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自由を為す旅人  作者: 漆黒月 劉狐
3/4

主神らしくない女神

『ダレンさん。まだ逝ってはいけません』


 ……誰だい。

 漸くゆっくり眠れると思ったのに。

 あんたも僕を引き留めようとしているのかい?


 止めてくれよ。

 僕はもう十分生きたし、特にこれといった未練も無いんだ。


『…………』


 そんな悲しげな声を出さないでくれよ。

 此処でそんな声出されたら寝ようにも寝られないじゃないか。


『貴方は、お優しいのですね……』


 泣かれるだけ困るだけだからだよ。

 泣かれて困った事の無い日は2000年の時を以てしても無かった位だからな。


『…………』


 だからそんな苦しそうな声を出さないでくれ。


『……逝ってしまわれるのですか』


 もう残す事はないって言ったよ。


『では、せめて少しばかり話を』


 もう済んだよ。

 アンタも聞いていたんじゃなかったのか?


『はい』


 ていうか、アンタって誰?

 いや、大体見当はついているけどね。

 さっきから遊戯の神やら創造神と話しとかしてたんだけど。

 我慢出来ずに飛び出してきたのか? 主神さん。


『御存知でしたのね』


 あぁ、色んな意味で想像と違うと言われたものでね。

 さっきから割って入る様な形で話しているのに、騒がしかった連中の言葉一つ聞こえない。ていうかさっきまでの空間じゃないでしょココ。


『よく、お気付きになられましたね』


 一応、僕は仙人なんでしょ?

 その才能にものを言わせて試しに今いる空間を把握しただけだよ。

 仙術、だっけ。


『……仙術。懐かしい響きです』


 それにしても、案外簡単に出来るんだな。

 こう、意識感覚を浅く保った状態を広げていく。

 まさか、あれだけ鍛錬しても身に付かなかった技術達がすぐに身に付くような。だから僕の周りの人達は、心を躍らせて自分磨きをしていたのか、これは凄い発見だな。


『貴方が唯一呼吸する様に扱える技、仙術。

 その力さえ、貴方さえ望めば、ほぼ全ての技術を向上出来ますよ』


 へぇ、呼吸する様に、ねぇ。


『尤も、私の知る限りの記憶では、

 それらを修めた仙人は一人として居な、い……えッ!?

 貴方、何故既に仙術を扱えているのですか?』


 何となくだけど。


『何故!?

 ……いえ、失礼しました。

 恐らく、遊戯神の悪戯にしては過剰なあの行為が原因でしょう』


 僕は何も聞いてないんだけど。


『あれは最早悪戯の範疇を超えています。

 それは〝神の試練〟と並ぶ程の地獄だったでしょう。

 いえ、ですがまだ達成した訳ではありませんね。


 ダレンさん』


 何?


『主神の名の下に、ダレン、貴方を〝神の試練・才能の運命線〟を

 見事打ち破った者として、

 仙人としての能力の上限の開放を許可する』


 封じられてたのか、仙人って。


『詳しくは仙人としての能力です。

 仙人の秘めるそのエネルギーは強力の一言に尽きます。

 人々も神々も無意識に手を伸ばしてしまう程に』


 人は私利私欲をに塗れ

 神はその力を渇望した

 これで合っている筈。


『はい。

 だから、今度こそ失敗はしません。

 同時に、これは貴方が少なくとも2000年の時、そして人としての幸福を奪ってしまった私達の気持ちです』


 今更、また同じ生を繰り返すのかい?


『決してそのような事は致しません。

 私は、主神としてではなく、一人の女神として貴方を見ていたのです』


 はい?


『つい見入ってしまったのです。

 私が神族として生を受けて初めて、人という、貴方という一人の人に見入られたのです』


 つまり、僕はアンタにずーっと見られてたのか。


『………はい。

 気分を害されましたよね』


 まぁ「全て見ちゃってました」と言ってくれるだけ良心的だよ。


『全部、なにもかも(ごにょごにょ)……』


 ん? なんか言った?


『いえ、何でも。そう言って戴けて良かったです』


 それはそれとして、


『はい』


 僕、生きた方がいい?


『はいッ!! 是非とも生きて下さいッ!!

 存分に生きて下さいッ!!

 ついでに幸せになって長生きしてくださいッ!!

 貴方はこれから、いえ、

 もう既に仙人としての能力を開花させているのですからッ!!』


 あつい、熱いぞ主神。

 恋する乙女の如く滾ってるよ、大丈夫?


『うっ/// 失礼しました』


 神とは言われているものの、まだ若いって所か。


『馬鹿にしないで下さい。

 これでも貴方の数倍は生きてますッ』


 だったらはしゃぎ過ぎない方がいいと思うよ。

 ちょっとした弾みで「ミシッ」だなんて腰が悲鳴を上げるかもしれないんだから。


『私はそんなヤワじゃないですよ。

 何時だって健康体ですし、休んだ事なんてありません』


 そうっスか。


『信じておりませんね。その反応は』


 よく分かってるじゃん。



『……どうなさいますか。

 やはり逝ってしまわれるのですか?』


 ……アンタって我が儘だよな。

 本当に、要らん気を遣ってそんな許可を出す位ならもっといい方に、それこそ勇者達の為に使うとかした方が良い気がするんだけど。


『いいえ、神の試練は確かに破られました。

 かつて無い位に、そう、完璧以上と言える程に』


 うーん、身に覚えが無さ過ぎる。


『それもそうでしょう。

 あのループする世界こそが貴方の試練でしたから』


 ん? 遊戯の神の悪戯でやられたあれが?


『巨木の根の如く存在する数多ある世界線。

 貴方は自らを縛る職業の才能を周を終える度に次々と変わっていきましたね?


 一周目は剣士

 その遥か先の世界では調理師

 また更に周を重ねた時には呪術師


 正直、呆れていたのですよ私達は。

 生まれ変わる度に変わる貴方の職業に、

 その異常ともいえる数多の可能性を見出す貴方に』


 アレが普通じゃないのか。


『馬鹿な事を言わないで下さい。

 人というのは身体や性格、

 つまり自分自身に合うものを無意識に選別しているものなんです。

 それが貴方の場合、どうですか。

 選別した筈なのに、どうしてそんな万能なんですか?

 その才能の数だけを抜粋したら、歴代の勇者達をも凌ぐレベルですよ?』


 勇者って神々が厳選した。


・善意が合って

・平等性があって

・文武両道(重要)で

・容姿端麗のイケメン/美少女(最重要)な


 完璧人種の人間達の事だろ。


『は、はい。間違ってはいません

(何故外見を強調していたのでしょうか?)』


 外見はステータスの一つだからな。


『そ、そうでしょうか。

(し、思考を読まれた!?)』


 外見で優遇される。だなんて話は日常茶飯事だぞ。

 その最たる存在が勇者だ。


 容姿、人当たりが良い。

 加えて将来有望な勇者という肩書き。

 人々が希望だと諸手を挙げて歓喜する。


 そんな奴が優遇されない世界なんて、殆ど無い。


『はい。現に彼等はしっかりと魔を打ち破って下さいました。

 それは歴史の中に刻まれて伝説となっています』


 だが、それだけだった。


『え?』


 この2000と僅かな時をダレンと過ごして、

 僕は一人だけ妻となる存在を何度か見つけた。

 その度に奪われ、殺され、貶められてきた。

 他ならない、アンタ等が選んだ勇者が。


『仕方の無い事です。

 しかし、貴方は彼女等を祝福していたではありませんか』


 形だけの祝福なんて、

 心に無い言葉を吐く程、空しいものは無い。

 心無き言葉に罪は無いけど、

 空に透ける言葉は無意味でしかない。


『…………』


 勇者は神々に選ばれた奇跡の存在。そう言われて久しい。

 だけど、中身は所詮人間。増長していくんだよ。


 見て来た筈でしょ、アンタ等は。

 勇者と呼ばれた心清き青年が、時が経つにつれて醜悪な精神の見え隠れする卑しい下種に成り下がったのを。


『はい。確かに我々は見てきました』


 人に勇者という希望は無い方が良い。

 心なしか、何時でも何処でも、助けを乞う時も、皆勇者勇者と甘える子供の様に生きるだけの愚鈍な生き物となり果てている気がする。

 ………この様に考えてしまうのは、今だ奥底に微かに存在した憎悪からなのかも

知れない。が、真実、そうとしか思えなくなってきた自分がいる。


 その者が勇者たる人物だとしても、

 その者が例え魔を討ち果たしたとしても、

 その者が視野の内に捉えた運の良い者達だけが救われる。

 これだけは変わらない。


 その者達が勇者を担ぎ上げるのと同時に、

 救われなかった者達の人生は魔物諸共に崩れ去っていった。


 誰も知らない、

 誰もが忘れて、

 無かった事になる。


 勇者は魔を討ち払うが、

 人々にとっての救世主では無いんだ。


 魔を滅する為の救世主でしかない。


 この捉え方、僕が間違っているのか?


『いいえ、貴方の疑問は見事的を射ています。

 やはり、辛かったのですね』


 目の前で寝取られる現場とか、

 敢えて見せられたりとか、

 とにかく勇者と呼ばれる理想像の真逆の行為とか。

 まぁ、色々あったからなぁ。


『そう、ですか……』


 正直、今はどうでもいいけど。

 次、もし転生だなんて事で記憶があるのなら、

 そのまま永遠の旅にでも出かける予定だしな。


『え?』


 静かに眠りに就いた後、どこかで目を覚まそうかなぁ、とな。

 まだ漠然とした計画だよ。


『漠然、と言いますと?』


 いや、転生する。それは即ち生まれ変わるという事。

 それって全てが、記憶も能力も、何もかもが葬られて、新たな生命として世界にまた回帰するって事だよね。


『あの手掛かりにすらならない様な古文書だけで、

 ここまでの解答を見出すとは……』


 やっぱり()()()()のは本当だったんだな。


『う、すみませんでした』


 でもまぁ、ギリギリ導き出せた仮説程度の感じだったけど、概ね当たっていて良かったよ。

 解読士で生きてきた数年は無駄では無かったな。


『そのようですね』


 魔法学者の頃よりもデスクワークが無駄に多かったが、

 あの知識の全ては素晴らしいものだった。


『では、それを自らの為に使ってみては如何でしょうか』


 …………いいのか?


『貴方には4000と552年も辛い思いをさせてしまったのです』


 4せ……僕はそんなに生きていたのか?

 だって、さっきまで2000年って。


『漸く言う事が出来ました。

 貴方は経過時間の感覚が狂ってしまっているのです。

 今私が言った数字、

 それは貴方が苦しみながらも生きた証ですので』


 そうだったのか。


『ですからせめて、貴方の力を貴方の為に使って欲しいのです』


 そんなこと言って、仕事しろとか言うんでしょ。


『貴方は存在する、それだけでも十分意味があるのです』


 生きていればそれでいいと。


『はい』


 何もしなくてもいいと。


『はい』


 生きているだけで、何が変わる。


『世界と生きる精霊から生物まで、ありとあらゆる生命の均衡を保てます』


 随分と大仰な感じだな。


『昔は神人だなんて言われていたのですよ』


 パッと聞けばそうだな。


『それ程に重要な存在なのです。

 たった一人いるだけで、貴方が居る。

 それだけで我々、同時に世界は救われるのです』


 …………深くは聞かない。

 聞いてしまった何をお願いされるか分かったもんじゃないからな。


『そうして頂けると個人的には有難いです』


 そうか。


『……やっぱり難しいですね。

 今まで頼ってきた存在と共存するというのは』


 当り前だ。

 僕達は永くは生きる事は出来ないし、

 思慮深く行動する事も出来ない。

 だから現れた天才にしがみ付く事しか出来ないんだよ。

 たとえその者が、愚かな者だったとしても。


 自分で守り切れないんだ。人っていうのは。

 他者を簡単に盾にして、見殺して、正当性を示したがる。


 アンタ等神族に、こんな事を言う必要は無いんだろうけど、

 意思を持つ者は、等しく浅ましく、愚かな存在なんだよ。


 気を悪くはしないでくれな。

 所詮は下等種族の塵が見出した世界だ。

 忘れてくれても構わない。


『忘れはしませんよ。

 確かに、私は人という種族に良い印象で見た事はありません。

 ですが、貴方が言う事ならば、私は忘れません』


 そうかい。


『だからこそ、貴方には自由に生きてもらいたい。

 貴方を貶めた人類を許す気はありませんので』


 ……神って私情で罰していいのかい。


『いいえ、そんな事をしてしまったら罰せられるのは私です』


 駄目じゃないか。


『貴方を護る為、とでも言いましょうか。

 そういえば問題はないかと』


 内容は?


『ダレンという存在に此方側から干渉する事を禁止。ですね』


 僕から関係を作るのは有りなんだ。


『貴方が心からそれをのならば。

 一方的に関係を持とうとした者には、

 心の内の邪悪さに比例した罰を与えます』


 嫌われそうだな僕。


『これしかないのです。

 貪欲に力を欲する者に対しては』


 親密になったとして、ソイツが他の連中の間者だった場合もか?


『……そんな感じですね』


 中々厳しい神託な事で。


『神託なんて、まさか。

 私が“全ての”神官達に伝えるだけです』


 アンタ、ひょっとして人類の敵の方が似合ってるんじゃないのかい?


『奇遇ですね。私も約5000前にそんな事を考えていました』


 やっぱり神族も人類を鬱陶しく感じる時もあるんだな。


『当然です。

 付け加えて言えば、自然界に生きる者達よりも嫌いです』


 それって人類全般が大嫌いと言っている様なものなんだけど?


『嫌いですよ。私はこれでも精霊や妖精側に付いている神ですから』


 僕が生きてきた4000年?だったっけ。

 それだけ生きて色んな国を旅して研究してきたけど、

 会わなかったぞ。

 気配すら感じない位には。


『精霊も妖精も、極一部の人にしか〝チャンネル〟を開きませんから』


 なるほど、チャンネルというのが人と繋がる道の様な役割を果たしているのか。

 まるで念話だな。


『その通り、流石です』


 しかし、チャンネルという言葉、何処かで……

 エルフ……そうだ、精霊人エルフだ。

 彼等の里を探して旅をしていた時、手元にあった文献に書かれていたエルフの特徴に〝精霊魔法〟を扱うと書いてあった。


『はい、彼等は精霊とコンタクトを取る事によって、

 精霊に力を貸して貰っているのです』


 精霊と共存するエルフ族、か。

 自然と静寂と平和を好む彼等が人族を嫌うわけだ。


『彼等は半分精霊で、半分人という曖昧な種族でもあります。

 そこには精霊という澄んだような美しさを尊ぶと同時に、

 邪な感情を抱く事を良しとしないのがエルフなのです』


 心が汚れているのは仕方の無い事だと思うぞ。


『そこは賛同しかねます。

 私はこれでも幻霊種派の神ですから』


 主神が派閥傾けてどうするよ。

 けど、良い事聞いた。

 俺の旅の最初の目的地は幻霊種ファンタズマの里探しだな。


『それは良いと思いますよッ。

 そうだッ、私が先に交信して連絡をしておくので、

 それなら大丈夫だと思いますよ』


 親切にどうも、これは是非とも見つけたいものだ。


『良かったです♪』


 随分と楽しそうだな。


『そうですね、失礼しました。また浮かれてしまって』


 神の割には随分と心は可愛いんだな。


『か、かわ、…………そういうの、ずるいと思います』


 何か気に障る事でも言ったかい?


『ィいいえ何でもありませんッ』


 ならいいや。


『ホッ』


 …………生きてみるよ。また、あの世界で。


『……ありがとう、ございます』


 うん。




『いつ頃、行かれますか?』


 そうだな、仙術の手解きを受けたい。

 先ずは真面な扱い方を学ばないとな。

 さっきは特に苦も無く使えたけど、

 意識してやるのとでは全く違うものだからね。


『分かりました。準備は出来てます』


 ん? やたら準備が良いね。


『貴方は意外と慎重ですから』


 そうかい?


『そうですよ。見てましたから』


 …………


『どうかされました?』


 今更だけど、見ていたんなら助けてくれたって良かったんじゃないのかい?


『そ、それは、……それはダレンさんが悪いんですよ?』


 はい?

 何で僕が悪いんだ?


『貴方は異質過ぎるんです。

 そもそも、意図せず神々の試練級の地獄な筈でしたよね?

 あんな不幸どころか、最初から詰んでいた様な人生なんて、ハードどころの難易度を軽く蹴散らせるレベルだった筈だったんですよ?

 なのに、何で時間が経てば経つ程〝普通に生きている〟んですか?

 遊戯神の度の超えた悪戯は、人格が破壊されて発狂する者しかいなかったというのに、何で普通でいられるのですか!

 挙句、戻される数だけ職業が違うとか、何処の万能人になるつもりなんですか?

 もう何が何なのか分からなくなってしまうじゃないですかッ!

 結局全低級職を制覇してしまいましたし、しかも20歳で殆どの上級職に上がっていたりとか、どんだけ羨ましい成長速度ですかッ!!』


 最上級職に手が届かないだろうと思って、それで別の職の知識を、と。


『その成長速度だと25歳には最上級職に手が届いていたと思いますよ?』


 え、うそ、本当?


『自分を過小評価し過ぎです。

 そこのところも全部“私”が御教えしますっ』


 やる気十分なのは分かった。

 だけど職務はどうするんだい?


『部下に丸投げします♪』


 …………がんばれ、部下達よ。

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