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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
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Episode06 「あのオヤジの推薦……だと?」



 機密服を脱いで通路に出てきた女性警察官は、改めてリーノと挨拶を交わす。


「初めまして、自分は銀河評議会警察機構のクララリカ=クニングス巡査であります」


「ああ、えっと俺はボサリーノ=エギンスって、まだ成り立てのコスモ・テイカーです」


 こういう習慣のないリーノは頭を右手で掻きながら、なかなか失礼な態度で挨拶をする。


「ふふふっ、やっぱりリーノよね」


 クララリカ巡査は受け取った指令書にあった資料から、ベルトリカ乗組員の事も事前に知っていた。


「やっぱり?」


「分からない? 私の事」


 そうは言われても、テイカーとして仕事をするようになったのはつい最近の事、養成所の時の同期生かとも思ったが、こんなに親しげに語り掛けてくる中に、クララリカ=クニングスなんて名前には記憶がない。


 そもそも女性テイカー見習いがいなかった。


 ウェーブの掛かった明るいブルーの髪を、肩の辺りで切り揃えている。


 大きな瞳と大きな口、もの凄く若いというか、社会人とは思えないほどに幼く見える。


 本当に同年代なのかと疑いながらも、もっと以前の学生時代の知り合いなのかと考えるが、やはり思い当たらない。


「もう8年も前だもんね」


「8年!? ……えーっと」


「お隣さんの事を覚えてないの?」


「お隣? う~ん……」


 そう言われても、リーノにも事情という物がある。


 溜め息を零し、クララは昔を語る。


 二人の出会いは、クララが人生2回目の引っ越しの地にて。


「ああ、何となく覚えてるような気もする」


「そうよね。ただのお隣さんだもんね。ちゃんと思い出せなくてもしょうがない。だってリーノって私が可愛がろうとしても、嫌がって逃げ回ってたもんね」


 可愛がられていた? その後の説明を聞いて、リーノの眉間には深い皺が浮かび上がる。。


 クララリカ曰く、彼女は確かにリーノを本当の弟のように感じていたようなのだが、一緒に遊べば擦り傷、切り傷は当たり前、骨折も2回あったねと、あまり悪びれることなく舌を出しておどけている。


 いま思えばよく生きていたよねと、笑えない笑い話を聞かされた。


 この2歳年上だという彼女は、引っ越してきた当初から、活発が通り過ぎて近所の子供達は恐れをなして近付けない、かなりの問題児だった。


 学校でも立派なボッチだったクララにとって、リーノだけが気を許してくれる友達だった。


 だったのだが、実際に友達だと思っていたのはクララの一方通行で。


「リーノが遊んでくれなくなって、自分が人と違うってことに気付かなかったら、人生棒に振ってたよ」


 怪我の療養で、リーノが自室に籠もる中、クニングス家は引っ越していった。


 2回目の骨折が治りかけていた頃の話だ。


 思い出すことができない事を、今のリーノは心から安堵した。


「ここがコントロールルーム。二人に紹介するよ。そろそろ手も空いているだろうから」


 合流地点は惑星パスパード近くの小惑星群、目標のポイントはアステロイドベルト内に存在する。


 敵アジトは13カ所、ソアが捕まっているのはその一つ。


「分かった。カート、このデータをティンクに渡してくれ」


 クララに渡されたデータチップを受け取り、相方に渡すとラリーは、二人を伴ってレクリエーションルームへ。


「ほぉ、偶然にも程があると思うが、大した縁だな」


「今回の対策会議中に俺の名前を目にした瞬間に、大声挙げて立ち上がったそうです」


 自動調理器から出てきたティーセットと、リカーボトルに簡単なおつまみ。


 操舵をリーノに任せてからは、任務前でも平気でボトルに手を伸ばすようになったラリー、しかし今回は自分もモビールで出る事を思い出して、ティンクに珈琲を追加注文する。


「普段はそれでも飲んでるのに……、いて!?」


「お前は、オマワリさんの前で何言ってんだ。誤解されるだろ」


 リーノがつい漏らした本音に、ラリーは頭を掌ではたいて咎める。


「す、すんません」


「お前は行動前にちょっと考えるクセをつけろよ。それができるようになったら、即決力も鍛えるんだぞ」


 ただのレクリエーションのように見せるが、その目は笑っていないラリーに気圧されて、リーノは喉を鳴らすが、クララはこの遣り取りの糸を読めずに首を傾げている。


「合流したら、あんたのモビールは置いていくから、その後はリーノの機体のタンデムシートを使ってくれ」


 ベルトリカは離岸時と戦闘時以外はティンクがオートパイロットで目的地に運んでくれる。


 それでもゲートウェイを使う時は、一人だけコントロールルームに残るようにしている。


 こういった場合は大抵カートが率先して残ってくれる。


 船は間もなくゲートウェイに入る。


 クララのモビールは牽引用のワイヤーで船体に固定はしてあるが、いざ戦闘となれば邪魔にしかならない。


「ラリーさんもモビール出すんですか?」


「お前は話を聞いてなかったのか? 行けるところまでベルトリカで接近、俺達は三方に分かれ、内部で撹乱と要人の保護が任務だ。お前にはマーカーの受信ドライバを渡しただろ」


 そこまで言われてようやく手を打つ新人に、鬼教官は客人の手前、髪をくしゃくしゃにしてやるくらいで許してやる。


「さて、俺達の紹介は必要ないだろうが、あんたの事は教えてくれ。あんたん所のクソ狸に今回のプランに打って付けだと言われたが、あんたは何ができる?」


 クララリカ=クニングス、年齢は18歳。


 社会人一年生の成り立て巡査は、15歳で高等学部を卒業後に警察訓練校に入り、そこで3年間学んだ成績は中の中。


 ずば抜けた成績を残しているわけではないが、ラリーの若い頃からの知り合い警部が推してきている新人だ。


 何かを隠し持っているとみているのだが……。


「はい、私は体を動かす事だけは自信がありまして、露払いを任せて頂ければ、必ずお役に立てると思います」


 揃えた右手の指をしっかり伸ばして、頭に添えて敬礼をするクララの自己アピール。


 なんというかこう、そう……どうも考えるというのが苦手なタイプであるようだ。


 現に幼年学部も8歳から10歳までの初等学部の頃も、言うまでも高等学部も、学問においては最底辺が定位置だった。


 これでよく警察官になれたものだ。


「こいつ、かなりの脳筋ですよ。俺が言うのも何ですけど」


 リーノの失言が終わるよりも早く、空気を焼く臭いが漂ってきた。


「あっ、ぶねぇな、おい!?」


「あぁ、ごめんね。考えるより先に体が動いてたわ」


「おま、それ、クセが悪いなんてもんじゃあないぞ!」


 銃はセイフティーモードになっていて、万が一当たっても軽い火傷程度しかしない状態であったが、間一髪イズライトを使って躱したリーノは猛抗議。


「お前等、じゃれ合うのは今のうちにしとけよ。それよりなるほど、もしかしてあんたのイズライトは、何らかの身体強化系なのか?」


「はい、その通りであります。すごいです。動きを見ただけで分かったんですか?」


「いや、あのヒゲ親父が名指しでリーノと組ませる、その相手が体術が得意となればな」


 よっぽど古狸はこのお嬢さんを気に入っているようだと、ラリーはある意味信頼をおいているベテランの意図を酌む。


「そう言う事なら、アポースのおやっさんの指示通りに、お前等は一緒に行動してもらう。リーノ、今回はアガンテの使用も認める。彼女をサポートしてやれ」


 右腰に下げているクデント、更にアガンテという名のもう一丁、得意とする二丁拳銃を普段は封じられているが、ラリーの許しが出たので、これで思う存分に暴れる事ができる。


「そんじゃあ後は二人でミーティングでもしていればいい。合流したらコールしてやるから」


「あっ、あの……」


 ラリーは珈琲を飲み干し、声を掛けてくるクララを、右手をヒラヒラさせて相手にせず、無言で出て行く。


「……私、嫌われてる?」


「あの人はあんな感じだよ。誰に対しても」


 ミーティングと言われても、大した策を講じられる訳でもない。


「取りあえずクララのイズライトが、どんな物なのか教えてよ」


 動く物のスピードがスローモーションに見える、リーノの能力と相性がいいようだけど、体術は鍛えてはいるが人並みなので、射撃の腕を磨いた新人テイカーと肩を並べるとなると、並の運動能力では、フォローしきれない恐れがある。


「えーっとねぇ、見た方が早いだろうから、どうする? なんなら手合わせしようか?」


「そんな時間はないよ」


「うーん、じゃあこれ、これが私の武器ね。後は、現場に立ってからかな」


 クララが右手に持っているのは、彼女の前腕ほどの長さの棒に直角の持ち手が付いた、打突武器には仕込み銃や、他にも破壊力を増加させる機構が隠されているそうだ。


『二人ともぉ』


「はいなんですかティンクさん」


『そろそろ警察機構艦隊と合流するよぉ』


 惑星パスパードが窓の外に見える。


 いよいよテロリスト壊滅作戦が開始される。

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