承知の上だ。

「俺達の足まで引っ張って、そんなに楽しいのかよ!!!半人前のクセしやがって…」

 そう罵りながら、カルマンはセレーネの胸倉を掴みつつ、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。


「むぐっ…」


 2人の唇が重なった刹那、突然嵐がおさまり、十六夜の月が巫女の集落を照らし出す。

「ざまぁみろ!!!コレでお前は俺に口答えできねぇぜ!」

 カルマンはそう言い放った刹那、まるで崩れるように前のめりに倒れてしまった。

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