Episode02 「俺たちの活躍は! あれ?」
名前も前と同じヴァラキリアと名付けることにした、新機種なのに妙に手に馴染んだ感じのするトンファー。
名前は付けていないが足技をフォローしてくれるアンクル。
エリザの体術は、リリアロボの機動力を大幅に超えている。
だがリリアの武装は豊富で、全身の模擬弾と空弾頭ミサイルを撃ちまくる。
「模擬弾だけど、衝撃は実弾と変わらないわよ」
爆発しなくとも、一発でもまともにヒットすれば、エリザの負けとなるルール。
弾丸弾頭の雨嵐。
俊敏力をあげる筋肉操作で、フウマの工作員のようなステップで回避し、足技でミサイルを絡め取ると、リリアの方へ軌道を変える。
「そんなの打ち返してきたって、私には当たらないわよ」
ミサイルをコントロールしているのはリリアだとは言え、行って帰って、また飛ばすほどの推進剤が入っているわけもなく、ミサイルは全て地面に落ちる。
「次は私の番だよ」
突っ込んでくるエリザを迎え撃つ機銃が火を噴くが、一発として掠ることなく、懐まで入られてしまう。
「リアクティブアーマーなんだ」
「物理攻撃の威力は、半減以下に落とせるよ」
リリアーナはモビールとしては小型だが、機動性能も装甲強度も一般の物に負けない細工がされている。
「オリビエ懇親の力作だよ。そう簡単に抜けやしないって」
モビールから外して体中につけた装甲は確かに強固だが、しかしエリザの優勢は変わらない。
軽減していると言っても、ダメージが全く通らない訳じゃあない。
エリザの猛攻に押され続けるうちに、リリアロボの背中が壁に付く。
「降参するなら、傷一つつけずに終わらせてあげるけど」
「まだまだこれからだよ!」
リリアは前腕ほどの長さの短剣を二刀流で構え、エリザの手の動きをトレースし、全ての攻撃を受けきった。
「だったら!」
エリザは足技に切り替えるが、それもリリアロボは完璧に受け止め、硬直状態となる。
「今回の強化はみんな、ヴァン=アザルド対策だからね」
リリアのためにオリビエが用意したのが、襲い来る攻撃の軌道トレース。
リリアロボは機械であるため、ヴァン=アザルドのイズライトである末端操作は通用しない。
リリア本人なら操れるのだろうが、ロボの中にいて姿の見えない相手の、末端神経を操作するのは至難の業のはず。
「今のリリアに必要なのは条件反射ってことね。さすがはミラージュだわ」
エリザはまだオリビエ=ミラージュのことを、ファミリーネームで呼んでいる。
オリビエは機動力の低いリリアロボの防御を強化した。
「なにエリザ、打つ手無しぃ?」
「くっ、……分かったわよ。私の新装備を見せて……、しっ!」
エリザは口の前に右手の人差し指を立てる。
耳を傾けると聞こえてくる、知らない男達の濁声。
「おい、第3ドックの扉が開いてるぞ」
「待てよ、あそこは搬入口だから宙抗船もモビールも、脱出ポッドすらないぞ」
「そんなこと気にしている場合かよ。あのヤバイ連中から逃げられるなら、宇宙遊泳だって構わねぇっての」
賊の数は十人ほど、まっすぐリリア達のいるブロックへ近付いてくる。
「なんでなんで? ラリー達が取り逃がしたの?」
「そんなわけないでしょ。リリア、きっとあれは私たちの取り分ってことよ」
「そっか。めんどくさいなぁ~。そうだ! ちょうどいいじゃん、あいつらはエリザに任せるよ」
「なに言ってんのよ!?」
「自信ないの?」
「なっ!? ……分かったわよ。やりますよ」
小声での簡単なミーティングが終わった直後、入ってきた男達は、立ちはだかる二人の少女を見てニヤける。
「おお、モビールが3機と、ちっこいのは移動用のガジェットか? ちょうどいい。こいつでさっさと逃げるぞ」
「おいおい待てよ。上玉が2人もいるんだぜ。置いてく手はないだろう」
モビールに乗れるだけ乗って、後はワイヤーで引っ張る。
ここから脱出するのに、2人の少女も加え、15人が飛んでいければなんでもいい。
「と言うことだ。お嬢ちゃん達」
「ご託はいいから、早くかかってきなさいよ」
賊の力加減が分からないエリザは突っ込むのではなく、かかってくる敵を迎え撃つ体勢を取る。
その挑発に乗って、2人の男が殴りかかる。
最初の2人はエリザの敵ではない。残りの連中も同レベルなら、いつもの戦闘スタイルで簡単に片づけられる。
「ちゃんとテストしなさいよぉ~」
リリアもエリザと同意見のようだ。手を抜くなと釘を刺してくる。
「分かってるわよ!」
エリザは意識を集中すると、足から無数の物体が飛んでいく。
「何だ! こいつら……」
荒くれ者が、無軌道に飛び回る小さな物体放つビームに、撃たれて倒れる。
「エンジェル・ビット、うまく起動したじゃない!」
リリアーナに腰掛けて、高みの見物をするリリアに、男2人が襲いかかるが、溜め息と共に飛ばされる小型ミサイルに焼かれて動かなくなる。
「なんなんだ、こいつら……ぐわっ!?」
残党をエンジェル・ビットで、あっという間に片付け、リリアが拍手をくれる。
飛び回っていた20枚の羽根は、エリザのアンクルに戻る。
「いつ、私のアンクルを入れ替えたんだか」
「結局、新しいヴァラキリアの武装は使わなかったのね」
「こっちは確認するまでもないよ。ミラージュが作ってくれた物だもの」
扱いそのものは簡単な装備だから問題ない。それはリリアも同感だ。
「さぁ~て、次は私も戦うね」
「次はあんた一人でお願いね、リリア」
2人の視線が火花を散らす。
この後、2人の元へ送られた賊の数は30人程度。
雑魚の擦り付けあいは直ぐに、どちらが多くの敵を討つかの勝負に変わったのだった。
クラマンテ=アポース巡査長からクララリカ=クニングスに送られたモビール、クーララビットは色が変わり、エリザベルカと名を変更された。
機能も変わらないそれは、エリザ専用の機体として登録された。
「アポース巡査長が警察の記録を抹消してくれたから、簡単な手続きで済んだわ」
夜叉丸の背中に張り付けるリリアーナと違い、場所もなく、エリザベルカを格納庫に入れることはできない。
「やっぱりベルトリカの工作室は、僕のシャトルに移して、格納庫を拡げておくべきだったね」
今、エリザベルカはベルトリカの上部隔壁に増設した、シャトル用のドッキングユニットに固定している。
この件が片付いたら、シャトルの定位置になる予定だ。
「僕のシャトルねぇ~」
「今さらでしょ、ラリー」
最近のオリビエは皆と交流することを嫌がりはしない。
とてもいい傾向だが、なにかとラリーに突っかかってくるのは、なんとなく気掛かりになっている。
『作戦開始3時間前だよ。ランベルト号は2時間前に来てるけど、ブルーティクスは少し遅れているみたい。後20分で到着だって』
正義の味方は遅れて到着する。
のではなく、金色の船が予定ポイントに現れる時間が、2時間早まったのが遅刻の原因だ。
それでも十分間に合うから、問題はないだろう。
「ミリシャ、お前もそろそろ船に戻ってくれ」
「えー? もう少しいいじゃないか」
せめてブルーティクスが合流するまで。とせがむワイングラス片手のキャプテンを、副キャプテンのノエルに引き取りに来てもらい、ベルトリカのコントロールルームでは、作戦の最終確認が始める。
「敵船を通常空間に引きずり出せたら、全戦力でボコるぞ」
そしてランベルト号には、次元断層発生の阻止もしてもらう。
「引っ張り合いに負けて、位相差空間から引っ張り出せない場合は……」
ベルトリカチームは、モビール部隊で断層を突破する。
戦闘部隊の編成は、第一チームにラリーとカート。第2チームにリリアとエリザ、ソアが続く。
今回エリザはシュピナーグに登場してもらい、リーノ奪還後はエリザベルカに乗り換えて、全力で金色の船奪取にも協力してもらう。
もうヴァン=アザルドに、変なわだかまりは持ってないようだが、念のためにリリアとタッグを組ませる事にする。
と、ここまでのプランがパーになるのは、この最終打ち合わせ直後のことだった。