Episode14 「厄介な奴らだぜ!」
ラリーとソアの前に現れたのは、探し求める今一番会いたくなかった男。
「まだ関わっていたのか?」
「アフターケアってヤツだ」
ベック=エデルートの仲間が何かを掘っていることを突き止めてやってきた。
お宝まではあと僅かな距離にいる。
予測ではもうそろそろ掘り起こす頃のはず、到着の直前で男は立ち塞がった。
「ヴァン=アザルド、お前の顔も見飽きたし、そろそろ死んでくれないか?」
「俺の顔を見飽きるなんて事は有り得んだろ?」
からかうように顔の形を変える男に銃弾が放たれる。
「あっ、ぶねぇな、クソガキ!?」
ラリーの後ろから飛んできた弾をギリギリのところで回避する。
「ちっ、造りもんは俺の能力に反応しないか」
相手の末端神経を操作するヴァンの能力に、高度な制御装置を積んだロボットは相性が悪い。
ソアやリリアのロボットはカートでも乗っ取る事が出来ない。
ラリーにとってはこの上ない強い味方だが。
「きゃあ!?」
側にいるラリーを操る事は出来るヴァンは、先ずソアロボットを使い物にならないようにと襲わせた。
「らしくねぇな。いつものいけ好かない余裕っぷりはどうしたよ」
「それこそこっちのセリフだぜ英雄様よ」
インパクトナックルで加速されたパンチの連続攻撃を、ソアはロボットの自動回避機能に任せるしかないのだが、一流のコスモ・テイカーの動きには付いていけない。
「ちょっとラリー、私のロボットを壊さないでよ」
「一応逆らっちゃあいるんだがな、ヤローの力がこの前の比じゃあねぇ」
前回よりも強い力で操られては逆らおうにも上手くいかない。
しかしこちらにも全く対策をしてない訳ではない。
「おいよ小僧、なにしやがった。お前の気配が読めなくなったぞ?」
「いつまでも同じ相手の対策ができないと思ってるのか?」
ここは魔法の使えるファンタジー世界ではない。
イズライトが人智を超えた力だとしても、そこには物理原理を逸脱した超常現象は存在しない。
「お前の能力の有効半径は20メートル。相手の肌に波が伝わりさえすれば神経を乗っ取れる」
口で言うほど簡単ではないが、ヴァンの能力を遮断する装置をソアとオリビエが作ってくれた。
ただそれも万全ではない。
ヴァンの能力は奴に近いほど強くなる。
近付けるのはある一定の距離までなのだ。
「ガキんちょ頼むぞ。俺は近接戦専門だからな」
「ホンキで言ってんの?」
ロボットは完全武装で犯罪者の前に立ち、担いだミサイルランチャーが火を噴く。
「お前、ここがどこか分かってんのか!?」
慌てるラリーだが、飛んでいったのは爆発物ではない。
「そんな網にかかるかよ」
目の前で絶妙に開いた網は男が持つ単分子カッターが切り裂く。
「くそ、いいもん持ってやがんな。遠慮なく攻めてくれ、殺しちまってもいいからな」
「子供になんて命令すんのよ。ろくな大人じゃあないわね」
ランチャーを投げ捨てて、少女はペンシルサイズの小型ミサイルを束にして投げ飛ばした。
バシェット=バンドールは膝をついた。
力任せに打ち落とした鎌を短い小太刀を持つ右腕一本で受け止め、跳ね上げて斬りつけた。
異能力全開でコンクリートの床に大穴も開けられる一撃を、カートはどうやって止めたのか?
その答えに行き着くどころか、考える間もないままにバシェットは意識を失った。
「お前は自分の能力に溺れた。俺は自分の限界を知り、信頼できる仲間からより強い力を貰った。他人を信じられない奴に負けはしない」
他に向かってくる相手もなく、調べる価値もない施設を後に、カートは一度地上に出た。
「ティンク、リーノ達はヘレンと合流できたのか?」
『うん、ちゃんと会えたよ。警察機構のモビールが連れて行ってくれた』
囮行動をしていたリーノ達はモビールに戻り、そのシュピナーグの端末を使って、ヘレンはガテン中の電脳空間を探索している。
「まだベックの居所は掴めていないのか?」
『えっ、ああカート?』
カートからの通信を受け、ヘレンは一息つく。
『そうね、あっちこっちに痕跡残して、私の邪魔してくれちゃってるけど、そんなの時間の問題だって証明してやるわ。それでそっちはどうなの、何か掴めた?』
このまま情報収集を続けてはもらうが、どれほどの時間が残されているかが分からない。
そう判断したカートは感じていた疑問の対応のため、次の手を打つ。
「リーノ、そっちは任せる」
『えっ、ちょっと何のことです?』
通信は終了。
後の段取りをベルトリカのティンクに送り、カートはモビールを発進させる。
現地人に見られないように大気圏を一気に抜け、ベルトリカの駐留するエリアとは反対方向に飛ぶ。
「もう目を覚ましたのか……」
背後から急接近してくる機体。
夜叉丸のように二本のマニピュレーターを持ったモビールは、外部スピーカーからあの大男の声を垂れ流す。
「バシェット=バンドールの機体か、やつらしい野蛮なデザインだ」
夜叉丸とさほど違わないのだが、こちらに対してあちらの腕は、中心にあるコクピットコアの倍以上の体積で、搭乗者同様に機動力は高くない、突進力を持たせるための大きなバーニアが特徴的。
「質の悪いスピーカーだな。それともあいつの声が汚いせいか」
怒鳴り声は恐らく罵詈雑言なのだろうが、何一つ聞き取る事が出来ない。
一頻りがなり立てた後、バシェットのモビールは全開でバーニアを噴かして猛突進をしてくる。
躱すのは簡単だが、時間を取られるわけにはいかない。
互いのモビールが最接近したタイミングで、バシェットはマニピュレーターに持たせた、鎖につながれた鉄球を投げてくる。
鉄球を避けた刹那に刀で斬りつけ、見事に鎖を断ち切る。
と同時に敵機を観察し、今度は夜叉丸の方から敵を追いかけて横に並ぶ。
「端末はコクピットの下にあるか」
加速に特化した機体にあっさり追い付き、外部から信号を送る端子を見つけて接続ジャックを繋ぐ。
「俺の能力を知らんわけではないだろうに」
敵のコントロールを奪い、これ以上追ってこれないように移動力を完全に奪い、惑星の周回軌道に乗せて放置する。
カートは遠回りをしてベルトリカへと戻る。
静まりかえる船内。
ティンクの出迎えもなく、カートは次の準備を開始する。
イズライトを封じられても、ヴァン=アザルドのクリミナルファイターとしての力は、決して侮れるものではない。
近接戦闘を得意とするラリーも銃の類は持っている。
ペンシルミサイル、ホーミングダーツ、オリヅルビット等を駆使するソアよりも、相手にとっては厄介な攻撃を繰り出すが、事も無げに避けて反撃をしてくる。
「ちょっと、女の子になんてことするのよ」
ラリーもヴァン同様無傷だが、ソアロボットはそうはいかない。
黄色いドレスは泥だらけ、裂け目だらけで、地肌も見えている。
人間そっくりに作っているため、やや卑猥な姿をしているが、機能の低下は見られない。
とは言えソアの性格を書き写したAIは、さらけ出された肌を気にしながら、怒りをぶちまける。
「ロリコンじゃあないんだ。好きで引ん剥いてんじゃあねぇぜ」
手持ちの武器を全発射するも、敵にダメージを与える事は出来ない。
「やっぱりお前の狙いは時間稼ぎかよ」
「へぇ、よく見抜いたな。俺はそこそこホンキで殺そうと考えてんだがな」
「奇遇だな。俺はいつだってお前を殺してぇんだよ」
ヴァンの背中の向こうに何があるのかは分からないが、地上との連絡を絶たれてからもそれなりに時間が過ぎている。
ラリーは予定より早いが、新装備を試すなら今だと判断してセーフティーを解除した。