Episode07 「またやられたってか!?」
発進していたモビールが戻ってきた。
「ヴァン=アザルドのヤロー、一体なにを考えてやがるんだ?」
オッグス壊滅を狼煙代わりに、金色の船はキリングパズールに制圧勧告を送った。
「警察機構軍が躍起になって戦力を集め、イグニスグランベルテを包囲しようとしています」
アンリッサはアポースとの回線を開いたままに、通信を傍受されないように高密度圧縮したデータのやりとりをしている。
「どうするの? まぁた、こっちの計画が狂っちゃったけど」
「なに言ってんだ、ソアよ。計画は続行だぜ。現場が荒れている方が潜りやすいだろうよ」
「本気で言っているの? 随分な自信ね」
「俺たちのバックアップをしてくれるのが、オリビエとワンボック・カンパニーだからな。心配があるとしたら、キャリバーの突入艇とエリザベルガだけさ」
「心配御無用。古代遺産のモビールに頼らないと、安心できない人には負けないわよ」
「随分と強気じゃあないか、それじゃあエリザ、お手並み拝見といこうじゃないか」
「ラリー、キャリバーのエルディからです。『若造が吠えるな』だそうですよ」
アンリッサはラリーに代わって謝罪メールを送る。『期待してるぜオッサン』と。
ブルーティクスもまた、ボールズの性能を信じるフォルスからもOKサインがもらえた。
「にしてもなんでキリングパズールなんだ?」
「一番因縁の深いあなたやカートが分からないんじゃあ、本人に聞くしかないでしょ」
「因縁があるのはお前やティンクも一緒だろ」
再出撃のために全員搭乗、一部計画は変更され、突入口は各々任せで合流地点は重力波砲。
「バラけるにしてもこうも別れるもんかね」
「でもお姉ちゃんとソアラはキャプテンと合流したよ」
「御曹司とリリア達が一緒になれたのもまずまずだな」
「うん、カートとティンクのペアが心配かも」
「お前は心配じゃないのか?」
「ラリーと一緒だから」
戦闘用に新しく設計し直した擬態もある。
オリビエには何の心配もない。それは本当だ。
「なんか新鮮だな。この近さでオリビエと目線が会うなんて」
「う、うん。そんなに見上げなくていいの、新鮮」
オリビエは頬を染める。これまでは恥ずかしくて、分厚いゴーグル越しでしか見られなかった目を見る。
「透過ゴーグルにしたとは聞いてたけど、俺、なに気に初見なんだよな」
「それは……恥ずかしかったから」
「似合ってるぞ」
突入から3分。
『パパ、掃除が終わったのですぅ』
「おっ、アースラご苦労さん。それじゃあ自動工作機と遊んでてくれな」
『はぁ~い』
無人モビールをアークスバッカーとアースラに任せて、2人は移動を開始する。
この辺りの攻略法は完全に抑えてある。格納庫から出ると直ぐに集まってくるガードロボット。
「じゃあない、ガーディアンだと!?」
前回と全く一緒、なんてあまい相手ではない。
ヴァン=アザルドは警察機構軍なんて敵視していない。警戒しているのはベルトリカ同盟軍なのだ。
「んだよこいつら、さっきより強くなってるじゃあねぇか」
「ラリー、援護は任せて、思いっきり暴れて!」
二丁拳銃で狙うのは、少し離れたところからラリーを狙う銃撃タイプガーディアン。
「撃ち合いなら負けない」
オリビエが見ているのは、ゴーグルに移るロボットの姿。
ロックしてショット、ロックしてショット。ゲーム感覚の操作だが、相手の飛び道具を百発百中で潰していく。
「ラリー、ガードロボットも出てきた。こいつらも任せて!」
「頼んだぜ」
近接戦闘でバンバンとガーディアンを行動不能にさせて、足下のガードロボットも足で潰していく。
「よし! さっさとみんなと合流するぞ!」
無人モビール破壊工作は突入部隊に任せて、先行するキャプテン・ミリーとソアとソアラは廊下に出た。
「ガードロボットが出てきたわね」
「こいつらは私に任せて!」
キャプテンが前に出ようとするのをソアが止めた。
「みんな、お願いね」
ソアロボット・ミニことミニ・ソア10体がガードロボットに攻撃を仕掛ける。
「あれ。どこにいたの?」
ソアラはシュピナーグに積んだ覚えがない。
「ウチの突入艇で運んだに決まってるだろう」
「ミリー、ありがとうね」
今回のミニ・ソアは最大の25体を使用。運んでと頼んで断られたら、スカートの中に隠せる3体しか使えなかったところだ。
「いや、私に言えば、シュピナーグにコンテナ繋いで持ってこられたでしょう?」
「えーっと、ソアラには頼みたくなかった。からかな」
その心は? 当然ラリーが原因。でもここでもう一人が、残されまいと首を突っ込んでくる。
「もしかしてフラン、あんた私がラリーを諦めたとでも思ってる?」
「違うの?」
ここに女の三つ巴の戦いが始まる。
だったらと出されたミリーシャの提案に二人は首を縦に振る。
「っと、その前にあいつら片付けようか」
ミリーシャはガーディアンを一突き、ラリーのように近接戦を担当する。
キャプテン・ミリーのサーベルは蛇腹に分かれて、鞭のように振るう事ができる。
通常の蛇腹剣よりも節が多くて、1つ1つのビットが小さい。だから滑らかな動きが可能で、自由度はかなり高い。
「我が友オリビエ=ミラージュが仕上げてくれた業物。この剣の前に雑兵がいくら群がっても無意味としれ!」
肩慣らしを追えたキャプテンの連撃はスピードを増し、このまま一人に任せても大丈夫に思えたが。
「新手!?」
体格の一回り大きいガーディアンが現れ、ミリーシャの剣が止まる。
「堅い!」
即座にミニ・ソアで牽制を掛け、キャプテンは一歩下がる。
「なに? もう打つ手がないの?」
「いいや、こういう重たそうなヤツには、こっちで対処する」
先ほどまでの細身の剣ではない。キャプテン・ミリーが抜いたのは彼女の本当の愛剣。
先代であるギャレット・キャリバーから受け継ぎし宝剣。
「こいつはガラクタだったランベルトから見つかった古代遺産。無理矢理分解できるように改造してあった物を、もう一度一枚刃に戻してもらったんだ。こいつの破壊力なら!」
それもまたワンボック・ファクトリーの名工、オルボルト=ベッツェマックが打ち直した至高の一本。
「ここからが本番だ」
「やる気があるなら任せるわ。ソアラ、私たちも援護するわよ」
「うん、任せた。がんばれ!」
「なに言ってんの、あんたも手伝いなさい」
「私の武装知ってるでしょ! こんなところじゃあ本領発揮なんてできないし、弾切れでおいしいところで役立たずなんて、ぜ~~~~~ったいにイヤですからね」
「こいつ、本気で言ってやがる」
ソアは本気であきれたが、気持ちが分からないでもない。
「だったらいいよ。ミニ・ソアを貸してあげるから、ちゃんと働きなさいよ」
「なっ、こんなの一度に25体もって、あんたじゃあないんだから、私には無理だって」
「そんな事ばかり言ってたら、ラリーにチクるよ」
「ひ、卑怯な」
じゃれ合う2人を余所に、ミリーシャは強化型ガーディアンにドンドンと斬り刻み続ける。
「おお、なんだこの斬れ味は! まるで豆腐を斬っているようだぞ」
見せ場を全部持っていくキャプテン・ミリー。
「ああ~、ほら、あんたがしょうもない事言ってるから!」
「忘れるなよ。この戦いで一番ラリーの役に立ったヤツが、1日あいつとデートができるという約束を!」
それは紳士協定ならぬ淑女協定。ラリーに対するアプローチを控え、淑女らしく振る舞う事。
その取り決めを護りつつも、この勝負は始まった。
「ラリーが選んだ1人が、彼とデートできる権利」を賭けた裏の戦いの事を、男達は誰も知らない。