固有スキル覚醒
「奥様!オーウェン様!大丈夫ですか?!」
部屋の扉に待機していた護衛の二人が慌てて入ってきた。
「こ、これは…」
何と部屋中が粉々になっていたのだ。まるで爆発が起きた後のように。幸い、オーウェンもオーウェンの母も無事だった。
「なにが起こったのですか?」
護衛が恐る恐る尋ねた。
「オーウェンに魔力測定の香水を垂らそうと近寄ったの。そしたら急に爆発が…」
そしてオーウェンの母は恐ろしいものを見るようにオーウェンを見た。
「もしかして貴方が?」
その頃オーウェンは初めて固有スキルを使ったことにより、魔力不足が起きていた。
「ど、どうしよう母上。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
初めての魔力不足と固有スキル発動と、母を傷つけてしまった事への混乱でオーウェンは取り乱していた。
「渇く、渇く、熱い、いたいいたいいたい どうしよう…」
そして何とオーウェンは周りの空気の魔力や、近くにいる人の魔力を吸収し出した。
オーウェンは人より魔力吸収が激しい、魔力過度吸収体質だったのだ。
魔力過度吸収体質は魔力を人より多く吸収する体質。上手く使いこなせば、他人の魔力を操ることが容易くなるため、魔術師には向いている体質だ。
ただ、コントロールできず魔力を吸収してしまえば周りの人を傷つけることになってしまうし、自分が吸収出来る魔力量を超えて吸収してしまうと、吸収した自分の身体が持たず、壊れてしまう。
「きゃあぁぁ!魔力が吸われていくわっ!」
「な、なんだ!俺の魔力も…!」
「お、俺もだっ!」
オーウェンの母と護衛二人は魔力を吸われていく感覚に混乱していた。その時、大勢の足音が近づいてきた。
「奥様!」
大きな声や爆発の様な音で他の所にいた護衛が集まってきたのだ。
「これは…!」
ジェルティア伯爵家の護衛代表の一人スティーブは冷静にこの事態を考えていた。
スティーブは30代の男性で元国家騎士団の班長だった人だ。班長の最小年齢記録を塗り替えた人物でもある。勿論剣の腕前はあり、魔力察知に長けていた。
「奥様!これは、オーウェン様の固有スキルだと思われます。」
固有スキルは独特の魔力を発する為、魔法に嗜みが有る人はわかる人が多い。
オーウェンの母も固有スキル持ちだが、『魔力色覚』という魔力の色を見分ける能力な為あまり魔法を使おうと思わなかったのだ。
勿論、伯爵夫人で有る為、魔力も申し分ないが魔法の造形に詳しくない夫人はオーウェンの固有スキルだと分からなかった様だ。
「取り敢えず、オーウェン様を落ち着かせましょう。このままではオーウェン様が魔力を過度吸収してしまい、暴走してしまいます。オーウェン様は魔力過度吸収体質みたいです。」
スティーブは自らの服を握り小さくなり震えているオーウェンに近づいた。
「オーウェン様、オーウェン様、落ち着いてください。誰も傷ついていませんよ。大丈夫、私が護ります。私、スティーブですよ。だから落ち着いてくださいな。深呼吸、深呼吸。」
スティーブはまるで小さな子供をあやす様にオーウェンに近づき話しかけた。近づくほど魔力を吸われるのが、魔力過度吸収体質なのだがスティーブは人に比べて魔力量が多かったため平然としている。
「スティーブ?僕、ぼく、渇いて、熱くて、怖くて…」
誰も、何も写していなかった空虚なオーウェンの瞳がだんだんと光を取り戻しスティーブを認識し始めた。
「はい、スティーブです。よくがんばりましたね、オーウェン様。」
スティーブは微笑むと、失礼 と言ってオーウェンを抱きかかえた。
「スティーブ!やめてっ!なんか僕、人の何かを、魔力みたいなものを吸収してしまっていて、制御できなくて…僕なんかおかしくなっちゃって…」
泣きそうになってスティーブから離れようとするオーウェンをスティーブはより強く抱きしめた。
「落ち着いて、大丈夫。私は魔力が人より多いので大丈夫ですよ。それにオーウェン様はおかしくなっておりませんよ。ただ少し変わった体質なだけです。まずは魔力を吸収するのを止めましょう。力を抜いて、深呼吸して、そうですね私だけを見ていて下さい。」
「わ、分かった。」
オーウェンはスティーブに言われた通り深呼吸をしていた。オーウェンはスティーブのことを好きで尊敬していたため、大体のことは素直に聞いていた。
「どうですか、オーウェン様?」
「お、落ち着いてきたかも…」
「そうですか。よかったです。」
スティーブが微笑むとオーウェンは泣きたそうな顔をやめ、笑った。
「まって、スティーブ!どうゆう事?オーウェンの固有スキルって!あと、魔力過度吸収体質って…」
オーウェンの母は取り乱してスティーブに問いただした。オーウェンを見ることは一度もなかった。
「言葉通りで御座います、奥様。オーウェン様の固有スキルは爆発を引き起こすなにか。また、オーウェン様は魔力過度吸収体質である事が分かりました。全て事実です。」
「なんて事でしょう…特別な固有スキルがこんな恐ろしいものなんて。それに魔力過度吸収体質は暴走する可能性があるのでしょう?大丈夫かしら…」
「あ、あう…」
オーウェンは母に拒絶されたショックで倒れてしまった。