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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
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Episode08 「ヤローが絡んでいたのかよ!」



『あっぶねぇやつだな。ははっ、あのいかれた英雄の子飼いらしいな』


 この距離で当てる気で撃てば、目を閉じていても当てられる自信があった。


 だがリーノの放った銃弾は、男の右を通り過ぎた。


 何度も何度も撃ち続けるが、一発も当たらない。


 もしかして、男が自分と同じ能力ならば避ける事もできるのだろうか?


 リーノはそうも考えた、しかし男は避ける素振りも見せずに、弾丸の方が避けているように思える。


『なんなんだ、こいつ』


 何らかのイズライトを持っていて、それを使っているのは間違いないだろうが、それが何なのかは想像もつかない。


 重力制御が戻り、エアーが室内を満たす。


『はぁ!』


 クララが飛びかかるが、それも彼女がふざけているかのように空を切る。


「おお、いい乳してんじゃねぇか、お嬢ちゃん」


 ヘルメットを外した男が伸ばした手はクララに届き、痴漢行為は成立し、彼女は慌てて離れる。


「若い娘はいいね。気密服の上からでも、ハリの違いがよく分かる」


『いいオッパイだって私、触ってみる?』


 リーノも一度照準を外して、ヘルメットを外す。


「お前、余裕だな」


「そう思う?」


 同じようにヘルメットを外すクララは、緊張で体を硬くしているようだ。


「初々しいね。おじさん赤面しちゃうよ。お嬢ちゃん、なんなら俺といい事しないか?」


「ふふっ、私に許可なく触っていいのはリーノだけよ」


 クララは怯むことなく果敢に飛びかかるが、それこそ男に許可をもらわなければ、触る事すらできないようだ。


「クララ、考え無しに飛び込むな」


 得体の知れない恐怖を感じながらも、考える事を苦手とするクララは体が勝手に動いたのだろう。


 男は一歩も動くことなく猛攻を凌いだ。


 猪突猛進でフェイント一つ挟まないクララの攻撃は、戦い慣れた者なら躱すのは簡単だろうが、動かない相手に当てられないのはやはりおかしい。


「今のお前等にそいつの相手は無理だ。俺に替われ」


 クララが間髪入れずに跳ね回るために狙いも付けられず、隙を窺っていたリーノは声の主に顔を向ける。


「ラリーさん!」


 リーノにとって最強の援軍の到着に、少し気が抜けたその時。


「油断してんじゃあねぇよ。リーノ」


 顔面目掛けて拳が飛んでくる。


「なっ!?」


 ラリーの得意とするインパクトナックル。


 前腕に填めた籠手に仕込まれたブースターで、加速された正拳がリーノの眼前で寸止めされる。


「しっかりしろ」


 仰け反ったリーノは、ラリーの拳と自分の頭との間を、銃弾が通過するのを目にする。


「何が起こったんだ」


 リーノを撃ったのはリーノの持つクデント、トリガーを引いたのはリーノ自身。


「とは言え相手が悪い。ってのが正直なところだ。おい新米警官、ウチのルーキーとモビールまで下がれ、ここにはもう用はない」


 ラリーは謎の男に正対し、被保護者を庇って前に出る。


「お、俺なんで……」


 リーノはなぜ自分で自分を撃ってしまったのか? その謎が解決できず混乱している。


「それがこいつの、クリミナルファイターであるヴァン=アザルドの能力だ」


 その名前にはリーノもクララも聞き覚えがあった。


 Aランク凶悪指名手配犯。


 数多くの犯罪行為で、殺害された被害者は数え切れないほどに昇っている。


「こいつは任意の相手の末端神経を操れるのさ。それも操る相手に気付かれないままにだ」


 クララは跳びはねる瞬間に足の神経を乗っ取られて、目標を逸らされていた。


 リーノも手首の角度とトリガーを引く指を操られて、危うく自殺させられるところだった。


「久し振りだな犯罪者」


「なんだよ。結構楽しかったのによ。勇者様はせっかちでいかんね」


 ラリーの指示に従おうと、クララはリーノの側まで下がってくる。


「もうお遊びは終わりかい? お嬢ちゃん」


 発砲をしないように銃をホルスターに納め、ウィスクを使ってロックをする。


 こうすれば末端神経を乗っ取られても、ロックを外すにはリーノが意識してシステムにアクセスしないといけないので、未然に最悪の事態を防ぐ事ができる。


「早くいけ!」


「ラリーさんは?」


「俺はこいつとちょっと遊んでいく。なに、それなりに対処法ってのはあるんだ」


 ラリーは言い終わる前にダッシュを開始、ヴァン=アザルドに向かって突進する。


 それではクララと同じ結果になるのでは?


 しかしインパクトナックルを放つラリーは、間違いなく拳をヴァンにヒットさせる軌道に乗せて打ち出した。


「えっ、あれ? どうやって?」


 流石に当てるまではいかず、簡単に避けられてしまったが、ヴァンが始めて回避運動を、見せたのは間違いない。


「簡単な手品だ。お前が銃をロックしたのと同じ、装備の制御を利用して殴りかかっただけだ。お前もこれくらいの芸当はできるように努力しろ」


 インパクトナックルならいくらラリーが腕の筋肉を操られても、無理矢理軌道修正ができる。


 気密服の下は紫色に変化した筋肉が悲鳴を上げているが、顔色一つ変えることなく、追撃を続ける。


「少し時間を稼いだら後を追う。今はお嬢様救出が優先事項だ。情報は手に入れた。次の段階に備えろ」


 確かにここにいても足手まといにしかならないのは、リーノでも判断できる。


 二人はヘルメットを被り、急いで部屋を後にしようとする。


「ぐっ、あぁーっ!?」


「クララ!?」


 ヴァン=アザルドは若者等を逃がさないとばかりに、クララの左足を支配して、勢いよく壁を全力で蹴ってみせた。


 左足のつま先は足首の辺りであらぬ方を向いて、クララは立っていられず、その場で膝を付いた。


「クララ痛みを堪えろ、後で治療する。今はここから逃げるぞ」


 クララを横抱きに持ち上げて、リーノは後ろに目もくれず走り出す。


 ヴァンの次の標的はリーノだったが、若者の走り出す速度は予想以上で、更にはラリーの猛追にあい、取り逃がしてしまう。


「おいおい、お前の相手は俺だって言ってんだろ?」


「はははっ、無理すんな。やせ我慢が顔に出てきてるぜ」


 腕の攻撃用やバックパックのブースターと、肩や脹ら脛(ふくらはぎ)のエアースラスターに意識を集中し、操られる手足が圧迫される痛みに耐えながらの乱闘は、並の胆力では失神も有り得る中、連続攻撃をやめないラリーの顔は酸素欠乏の色も出てきている。


「……もういいや、お前と遊んでいる暇がないのは俺も一緒だからな」


 ヴァン=アザルドは自前の銃を抜き出し、ラリーを牽制しながら距離を取ろうとする。


 他に類を見ない特殊な能力を行使し続けているヴァンも、にやけ顔の下に隠している焦りが表に出そうなのを耐えていた。


 しかしラリーは銃撃をものともせず、ナックルで銃弾の全てを殴り返し、仇敵をとり逃すまいと前へ出る。


 この空前絶後の攻防戦は、唐突に幕を引く事となる。


「カートてめぇ、何しやがる!?」


 逃げるヴァンが司令室から出たタイミングで隔壁が閉じられる。


 リーノ達が引いたのと違うブロックに向かった事で、問題ないと判断した。


『お前がリーノに言ったんだろ、これで終わりじゃないんだ。早く戻ってこい』


「ちっ!」


 手足の痺れは酷いが、動きを制限されるものではない。


 基地内は静かなもんで、ダメージを気にするような事態は起こらない。


 次第に冷静さを取り戻し、自分のモビールに戻る。


「おい、ちびスケ。大人しく留守番してたか?」


「おっそぉ~い」


 ラリーのバックパックにへばりついた箱の中にいたはずのフェラーファ人は、アークスバッカーの中で冷房を効かせて寛いでいた。


「ねぇ、リーノは? 見つかったんでしょ?」


 案内役を任せたはずのリリアが箱から飛び出した理由は?


「……そんなに暑いの苦手か?」


「暑いのなんて大ッ嫌い」


「お前さんは寒冷地の出身だったか、にしてもそんなにアイツが気になるなら、多少暑いくらいは我慢しろよ」


「未来の旦那様を気に掛けるのは当たり前でしょ。それでも暑いのはダメ。なんであの箱あんなに暑いの?」


 さんざん調べたけど、仕様書が見つからず、もしかすると温度調節機能もあるのかもしれないが、結局調整法は見つけることができなかった。


「何でも何も、それを使っていたヤツは熱帯地方の出身だったんだよ。むしろそれくらいでないと簡単に風邪を引きやがったからな。箱に入るんなら現場に連れて行ってやるが、そうでないなら今回みたいに留守番な」


「えぇー!?」


 今はただお喋りをしている時間はない。


 ラリーはモビールを起動させて、小惑星基地を後にする。


「砲火は見えなくなってるな」


 外の騒動もあらかた片付いたようだ。


 ベルトリカのティンクに連絡を取り、残党はパスパードへと降下していったことを報告される。


「いよいよ最終フェイズだな」


 因みにフェラーファ人用のBOXには、ちゃんと温度調節の機能が備わっている。


 ただマニュアルを用意していなかったのは、製造者の落ち度だったそうだ。

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