Episode09 「またあいつらかよ……」
「ラリー!」
「よぉ、ティンクご苦労さん。お前らが最後だ。流石に遠かったか?」
「本当に大変だったよ。みんなの所には3メートル超えのガーディアンは出た?」
「そうか、そいつはアタリを引いたみたいだな」
「もぉ! がんばったんだよ。褒めてよ、心を込めて!」
「おお、大したもんだ。ソアラとオリビエに感謝だな」
「やっぱりラリーって、ふざけてるよね」
「怒るな怒るな。ところでカートは?」
興奮気味の妖精族が少し落ち着いたところで、まだ姿を見せない相方がラリーは気になった。
「そぉーだぁ!! 大変なんだよラリー!」
ティンクは人間サイズのボディーから出てきて、ラリーの首に抱きついた。
「カートにまた、あいつらが絡んできてるの」
「あいつら? もしかしてヘレーナ=エデルートか」
いままでもいちいち面倒な絡まれ方をしてきたが、今日だけは来て欲しくなかった連中。
「カートが1人で戦っているのか?」
「うぅ~うん、違うんだよ。あの人達カートに、協力しようって言ってきてるの」
「そいつはまた、何というか……。なぁ、御曹司」
「はい、なんですか? ミスター」
「ちょっと言ってきてくれないか? 難しい事じゃあない。やつらを言い負かせて、ラリーを連れてきて欲しいだけだ」
アンリッサのいないメンツでは、フォレスがもっとも適任だ。追い返せとまでは言わないが、カートに絡むのを止めさせて欲しい。
「そうですね。任されました。ミスター達は先に進んでいてください」
フォレスはレイラを連れて、ロボットの中に戻ったティンクの案内で、カートの元へ向かう。
「それじゃあ俺たちはリーノを狙うぞ。ソア、道案内頼む」
「候補は3つ、できたら3箇所同時に確認したいわ」
「分かった。俺はこのままオリビエと、ミリシャはソアラを連れて行ってやってくれ。そんでソアはリリアとエリザと3人で頼む」
本当ならソア、ソアラ、オリビエは、一緒にリーノの元へ行って欲しいところだが、このチーム割りなら、どんな場面であっても対応できるだろう。
空飛ぶティンクに置いて行かれないように、懸命に走ってきたフォレスが、足止めされるカートのいるフロアにたどり着き見たものは。
「全員を眠らせる。と言うわけにはいきませんでしたか?」
「飛びかかる火の粉を払っただけだからな」
背中を見せるカートは、刀を収めて振り返る。
「バカの1つ覚えのこの2人では、足止めにもならん事は、ヘレーナ=エデルートも理解しているはずなんだがな」
わざわざ姿を現して、本当にカートが話に乗ってくると思っていたのだろうか?
「端から俺が跡を追うとは、踏んでいなかったのだろうな」
なにかを企んでいるのだろうが、確かに追いかけるほどの興味は抱かない。
「ティンク、ラリーには「直ぐに追いつく」と伝えてくれ。そう言わなかったか?」
「えっ、えっ、私のせい? だってだって、置いてきたとか言ったらラリー怒らない? みんな怒ってたでしょ?」
「そうですね。流石はティンクさんです。俺も仲間が大切ですから、分かります」
「いや、フォレックス=マグナ。ティンクを甘やかさないでくれ」
また邪魔者が現れないように、カートは大男のバシェット=バンドールと、爬虫人のデルセン=マッティオを拘束して、柱に括り付けた。
「えーっ、やだやだやだ、私を甘やかして、甘やかし続けてぇ」
「なっ!」
「ははは……」
「あの、そろそろ行きませんか? 別れる時にソアさんがMAPを回してくれていたんで」
レイラはその地図をティンクとカートのウイスクにも転送し、全員が一斉に走り出した。
神のいたずらか、カートから逃げ出したヘレンに出会したのは、イグニスグランベルテの中央制御室にやってきたソアとエリザ。そして望まぬ形で何度となく姉に再会するリリア。
「お姉ちゃん、元気だった?」
「ええ、お陰様で。あなたはまだフェニーナにもなれず、お人形遊びを続けているのね」
姉、ソニアル=フェアリアを追って、故郷から飛び出しベルトリカに乗ったリリア。
借り物の体を使ってはいても、小さな妖精族は今や、立派なコスモ・テイカーだ。
「なんならリリアーナも呼ぼうか? お姉ちゃんこそ、仮初めの契り人がいなくて、本当に大丈夫なの?」
フェラーファ人、妖精族はフェニーナに進化する絶対条件に、赤い糸と呼べるほどの繋がりを結ぶ相手が必要となる。
そして契りを交わした相手から生命エネルギーを貰わなくてはならなくなる。
その契り人、契約者がいなくなると、自身の命も尽きてしまう。そう、呪いによって。
「もしかして、ヘレンから生命力を奪っているのかしら?」
真の契約者、ヘレーナ=エデルートは生命力を、実兄のベック=エデルートを生け贄にすることでソニアを守ってきた。
そして今までのベック=エデルートは5人。実兄の死後、暗示で繋いできた仮契約者の姿がここにはない。
「ヘレン」
「ええ、いいわよ。フェニーナのあなたが更に進化した事を、かわいい妹ちゃんに教えてあげるといいわ」
「うん、それじゃあ先に行って。ここはハズレだったみたいだし」
「そうね。あなたもほどほどにね。また後で」
ヘレンは1人、制御室から出て行く。
「あっ、ヘレン、ちょっと待ちなさい。聞きたい事はいっぱいあるのよ」
「ソアも行って! エリザ、あんたも。私もお姉ちゃんとの話が済んだら追いかけるから」
ソアは「がんばって」と、エリザは無言で走り出す。
「お姉ちゃん、ようやく2人になれたね。私まだ、グワンの実を返してもらってないから」
「バカの何とやらみたいにネチネチと。子供の頃はそれなりにかわいげもあったけど、そろそろ本気でムカツクわね」
リリアは両手に短剣を持つ。
ナイフの攻撃パターンを念入りに組み込んだ、リリアロボの得意武器。
「リリアーナがいないから、装甲を付けられないけど、姉妹ケンカにそこまでする必要ないよね」
リリアは全力で突進し、右手を前に突き出した。
「びっくりした。並のクリミナル・ファイターならこの一撃で即死ね」
リリアの右手のナイフを手にした細剣で裁き、右肘鉄を顔面に入れてくる。
「ビックリはこっちのセリフよ。なんで契約者もいないのに、そんなに動けるの」
闘うなんて事は、妹以上に縁のない姉の動きは、凄腕のコスモ・テイカーを一発でぶっ倒せるだけの力がある。
「そうね。いつまでもかわいい妹に、心配ばかりも掛けてられないから教えてあげるわ」
ソニアは徐に服を脱いでいく。
「ばばば、なにこんなところで!」
「見て、綺麗でしょ」
上半身裸になった姉の2つの脹らみの中心に、青く光る宝石が1つ。
「ヘレンがね。作ってくれたのよ。古代遺産の技術を仕事をしながら集めてくれて」
これまで行く先々に現れたエデルート一味の目的の1つ、ソニアの呪縛はそのアーティファクトに寄って、契約者の生命エネルギーを必要としない体となった。
「この宝石は私の心臓と繋がって、無限のエネルギーを与え続けてくれる。しかも私のイズライトも進化させてくれた」
任意の相手からイズライトをコピーするソニアの能力。
アーティファクトを手に入れる前の彼女は、一度にコピーできる能力はただの1つ。しかもオリジナルの半分ほどの力しか発揮できなかった。
「一度に使える能力は1つのままだけど、コピーした能力も上書きだったのを、記憶できるようになったわ。しかもオリジナルに限りなく近い力で使えるの」
「それって、チートって言うんだよね」
「あなただって、オリビエ=ミラージュ、ソアラ=ブロンクス、ソア=ブロンク=バーガーから卓越した力を貰ってるじゃない。ああ、そうだった。ソアラが本物のソアで、今のソアはフランソア=グランテだったわね」
確かに今のベルトリカチームのロボットは全て、古代技術を解読した超科学で作られている。チートと呼ばれても反論はできない。
「全力で掛かってきなさい。未だフェニーナにもなれない半人前が、どこまでできるかを見てあげる。それでもし私に勝てたら……」
リリアは今まで見た事もない、恍惚の表情をする姉に恐怖を覚える。
「グワンの実、食べさせて、あ、げ、る♪」