Episode05 「打開策? 頭のいい奴が考えてくれ!!」
手立てを無くしたベルトリカは、イグニスグランベルテの射程範囲の外へ出た。
金色の船の見張りはカートが買って出てくれた。
ラリーはコントロールでブリーフィングを開始する。
「ヤツは何を考えてんだ?」
時間をかけた次元震の観測で、金色の船の行動を読み、割り出した作戦決行日時を逆手に取られた。
先手を取られた事で連携を阻止され、分断されてしまい、ベルトリカ一隻で位相の壁を超えて、追いかけてくることになった。
逃げられる寸前に最後のチャンスはあったものの、断層を渡ろうとするイグニスグランベルテに次元アンカーを打ち込んでいれば捕まえられる。
全速力でアンカーの届く位置を目指したが、閉じる断層を前に、船ごと抜けてくる他はなかった。
計算より速く断層深くまで潜られてアンカーは届かなかった。それでもまだ作戦は続行、敵船に突入するまでは予定の範囲内だった。
「やっぱりラリーの頭じゃあ、天才犯罪者には敵わなかったわね」
ソアラの憎まれ口に、ラリーの感情はあからさまに顔に出る。
「負けたのは俺だけじゃあねぇよ。まったく雁首揃えてあんな変態犯罪者に勝てなかったとはな」
今は反省会をしている場合ではない。敵の心理を読み、次の行動を推測しなくてはならない。
「ヴァン=アザルドの次の行動と、目的地かぁ」
「行動はともかく、目標地点は予測できるわよ」
位相差空間と通常空間は位相の差の分だけ距離があるが、座標点は重なり合うポイントがある。
つまりイグニスグランベルテの目的地が、たとえ通常空間であっても、予測はできるとソアラは言う。
「確定はしないけど、目的地はノインクラッドじゃあないかしら」
ソアラの分析と、ラリーの推測は一致した。
「やっぱりな。あいつは何かとあそこに固執してたからな。8年前のやり残しでもあるんじゃあねぇか?」
なぜか動きを見せていない金色の船、今のうちに打開策を見つけないとならない。
「断層の突破ならアークスバッカーもベルトリカもできるんだ。あいつにアンカーを引っかけて、ここから脱出できればな」
「でも空間を隔てる壁に、どうやって穴を開けるの?」
「そいつなんだが、あるだろうティンク? ランベルト号に積んでるのと同じ物が、ベルトリカにも」
「反応ミサイルのこと? あれ一つで断層破壊なんてできないわよ」
ソアラがあっさりと否定する。
「なにぃ!? なんでそんな役立たずを積んでるんだ?」
『さぁね、オリビエが積んどけっていうから』
ティンクにも理由は教えられていない。
「意味もなく積んどけとは言わないだろう。なぁ、ソアラ」
「時間をちょうだい。ソアほど上手くはやれないけど、私が絶対に突破口を見つけてみせるから、ティンクも手伝って」
『分かった。みんなも力を貸してねぇ』『はぁ~い!(×4)』
ティンクに統合されたAIガールズの力を借りて、ソアラは解析を始めた。
宇宙での騒動に対し、アンリッサとアポース警部補は警察機構軍に評議会経由で牽制をかけていたが、警視のローグ=エドフォードが子飼いにしている、特殊部隊を独断で出動させてしまった。
「強襲部隊オッグスですか、粗暴粗悪で悪名を届かせる。また厄介な事を」
「粗暴粗悪ってお前、あれでも警察のエリート集団なんだぞ」
アポースから情報をもらい、あちらこちらに手を回すアンリッサだったが。
「オッグスも警視もそれなりに実力はお有りのようですが、周囲の被害報告を顧みますと」
「おいおい、それは機密事項だぞ。後始末はちゃんと掃除屋がしてんだ」
「“コネクト”ですね。税金の無駄遣いと巷で噂されてますよ」
今はイグニスグランベルテが姿を消し、ジャッジメントオールとキャリバー海賊団が騒動を治めたが、警察の上層部は状況の見定めが必要と、立ち上げた捜査本部が動き出す様子はない。
本部長にはアポースの元部下だった刑事部長が選ばれたが、その本部長が命令を下す前にローグ警視が独断で部隊を動かしてしまった。
「ラリーからの連絡は?」
「ありません。彼のことですから最悪はないと信じてますが、いい加減な人ですからね。時間が掛かるのは大目にみましょう」
アンリッサはアポールと別れ、彼専用のシャトルで現場へ、ソア達と合流するために飛び立った。
イグニスグランベルテが動きを見せた。
カートからの一報を受け、ベルトリカは警戒態勢を最大に引き上げた。
「なんでミサイルを二発積んでおかなかったんだ」
『あんな大きなミサイルを二つも詰める場所ないじゃん』
オリビエがグランテに乗り移る時に、空きとなったシャトルの格納庫に、ティンクは言われるままにミサイルを積み込んだ。
「ラリー、人の話聞いてた? ミサイルは確かに2発分必要だけど、通常空間と位相差空間の交差ポイントで、同時爆発させないといけない計算なのよ。ここに2つのミサイルがあっても無意味なの」
ソアラは自力で解析し、ソアの懸念の一つを解決していた。
「その事は、向こうでも解析できていると思うけど」
「ソアとオリビエがいるもんな」
「ふぅ、2人ならこっちの座標を掴んでくれるかしら?」
「つまりソアラにはできない。って事か」
「いやな言い方するのね。そうよ、私は作る専門で、運用中の問題解決なんてやってこなかったもの」
「あ、イヤ悪い。ちょっと焦りすぎてるようだ。本当に悪い。俺にできる範囲で埋め合わせするから、……本当にゴメン」
「ふふふ、珍しいこともあるのね。あなたがそこまで頭を下げるなんて。でも改めて私も謝るわ。もっと普段からソアやオリビエから、色んな事を学んでおくべきだったわ。ごめんなさい。……けど、埋め合わせは期待してるからね」
言葉では軽く返しているが、ソアラは焦りの色を濃くする。もし方法を見つけられないとしたら……と。
『複数のミサイルを発射したぞ!』
カートからの通信から数秒、無数のミサイルがベルトリカを襲う。
『自動迎撃に成功したよ。大変! 夜叉丸に無人モビールが攻撃してるよ』
「嘘だろ、こんなに早く修復できたってのかよ!?」
ラリーはベルトリカに帰還する前に、把握しているミサイル発射管と主砲、副砲も破壊してきた。無人モビールの自動工作機も使えるはずがない。
『あれは!?』
「どうしたカート?」
『重力波砲だ。発射態勢に入っている』
「んだとぉ!?」
無人モビールに加え、副砲にも狙われて夜叉丸は金色の船に近づけない。
「俺も出る。まぁ、間に合わんだろうが……」
「ええ、間に合わなかったわね」
ソアラの声にラリーは振り返る。
『異常重力波を検知、次元断層出現。高熱源反応もあの船からだよ』
金色の船がカートの前から消え、砲撃は止んだ。
「やられたな。どんな手品を使ったのかはしらんが、油断しすぎだ俺」
「しょうがないよ。でもどんな手品か知らないけど、タネを明かしておかないと、いつまでたっても捕まえられないわね」
虚空を睨むラリーと、手元に目線を落とすソアラ。
『そんなことを言っている場合じゃあないよ! カートが囲まれてるぅ!!』
ティンクがモニターに夜叉丸を映し出す。
「もの凄い数だな。やっぱり完全に修復できてるってことかよ」
「無人機の数は120。私も出ようか?」
「いや、あの程度なら、カートだけでも大丈夫だろう」
『それを本気で言っているのなら、お前は晩飯抜きだな。ソアラはいいが、お前は今すぐ来い!』
晩飯抜きは避けたい。
ラリーはアークスバッカーを最大スピードで戦場へ飛ばす。
『それじゃあ俺は先に帰る。後は任せた』
「お、おいカート!」
『俺ができることをお前ができないとでも?』
「軽い冗談に根を持ちやがって!? カート、先に帰るのはいいが、俺のおかず一品上乗せだからな!」
残る無人機は72基。
全てを破壊した宇宙は静かなもの。次元震の揺らぎは完全に消えていた。