Episode24 「もうあいつを新人扱いする必要ないよな!」
頭から胸までを失ったラグランデスボルトは、再生をする様子もなく、手足を1ミリも動かす事はない。
「やったのか? リーノ、分かるか?」
『完全に停止してます。動力部を失ってますから』
リーノと巨人のリンクも切れかけているが、巨人の状態の確認はできる。
『ですが、ヴァン=アザルドのいたブロックは残ってます』
「なに!?」
残念ながら、男の状態までは分からない。
そして巨人はシステムまでも停止する。
『もう、俺との接続も完全に切れました。あいつが再生する事はない気がします』
「そうか、ならいい。あいつの最後をこの目で確認できるんだからな」
分離するブラストレイカー。コントロールが戻ったアークスバッカーは半壊した金の巨人に取り付く。
『ラリー、離れて!』
ソアの忠告にラリーは咄嗟にレバーを全力で操作した。
「い、今のって!?」
『じゅ、重力波砲……』
急旋回するアークスバッカーのすぐ側をエネルギーの奔流が過ぎていく。
『狙いはラグランデスボルトね』
ソアラがアークスバッカーのモニターに犯人を映し出してくれる。
ガルガントォーバルの主砲がラグランデスボルトの周辺へ着弾し、トドメの重力波砲が巨人を飲み込んだ。
「なにしやがる、ヘレーナ・エデルートぉ!?」
目の前で塵となるラグランデスボルト。直前までリーノが見張っていたから、ヴァン=アザルドが脱出したなんて事はないだろう。
『ガルガントォーバルの艦影ロストしました。航跡も追えません』
キャリバー海賊団副長ノエル=ディスタークが重力震を計測する。
ガルガントォーバルは次元断層を突破して逃走した。
「なんなんだ、あいつは!?」
追いかけることは不可能ではない。しかし今は目の前の問題を解決しなければならない。
「改めて金色の船、でかいな」
宇宙空間では機関部が大爆発したとしても、船体は焼かれずに残る。爆発が次の爆発を誘発したとしてもバラバラになることはない。
轟沈したと判断されたイグニスグランベルテは、キリングパズールの重力圏に捕まって、やがては落下してしまう。そんなことになれば、どこに落ちたとしても大被害は免れられない。
「俺たちも手を貸すぞ」
壊滅寸前の警察機構軍では巨船を引いて、重力県外に引っ張っていく装備が足りない。
小さく粉々になるまで攻撃をし続ける他ないのだ。
「ヘレンのヤロー、どうせならこっちも焼いてから行けっての」
だがガルガントォーバルの砲撃は、ラグランデスボルトをバラバラにしてしまった。その威力があればイグニスグランベルテも消滅させられただろう、その為にはあの弾が数発必要だったかもしれないが。
「ちきしょう、なんとしても落下を阻止するぞ! カート、リーノ、もう一度合体だ!」
こちらも動けるのはベルトリカチームのみ。
ブラストレイカーは金色の船の先頭に躍り出て、次々と船体を斬り刻んでいった。
オーバーホールの為にワンボック・ファクトリーにやってきた3チーム。
ランベルト号とブルーティクスのダメージは大きく、しばらくは活動もできそうにないと、特にキャリバー海賊団はスケジュールをいくつもキャンセルせざるを得ず、キャプテン・ミリーは悔しさを滲ませた。
ベルトリカにしても無傷であるわけもなく、それでも他よりも軽傷で済んだのは、大破寸前まで盾となってくれたグランテのお陰だ。
「直るかい? 親方」
「……直すけどね」
オルボルト=ベッツェマックをもってして頭を抱えさせる。流石はグランテ、古代文明の遺産である。
「俺達もボロボロだが、警察機構軍は再建が可能なのかね」
「人の心配なんていらないわよ。役人なんてできる事をやるだけで責められたりしないもんよ。なんせ下手な非難をしたら、税金を大量投入されるって、みんな知ってるからね」
ソアは深い溜め息を溢す。
「それよりも自分の心配をなさい。私たちコスモ・テイカーが裏で、いやってほど扱き使われるのよ。きっと」
もう一度、深いため息をした後に、ソアはメインモニターを点けた。
「ほらほら、もうすぐ会見が始まるわよ」
「おお、新しい英雄の誕生だな」
ボトル片手のラリーが顔を上げる。
「何言ってるの? あなたが本気で拒否したもんだから、あの子達に行ってもらうしかなかったんでしょ」
しかしラリーがボイコットするのは想定内の事。しかし……。
「なんであんたまで居残りなのよカート」
モニターに映る、ガッチガッチの後輩を嬉しそうに眺めている。
「俺とラリーを必要としない。いい目をしているじゃあないか」
「お前の目は節穴か?」
強張った表情のどこに余裕が見られるのか?
「そっくりそのまま返すぞ、ラリー」
確かに緊張は見られるが、目の輝きは失われていない、気合いが入っている証拠。
評議会が批判の的にされないように、祀り上げられた新英雄は確かに緊張しきった顔をしているが、リーノは十分に役目を果たしているとカートは言いたい。
「私に言わせれば、どっちもどっちよ。ねぇ、オリビエ」
「休憩しにこっちに来たばかりで、なぜかラリーとカートが睨み合ってる。ただそれを見ただけのボクに何を言わせたいの? お姉ちゃんは」
レクリエーションルームに顔を出したオリビエは画面に目をやる。リーノと、その隣に新しく作ったリリアのロボットが立っているのを確認する。
ここのところずっと「フェニーナになる」、そう言って彼女なりの努力を続けてきたが、結果は出せず結局ロボットに頼っている。
「あれ? あいつはどこに行った?」
「エリザ? あの子、本当に引き摺ってるんだから、自分だってヴァン=アザルドの犠牲者だろうに」
普段はみんなの前では平気そうに振る舞っているが、どうしてもこういうところで本音が出てしまう。
「事件に関係した、一部の人間しか知らない事なんだからって、自分では言ってるのにね」
彼女なら時間と共に、自分で問題を解決してくれるだろうと、ソアは期待している。
「ん、ん、ん、ぷは~♪」
「ラリー……、本当に美味しそうに飲むはね。新人に大仕事を押し付けといて」
とはいうものの、思っていたよりも安心して見ていられる会見に、ソアもお茶菓子でもかじりながら眺めていたい気分になる。
「……おい、なにかおかしいぞ」
セレモニーを進行する運営委員らしい男性がおかしな動きをしている。
新しく開けたボトルを口から離すことなく、ラリーは視線を鋭くする。
「出席者は普通だな」
「周りに知られないように注意しているんだろうが、何かを伝えられた進行係の姉ちゃんの表情が、あんだけ急に硬くなっちゃあ、直に伝播するぞ」
インタビューを受けているリーノは、褒めてやるべきと言うか、異変に気付いても表情を変えず、ウイスクをベルトリカとリンクさせた。余計な事を言わずにラリー達の指示を待っている。
「分かったわ。警察機構軍に爆弾テロの声明が届いたそうよ」
ソアはリーノとの回線を開いて、状況を報告する。
会場に爆弾をいくつかセットした。と式典開催者の前にテロリストが1人現れて宣言した。
「電波発信式?」
「既にテロリストが持っている発信器の電波は飛んでいて、それが途切れれば爆弾が起爆する仕組みらしいわ」
「それなら電波の発信源を特定すればいいじゃあないか」
「そんな簡単な話じゃあないわ。どうやら使われている波長は一般のウイスク回線と一緒みたいなの」
一般回線にちょっとした細工をして、爆弾を制御しているとテロリストが話しているらしい。
今、警察機構軍の爆弾処理班が、本部に届けられた爆弾を解析中とのことだ。
「世の中に充満している電波が途切れなければって、それなら爆発の心配はないんじゃあないのか?」
「たぶんイズライトでしょうね。電波を偽造できる能力者がいるんじゃあないかしら? 厄介な話だわ」
「つまりは能力者を逆らえない状態で捕まえるか、爆弾を全部見つけるかってわけか」
テロリストを逆らわせずに降伏させるのは不可能だろう。
そうなれば、数も定かではない爆弾を一つ残らず、秘密裏に発見しなくてはならなくなる。
「こういう時はあれだな。カート、ちょっとヘレンに頭を下げて、協力を……」
「本気で言っているのか?」
喉元にかざされた刀には、強い殺気が籠もっている。
「オリビエだけでも一緒に、セレモニー会場に行ってもらってれば良かったわね」
テロリストの目的はまだ分からないが、今から行って間に合うほど時間があるとも思えない。
「ボクが行っても、どれだけあるか分からない爆弾を、全部無力化なんて不可能だよ」
敵が人質に取ったのは、式典会場の人々だけとは限らない。
パニックが起きないうちに、爆弾が使用される前に解決しなくてはならない。
「アンリッサ、降りるぞ、まだ許可は下りないのか?」
『全く、ラリーは私をなんだと思っているんです。いつも言ってますが、指示は早急に的確にと』
「お前が俺の指示を待ってた事があるのかよ?」
『ほんとうにもう! ……警部補からの通信です。そっちに回しますよ』
『よう、流石はベルトリカだな。もう準備は万端か?』
「おやっさん。敢えて聞くけど、用件は何だ? それも分からずに万端も何もないだろう」
『なに、お前らはいつも通り、クリミナルファイターの相手をしてくれればいい。奴らの狙いはお前んとこの新人達だ』
「はあ? あいつ等がなにかやらかしたか?」
『テロリストはヴァン=アザルド信奉者だ。つまり逆恨みってやつだ』
いなくなっても尚、ベルトリカに絡んでくる。ヴァン=アザルドの怖さは健在だった。