神様が実際にいると迷惑なのです
続編『ドS王子と侍女と弟と妹』を投稿しました。
神様が実際にいると迷惑なのです
とある王国の一室に光が溢れた。
その光は途轍もなく神々しく、徐々に収まっていくとその中心には絶世の美女が浮いていた。
美女は世界の創造神である女神様。全ての生物が首を垂れて敬う存在が降臨したのである。
降臨したのである。
「・・・?」
降臨したのであ・・・る?
降臨した?
女神様が降臨した場所はある王国の城の一室の中心、それは第一王子の執務室であり、今まさに女神様の目の前に部屋の主である第一王子がいた。
その王子は最初の光に一瞥したあとは王族にしてはやけに実用的なというより下級文官が使用する机よ少しマシな事務机で書類に手を付け始める。
「・・・」
「・・・」
お互い無言。
女神様は自分が降臨すれば人は平伏してこちらにお伺いすると思っていた。
なのに無視、光出して絵にもかけない美女が浮いているのに王子は無視を決め込んだ。
女神様にとって初めての状況であった。敬うか反対に悪魔とか蔑んだりされたりすれば対応できるが無視されたのに少し困惑してしまう。
女神様の表面上は何も困惑は現れなかったのだが、後ろから差す後光がピカピカと明滅して部屋の中がお祭り状態になってしまった。
無視を決め込んでいた王子もこれには困った顔を上げる。
「あなたはおそらく女神なのであろうが少し待っていてほしい。今書いている書類が少し遅れるだけで死んでしまう民がいるかもしれないのだ」
そう言ってソファーに座ることを勧める。
女神様も自分の世界に生きる人達が死ぬのは本意ではない。言われた通りソファーに座る。
それを見て王子は侍女を呼びお茶の準備を頼んだ。侍女は室内にいる後光差す美女に初めは驚いた表情をしたが王子から声をかけられると業務中の顔に戻りすぐにお茶と軽食を持って来て退出した。
退出する瞬間、侍女が軽蔑する目で見ていたのをお茶と軽食に目を奪われていた女神様気づかなかった。
「それで私の執務室に来られたのはどのような件でしょうか」
しばらくして執務が終わった王子は女神様の対面に座り、疲れからか眉間を揉み解しながら完全に冷えているお茶を飲む。
その姿と言葉には敬意のけの字も入っていない。
「聖女の事です。第一王子のあなたが教会から権力を振りかざして強奪し後宮に監禁していると聞きました」
「ほう」
「祈りを捧げる聖女を私利私欲のために監禁するなど創造主である私に対しての反逆にあたります」
「ふむ」
「ただちに聖女に祈りを再開させ国民ならびに全ての国にあなたの罪を知らせなさい。そうすれば罪に後悔しているとし少しは温情をあたえます」
「そうですか」
「・・・」
「・・・」
女神様が神の力付きで言葉を発しているのに王子はまるで効果が無いように普通に紅茶を飲んでいた。
その姿はブラックな会社でようやく仕事が片付いて終電を缶コーヒーを飲みながら待つ中年サラリーマンのようだ。
完全に目が死んでいる。
「聞いているのですかっ!あなたは今!創造主たる女神の私に大逆の罪に処せらられるのですよ!」
王子のその態度にイラつく女神様。カルシウムが不足しているのかも。
「聞いております。私はこれから聖女をかどわかした罪で女神様から直接裁かれるということですね」
紅茶を飲み終えてから発言する王子。
「全て女神様の言う通りにしましょう。女神様の手を煩わせる必要もありません。国の法に則って裁かれます」
自分が裁かれるのを淡々と話す王子に女神様少したじろいでしまう。
王子は人を呼ぶと幾つか指示をした。指示された者は最初は反論したが王子に言い含められて執務室から出ていく。
女神様がいるのに何の行動もせずに怒りの視線を向けて出っていたのだが、女神様は自分の主張が通ったことに機嫌が良くなり気づかなかった。
「ただその前にいくつか女神様に尋ねたいことがあります。どうか罪を償おうとする私の願いを叶えてもらえないでしょうか」
「いいでしょう。悔いる者に温情を与えます」
「ありがとうございます」
頭を下げる王子に更に機嫌が良くなる女神様。
「ではどうやって聖女様が攫われたと思われたのでしょうか」
「毎日欠かすことなく届けられる祈りが途切れたのです。不審に思い教会に降臨すると顔を腫らしてボロボロの服を着た大司教から見習いまで全て者が私に祈っておりました」
思い出したのか女神様の顔が沈痛な面持ちなる。
「どうしてそんなことになったのか尋ねると、いきなりあなたが騎士団を率いて教会に
押し入って教会の者に暴力を振るい聖女を攫っていったと」
「なるほどそれで私を裁くためにこちらに来たということですね」
「その通りです」
王子は自分の眉間を揉む。
「・・・大体わかりました。女神様が説明下手というのは置いといて、教会が女神様に言ったのは事実です」
眉間を揉んでいる間にいろいろ考えをまとめたのか女神様を軽くディスりながら肯定した。
「ただしどうしてそうなったかは伝わっていない・・・いや過ぎた事ですね」
王子は首をふる。
「強引な寄付金、法を守らず理不尽な戒律を守らせ教会関係者は守っていない。国が取り締まれば民に反乱を起こさせようとする。それらを女神様は容認していらっしゃっている。ということは教会には国も逆らってはいけない。ならば私も罪を受けなければなりませんね。私も一応女神教の信徒であるので・・・」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
教会のいけないことを暴露し始めた王子を止める女神様。
「何ですかそれはっ!私はそのようなことは容認しておりません!」
「え?教会に不都合な事が起こると増えていく理不尽な女神様のお言葉が降りたと言って自分達が女神様の代行者というのは認めていないと」
「当たり前です!教会はあくまで聖女の祈りが滞りなく行われるためにいつの間にかできた組織であって私は最初に聖女の務めを伝えてから声をかけたことはありません!」
神のオーラを出しながら憤る女神様。
そこに机の上に置いてあった書類の束をそっと女神様に差し出す王子。
書いてあるのは教会の口に出すのもおぞましい悪事の数々。
「それはほんの一部です。女神教が最大宗教でよかったですね。他の宗教は小さすぎてこれ以上は受け入れると維持できないから女神教をどうにかしてくれと訴えがきましたよ」
「・・・」
「教会はあくまで聖女の祈りが滞りなく行われるためにいつの間にかできた組織でしたっけ」
「はい・・・」
「では関係がないのに女神様の威光を勝手に悪用していた組織を国が法に則り裁いても構いませんね」
「うぅ・・・はい構いません」
創造主なのに一国の王子に暗に責められ小さくなる女神様。
一応女神様にも教会には愛着はある。創造した功績を褒め称えるのだ満更でもないのだろう。
しかしここで女神様が教会を守れば女神様自体への信仰が失墜することになるのだ。
「わかっています。教会の一部が私腹を肥やしていただけで女神教自体には罪は無いと確信しておりますので他国にもそう伝えています」
王子の言葉は、こっちが後始末してやるから何もしていなかったくせにしゃしゃり出てくんじゃねえぞ、権力使うならお前のところのやらかしたことを世界中にばらすからなだ。
女神様を脅す王子は一体何者だろうか。
「し、しかしあなたが聖女を私利私欲のために攫ったのは間違いありません!私はそれを裁くために降臨したのです」
女神様は最初の目的を思い出した。
「聖女は女神の私に世界が平穏無事であること聖句によって伝える大事なものです。それを止めたあなたにはその罪があります」
決して自分を信仰する教会が汚職の塊になっていることに顔を背けているわけではないのだ。教会の罪は人が人にした罪、聖女を誘拐して祈りを止めたのは人が女神にした罪なのである。
女神様は逃げた。
しかし現実は逃してくれなかった。
「それは違います女神様!」
ドアが開かれ叫んだのは十歳ぐらいの少女。侍女に支えられて室内に入ってくる。その顔色はお世辞にも良いとはいえない。
「聖女様!無理をしてはいけません」
王子が慌てて聖女に近寄る。
「私のせいで王子様が裁かれるのはあまりにも酷いです。どうか女神様に私が罪を受けると話させてください」
「わかりました。だがお身体の調子は戻っておりません。少し失礼します」
王子は聖女を抱きかかえると自分が座っていたソファーに降ろした。それは壊れ物に触れるかの様に慎重に優しくおこなわれた。
それを侍女は美しいものを見たかのように感動し、自分との対応の落差に釈然としない女神様が見ていた。
「改めてご拝謁します女神様。私が当代の聖女の役目を授かりました者です」
聖女はペコリと頭を下げる。
その動きは年相応に幼くて可愛らしい。
だがその外見に女神様は顔を青ざめさせた。
女神様が当代の聖女を選んだのは聖女が八歳の時である。それから今は六年の年月が経っているのだ。十歳ぐらいにしか見えない聖女はおかしいのである。
それに聖女の髪は銀髪なのだがハリ艶もなく肩口で揃えられていた。顔色も悪くてほほもこけている。質の良い服を着ているが痩せ細った首から全身が同じだろうということは想像しやすかった。
「どうか王子様をお助け下さい。私が無能だったばかりに多く時間をかけなければ祈りを届けることが出来なかったのです。そのため神官様に罰をいただいても無能な私は届ける時間を短くすることは出来ず、情けないことに倒れてしまったところを王子様に助けられて王宮で静養することになったのです。五日も寝込んでしまいまだ女神様に祈りを届けるほどの体力も戻っていなくて・・・どうか、どうか王子様を罰することはお止め下さい・・・」
ただただ自分の思いを言葉にする聖女は文脈は滅茶苦茶だが心に響く。
聖女と一緒に来た侍女などはハンカチで目元を拭っていた。
体調が悪い聖女は女神様に嘆願しながら気絶した。
王子は聖女の状態を軽く調べてから侍女に聖女を下がらせることを命じる。すぐに数名の侍女が現れて丁寧に聖女を抱えて退出していった。
「聖女様は普段は野菜の欠片が入ったスープとカビの生えたパンを一日に一食で、豪華な時は肉片がついた骨だったそうです。あのクズ神官共が無駄にパーティーをしていた時の残飯だそうです。ああ、女神様は見ましたよねクズ神官共が現在着ている服、あれは聖女様の普段着だそうです。聖女は清貧をもって女神様にお祈りしないといけないそうです。あまりにいい話だったのでクズ神官共にも同様の食事と服装になってもらいました」
ニコニコと笑いながら話す王子。
「それと聖女様は一日十時間お祈りしていたそうです。目に映ると気色悪いと半地下の石牢で祈らさせていただいたそうですよ。それだけでなく掃除に洗濯も一人でされていたそうです。聖女様本人に聞いても時間というものを教えてもらえなかったようでいったい日に何時間眠れたんでしょうか、私も今は教会のクソ野郎共の後始末で眠れない日々ですので本当に聖女様は尊敬に値します」
もう女神様は顔を上げられなかった。
なぜなら
「で、そのような聖女様を攫った私にはどんな罰が下されるのでしょうか女神様?」
女神様の対面には王子の皮を被った魔王が座っているからだ。
その後は女神様に泣きながら謝罪土下座させ、罰を下せるなら癒すこともできるだろうと聖女の身体を治療させるという偉業を王子はなした。
教会への対処は王子がニッコリ笑い請け負うことになる。女神様が自分が天罰したほうがまだマシというほどすごかったらしい。
女神様は中途半端に世界に干渉するなと説教され、その上で上に立つ責任を王子から徹底的に教えられて号泣しながら神の世界に帰っていった。
パソコンで女神様と打ち込もうとするとなぜか何度も馬神様となってしまう。文書内でいじめたから呪いにかかったのだろうか・・・。