作戦開始
俺は今日、王宮に呼ばれた。
もちろん、ルーカスから最終作戦確認のため呼ばれたのだ。その前に何度か王宮には来て作戦会議をしている。
「あれが破滅の使い手よ。」
「また血塗れ王子に呼ばれたらしいよ。」
「血塗れ王子って?」
「知らない?あんまり有名じゃないもんね。」
「血塗れ王子と破滅の使い手、異名同士仲良く的な?」
「血塗れ王子ってルーカス様のこと?」
「えっ!ただの美しい王子じゃない。」
「母上のクリスティーナ妃が帝国の出だからよ。」
「お可哀想に。クリスティーナ様も綺麗でお優しいのに。」
「ねー。誘拐事件なんて結構前の話じゃない。」
「ねえー破滅の使い手はなんで?」
「あの人、ジェルディア公爵家の次男でしょ?」
「そうよ。なんか魔法でお屋敷を何回も爆発させたんだって!」
「反省もしないのでしょう。怖いわね。」
「でも可愛いというかカッコいいというか、整ったかおねぇ。」
「ほんとに整った顔。王族の方々も皆んな整っているわ。」
王宮につくと俺は早速噂のネタにされた。侍女達の会話を聞いているとルーカスには母が帝国の出以外は特に批判されていない。いや、むしろ好かれているだろう。
案内役と大きな宮殿の廊下を歩いているとルーカスが歩いてきた。
「オーウェン!よく来たね。私の部屋まで案内するよ。案内役はもういいよ。私が連れて行くから。」
「かしこまりました。ルーカス様。」
案内役は俺の方を向くと一礼し、去っていった。ルーカスはあの日話していた雰囲気と変わり、他人向けの完璧な王子を演じていた。一人称が俺から私になっているし。そういえば俺はルーカスをなんて呼べば良いのだろうか。血塗れ王子は流石に失礼だろう。
「オーウェン?私の部屋に行こう。」
貼り付けた完璧な笑みを向けてきた。気持ち悪い、と思いながら俺も同様の笑みを浮かべる。もしかして俺ら同族かな?
「ありがとうございます王子。是非お願い致します。」
少し歩くとルーカスの部屋があった。中に入るとルーカスは護衛を全員外にだした。
「君達は部屋の外で待ってもらっても?」
「え、しかし王子…」
「友達として話したいんだ。客ではなくて、ね?」
「か、かしこまりました。」
護衛が全員出るとルーカスは俺に笑いかけた。
「いらっしゃーい。ようこそ俺の部屋に、オーウェンクン?」
「お招きいただき以下省略、ルーカス王子?」
やっぱり、ルーカスは腹黒だと思う。
「早速、作戦会議と行きたいところなんだけれどー…」
「なんです?」
「いやー国家騎士団の体験、第一班のね。頼んじゃった!団長のワイアットと、軍事指揮代表のシュバルツ将軍に。」
頼んじゃった。
つまり、体験を、すぐ、作戦なしに受けなければならない。
しかも、軍事指揮代表で五摂家の一つルディノット公爵家当主シュバルツ将軍の許可も得たと。
ちなみに、将軍という称号は冒険者で功績を挙げ貰う地位という認識が強い。しかし、国家騎士団の団長や副団長、各班の班長や副班長にも与えられている。ルディノット公爵家の現当主、シュバルツ様は国家騎士団の団長を務めた。今も、国家騎士団の指導係として関わっているそうだ。
それにしても…
「血塗れ公は馬鹿?」
俺はそれ以外かける言葉が見つからない。
「失礼だなぁ。俺は頭が良い方だと思うよー。兄様はちょっと異次元なだけで、俺自身は結構頭いいよ。」
「じゃあ、作戦なしに潜入してどうするの?頭のいいルーカス王子?」
「んー。その事について至急作戦会議をしよう。」
ルーカスの顔つきが変わった、これから真面目な本題に入るみたいだ。俺も思考を切り替えた。
「まずは人材だね。強敵はシュバルツ将軍だね。『剣技』の固有スキルを持っているし。」
「あとは勿論、ワイアット騎士団長と副団長。ワイアット将軍は特別な体質だった気がするけど忘れた。副団長は魔法を得意としていたっけ。」
「そういえば、オーウェンは班の振り分けと役割分かる?」
「あんまり。」
「じゃあ簡単にせつめいするねー。
王宮全体の護衛及び現王、俺の父上ね の護衛が主なのが第一班。この班長は水の魔法が上手。第二班は第一王子の護衛と、公爵家に派遣される。オーウェンの家にも少しいるでしょ?情報の効率化と護衛の意味ね。」
「いた気がする。」
「三班は俺の護衛と竜討伐。知性のない竜が暴走して突っ込んでくるでしょたまに。」
「たしかに。あの、第一班がいるのになんで王子にも班が?」
「俺と兄様だけだよ。俺とルイス兄様は洗脳作用のある固有スキルだから十八歳まで班で護衛がつくんだよ。あぁ、第四班からは地域や城下町担当だから気にしなくていいかな。」
話しているルーカスの顔が少しだけ辛そうに歪んだ。
「そうですか。」
「急に敬語に戻ったね。ねえ、なんで俺の固有スキルが発表されてないか分かる?」
俺がちょうど疑問に思っていたことを問われた。考えられるところは帝国の血筋のものが洗脳スキルを持ったから。洗脳スキルを持った王族は一人しかいらないから。また…
「簡単に処分するため。」
思わず声に出してしまった。慌ててルーカスを見ると分かっていたかのように穏やかに笑っていた。
「やっぱり、オーウェンは賢いなぁ。」
「…申し訳ごさいません。」
「いいよー。俺自身分かってるし、それと敬語はやめてよ。」
「…分かった。」
「うん。団長とシュバルツ将軍は俺の神眼で少しは時間が稼げるだろう。魔力が多い人ほど効きにくいから、魔法に造詣のある副団長と班長二人はオーウェンがどうにか出来る?」
「俺の固有スキルで身体を吹き飛ばしていいなら。」
「治癒魔術師が王宮には居るから大丈夫でしょ。死なないくらいに手加減はできるー?」
固有スキルの練習をあまりした事は無いが可能だろう。
「出来る。」
「ん!5人の司令塔の捕縛と、洗脳して二人を動けなくしてから俺は二人を拘束し、暴れない様洗脳をかけ続ける。オーウェンは少し離れて30秒後に固有スキル発動。気付いた他の騎士の弾圧。弾圧方法は?」
「神眼はどれくらい使える?」
「あー二人でギリだねぇ。固有スキル使用中は他の魔法も使えないし。」
「俺は魔法を習わしてくれないからな。」
「5人を人質とした弾圧かな?騎士が攻撃しなくなったら5人の拘束を強くして国家騎士団作戦室に連れ込む。そして取引などにうつる。」
「あまり大事になりたく無いから騎士団の訓練所は孤立していて便利だな。」
「だよねー。」
「ルーカス王子。シュバルツ将軍が、訓練に誘われに来ましたが。」
「通して。」
「はっ。」
ちょうどいいタイミングでシュバルツ将軍が尋ねてきた。俺たちは目くばせするとお互い作り物のような笑顔を浮かべた。
さあ、地獄の始まりと国家反逆者の誕生だ。