Episode02 「お前ら一緒に行動しろよ、面倒くせえ!」
カーティス=リンカナム、ラリーの相棒で一つ年下の25歳。
ノインクラッドの近くにある惑星ガテン。
惑星間の移動も、わざわざ位相差空間を移動する“ゲートウェイ”を通らずとも、高速船なら一日もかからない距離にある、銀河評議会未加盟の発展途上惑星。
一般人は母星以外に生物の住まう惑星が、この銀河には数多く存在する事を知りはしないが、ガテンには多くの異星人が潜入している事を、知っている者がごく僅かだがいる。
中でもカートの育った地にはフウマ族という、一族全員が特殊能力を持つ集団がいて、銀河評議員が秘密裏に接触を図っており、犯罪行為を起こさないかを監視している。
つもりであったが、フウマ族は隠密活動を得意とする一団。
中でも能力値の高いカートは評議会だけでなく、いろんな組織がマークしていた。
「よう、はえぇなカート。今日は休みなんだろ? なんか予定入ってんのか?」
「何か用事か?」
「いや、俺は今日は仕事だ。お前に用があるかってぇと……、おお、そうだ。ルーキーの事を頼むよ。まだまだ覚える事もいっぱいだからな」
「俺は今日は地上に降りる。だから船を持っていってくれてもいい」
このチームでのルールとして、基本的には大きめの仕事を終わらせた後は休養を取る事になっている。
リーノも二日前に初めての一人仕事を終わらせたばかり、案件はあまり大きなモノではなかったが、初仕事の後と言うことで、今日も休むように言ってある。
「だったら丁度いい、アイツも俺と同じノインクラッド人だ。アイツの出身地を見て回ったらどうだ? ベネデラは行ったことないだろ?」
「ベネデラか、スパエラやピリザの本場物を食べるのも悪くはないか」
リーノの教育係はラリーがしている。
これまであまり接点を持ってこなかった若者と、コミュニケーションを取るのも悪くはない。
「いいだろう、俺の予定は食材集めだからな」
カートの唯一の趣味と言っていい料理の材料を集める。
休みの日の行動は大抵いつも一緒だった。
銀河評議会の本部が置かれてある惑星ノインクラッド、ここはその片田舎にあるベネデラ。
カートとリーノ、ついでに付いてきたリリアが入ったのは、観光ガイドには載っていないが地元で人気の料理店。
「えっ? カートさんって、元クリミナルファイターだったんですか?」
「言ってなかったか? いや、ラリーが言ってるんじゃないかと思ってたんだがな」
「でもお二人は伝説を残すほどのトップ・テイカーじゃあないですか」
ラリーとカートのチームは、大きな事件をいくつか解決しいくうちに有名になり、最も世間を騒がせた大事件では、2人の大事な仲間を奪ったが、銀河評議会は彼らを伝説の英雄として讃えるに至った。
「俺を更生させたのは、前のリーダーだったフランだ」
「はい、フランソア=グランテさんとティンク=エルメンネッタさんの事は知ってます。なにより船のメインコンピューターに、ティンクさんのパーソナルデータが利用されているのには、本当に驚きましたけど」
保護区から出たフェラーファ人は稀少で、一緒に暮らす為の生活サポートを研究する必用があると、フランが提案してデータは取り込まれた。
「今の俺がいるのもフラン絡みだな。思えば俺もラリーも、一度も彼女に頭が上がらなかったな。本当の意味では」
フウマの里から出て、犯罪者に仕立て上げられたカートは後にベルトリカへ、そこでの経験が今に繋がっている。
「はぁ~、人に歴史有りですね。俺なんてガキって年を、ちょうど過ぎた頃に聞いた皆さんの活躍に憧れて、体を鍛えてきたってだけの、ごく普通の中流家庭の三男坊でしかありませんからね」
「人に自慢できない昔なんて、ない方がいいに決まっている」
この地方の郷土料理が運ばれてきて、食事を始めるとカートは一言も喋らなくなった。
リーノはリリアと談笑しながら箸を進め、そこそこゆっくりと食べ終えたつもりだったが、確かに二人の三倍は注文したとはいえ、カートはまだその半分も食べ終えていなかった。
「あ、あのカートさん?」
「……、……、……!」
無言で黙々と食べ進め、時折箸を置いて、パーソナル端末を取り出しては何かのメモを残し、また食事を再開する。
ほぼ一時間を掛けてゆっくりと食べ終わったカートは、「行くぞ!」と短く言葉を残して、サッサと会計を済ませて店から出て行く。
はぐれないように慌てて追いかけたつもりだったが、リーノとリリアが扉を抜けたそこには、先輩テイカーの姿はなかった。
「えっと、はぐれたみたいだな」
「……この場合はどっちが迷子って事になるのかな?」
「被保護者代理からはぐれたんだから、俺達が迷子って事になるんだろうな。はぁ~あ、この歳で迷子って……」
超一級の隠密行動を習熟し、特殊能力をも使って行動するカートがその気になれば、リーノなんて見ての通り簡単に置いて行かれてしまう。
仕方なくリリアと二人で久し振りの地元を満喫しようと、ハンター養成所に入る前によく行っていた場所を見て回る。
「なんだかのどかな所ね。フェラーファ人の私が言うのも何だけど、あまり刺激を受けることのない町だわ」
オブラートに包んでくれてはいるが、リリアはどうも退屈をしているようだ。
だったらとっておきの景色を見せてやろうと、裏路地を抜けて丘を目指そうとした時だった。
「なんなのよ、あんた達!?」
「なんだ?」
「女の子の声みたいね」
大きな声を出す少女の姿は、目の前の角を右に曲がった辺りから聞こえてくる。
「や、やめなさいよ!」
「何かのトラブルか?」
低い男の声も聞こえてくる。
リーノは歩を進めて曲がり角に差し掛かる。
「ちょっとそこの人」
「えっ、俺?」
声を荒げていたのは幼女? それと黒服のスーツ姿の大柄な男が二人。
一人の男が幼女の左手を掴んでいる。
「助けて! あたし、あたし……」
リーノは状況を見て即座に判断し、黒服二人を瞬時に叩きのめした。
「大丈夫か?」
「えぇ、平気で……、あなた誰?」
「えっ? 俺、俺はボサリーノってんだ。リーノでいいよ」
「リーノ? って、なによ、ラリーじゃないの? さっき一緒にいたのってカートよね」
リーノの名前を確認した後は小声になり、辺りをキョロキョロする幼女。
「リーノ、平気?」
「ああ、もう大丈夫だリリア」
大男達は立ち上がると全力で走り去っていく。
それを見送ったリリアが近寄る。
「こんな小さな子が、こんな所に一人でなにしてるの?」
「妖精? へぇ、本物を初めて見た。ちっちゃ~い、もしかして生まれたばかりとか?」
今さっきまで悲鳴を上げていた幼女は、違う興奮の声を上げる。
「失礼な、私は19歳よ」
物語の妖精をイメージしてか、フェラーファ人を知らないのか、幼女は年相応の笑顔を見せてリリアを捕まえようと跳びはねる。
「本当、お子ちゃまねぇ」
「なによ、私だってもう12歳よ」
リリアが届きそうで届かない位置を、ヒラヒラ飛んでいる事にイライラする。
「12歳!? ああ、小柄なんだね。可愛いからちょっとビックリしちゃったよ」
「ふん、気を遣わないで、そっちの虫と一緒よ。全然身長伸びないし、いつまでもこんなヒラヒラばっかり付いた服着させられてるし」
「ちょっと誰が虫よ。あんたサバ読んでんじゃないの? どう見ても8歳、いや6か7歳くらいでしょ」
リリアの苦情や罵倒は完全に無視して、コロコロと表情を変える幼女、いや少女は左手を腰に、右手を自分に向けた後に、その人差し指をリーノに向ける。
「あたしはソアよ。あなたはコスモ・テイカー?」
「よろしくソア。えーっと確かに俺はテイカーだけど……」
「だったら知ってる? フィゼラリー=エブンソンとカーティス=リンカナム」
「そりゃあ知ってるよ。伝説のテイカーだもん。けど本人達は全然そんな感じじゃあないけどね」
何気ない一言を聞き逃さず、ソアはリーノの手を握る。
「ねぇ、あなたにお願い、うぅうん、一つお仕事を頼みたいの。あたしをある場所まで送ってくれない?」
そのお願いはどうやらさっきの黒服と関係しているようで、リーノは近くの喫茶店で話を聞くことにした。