Episode06 「俺たちにはまだツキがある!」
ベルトリカがイグニスグランベルテを追って、位相差空間に消えてから3時間。
再結集したグランテ、ランベルト号、ブルーティクスは、ソアが予想した金色の船の出現ポイント、ワールポワート宙域で待機していた。
アポースからの垂れ込みに寄れば、特殊強襲部隊オッグスはノインクラッド周辺で、大部隊を展開しているという。
『フラン、本当にここでいいの?』
「私の読みではここに戻ってくる。いいえ、ちゃんとここを見つけてくれるはずだから、私はここにいるつもりよ。ミリーシャ」
キャプテン・ミリーはソアの事をフランと呼ぶ事にした少数派。
ベルトリカが、と言うかラリーが心配でしょうがないのに、イグニスグランベルテに関係性があるとは思えないこんな所で、ジッとしていていいのだろうかと、苛立ちばかりが膨れあがる。
「巡査長からの電文です。イグニスグランベルテがオッグスとの戦闘に入ったそうです」
通信機の前に座るアンリッサが船長のソアに、アポースからのライブ動画を回した。
『おい、フラン!?』
「ですが、ベルトリカは一緒じゃあないですね」
『どういう事だ、アンリッサ?』
「ミリーシャは少し落ち着いて。さてと、ソアラならきっとここに来てくれると思うんだけど」
この辺りで船の往来があるのは、今見えているワールポワートの反対側、キリングパズールに向かう航路がある裏側。
ここは磁気嵐がおさまる事のない危険地帯だ。
ここいらには犯罪組織もが潜伏する事のない、ある意味では平和と言える宇宙で、ワールポワートのような観光惑星が成り立つのも、磁気嵐のおかげである部分が大きい。
ワールポワートが公転で移動しても、同じ距離で付いて来る自然現象の原因究明はできていないが、ここにわずかな次元の亀裂がある事は、けっこう有名な話だ。
「私の直感だけどね。ここは次元の向こうにも、亀裂があるんじゃあないかって思うのよ」
『なるほど、反応ミサイル2発分の熱量で、断層破壊が可能だって言ってましたが、ベルトリカでも気付いてくれていれば、ここの事に思い当たるかも。と言う事ですね』
「正解よ3代目。次元アンカーを積んだブルーティクスには、次元の穴が開いたらベルトリカを引っ張り出して欲しいの」
『それで集結って訳かい』
「分かってくれた? ミリーシャ」
『それならそうと、最初っから言っておきなさいよ』
次元の亀裂は有名だと言っても、それを知らないコスモ・テイカーも少なくはない。
「あなたは知ってた? ミリーシャ」
『えっ、あっ、いや……』
「実際に見ながらじゃあないと納得しないでしょ。だからここに呼んだのよ」
確かに全部納得の話だけど、ここでなかったら文句ばかりが出て、こんなに早くは理解しようとしなかっただろう。
「来たよ。ティンクからの信号」
ずっと下を向いたままだったオリビエが顔を上げた。
「おっ、意外と早かったわね。オッグスが壊滅する方が早いと思ってたんだけど」
ベルトリカから発信されたのはモールス信号。
この銀河で知っているのは、ワンボック・ファクトリーの技術者くらいではないだろうか。
太古の通信方法は、あらゆる電波が通らない次元断層からでも、わずかな亀裂でもあれば、通過させられる失われた技術なのだ。
「ミサイル着弾ポイントの数列ね。アンリッサ。このデータをランベルトとブルーティクスへ」
「もう送りましたよ。ランベルト号からの返信で、反応弾のミサイル発射コードが送られてきましたね」
この2時間後、オッグス敗北の報せが届くのだった。
ブルーティクスの次元アンカーにキャッチしてもらったベルトリカは、同時に次元アンカーをグランテに引っ掛けて引っ張ったため、操舵が不能となり、危うくランベルト号に衝突するところだった。
『危ないじゃないのラリー、ちょっと直接文句言わないと気が済まないから、そこで待ってなさい』
「いやミリシャ、そんな時間はねぇよ。早速だがソア、ヴァン=アザルドのヤローはどうしてる?」
ソアはオリビエ、アンリッサと共にベルトリカに戻り、あからさまにミリーシャを意識しながらラリーに抱き着いた。
イグニスグランベルテが通常空間に出てきたのは、ノインクラッド宙域のゲートウェイ。目的はゲートウェイの破壊だ。
その後は警察機構軍の特殊部隊との戦闘となり、これらを全て行動不能にして、移動を開始した。
「こっちに向かってるわ。こっちというかキリングパズールにね」
オッグスはブルーティクスのように、古代文明技術で作られた船で銀河レースに参加し、実験の後に完成した新造艦部隊を用いたが、イグニスグランベルテ1隻に簡単に破れてしまった。
「中央評議会って、技術者不足なのかしらね。あれだけお金掛けて作った新造艦なのに、制限だらけでろくな武装を詰めない、民間会社の御曹司が趣味で作った船にも、遠く及ばないなんて」
ソアに図面をこっそり取り寄せさせて、性能分析していたソアラが失笑する。
「そんなことよりもイグニスグランベルテよ。本当なの? その回復力って、非常識にも程があるわよ。信じられない」
「ソアよ、そんなだから俺たちはあいつに出し抜かれちまったんだ。でもお前らのお陰でベルトリカは位相差空間で迷子にならずに済んだんだ。ありがとうよ」
ソアは頭を撫でられて悪い気はしない。でもそのままずっと撫で続けてもらってたら、色んなところから突っ込まれそうなので、ラリーの手を払いのける。
「次にあいつらが俺たちとやり合ったとして、また同じように断層の向こうに逃げられたら、もう追い切れないだろうからな。さてどうしたものか」
『危険かもしれんが、可能な限り兵隊を集めて、あの船に殴り込む他ないだろう』
頭まで筋肉かとミリーシャに突っ込みを入れてやりたいところだが、ブーメランになって自分に刺さるのを想像して、ラリーは黙って他の意見を募った。
イグニスグランベルテとの接触まで10分。
妙案が出る事はなく、ミリーシャの思い付きを実行に移す事となった。
「って、ミリシャ、お前も来るのか? お前、海賊のキャプテンだろ? 船はどうするつもりだよ」
『大丈夫よ。ノエルなら私よりも船を上手く回してくれるわ』
「それ、自慢するところか? それで他には?」
『あとは突入部隊の全員よ。総勢32名』
「そうか、助かる。ブルーティクスは全員来てくれるんだってな」
『はい、俺とボールズ。5名のジャッジメントオールが参戦します』
「頼むぜ、御曹司」
『それでラリー、ベルトリカには誰が残るの?』
「アンリッサだけだぜミリーシャ。あとは全員参加だ」
『ティンクもなのかい? ベルトリカが狙われたら、アンリ一人で大丈夫なの?』
「いいえ、私は一人ではありませんよ。キャプテン」
アンリッサの後ろに4人のソアが並ぶ。
『おお? フラン、お前いつから分身の術なんて使えるようになったんだ?』
「ミリーシャ、そんなはずないでしょ? この子達は全員、ソアラの制御下で動いてる私の影武者よ。この子達と、“ベル”がお留守番」
『ベル?』
『はぁ~い。ベルトリカ専用シャトルのAIベルで~す』
「頼りになる仲間がいる。安心していいよ、キャプテン」
『オリビエがそう言うなら心配ないか。と言う事はベルトリカチームは?』
ラリーとカート、ソアとソアラ、リリアとエリザにオリビエとティンクも、フル装備で8人が金色の船に乗り込む。
「リリアとエリザは、ソア達を護りつつ、リーノの野郎を見つけて、奪い返してこい」
「ええ、任せておいて」
「はぁ、本当にあなた達ってお人好しばかりなのね。いいの? 私なんかを信用して」
「まぁ~た、そんな事を。あんたがリーノを本気で好きになった事なんて、みんなお見通しなんだからね」
「なっ!? う、うっさいのよ。リリアのくせに」
しばらくの間、2人で行動させたのは大正解だった。ラリーも安心してみんなを任せられる。
「ソア、火力じゃあ、お前が一番なんだ。オリビエとティンクの事、頼んだぞ」
「ちょっと、私は? 私の事は心配してくれないのラリー」
「だってお前、そのボディーがやられても、ベルトリカ居残りの4人が無事なら再生できるじゃあないか。本人だって船の中なんだし」
ソアラは「それはそうなんだけどぉ~」と、嘆いてはいるが、ちゃんと自分の役割は把握している。
イグニスグランベルテの中で、リーノの状態がどうなっているかは分からない。けれどこのエキスパート達エンジニアチームがいれば、どんな局面でも打破してくれるだろう。
「ラリー、イグニスグランベルテが、カメラで捕らえられる距離まで来ましたよ」
「OK、アンリッサ。それじゃあそれぞれモビールへ。出撃するぞ」
「おー!!」
ベルトリカの格納庫が開き、4機のモビールと1機のミニモビールが飛び出していった。