Episode21 「膠着状態だな、しぶといジジィどもめ!」
少しばかり不安はあったがブラストレイカーの粒子加速砲は、金色の巨人の放つ重力波砲を相殺する威力を発揮した。
『くそ、全くの互角かよ』
『ラリー、負けていないだけでも上出来だろう。小回りならこちらに利がある』
『カート、お前本気で言ってんのか? 俺たちは針の山の様な、砲台だらけの敵を相手にしているんだぞ』
敵は自軍のモビールを犠牲にしても、惜しむことなく弾幕を厚くする。
こちらの飛び道具は届かず、近接武器が使える距離に近付く事もできない。
「けどお二方が武器名をドナってくださる分、威力は増しています。俺たちの心が折れない限り、負けはありません」
『カートはともかく、俺はキャラじゃあないんだがな。だがはっきりと今までで一番、あのオッサン共に怒りを感じてるからな、腹の底から叫んでやるよ』
『ラリーが俺をどんな風に見ているかは知らんが、魂を燃やす修行を子供の頃はしていたからな』
そしてなにより、一番肝心なリーノのテンションを引き上げるべく、先輩テイカーは新米にも分かり易いように気合いを込めた。
威力の増したシュピナーグと、アークスバッカーのミサイルを全弾撃ち尽くす。だが全てを無人モビールで食い止められてしまう。
『畜生、イグニスグランベルテをどうにかしないと、無人モビールが邪魔でしょうがない』
『ラリー、あれを』
金色の巨人ラグランデスボルトと金色の砲船ガルガントォーバル、金色の船イグニスグランベルテの鉄壁の防御、無人モビールがベルトリカ他三隻を襲う。
「ヤバイですよ。ベルトリカが!?」
『心配いらないわ、リーノ。こっちの事は気にしないで、目の前のデッカイのに集中しなさい』
「だけど……」
『ソアがああ言ってんだ。俺らは俺らの勝利を掴むぞ』
「は、はい。分かりましたラリーさん」
だがどうにも飛び道具では、巨人にダメージを与えられそうにない。
「カートさん、お願いします」
ブラストレイカーはブラストエッジ。夜叉丸が持つ天狗丸と大蛇丸の二刀に、プラズマの刃を纏わせた2本の剣で、無人モビールを斬り刻みながら前に進む。
『リーノ、思い切って前に出ろ!』
「で、でもカートさん。タイミングが合わせられないっす」
『リーノ、俺にコントロールを渡せ! こういうのは呼吸だ』
「わ、分かりました。お願いしますラリーさん」
『お前は近付くモビールを撃って、援護するんだ。頼りにしてるぞ』
「はい!」
ラリーはリーノに気を使った。
カートの剣技とリーノの砲撃でやっとの思いで近付けば、今度は巨人と砲艦からの直接攻撃を受け、また距離を空けさせられる。
「くそ! 粒子砲が連射出来たら、ボッコボコにしてやるのに」
リーノが思っていることは相手も同じ。だから牽制に使うだけで、撃ち合いには使えない。
『ブラストレイカー、聞こえますか?』
『おお、御曹司』
『すみません。ようやく追いつけました。援護します』
「隊長、ありがとうございます」
『任せてくれたまえ、リーノくん』
ブレイブティクスはブラストレイカーの背中を護って、新武装を全身に仕込んできた中の一つ、数え切れないほどのミサイルを撃ち放った。
『全方位ミサイルは一度に40発の同時発射を、最大10回できますから』
ブレイブティクスの武装は、全て実用的な物に換装された。
ドクトル・ヘルのロボットでは、手も足も出ないくらいに強くなった。
『ラリー、リーノ、聞こえる?』
『なんだ? ソアか?』
『カートもよく聞いてね。あの中にいる犯罪者の配置が分かったわ』
グランテは戦闘をほとんど、AIのウロボロスに任せている。
ソアとソアラはデータ収集に専念していた。
『イグニスグランベルテからはラオ=センサオが、ラグランデスボルトからはヴァン=アザルドのパーソナルデータが検出されたわ』
『そしてガルガントォーバルは巨人を通して、ヴァン=アザルドの意識が操作していると』
『相変わらずラリーは察しだけはいいわね。あの砲艦から巨人の腕を引き抜けば、私が乗っ取ってあげる』
巨人から大筒を奪い取れば、弾幕の数も半減。なにより重力波砲がこちらに向けられなくなる。
『やるぞ! リーノ、お前は集中力を高めろ。今から俺たちが重力波砲を撃たせてやる。発射と同時にお前にコントロールを戻すから、イズライトで重力の弾を躱して、巨人の腕を粒子砲で撃て!』
「それって無茶ぶりが過ぎませんか?」
『やれなければ、お前の大事なこのオモチャはぶっ壊れるし、下手したら俺らは3人揃ってあの世行きだ。気合い入るだろ?』
ラリーはリーノにカツを入れる。
「そうっすね。目が覚めた思いです」
ブラストライカーのパワーゲージが上昇する。
『待って、ラリー』
『なんだよ、これからだってところで邪魔すんなよソア』
「ラリーさん、あれ」
何が起きたのか、金の砲艦カルガントォーバルが、巨人の腕から離れた。
『どうなってんだ。巨人が慌てて捕まえようとしていやがる』
『ラリー、巨人の邪魔をするぞ』
『お、おお、そうだなカート』
危険を冒すことなく、重力波砲を奪い取るチャンスが舞い降りた。
『はぁ~い、カート。やっほー』
『……、ヘレーナ=エデルート』
『もう、まだフルネームのままなの? こっちの事情は話したんだし、あなた達の敵でないと分かってくれたんじゃあなかったの?』
『ヴァン=アザルドの件に関してはな。だが本当に俺たちの敵にならない保証はどこにもない』
ヘレンからの通信がどこから発信されているのかは、ソアが突きとめてくれた。
『そうよ。私たちがこの船を奪ったの』
「えっ? それって、どうやって? ヘレンさんの所にいるのって、脳筋2人と、コピー能力者であるリリアのお姉さんだけですよね」
ヘレンがシステムに強くとも、巨大な船をプログラムだけで完全に乗っ取るなんて、この短時間でできるはずがない。
『お前、まさかオリビエの力を?』
「えっ? ミラージュさんの力? イズライトですか?」
別段、チーム内でも誰も話題にしないから、オリビエのイズライトについては知らない者も少なくない。
『普通に考えたら分かるだろう。たった6歳でワンボックで機械技術を学んで、たった2年で親方から現場仕事を任されるなんて、有り得るわけがないだろう』
「つまり? どういう事ですかラリーさん」
『オリビエは能力で、回路の電気の流れを見ることができるんだよ』
そのイズライト能力を、ソニアにコピーされたのは間違いない。
「なんかもうソニアルさんって、なんでもアリですね」
そんな異色な一派に、古代遺産の中でも異色な砲艦を渡していいものか?
という問題は後回しにして、これで戦力の均衡は崩された。
『作戦変更だ』
ラリー達がラグランデスボロトの気を引いている間に、ガルガントォーバルの加わったベルトリカ率いる船団が、イグニスグランベルテを沈黙させる。
無人モビールが片付けば、巨人も攻略出来る。
狙いは間違いないはずだが、ガルガントォーバルの動きが悪くて、重力波砲を撃つ態勢にもっていけない。
『おい、ヘレンお前、そのへたくそっ振りはなんなんだ』
『しょ、しょうがないでしょ、ミスター! モビールと船が、こんなに勝手が違うなんて、思って、なかったのよぉ~』
無人モビールに囲まれる砲艦を、ランベルト号が助け。
イグニスグランベルテのミサイルに追い回されるガルガントォーバルを、ブルーティクス・バトルシップキャリーのミサイルが救う。
ベルトリカとグランテが、砲撃ポイントを確保してくれても、ヘレンたちが大きく回り込んでいる間に、また敵だらけになったポイントに突っ込んでしまう。
『このままじゃあ埒があかないな。先に巨人をやっつけるか』
『待ってラリー』
『……誰だよ。っていやその声は、ミニソアの……』
一度は耳にしていても、まだ聞き慣れない声に気付けなかったが。
『ソアか! どうした慌てて』
説明を求めるラリーが見たのは金色の砲艦が、空間を揺るがす巨砲を撃ち放つ姿だった。