Episode08 「他のみんなも順調そうでなによりだ!」
「お二人ともすばらしいですね」
「ありがとう隊長。ごめんね、ボールズに無人モビールの事、受け持ってもらって」
「いいえ、いいんですよリリアさん」
フォレスが格納庫を占拠したボールズにモビールを護らせて、進路の確認をしている間に、リリアとエリザは走り出していた。
「本当にすばらしい。で、す、が……」
予定進路を追って行けば、直ぐに再会できたリリアはいい。
「エリザさんはどこへ行ってしまわれたのですか!?」
「あ、ははははは……。最初の分岐路を右に」
「って、第2候補の方ですね。追いますよ」
「待ってよ。同じ通路を進んでたら、あの子に勝てな、あっ!」
「なるほど、賭をしているんですね。それで二手に分かれてって、あなた達はこの作戦をどうお考えなんですか。リーノ君を1秒でも早く助け出す作戦なのですよ」
フォレスは単独行動を取るエリザもだが、目の前の妖精族も話を聞いてくれそうにないと判断し、“ボールズ5”レイラにエリザを追うようにと、指示を変更した。
「それで、どんな賭を?」
「合流地点に先に着き、尚かつ敵のブレイクポイントの高い方が勝ち。早く付いても数で負けたらドローになる」
賭のルールはなるほど面白い。ここは合流地点の重力波砲までの距離も、他のどのチームよりも近い。少しくらいなら、おもしろ半分に付き合っても問題なさそうだ。
「分かりました。レイラ」
『はぁい、フォレス。こんな中で通信なんて正気? 敵に話が筒抜けよ』
「問題ないよ。もし敵がボクの話に興味を持ったら、更に面白くなるだけさ」
フォレスはレイラに、エリザのサポートを追加指示した。
『OK、つまり私とあなたの対決とも言えるのね。久し振りに本気出しちゃお。勝ったらなにを要求しようかしら』
「はは、お手柔らかに。よし、リリアさん。がんばろう!」
「えーっと、私が言うのも何なんだけど、あなた達軽いわね」
「本気を出すためのレクリエーションはドンドン採用していかないとね」
「流石、新進気鋭のやり手3代目は違うわ」
この後すぐ、敵ガードロボットとガーディアンが倍増した事は、想像以上の展開だった。
「準備はいいか? ティンク」
「大丈夫、シュランが俄然やる気になってる。リーノがいなくなってから塞ぎ込んでたけど、ここで発散してやる。って息巻いてるから」
『誰が塞ぎ込んでるだ! あんなヤツいないからって、オレがなんで影響を受けなきゃなんないんだよ』
「ごらんの通り、元気に働いてくれるって」
『あのぉ、ワタクシもいるの、忘れていらっしゃいませんか?』
「俺がお前の事を忘れるわけがないだろう、サクヤ」
『まぁまぁまぁまぁ、お兄様のお役に立てるならこのサクヤ、夜叉丸もろとも原子炉に飛び込む覚悟もできていますわぁ~~~』
「う、うむ、大事な妹にそんな事はさせはしない。ここは任せたぞ」
『はい、お兄様! 愛してますわぁ』
格納庫の事はモビールAIに任せて、2人は重力波砲を目指す。
「俺たちのいる場所が、一番遠いな。ティンク、俺の足が速いようなら言ってくれ」
「大丈夫、この私専用のロボットは、80枚のエンジェル・フェザーで空も飛べちゃうんだから」
エリザのエンジェル・アンクルに装備したエンジェル・ビットと同じ構造の、脳波誘導可能なマルチモジュール。ティンクのそれは移動手段としても活用できる。
カートは遠慮なく全力で走り出す。
「すご~い! ガードロボットを踏み台にしてる。ビックリだよ、私、飛んでるのに付いていくのがやっとだ」
カートの機動力を削ぐためだろう、地面いっぱいのガードロボットが仇となり、ガーディアンは廊下に入って来れず、1ブロックをあっ、という間にクリアした。
「次は、1つ覚えのガーディアンか」
「でもないよ。新型が何体か混じってる」
ガードロボットで埋められた通路を抜けると、やや広めのフロアがあり、ガーディアンが28体、新型が4体臨戦態勢になっていると、ティンクが瞬時に索敵してくれた。
「あの一番奥にいるのが新型だな。力と防御を強化したパワータイプのようだな。問題ない」
「ちょっと待ったぁ!」
ティンクは10枚のエンジェル・フェザーを展開し、通常型をビームで攻撃する。
「これで届くよね」
「まったく大雑把なやつだ。だが十分だ」
ティンクは倒すつもりだったものの、ガーディアンはさっきまで装備してなかったシールドを展開して、ビーム粒子を拡散してくれたのだ。
シールドの所為で倒せはしなかったが、それでも体勢を崩すぐらいには役立ち、カートは一気に敵中央にまでいき、長刀“孔雀丸”を抜き、新型ガーディアンを縦に両断する。
「この程度なら、氣を練るまでもない」
「うぅぅぅ~ん、負けてられないよぉ!」
1基のビームを拡散されても、5五基のビームを重ねれば。
「そんなヒラヒラのカーテンなんて、簡単に焼き切っちゃうんだからね」
クラフト効果を得るためには最低40枚のエンジェル・フェザーが必要だが、大きな妖精は着地をして、その全ての羽根で総攻撃をする。
80枚を5枚ずつの分隊にして、16のグループがガーディアンを順々に動けなくする。
「まさかティンクがこれほどに、戦えるようになっているとは思わなかったな」
「それ褒め言葉?」
「これ以上の褒め言葉が欲しかったら、俺を超えるんだな」
「伝説と呼ばれるテイカーを抜かないと、褒めてもくれないなんて、カートってどうしたら私に優しくなるんだろうね」
いくら一流のコスモ・テイカーでも言葉は鍛えられない。
ティンクには口では勝てないと早々に判断し、カートは残ったガーディアンを一掃させる。
「後は小物ばかりだ。行くぞ!」
「待って、なにか大きな反応が進行方向にあるよ」
大太刀である孔雀丸を背負い、カートは烏丸を抜く。
「巨大ガーディアン」
「3.28mか、まぁまぁだね。カート、こいつを倒したら、今度こそ分かりやすく褒めてくれる?」
「なんでお前はそんなに褒められたいんだ?」
「だって、ラリーって褒めてくれるけど、いつも心が籠もってないんだもん。カートってその辺り、適当にしたりしない人でしょ」
「ったく……」
小さなティンクにそっくりな顔をした、人サイズのロボットはプロポーションもいい。
ボディーラインが出るレオタード姿は、相手がロボットでなければ悩殺も可能だろう。
「私はそんな戦い方はしないよ」
エンジェル・フェザーは20枚であれば剣となる。
「みんなの剣術データ、フランがセットしてくれたんだ。カート、ちゃんと見ててね」
「ああ」
相手が木偶の坊なら、ティンクだけでも問題はないだろう。と嘗めていたが、カートが感嘆の声を上げるくらいのスペックをガーディアンはもっていた。
ティンクの技も大した物で、2者の実力は拮抗していると言える。
「こいつもシールドを使うのか」
「その上に振動装甲とか、ファクトリーに発注したらどれくらいの値段になる事やら」
「しかしこれだけの巨体で、華奢なティンクのロボットと同格とは」
「うん、バランス悪いよね。きっと」
両手に持ったエンジェル・セイバーで殴り合いを続けながら、単発の羽根でデカブツの間接を攻撃し続けた。
「これで最後よ」
ティンクは大きく下がり、飛び回らせていたフェザーを戻して、全速力で突進しながら剣を突き出した。
肘、膝、手足の付け根が外れ、胸も腰もバラバラに、頭も落ちて動かなくなる大型ガーディアン。
「ねっ! ホメてホメてぇ」
「ああ、流石だな。本当に優秀だぞ」
「おおー! やっぱり褒められるのって嬉しいね。よし! ラリーのも褒めてもらおう」
重力波砲まであと3ブロック。
また新たな敵に囲まれる前に、2人は全速力で目的地を目指した。
しかしここまでのような戦闘はあと2回あり、それなりの消耗を余儀なくされた。