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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
19/144

Episode19 「クソおやじ、報酬は三倍、いや十倍だからな!」



 ソアロボットを置き去りに猛ダッシュをしたラリーだったが、たどり着いたそこには既に目標物は残されてはいなかった。


「手間取ったからな、ヴァン=アザルドのヤロー!」


 一際大きな空間が拡がるエリアにたどり着き、ただ呆然と立ち尽くす。


「あっ、ラリーさん」


「リーノか、無事で何よりだ。お嬢ちゃんも」


 ラリーが来たのとは別方向からリーノ達が合流してきた。


「あん? フウマの姉さんはどうしたんだ?」


 リーノ達と一緒にいるはずのヘレンの姿が見えず、経緯を聞いている間に、ようやくソアが追い付いてきた。


「全く、何考えてるのよ。幼気いたいけな少女を置いてけぼりにしないでよ」


「ああ、分かったからちょっと黙ってろ」


 ヘレンは先の戦闘で負傷して、情報の更新はすぐには必要ないだろうと判断して、警察で治療を受けている。


「いい判断だ。今の局面では回線を通しての探索は、あまり意味がないだろうからな」


「ここ、何なんですか?」


 やけに広い自然の地下空洞ではあるが、人工物もそこかしこにあり、大きな重量物があった形跡がある。


「ベック=エデルートの獲物があったのさ。ベルトリカより遥かにでかい宇宙船がな」


「宇宙船ですか? ここにってことは、埋まっていた物を掘り起こしたとかですか?」


「詳しい事は知らねぇよ。この星には超文明の遺産が数多く残されている。銀河評議会が観察対象としながら、加盟を見送っているのもそう言った惑星だからかもな」


 公的には知られる事のない特大ニュースをしれっと溢すラリー。


 「やっちまった!」と気付いた時にはもう遅く、口から溢れた物を掬い戻す事などできもしない。


 しかし若者二人は広い自然の地下空洞に感心を寄せていて、どうやら聞き流してくれたようだ。


 胸をそっと撫で下ろす。


「どうせお前は知ってんだろ?」


 幼女にジト目を向ける。


「まぁね」


 天才少女はしたり顔、敢えて視線を逸らして後輩に向き直る。


「お前、質問しておいてどこ見てんだよ」


「ああ、スミマセン。ここにそんな大きなものがあったのに、一体どこから運び出したのかなって」


 色んな機材が残されてはいるが、大掛かりな仕掛けが施された箇所はないようだ。


「位相差空間を利用したんでしょうね」


「位相差空間って、ゲートウェイで超速移動するあれ?」


 各惑星間を繋いで、超高速航行を可能にする亜空間と同じ物を使って、物質をすり抜けるように転移したのだろうとソアが推理するが、こんな所にゲートウェイの入り口があるなんて、そんな物をどうやって開けたというのか?


「もしかしてここの機材で?」


「そんなコンパクトに作れるんなら、わざわざ宇宙の何もない空間に、あんな巨大建造物を設置する必要もないでしょ」


「それじゃあ……」


「ねぇねぇ」


 リーノと同じ事に疑問を感じて、何か無いかと見て走り回っていたクララが戻ってくる。


 手には何となく見覚えのある箱?


「これって妖精ちゃんのロボットだよね。オッパイのところ」


 よく見れば確かに建物の影に隠れて、リリアが中から出てきた操縦席があったブロックによく似ている。


「間違いないわね。その中にいるはずよ、出してあげたら?」


 制作者の一人であるソアが確認する。


 出してあげたらと言うが一体どうやって?


「なに、教えてもらってないの? その子にパスワードはリーノしか使えないから、ちゃんと伝えなさいって言っておいたのよ」


「パスワード? ああ、フェニーナ、アヴァランテ、バファモート。だっけ?」


 リリアが合流した時にやけに嬉しそうに教えてくれた事を思い出す。


 フェラーファ人の使う現地語で、「フェニーナになる事を心から願う」という言葉をロックを解くキーワードにした。


 リーノがいないとオープンしないようにする為だ。


「そのキーワードなら、嬉しがって会って直ぐに伝えるだろうってね」


 リーノの言葉に反応して、クララが抱える胸部ブロックはフタを開け、中には眠りに付いている妖精の姿があった。


「胸部がパージしてるってことは、強引に分解するか、無理矢理ハッチを開けようとしたんでしょうね。自動脱出装置が働いた証拠だから」


 その脱出装置で逃げ出せればよかったのだが、こんな閉鎖空間では離脱まではできなかったようだ。


 ベックが必要とする脳波コントロールユニットは、ロボットの頭部にセットされてあった。


 だから胸部ユニットは必要ない。


 と言ってもリリアを解放する理由にはならないはずだが。


「このユニットに組み込まれた爆弾を捨てただけでしょ」


 前ソアロボットが、バスパードのテロリストを一網打尽にしたのと同じ爆薬が付いていることに気付いて、ここに置いていったと考える。


「そんな危ない物を、あんな人混みの中に送り込んできたのか?」


「安心して、ただのハッタリだから。外からの反応は本物そっくりに検知されるけど、薬室は空っぽなのよ」


 コクピットを開けなければ、確認すらできない造りの為、置いていくしかないと判断したのだろう。


 思惑通りに働いたと自慢する幼女。


「後はカートと発掘船の行方だな」


 ゲートウェイを独自に発生できる超文明の遺産の転移先、大昔の大型船をどうやって探すのかなのだが。


「手掛かりがない訳じゃあない」


「本当ですかラリーさん」


 流石は一流のコスモ・テイカー、どんな時も先手先手を考えて用意周到に備えているのだろう。


「そんな都合良くいくかよ。一連の流れを思い返せばヒントがある。それに気付けるかどうかは、経験による物なのは違いないがな」


 ここで長々と説明している時間はない。


 早くここから抜け出して、宇宙に出なくてはならない。


 ラリーはリーノ達がやって来たルートを選択し、地上へ脱出。


 オートパイロットでモビールを呼び寄せてベルトリカへ帰還した。






 ベルトリカのレクリエーションルームに急遽用意された尋問室。


 対象はリリアス=フェアリア。


 内容はベックに連れ去られた先で何を見たのか。


「って、なんで尋問なのよ。必要な事はちゃんと報告したでしょ」


「それが不十分だと判断したからこうなったんだ。話したくないってのはなしにしてくれ」


 鳥かごに入れられたリリアは完全に機嫌を損ね、スタンドの明かりがまぶしくて表情の読めないラリーを睨み付ける。


「リーノになら本当の事を話すのか?」


「それは……」


 端からちびスケ呼ばわりで邪魔者扱いのラリーに気を許していないのは当たり前だが、慕って付いてきたリーノにならと言われ、それでもリリアは俯いてしまう。


「はぁ~、俺も根掘り葉掘り聞こうって言うんじゃあねぇ。だが一つだけ確認させろ。何よりも重要な事だ」


 ここにはラリーとリリアしかいない。


 モニタリングしているのもティンクのみ。


 ソアなら覗き見もできるだろうが、そんな事に興味のない幼女は、ただいま自分のロボットをここの資材を使って改造中。


 オリビエもそちらの方を手伝っている。


 新米の二人にはティンクを抜いてハッキングする能力はなく、このレクリエーションルームは、ロックも掛けられた密室状態。


「お前がリーノに付いてきたのは何が目的でなんだ?」


「そんなの彼がプロポーズを……」


「そんなメルヘンを語るヤツが、目の奥に闇を抱えたりしねぇよ」


 決意ある者の目。


 フェラーファ人は他種族につがいを見つけると、フェニーナという妖精態から人類タイプに変身する体質を持っている。


 だがそれは結ばれる相手が同じ妖精族であれば起こらない状態変化。


 異星との接触で生まれた変異体質が、イズライトへの目覚めを発生させ、短命のさがに縛られる事となった。


「ティンクもお前も嘘が下手なんだよ。命を賭けられるほどに大事なもんがあるんだろ?」


 しかし妖精族はあまりに非力で、誰かの手を借りなければ外の世界で望みを叶えるなんて、万が一つにも成し遂げるなんて不可能。


「ソニアル=フェアリアだったか?」


「……やっぱり私は貴方が苦手、私は外の世界に憧れて、すてきな男性に出会い、例え長くは生きられなくても幸せを掴む事を夢見る女の子よ」


 もう本当に何も喋らないからと口を紡ぎ、膝を折ってお尻を付けて座り、太股の間に手を挟み俯いて目を瞑る。


 ラリーは今一つ信用できない。


 だけどリーノはまだまだ頼りなさ過ぎるから、どれだけ不貞腐れてても、顔に出すことはできない。


「OKだ。大体必要な情報は確認できた。後はオンボロ船を見つけてテロリストの残党を取っ捕まえれば任務完了だ。今回こそコッテリと報酬を巻き上げてやるぞ」


 アポース巡査長のにやけ顔を思い浮かべ、ラリーは吠える。


「あ、あのぉ~」


「うん、おぉ悪かったな。直ぐ出してやるよ。それとオリビエが今度こそお前さん用に、最高にセッティングしたロボットを使わせてやるって、気合い入れてたからな。そろそろできあがっている頃だろう。なんなら今すぐ見てくればいい」


 かごを開け、部屋のロックも解除し、ラリーはコントロールルームに入っていった。

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