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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion05 金の章
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Episode16 「ジジィどもより早く、まいっちまうなんてよ!」



 形勢は完全に逆転した。


 ラリーとカートは膝をつき、リリアロボは行動不能となる。エリザとソニアも天井を眺めて、指一本動かせなくなった。


「体力回復なんて、はぁ、はぁ、反則過ぎるだろ……」


 カートもまだ刀を構えるだけの体力は残っているが、長刀の羽根を操作する精神力は欠片もない。


「勝負あったなラリーよ。よく頑張ったじゃあないか、クソガキども」


 さっき見下ろした顔から見下げられて、屈辱を押さえられるものでもない。


 しかしやり返すも何も、顔面を蹴られて倒れずにいられる気力すら残っていない。


「気分がいいぞラリー、安心しろ。俺が飽きるまでは殺さないでいてやるからよ」


「悪趣味なヤツだ。おいカーティス、お前は俺の気が晴れたら直ぐに殺すからな」


 頭を鷲掴みにされても、払いのける力が入らず、細く開いた虚ろな目をラオ=センサオに向けるのみ。


「なんだ、その目は!?」


 完全な言いがかりで、掲げられた右手を頬に叩きつけられる。


「まだその目を止めないのか!?」


 地面に頭を打ち付けたカートの髪を掴んで、顔を上げさせては、持ち上げて地面に叩きつける。


 その手を止めたのは、背中を切り刻まれたため。


「あん? なんのつもりだ小娘」


「ロボットは動かせなくても、私はエリザとカートのビットが動かせるのよ。まだ勝敗は付いてないわ」


 両手両足を引きちぎられても、リリアロボはまだ動く。


 頭の右半分は破壊され、右目はないが、まだ外の映像を見る事はできる。


 リリアはビット攻撃をヴァン=アザルド、ラオ=センサオの2人同時に仕掛けたが、傷を負わせる事ができたのは、フウマの元長老だけにだった。


「大した隠し球だったがな。俺はそこまで野郎に集中していたわけじゃあないのさ」


 ヴァン=アザルドはリリアに近付き、服をはぎ取った。


「なんだ、この人形作ったのはよほどの変態か? そそる体してるじゃあないかよ」


 リリアは自分が裸にされたわけでもないのに、辱めを受けている気になり、前を隠そうとするがその為の腕がない。


「おお、おお、気持ち悪。股まで男を誘う作りしてるじゃあねぇか」


 背後からヴァン=アザルドをビットで狙うが寸前で避けられる。


 ビットは勢いのまま、リリアロボの頭部に突き刺さり、首を落とすと完全に機能停止した。


 男は首から上を無くした女の乳房を乱暴に掴んで、外装を無理矢理はぎ取った。


「そぉら、捕まえた」


「は、離しなさいよ!? 女の子に乱暴するオヤジはもてないわよ!」


「女ってのは俺がそそるか、いたぶり甲斐があるかだけの存在だ。人形に興味なんざ湧くかよ」


 ヴァン=アザルドはリリアを掴んで、いつの間にか玉座に戻るラオ=センサオに掲げてみせる。


「おっと、こっちのもいるんだったな」


「ちょっ! ソニアに何するの!?」


 フェニーナとなった妖精族の髪を掴んで引き摺る、彼女に意識はない。


 ヴァン=アザルドの指に噛みつくが、リリアのささやかな抵抗を男は歯牙にも掛けない。


「あん? どうかしたのかジジィ」


「問題が起こった」


「なにがだ? 分かり易く言えよ」


 天を仰ぐラオ=センサオの様子が、その問題の大きさを物語っている。


 傷を癒すことなく下りてくるラオ=センサオを待っている間に、捕まえたリリアが逃げ出す。


「ああ、戦い疲れて力加減を間違えたか」


 リリアはラリーの元へ飛ぶ。


 カートはもう無理そうだ。表情が虚ろなまま俯せている。


「悪いな、俺もしばらくはどうにもならんぞ」


「けどけど、ラリー……」


 左肩に抱きつくリリーの頭を、右手の指で優しく撫でてやる。


「マジで面倒だから、いつまでもジタバタしてんじゃあねぇよ」


 ヴァン=アザルドがリリアをまた握りしめ、今度は逃げられないようにと、軽くあばらの数本をへし折ってしまう。


 妖精族の骨は人間よりももろい。


「おっと、やべぇやべぇ。つい力が入りすぎたぜ」


「くっ!」


 手の中にあるリリアをあっさり奪われたことも、その仲間が傷つけられたことにも、ラリーは自分が許せなくて、唇の端から血を流す。


「あの時みたいにまた妖精族を潰しちまうところだった。こいつに死んでもらっては困るんだったぜ」


 直ぐにティンクの事を言っているのだと、ラリーには察しが付いた。


 しかし怒りを膨らませてはダメだ。いま最優先すべきはリリアの奪還である事。


「無理そんなよ。死んじまうぜ小僧」


 立ち上がろうとするラリーの顔面を、振り上げた右足で踏み潰す。


「お前もまだ俺に楯突くのか? バカ娘」


「私ももう、ベルトリカの一員だから、それにあんたと居たんじゃあ、本当に一緒に居たい人と居られなくなるから」


 リリアが使っていたエンジェル・ビットが、エリザの元に戻る。


「立ってるだけがやっとなヤツが吠えてくれるな。おいジジィ、この人形が欲しいのはお前だろうが。早く受け取れよ」


 再度のしつけが必要だと、父親は娘を睨み付け、邪魔になるリリアを受け取れと言うが、ラオ=センサオは動こうとしない。


「ちっ!」


 ヴァン=アザルドはリリアをラリーの腹に投げ捨てて、エリザの手が届く寸前まで近寄る。


「足が震えてるのは、本当にガタがきているからなのか? 俺が怖いからじゃあないのか?」


 正直言って、どちらもだ。


 幼い頃からの虐待と訓練で、ずっと父親代わりの男への畏怖を擦り込まれてきた。


 ベルトリカチームのお陰で、心を解放された今、できることなら関わり合いたくない相手だ。


「打ち込んでこい。遊んでやる」


「待て、遊んでいる余裕はなくなった。必要のない連中はさっさと片付けろ」


「ああん? 俺のお楽しみを奪ってんじゃあねぇぞ! くそジジィ」


 リリアを回収し、ソアラに近付くラオ=センサオの様子がおかしい。


 さっきから気になる態度が続くクライアントに、契約者は肩をすくめて歩み寄る。


 エリザは男が背中を見せたところを襲おうとするが、足が動かない。


「なんなんだよジジィ」


「こいつを今すぐフェニーナにするんだ。そうすれば奴らが何をしたところで、俺たちの勝利は揺るがなくなる」


 秘密主義の古代文明の生き残りは、こうなったら理由を聞いても教えてはくれない。


 ヴァン=アザルドが望む物を手に入れるまでは、言う事を聞いてやるしかない。


「とは言うがどうやったら、このチビは可愛がり甲斐のある、べっぴんさんになるんだよ」


 フェラーファ人がフェニーナになるために必要となるのは、深層心理レベルでイズライトを求める想い。


「そう言えば、こいつ等んとこの、もう1人の妖精族が、一度だけイズライトを使ったはずだよな」


 自分がトドメを刺したはずの2人の小娘、フランソア=グランテとティンク=エルメンネッタ。


 ここに突っ込んできたベルトリカの連中に、フランソア=グランテの姿はなかったが、見覚えある妖精族の姿はあった。


「ガキが生きていたって事は、あの状況から生還する能力に目覚めたってこった」


 あの時も今のリリアのように、死を覚悟するほどに痛めつけた。


 しかしヴァン=アザルドがその場を去るまでに、能力が開花する様子はなかった。


「どんな能力があれば、あの状況で生きて還れるんだ? そいつが分かれば手掛かりになるんだろうがよ」


 あの妖精族だけが生き延びて、仲間は死んでしまった?


 その逆なら、仲間を救う為の能力が生まれたと考える事ができる。


 フェラーファ人の相手へ想いを寄せる、気持ちの強さが覚醒に繋がる。という通説が真実なら、本人だけがここにいるのは、どうにも腑に落ちない。


「まぁ、いいか。実験素材は3人もいるんだ。1人ずつ色々試していけば、結果が出るんじゃあないか」


 しかし遊ぶ前に、リリアを回復しなければならない。


「おい、ジジィ。そこのフェラーファ人の回復は済んだか?」


 ラオ=センサオは、掌の上で死にかけているリリアをジッと眺めている。


「どうしたんだよ。いつまでだんまりしてるつもりだ。秘密主義もいい加減にしろよ」


 ヴァン=アザルドはラオ=センサオの襟首を掴んで凄むが、表情1つ変えない。


 苦虫を噛んだような顔のまま、「このままでは」とブツブツ繰り返している。


「みんな!」


 頭をかき回すヴァン=アザルドが顔を上げると、予定にない乱入者が立っていた。


「なっ、なんなんだこの状況は!?」


「おせぇぞ、リーノ……」


「ラリーさん! みんなは?」


「見ての通りだ。動けるのはお前だけだ。いや、エリザももう平気か?」


「うん、リーノの顔を見たら、なんだか元気が出た」


 手足の震えが止まり、心が暖かくなる。


 エリザは戦える。リーノがいれば、力の宿る拳がそう教えてくれる。


「よしリーノ! リリアを助けてやれ、ついでにあいつの姉ちゃんもな」


「はい!」


 舌打ちをするヴァン=アザルドが、ラオ=センサオの靴にツバを飛ばして振り返る。


 2対1の乱闘が始まる。

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