プロローグ
本当に魔術や魔法なんてあったら楽しそうですよね。
この世界には、極稀に魔術を使える人間が産まれてくる。
人は彼らを魔術師と呼んだが、魔術が使える以外他と何ら変わらない人間である。
魔術師の存在が政府の耳に伝わると、政府はすぐに魔術師に対する法や政策を行った。
例えば『産まれてきた子供には魔術の適正があるか検査する』とか『魔術は人を攻撃する目的で使用してはいけない』とかである。
そんな世の中が続くこと約50年。時は2020年となり、東の小さな島国で国際規模のスポーツ大会が開催される年になった。
国の名を日本と言い、その国では今、魔術師に対する厳しい反対運動が出てきている。
魔術師は優秀な人間であり、優遇されている。と言った事実に、日本国民は異論を申し立てているのである。
実際、政府の人間のほとんどは魔術師であり、内閣の人間は全員魔術師だ。
左肩の紋章を見せるだけで優遇されるサービスもある。
そりゃあ勿論、普通の人間にとっては生まれ持った才能で差別するのはおかしいと思うだろう。
「これは人種差別だ」
「魔術師は全員一般人と同じ扱いを受けるべき」
そんな声がネットや町中で騒がれ続けている。
「___まったく、オリンピックがあるってのにこの有り様かよ」
彼は出雲 千里。今日本で騒がれている魔術師の一人だ。
千里は高校二年生であり、魔術師であるために学校ではいじめを受けていた。
相談をすればいいいいと思う方も多いだろうが、厳しい世論もあってか魔術師はいじめ相談を断られる。
「よーう千里クン。昨日言った五万円用意できてるよなぁ?」
「悪いが、校則で金銭の貸し借りは禁止されている。自分で稼いで手に入れろ」
いじめっ子に絡まれても至って冷静な千里。いじめっ子はそんな千里が気に食わず学ランの襟をつかんで千里を睨む。
「聞こえなかったか?五万円出せって言ってんの」
「お前こそ聞こえてないのか?校則で金銭の貸し借りは禁止されているって言ったんだけど。もしかして耳が悪いなら病院に行ったらどうだ?その分の金なら出してやるから受診後請求書を持ってこい」
「貴様ッ!」
いじめっ子が拳を上げ千里を殴るが、千里の顔のすぐ横には近未来的な透けた色で六角形のシールドが張られ千里の顔を守った。
「どうした?本気で殴ってこいよ。一般的な男子高校生ならこのぐらい破れる脆さの筈だが?」
「チッ、覚えていやがれ!放課後体育館裏に絶対来い!」
いじめっ子は諦めて自分の教室へ帰っていった。
「全く、魔術師も一般人も同じ人間だってのにな。差別してんのはどっちだよ」
ボソっと千里は呟き、窓の外から空を見上げた。
「___もうすぐ、戦争だな」