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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
18/144

Episode18 「やっと追いつめられたな!」



 ベックの隣に並ぶ女性。


 雰囲気というか、佇まいが他の種族と異なる独特なものである事は、カートも直接二人の妖精に触れた時に感じたそれと同じもの。


「フェラーファ人か?」


 この銀河で特定保護種族とされている妖精族。


「お前の仲間にも一人いたな」


「いーや、二人だ」


 今はホームのホストを務めている仮初めの器。


「フェニーナか?」


 手のひらサイズのフェラーファ人は、婚姻色を発するが如く、その姿を一般的に多い種族と同じに変える。

 その形態をフェニーナと呼ばれている。


「俺のようなヤツに想いを寄せてくれる大切な女性だ」


 恋を叶えた時に、妖精は背中の羽を失う。


 妖精族の女性はベックの左肩にあごを乗せ抱き付くように、両手を彼に絡ませている。


 ベック=エデルートは長身で、とても彼女があごを乗せられるような身長ではない。


「なんだ仲間に二人も妖精がいて知らなかったのか? フェラーファ人は羽がなくなっても宙に浮く事はできるんだよ」


 間違いない。


 異文化との交流を忌み嫌っていたベック=エデルートが、こんな大がかりなテロ活動を始めたのは、銀河評議会の干渉をガテンから無くす為。


 なによりこのフェラーファ人の為だ。


「ガテンが、いやアースランドがこんな銀河の中心にあることが許せない。お前にも分かるはずだ」


 わざわざ現地語で惑星の名を呼び、ベックは宇宙船を見上げる。


「正気かベック、何を今さら言っている。この星の運命がどんなだったか、それを考えればむしろ今の状況を導いた超文明に感謝すべきだろう」


「そうだな。だがその未曾有の災害、巨大隕石の衝突は回避された。だったらまた元いた宙域に戻るのが自然というものだ」


 惑星の転移だなんて超常現象を可能とした超文明の遺産、この船を使えば昔に起こった奇跡を再現できるはず。


「お前がそれを望むのも、その娘の為か?」


 フェラーファ人をフェニーナに変化させるのは人への想い。


 妖精だけが一方通行に想いを寄せるだけでは成らない、両者が想い合うことが引き金となる。


「そいつはどんなスキルでも偽称はできない。通じ合う愛の形がなければ進化はこない。ベック、お前は……」


 望み通りにしてやれなかった曾ての仲間の顔を思い浮かべ、カートは刀を抜いた。


「星の帰還などと、そんな大昔の事を誰も望んではいない。記録として残しているのはフウマだけなんだぞ」


 この星が銀河評議会に加盟する為には、まだクリアしないとならない問題がある。


 実際はベックの望むように、元の宙域に戻ったとしても誰も気づきもしない。

 ならば男の思い通りにしてやっても問題はないのだろうが、それはカートの一存で決められることではない。


「未来を思えば今のままの方が星の為だろう?」


 高度な科学文明をもって、日々便利さを増していく生活をもたらす技術が、同盟間で等しく提供されている銀河連盟。


 ガテンもいずれはそこの仲間入りをする、そうすれば間違いなく文明は発展する。


「その結果がパスパードだとしてもか?」


「それを招くのはお前と同じ、危ない思想を持った暴走する権力者だ」


 カリスマを持つ者が、自らの考えを押しつける行為は、ビジョンを持たない民草には魅力的に映る事もあるのだろうが、変化を嫌う者には悪行にも映る。


 今回の件でパスパードには評議員が多く常駐して、ルールの改変も起こるだろう。


「お前達が彼らを誘導しなければ、パスパード人主体で一歩ずつ共存の道は刻まれていたはずだ」


「共存共栄なんて綺麗事ではすまない。評議会など不要なのだ、外部の干渉で生活が変わる事など必要としない」


「必要はあったさ。消滅の最期なんて望むものなどいない」


「そうだ、それは惑星フェラーファのフェアリアだって同じだ」


 極端な変化で望まない力を植え付けられた不幸の象徴。


「お前の考えを実行することで、フェラーファの悲劇が本当に回避できると思うのか?」


 カートはフウマの里で知ったフェラーファ人の悲劇。


 ベック=エデルートの起こしたテロ事件の発端はそこにある。


「なんだってやってやるさ。どうしようもなかったでは終わらせない。終わらせられない」


 この空間にガテンが出現した時、超常をもたらす光の波動が、全銀河に注いだ。


 その時に超文明の波動に当てられて、人類はイズライトを発現するようになった。


 中でも惑星フェラーファでは、イズライトの恩恵を受けるということは呪いをかけられると同意で、能力に目覚めたものは、等しく短命となる悲劇が生まれた。


 中でも種を代表するフェアリアの一族は、神聖な山に住んでおり、故に誰よりも強いオーラを受けてしまって、イズライトの強い呪縛に縛られる事となった。


「この船ならば、そんな運命を打ち消せるんだ。フェアリアの一族に生まれた彼女の呪われた運命を」


 フウマの里でデータ管理の統括役をしていたベックは、彼なりの歪んだ正義感が膨らみ、イズライトについて調べる中で彼女と出会い、この船の情報を手にした事で決起した。


「フェラーファ人は種の保存の為には、フェニーナになる必要がある」


 だがフェラーファ人は成人態であるフェニーナになると能力に目覚める者が現れ、だがイズライトが発現すると例外なく短命になってしまう。


「そんなものは可能性の話だベック。お前がフウマで手に入れた手段は!」


「可能性で十分だ。やってダメなら次を考える」


「そのような博打に星を巻き込むな」


 無理矢理こんな世界にされて、大きな問題を抱える種族が生まれた。


 それをどうにか元通りにしたいという、ベックの考えは理解できる。


 だが同じ事を繰り返して元に戻せる可能性なんて、それこそ奇跡に賭ける行為だ。


 悪化する可能性もある計画を、これ以上は進めさせる訳にいかない。


 ベックも抜刀し、フェラーファ人の女性は距離を取り、一騎打ちの幕は切って落とされた。






 フウマの里の諜報員が身につけている、特異な技術は先祖伝来の物。


 獣より早いスピードで走り回り、人を飛び越えるほどの跳躍を見せ、多彩な武器を駆使し、イズライトでもないのに奇妙な術を発生させる。


 奇術を使わせればベックがカートを追いつめ、体術に於いては逆転し、間一髪の場面が生まれる。


 発掘船が隠れるのにちょうど良く、術を駆使するベックが徐々に優勢を取り、小さな傷がカートの体に刻まれていく。


「手段を選ばずか、だったら俺も派手に行かせてもらう」


 カートは腰にある小袋から蓋付きの短い薬管を数本取り出して、蓋にあるボタンを全て押してから投げ捨てる。


 全ては船に投げつけられ、大きな爆発を起こす。


「カート、キサマ!?」


「俺にとってその船は無用の長物だ。いやむしろ無くなる事が望ましい」


 オリビエの造った爆薬は、過去の遺物を傷つけるには十分な破壊力があり、ベックは慌ててカートの投げる爆発物を高度な術を使い、弾き返して空中で爆破は起きた。


「はぁ~、はぁ~、……もう終わりか?」


 小さな物ではあるが、小袋に入れられる数などたかが知れている。


 しかし今の攻防でカートの狙いは果たされる。


「それだけ術を使えば、氣も乱れるだろう」


 彼らの使う奇術は力の封じ込められた術式の書かれた護符を、体内で高めた人の持つ氣で発動させる。


 大きな破壊力を生む物ほど、強い精神力を必要とする。


 人類がイズライトを発見するよりも古くから使われている技術で、体への負担は計り知れない。


「勝負あったな。ここには俺達以外には誰もいないようだからな」


 膝を付くベックの前に立ち、刀を首筋に突きつける。


「いや、お前の息も随分と上がっているようだ。もう一手あれば立場は逆転する」


「もう一手か、その様で何をするつもりだ?」


「俺は最初から一人じゃあないだろ」


 音もなく近付いてくる気配に、カートは最初から気付いていた。


「彼女に何かを託しているようだが、既に王手をかけている俺に何ができる?」


 敵意を向けてこなければ手を出すつもりは無かったが、相手はイズライト持ちなのだから油断するつもりもない。


 小刀を急所を外して投げる準備はできている。


「忘れていないか?」


 もう反撃の力を残していないベックは、立ち上がる事もできない。


「こちらには人を操る力があることを」


「俺の予想ではこのフェラーファ人が持つイズライトなのだがな」


 今回のテロ行為でベックが主導権を握ってこられたのは、その力の存在故。


 そんな能力者をベックが側に置かないはずがない。


 そしてここにいるのは三人だけ。


「お見通しか」


「だが彼女にその能力がありながら、俺には使ってこない。なにか条件があるのだろう」


 人を操る異能力は最初から警戒していた。


 これまでで何かを仕掛けてきた様子はない。


「ソニアの能力はズバリそのまま精神操作だ。お前が言うように弱点もある」


 それについてはカートがラオ=センサオの介入に気付いた時に、フウマが掴んでいた情報に触れ、精神操作の能力がどんな物かを想像する事ができた。


「魅了だな。男も女も関係ない、彼女に心奪われた者は、精神までも奪われてしまう」


 そのカートの見立に間違いはない。


「それだけじゃあないさ。彼女が魅了できない相手でも、思考力の衰えた者の心も奪うことはできる」


 カートは目の前が急に歪むのを感じる。


「これは!?」


「単純な手ほど引っ掛かりやすいものさ」


 風上に立つ妖精族、ソニアル=フェアリアがカートの顔の高さで撒いた毒。


 優秀な諜報員のカートでも、戦闘で昂ぶった状態では無臭の痺れ薬に気付く事はできなかった。


「さぁ、乗船しよう。先ずはこの狭い地下空間から、脱出しようじゃあないか」

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