Episode14 「ジジィども! 張り切りすぎなんだよ!?」
「おいカート、しっかりしろって!」
烏丸一本でラリーを追い込むカート、孔雀丸を使わず、全力で立ち向かってくる。
「くそ!? フウマの諜報員ってのは、どいつもこいつも!」
本気ではないカート1人なら相手ではないが、ラオの動きは彼の一族でも最強クラス、厄介この上ない。
しかし所々でカートは気合いで、ラオの邪魔に入り、時々ラリーの攻撃がヒットする事もあった。
「おいヴァン=アザルド! 自信満々にほざいた奥の手が、この程度なのか!?」
「おいおい、こいつらが可愛げないガキ共だってのは、お前もよく知ってるだろ」
ヴァン=アザルドの能力が及ぶのは、対象の末端神経。
末端操作程度ならば、ヴァン=アザルドは自分も動き回りながら、能力を行使する事ができる。
「人間一人分の、首から下の神経を支配するんだ。100%なんて保証できるかよ。お前にも実力があるんなら、自分でどうにかしやがれ」
カートが一瞬踏ん張ってくれても、ラオの戦闘力はラリーを全力でい続けさせる。
「い、一度、一呼吸を、したい、んだけどな!」
ラリーの一撃がラオの背中にヒットした。
「おい、ちょっと待て、カート!? いいから、一呼吸だけ、一呼吸だけ、な!」
その一呼吸を吐きたかったのはカートも同じ。
「ほぉ……」
だがそのカートの一呼吸でラオは復帰、ラリーはチアノーゼを発症しているが、止まったら殺られる。
「行って、エンジェル・ビット!」
ラオが後ろに下がり、ラリーは大きく息を吐き出した。
「くはぁ~~~~~、生き返ったぁ!」
カートも動きを止め、ラリーは大きく深呼吸した。
「おお、還ってきたかエリザ」
「ただいま父さん」
「そうだよな。お前は俺には逆らえないもんな! ……なんてな」
ヴァン=アザルドはカートの操作を中断し、イズライトをエリザに向けた。
「無駄だよ、父さん。あなたの能力はエンジェルが遮断してくれる。それに私の深層に埋め込まれた呪縛も、ソアラ=ブロンクスが取り払ってくれた」
「へぇ、あの小娘にそんな力があったなんてな」
カートも掛かっていた深層操作、より深いエリザのそれだったが、これでまた1つヴァン=アザルドを攻略できた。
「はい、これ。カートも羽を展開して」
「リリア、俺はこいつにそんな機能があるとは、知らされていなかったが?」
「オリビエでしょ。なんでかなんて知らないわよ」
リリアはエンジェル・ビットと同じ機能を持つ、脳波遮断機能の付いたロボットの中。ビットが精神波を遮断する事は、エリザに教えてもらった。
この発令所にヴァン=アザルドがいる事を知って、入室を躊躇っていたエリザと合流して、ソアラに言われた暗示突破術を彼女に伝えたら、一緒に突入してくれた。
「本当に大丈夫そうだね、エリザ」
「いつまでサボってるの! こっちを手伝いなさい」
「やっぱりお姉ちゃん1人じゃあ辛いみたいね」
ラオを1人で抑えてくれるソニアからお声が掛かり、リリアは姉の元へ。
「お姉ちゃんはヴァン=アザルド対策してないんだから、そっちを注意してよね」
「あら、言ってなかった? 私はあの男の能力で一度痛い目を見てるわ。その時にコピーしたのよ。コピー能力を完璧に使いこなせるようになった今、怖い存在ではないわ」
今や並の諜報員では、相手にならないソニアだが、ラオ相手に1人は厳しい。
リリアが援護しようと走り出したところで、ラオ=センサオはヴァン=アザルドのいるところまで下がった。
「おっとっと」
「そんで、リリアはソアラに何を聞かされたんだ?」
立ち止まるリリアにラリーは並ぶ。
「ラリー、お疲れ様。さっき、エリザが口にしたまんまよ。ただのブラフだけどね」
「なに?」
「深層の暗示なんて、それを上書きする情報を埋め込んでやれば、簡単に溶けるって」
「あいつらしいな。グッドだ!」
「なに? 私の事? 見直したんなら、褒めてくれてもいいわよ」
「ああ、本当に助かったぜ。ありがとうなエリザ」
完全なる大逆転。ラスボス共を追いつめたラリーに異常が起こる。
「今さらジタバタすんなよ。焦ってるのか? らしくないぜオッサン!」
ヴァン=アザルドのイズライトが、自分に向けられた実感を、ラリーは気合いを込めて押し返す。
「ちっ、殺せるウチに殺しておくべきだったぜ。お前の親父共が邪魔さえしなければ、あのステーション落下のどさくさに殺れる機会があったのによ」
「そうかよ。やっぱり親父達は殺られちまったんだな」
「お前らの船も、あの頃はまだまだ穴だらけだったからな。しかもあの時のお前とカートは身動きもとれないくらい疲弊してたんだろ? オンボロ船が沈む瞬間のモーブがラルへの通信でほざいてたぜ。あいつは俺の目の前で死んじまってたがな」
ベルトリカが逃げる時間を稼いでくれた。ガルラゲルタに無理をさせてでも。
「感謝するよ、親父、モーブ……」
その仇敵をここまで追いつめた。
しかしまだ油断はできない。ヴァン=アザルドは息を引き取った後に、細胞を分析し、本人と確認した上でトドメを刺して、心配が停止した後の遺体を焼き尽くすまで、安心できない相手だ。
「なぁに、相手は2人だし、細胞検査キットも持ってきた。ここでトドメを刺してやる」
「おいおい、俺はゾンビじゃあないぜ。やばくなったら逃げ出すだけさ」
「逃がさねぇよ!」
ラリーとエリザはヴァン=アザルドに、カートとフェアリア姉妹はラオに向かって走り出す。
乾いたパーンという音が響いた。
「いってぇ~~~~~!?」
「やっと起きた」
「ちょっとオリビエさん。ひどいじゃあないですか」
「寝ぼすけなリーノが悪いよ」
真っ赤になった左の頬を抑えるリーノに、真っ赤な右手をヒラヒラさせて痛みを誤魔化すオリビエ。
「だ、大丈夫ですか?」
「今のはオリビエの自業自得ね。……どうかした?」
「ソアラ=ブロンクスさん? なんでこんな所に? いや、起きていて大丈夫なんですか?」
「おーい、リーノぉ!」
「あっ、はい、なんですかティンクさん」
ソアラの事が気になるが、ティンクに呼ばれて、なんとなく夢を思い出す。
「そうでした! す、直ぐ行くっす」
ここで覚醒する前に、夢でティンクに言われた事を思い出す。
「それじゃあ私も行くね。だから2人は……」
「ベルトリカへ戻れ。って言うんでしょ。なんだか私、全然活躍できなかったね」
「最初からボクとソアラは役割が違う。でもちゃんと役に立てたでしょ」
「うん、2人ともスゴイよね。私ももう一踏ん張りして、みんなに褒めてもらうんだ」
ティンクが生き残れたのはその強い思い。大好きな仲間達と離れたくない。認められたい、褒められたい。その為に今も一生懸命。
「行きましょう、ティンクさん」
捕まってからの事情を知らないリーノに、ティンクは電脳空間で現状を教えた。
そんなに時間がなかったので伝えられたのは、イグニスグランベルテに捕まっている事と、ベルトリカがギャレット海賊団とブルーティクスの力を借りて、リーノを助けに来た事。この2点だけ。
「えっと、本当にティンクさんでいいんですよね。なんかオリビエさんも少し、いやかなり変わってたんですけど」
「正真正銘のティンクだよ。オリビエもすっごく可愛くてカッコよくなったよね」
ティンクはリーノの前にいるロボットの中に、フェラーファ人サイズの妖精族型の素体があって、その中にデータを移した事を説明した。
「そしてあのソアラさんそっくりな女性も、コールドスリープされた本人の記憶を転写したロボットだと」
宇宙一のロボット工学者は、すごい事をやり遂げた。……のではなく。
「それがソアラのイズライトだからね。ソアのロボットも同時に動かせるんだよ。スゴイよね」
「そんで、俺がソアだと思っていたのは、ベルトリカ前リーダーのフランソアさん。なんかもう頭の整理が追いつかねぇっす」
更にリーノがクララリカ=クニングスと認識していた警察官は、ヴァン=アザルドの間者だと告げると、こちらは意外にも冷静に話を聞いてくれた。
「そうか、ヴァン=アザルドに育てられた工作員だったのか。そいつはたまげたっすね」
「本当にそう思ってるの?」
「はは、頭が追いつかねぇっす」
「そっか、もうちょっと詳しく教えてあげたいけど、着いたよ」
妖精族が飛んで入る部屋へ、まだ全容を把握できていない少年は歩いて入っていく。