Episode11 「追い込んだのは俺たちだよな?」
「ようやく会えたな。ヴァン=アザルド」
「本当にしつこいガキだぜ」
「しつこいのがイヤじゃあなさそうなのが、残念だよ」
ラリー達が目指したのは、この巨大船の発令所。
ここにリーノの姿はないが、同じくらいに会いたかった犯罪者を見つけることができた。
「おい、ヴァン=アザルド! 本当にこいつらが必要なのか?」
「お前はラオ=センサオ、やっぱり生きてやがったか」
フウマ族の元長老。
イグニスグランベルテの情報をヴァン=アザルドに与えて探させた、自らがこの船の主と言って、ふんぞり返る謎の老人。
「はん! 俺たちはこの船に招かれたってことかよ」
「あぁ~あ、もうちょっと泳がせとこうと思っていたのによ。しゃーない、そろそろ本腰いれるかな」
モニターに映し出されたのは、金色の船を墜とそうと襲いかかる、警察機構軍の生き残りだが、イグニスグランベルテの砲撃は厚く、主砲と副砲の射程の内には一隻たりとも近づけない。
「この船、機銃が何台あるんだ? モビールも近づけていないじゃないか」
「だろう! ふざけた船だよな。なぁ、フィゼラリー! バカみたいな火力でバカバカ撃って、いったいどんな構造してるんだよってな。おい小僧、こんなところでノンビリしている場合じゃあないぞ」
モニターは金色の船の格納庫を映した。
「見ろ、ラリー。無人モビールだ。無人モビールが発進しているぞ」
ミリーシャが指さしたのは、巨大スクリーンの左下端分割画面の格納庫の光景。
ガーディアンが押し寄せて、自動工作機を抑えていたベルトリカのモビールや海賊の突入隊。ブルーティクスのボールズを宇宙に追い出してしまう。
「ミリシャ! 船に戻って、外をどうにかしてくれ」
ベルトリカのモビール3機が、イグニスグランベルテの外壁にへばりついたのを、ラリーは見落としはしない。
「御曹司にも外へ出て欲しいが、どうやって報せるかな?」
カートを迎えに行ったフォレスが、既に格納庫へ向かっている事を知らないラリーは、外の事をミリーシャに丸投げし、次の指示を出す。
「ダメだよ。ラリーを1人にするなんて」
「オリビエ。残ってもらったとしても、お前とソアラに、このオッサンらの相手は無理だからな」
「つまり私らは足手まとい、カートに早く来るように言って、戦力になるリリアとエリザを、ここへよこすのが任務って事ね」
「グッドだソアラ。それと早くリーノの寝ぼすけを叩き起こしてくれ」
「どうしてリーノが寝てる。って決めつけてるの?」
「オリビエ、もしヤツが寝ぼけてないのに、俺らに牙を剥いてくるようなら、ケツでも蹴り飛ばして、正気に戻してくれよ」
ラリーは1人を残して、二人は走り去った。
カートは烏丸を鞘に納めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……、あ、あんたのその強さ。異常すぎない?」
決着までは10分とかからなかった。
ヘレンのスタミナでは、この10分が限界だった。
ただそれだけで、どちらも大した怪我はしていない。
「お前が鈍ってしまっただけだ、ヘレーナ=エデルート」
「……ねぇ、なんでそんなに余所余所しいの? これまであなた達の後は追い回してたけど、そんなに邪魔してきた訳じゃあないでしょ。私たち」
「十分に俺たちの敵だっただろう。動けなくするぞ。運が良ければ死なないだろう」
「待った!」
勝敗の見えた戦いに割って入ったのは、リリアーナに抱えられて追いついてきたソニアル=フェアリアだ。胸のアーティファクトの色は紫色をしている。
「……事情は分かったが、俺には関係のない話だ」
「ねぇ、この2人も一緒に連れて行っていいかな?」
「リリア、俺は言ったぞ。俺には関係ないと。お前がどうしたいかは、俺に聞く必要はない」
「なによ、その言い方!」
「リリア、これがカートだから」
「だって、ソア~」
みんなと合流し、リーノの顔を見て気が抜けたリリアは、ロボットから飛び出してソアに抱きつく。
「あれれ? みんなここにいたんだ」
「ソアラ、オリビエ。よかった、ティンクから聞いてきてくれたんだね」
「ティンク? 会ってないよ」
「行き違えたのね。はぁ、まぁいいか。リーノを見つけたんだけど、私にはお手上げでさ」
ソアに近づいたオリビエとソアラが膝をつく。
「ここは任せたぞ」
「待ってカート、フォレス達知らない?」
「宇宙に戻った。他のボールズに呼ばれてな」
「おお、ラリーの指示通りになったじゃん」
「他に何かあるかソアラ?」
「もう大丈夫よカート」
返事が早いか? カートは全力で走り出し、残されたリリアも付いていこうとする。
「リリア、いいの? リーノの側にいないで」
「ソア達3人がいれば平気でしょ? それにエリザだって毒を抜いて、ラリーの所に行ったって言うじゃない。私もリーノにバカにされないように役立たなきゃ」
ロボットに戻るリリアにソアラが聞いた。
「落とされた手と足は?」
「持ってきたけど」
「直ぐに繋いであげるから、慌てないでこっちにきて」
船の中、ここまでは問題なかったけど、リリアーナの大きさで動くのにも、限界があるかもしれない。ソアラが直ぐと言ったなら、そんなに時間は取らないのだろう。
「大丈夫、カプセルを調べるのにも時間がかかる。その間にソアラは直せなかったら、リリアと二人罰ゲームね」
「オ、オリビエぇ~、オリビエが意地悪言うなんて……」
ベルトリカ最後の良心。オリビエに冷たくされて、リリアはまたソアに抱きついた。
「それじゃあ私たちは先に行ってるね」
「そんなのダメに決まってるでしょ、お姉ちゃん達はカートに拒絶されているんだよ」
リリアに「同行を許したのは私よ。勝手な事をしないで」と言われ、ソニアは地べたに腰を下ろした。
ヘレンも息が整ったばかりで、もう少し休みたいと思っていたので丁度いい。
天井を向いてソアが呟く。
「にしても動力部が船のど真ん中にあるなんて、珍しい船よね」
下のフロアには中央制御室があり、この上には発令所。
重要箇所が縦に並ぶのも、この船が多層構造だからだが、お陰であまり迷うことなく、それぞれの目的地に移動が可能。
「ティンクとエリザ、一体どこに行ったんだろう?」
「さぁね。地図に間違いはなかったんだから、その内に合流できると思うわよ。……よし、これで足はオーケーね」
ソアラのロボットは、自分やみんなの修理ができるように、戦闘用には作られていない。
主武装のライフル銃を手放したら、戦場では役に立たなくなるが、機械のリペアを神業でこなせる特別製。
あっと言う間に手も元通りになり、リリアはリリアーナから装甲を外して、装着し終えると、ソニアと共に発令所に向かった。
「……あんたは付いていかないの? ヘレン」
「あははは、ちょっとまだやる事があって……」
「古代技術に触れる機会がここにはまだあるもんね」
「フランソア=グランテ! あなたって、本当にかわいくないわね」
「もしかしてケンカを売ってるのかしら?」
「そう言う意味じゃあないわよ。分かってるくせに、イジワル言わないで」
ヘレンは里を飛び出した理由を語り始めた。
フウマの里で最初にソニアを見つけたのは、本物のベック=エデルートだった。
フェラーファ人が母星を出る事なんてほとんどなく、ましてや惑星ガテンはかなり遠い。
小さい体を活かして、密航に次ぐ密航でたどり着いたガテンで力尽きた。
行き倒れた理由は空腹。
餓死寸前のところを、助けてくれたのがベックである。
ベックは目を覚ましたソニアに食べ物を与え、上層部に報告せず自分の屋敷に匿った。
当然同居していたヘレンも、ソニアの存在に気付き、3人の生活は一ヶ月ほど続いた。
ソニアの目的は広い世界を知る事。ヘレンは合間を見てはソニアにこの惑星連合について、色んな事を教えてやった。
ある日、ベックが言葉を滑らせたと言って、上層部にソニアの存在を知られてしまった。
フェラーファ人は銀河評議会が特定種として、調停法で護る種族だと調べが付くと、元老たちは兄妹から妖精族を引き離そうとした。
「ソニアがフェニーナにならなかったら、あの子の冒険は、そこで終わってたでしょうね」
進化したフェラーファ人の扱いは、法がまた変わってしまう。
ソニアは2人の元を離れなくともよくなった。
「だって、契約者となった人から引き離したら、フェラーファ人は死んじゃうんだもの。銀河評議会的には、余生くらいは自由にさせてやろうってことなんだろうけど、ヒドイ話よね」
「それで情が移ったあの子を助けるために、諜報組織を抜けたって事? それでお兄さんを始め、4人もの犠牲者を出したのはなぜ?」
ソアの問いに、ヘレンは深い溜め息を吐いて答えた。
「裏切り者の5人ね。あの子をラオ=センサオに売り渡そうとした連中も、最後にソニアの役に立ったんだもの。それくらいの償いはしてもらわないとね」
「ラオって、上にいたわよ」
「そりゃ、いてもらわなくちゃ。今度こそ、完全に息の根を止めてやるんだから。ほら、早くボーヤを起こしてあげて!」
ヘレンの檄に3人は「あなたが仕切るんじゃあないわよ」と、心の中で突っ込むのだっだ。