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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion05 金の章
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Episode12 「よくペラペラと!」



 ヴァン=アザルドとラオ=センサオを前に、ラリーに気後れはない。


「俺の仲間がウチの新人を助けようとしてるのに、余裕だな」


「連れて帰りたければ好きにしろ。もっとも簡単には返さんが」


 ラオは王にでもなったつもりか、バカでかい椅子に踏ん反り返り、高い位置からラリーを見下ろしている。


「返してくれるってんなら、そんな意地悪すんなよ。若者には優しくしてくれ」


「お前が若いって? 何年前の事だよ」


「俺が年食ったって言うんなら、お前はジジイじゃねぇかよ。ヴァン=アザルド」


「おいおい、ジジイって言うのはあれの事を言うんだぜ」


 ヴァン=アザルドは玉座と、ラリーの立つ床とを繋ぐ階段の中腹に腰掛けて、親指だけでラオを示した。


「人を指でさすな。俺からすれば、お前らみんなクソガキだ」


 ラリーの目にはこの2人が、船の中をベルトリカのメンバーが好き勝手に動き回っていても、全く焦る様子もなくて面白くない。


「なぁ、オッサンらよ。そろそろ目的を教えてくれねぇか?」


 この船がガテンに眠っていた事は、ラリー達がこの件に関わり始めた頃から、ヴァン=アザルドは知っているようだった。


 その情報もラオから提供されたものだとか。


「お前が人生を狂わされたテロリスト事件、あの頃だったな。俺がジジイから話を持ちかけられたのは」


 ヴァン=アザルドはテロを裏で誘導していた。


 まさかそんな昔から。こいつはラリーにとって、最初から因縁があったようだ。


「フェゼラリー、お前とツラを会わせたのは、ジジイにカートのガキを押し付けられた後だったよな」


「あまり勝手にペラペラと喋るな、ヴァン=アザルド」


「あ~ん、うっせぇよジジイ。俺の勝手に口出しすんな」


「チッ!」


 どうやら犯罪者の仲は良好ではないようだ。それも優位性は玉座の老人にではなく、ヴァン=アザルドにある様子。


「聞いておいてなんだが、マジでそんなに吐いていいのか?」


「なんだ? 聞きてぇんじゃあないのかよ」


「いや、あのジジイの事も引っくるめて、知っている事を全部教えろや」


 教えを請う人間の態度ではないが、こう言った方が男は面白がるだろうと、ラリーには根拠のない確信があった。


「そこのジジイは正真正銘のワタリだよ」


「ワタリ? 確か古代文明人のことだよな。正真正銘? そんな大昔の人間が生き残っているってのかよ?」


「お前が自分のだって言ってる船にも、同じ物があるんだろう? 仲間の小娘を延命しているんじゃあなかったか?」


 ソアラの事だ。


 そしてあのコールド装置も、古代技術の遺産だったなんて、ラリーは考えもしなかった。


「で、壊れていたこの船を、動かしたくて長い時間を掛けて準備をしてきたそうだぜ。寝ては起きて、寝ては起きてを続けてな」


「もういい、後は俺が教えてやる。お前を選んだのは間違いだったようだ、ヴァン=アザルド」


「んだよ。仕事は全部はちゃんとしてやっただろ。金払いの悪いジジイでも、気に入ったから手伝ってやってんだ。上から物を言ってんじゃあねぇよ」


 ラオ=センサオは深い溜め息の後、これまでの流れを話して聞かせた。






 イグニスグランベルテに、ただ1人取り残された赤子。


 コールド装置は、養育カプセルでもあった。


 そのカプセルが十分な栄養をラオに与え、睡眠学習で知恵も与えてくれた。


「俺が外に出たのは、あの小僧と同じ年頃の事だ。その時のガテンは、まだ人間は海を渡る事もできない農耕民族が、原始人のような暮らしをしていた」


 その原住民を利用して、この銀河に二つの実験場所を設けた。


 技術水準に格差を置いた二つの星は、ラオが望んだ通りの進化を遂げた。


 片や政治や交渉術に長けた民族、高くない科学技術を人の手により進化させた惑星。


 片や与えられた高い古代文明の遺産を元に、複数の財を成す者が政治を牽引する惑星。


 二つの星、ノインクラッドとキリングパズールは睨み合って、より向上する。


 それを望んでいたラオだったが、2者は友好関係を結び、評議会を設けたノインクラッドにも、ほぼ意見することなく、キリングパズールは渡されたルールのほとんどを無条件に受け入れた。


「その頃のガテンは海洋船の技術を伸ばし、飛行機なんて原始的な乗り物を完成させていたかな」


 一方ノインクラッドとキリングパズールは、望んでいた科学水準まで伸びる事はなかった。


 ラオは次の手を打った。人としての進化を望んで、妖精族と爬虫人種を生み出すために、ノインクラッドでは資本家や政治家を募り、キリングパズールでは政府が人工惑星を造るようにし向けた。


「人工惑星を作る前に、近くの大気もない惑星をリゾート惑星に変えたのは笑えたよな」


 そんな話をラオから聞いたヴァン=アザルドは、今のように大笑いをしたのだそうな。


「この頃のガテンでは世界戦争なんてモノを、勃発するようになっていたな」


 キリングパズールが人工惑星開発に着手した頃、ガテンの向こうにノインクラッドの評議員がパスパードを発見。


 科学水準は低いがガテンと違い、宇宙からの使者を受け入れられる環境を整える事ができたので、ノインクラッドは評議会に加盟させる事に成功できた。


「ガテンには俺がフウマなんて組織で、色々と手を回し続けたからから、銀河評議会なんてもんが、相手をしないようにはできた」


 こうして宇宙では、妖精や爬虫人といった新人類の中から、イズライトなんて超常能力を持つ知的生命が産まれるようになり、それは人類にも拡がった。


 これでラオの本来の目的が果たせる下地が調った。


「エデルートも人工の惑星だったとはな」


 ラリーは頭の整理が追いついていないが、話を折ることなく耳を傾けた。


「ノインクラッドの人間は権力を求めるヤツが多くて、利用しやすい人間が多い。何かとやり易かったぜ」


 ノインクラッド統治軍の事だろう。


「まったく、ガキ1人を作って育てるだけだってのに、大袈裟な政権争いなんて問題を作りやがった」


「だからこそ多くの資金も集められたし、秘密も守らせて目的も達成できた。……ジジイの望んだ全てが順調に行ったじゃあねぇか」


 ヴァン=アザルドはあれだけの騒動と、大勢の被害を出しておきながら、飄々とした顔を見せられて、ラリーは我慢を続けて話の続きを聞く。


「すべて……だと?」


「そうだ、な。フェゼラリー、お前んとこのやつらが、あのガキを連れて行っちまったから、一番大事な時期に学習させられなくって、余計な手間が掛かっちまったんだぜ」


 姿をくらましたヴァン=アザルドは暗躍して、リーノに色んな古代技術に触れさせ、十分な成長がをしたところを、エリザを使って奪い去った。


「あいつを利用して、ジジイはなにをしようってんだ」


「俺は同族の元へ旅立ちたいのさ。その前に余計な知恵を付けすぎた、キリングパズールをぶっ潰しておかないといかんだろ」


 それがこの強攻策といえる進軍なのか。


「オッサンはなんでまだこんな、狂ったジジイと一緒にいるんだ?」


「お前、ここまで俺を見てきて、まだ理解してないのか? 面白いからに決まってんだろ」


 必要な情報は全て手に入った。


「遅かったな。話は後だ。潰すぞ」


「心配するな。話は全部、垂れ流されていた放送で聞いた」


「ふざけたジジイ共だな」


「いいじゃないか、時間短縮できたんだから」


 相棒の到着で戦闘モードに切り替わったラリーを前に、悪党そのものな笑顔になるヴァン=アザルドと、明らかに不機嫌になるラオ=センサオが立ち上がる。


「カート、俺があいつとでいいか?」


「聞くまでもない。当然俺の狙いはあいつだ」


 2人は目を合わせることなく走り出す。


 ラリーのインパクトナックルが、タービンの回転を一気にトップにあげる。


 第一のヴァン=アザルド対策。


 ナックルには内部に隙間があり、ラリーの脳波を読み取って、機動を自動で修正する。同じ機能がアンクルにも搭載されている。


「あ~あ、能力を見せすぎたな。めんどうくせぇ」


 奴のイズライトを受けなければ攻撃を当てられる。


 だからと言って、ヴァン=アザルドを攻略できる様になったわけではない。


 パワーファイターのラリーに負けない自力と、カートともいい勝負になりそうなスピードで、ヴァン=アザルドは余裕の表情を崩しはしない。


「カーティス=リンカナム、キサマがフウマを抜けるとは、思ってもいなかったぞ」


「預ける相手を見誤ったな、ラオ=センサオ」


 それはラオが仕向けて、ヴァン=アザルドに捕まったのが一番の理由。


 この男と一緒にいたから、ラリーやフランに出会えた事が、カートの今に繋がっている。


 ラオの年齢を考えれば、若いカートが勝つのが当然。


「はん、俺が今の見た目通りの年齢だと、誰が言った?」


 確かに長い時間をかけながらも、上手くコールドスリープを利用してきたが、時は無情にもラオ=センサオを、目的達成まで生き永らえさせながら、老いさせもした。


「お前達が連れ戻しにきた小僧。あの成功例を俺が利用しないとでも思ったか?」


 化けの皮を自ら剥がした老人の中から、カートと同年代の青年が出てきた。


「試験体のデータを元に新しい体を作った。成長作用で全盛期の体を手に入れて脳を移植した。この技術で俺は不老不死となった」


 一部、古い脳細胞が残っているが、ラオは若返りを成功させた。


 2人の超一流の諜報員は、相手の隙を窺いながら対峙した。

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