Episode01 「最後の最初は大騒ぎだな!」
リーノ救出の準備を整え、金色の船イグニスグランベルテの所在も判明した。
計算上は3日後の8時28分頃、彼の船は断層にほど近い位置に上がってくる。
ソアラが引いた図面を元に、オリビエがファクトリーで作成し、ソアが組んだプログラムで完成させた、次元アンカーが届けば、金色の船をこちらの次元に引きずり出すことができる。
一度こちら側に引き戻せれば、あとは金色の船が断層を開こうとする度に潰してやればいい。
「計算上は見えてきた。ってところか」
「机上の空論。って言いたそうね」
コントロールルームには今、ラリーとソアの二人だけ。
作戦の第一段階の段取りを打ち合わせている。
「第一プランが失敗したら、今度は俺たちの番になるんだからな」
第二プランはモビールを使った次元断層の突破。
と言ってもリーノ抜きで、ブラストレイカーになれるわけではない。
古代言語の解析が進み、3機の性能は向上し、次元断層を突破する可能性を示した。
「やっぱすごいよなお前、古代機械言語を解析なんて、ファクトリーでも無理だって言われたのによ」
「シミュレーション上でなんとかなっただけよ。それなのにあなたは無謀にも、自然発生した次元断層を、アークスバッカーで突破して見せた。あんな無茶、ベルトリカではさせないからね」
データ上の検証では、ベルトリカにもイグニスグランベルテと同等の性能があると推定された。
アークスバッカーの実験データを元に、ベルトリカにも実装はしてみたが、流石にテストをするには時間が足りなさすぎる。
「分かってるって、とにかく作戦遂行の目処が立ったんだ。失敗した後の事を話してもしょうがないだろう」
「はいはい。……もう二度とあんな無茶なマネはしないでね」
奇跡なんて何度も起こせやしない。ソアは幼い身なりで母親のような口調で釘をさす。
「俺は一度だって、無茶なんてしてないだろ。俺の仲間はいつだって、期待に応えてくれるんだからさ」
「……バッカみたい」
ソアは真っ赤な顔をして口角を上げた。
『ラリー、キャリバー海賊団が合流したよ』
ティンクは普段、ベルトリカのメインサーバーに義体を接続し、今まで通りに船の運用をサポートしてくれている。
「早いわね。明日の作戦開始3時間前でいいって、言っておいたのに」
『キャプテンがラリーと二人で、打ち合わせがしたい。って言ってきてる』
「それが目的ね、あの女狐」
ランベルト号の役割は、次元の断裂を消滅させること。
ディメンジョンバスターと名付けられた反応弾頭ミサイル、ランベルト号にはすでに50発が積み込まれている。
ソアはキャリバー海賊団のノエル副長と、必要な段取りは済ませてある。
いまさら話し合うことはないはずだ。
「せっかく来てくれたんだ。話くらいは聞いてやるか」
「なら私も一緒するわ」
ソアの招待がフランソア=グランテ、前ベルトリカ船長であることは、今回作戦に参加してくれるキャリバー海賊弾とブルーティクスには伝えてある。
この作戦リーダーはソアであることも了承を得ている。
「だからワタクシはあなたの同席を望んでいません。出て行ってくれません?」
「確かにあなたの協力には感謝するけど、報酬はもう前金で支払い済みだから、こんなアフターみたいな事に応える義理はないのよ」
キャプテンミリーではなく、キャリバーコーポレーションのご令嬢として、ここに来ているのはドレス姿と金髪が語っている。
「まぁ、まぁ、いいじゃないか。飲むなら人が多い方がいいだろ。なっ! 御曹司」
「なんですか? 緊急の呼び出しだって慌てて来たのに、この緊張感のなさは……」
青の戦隊フォレックス=マグナ隊長と副長のレイラが顔を出したのは、酒乱の宴だった。
作戦を明後日に控え、ラリーは憂さ晴らし……、いやいや、肩慣らしに片田舎のクリミナルファイターを叩きのめしていた。
「調子いいみたいだな」
「おぅ! カート、お前もな」
二人の装備は改修され、まだワンボック・ファクトリーでの作業が残っているオリビエの元へ赴き、新機能の説明も受けずに飛び出した。
「ラリー、ちゃんと全機能のチェックは済んだのだろうな?」
「お、お前はどうなんだよ?」
名刀烏丸とは別に受け取った長刀は、孔雀丸と名付けられた。
マニュアルをしっかり読み込んだカートは、試し斬りに手応えを感じている。
しかしラリーは……、ただ暴れただけ。
「いや、この程度の奴らじゃあ、準備運動にもならなかったからな」
ナックルとアンクルのパワーアップを確認しただけに留まった。
「新機能は戦力アップはもちろん、ヴァン=アザルド対策でもある。……次の現場をアンリッサに探してもらおう。ラリー、お前もちゃんとマニュアルを読めよ」
仕事は済んだのだから、さっさと帰って飲みたいラリーだが、確かに目的を果たしたとはいえない。
一時間後、アンリッサが取ってきたのは、二人がいる惑星圏の小惑星群を根城にしている犯罪組織。
流石に人手が足りない。
「なんだリリアとエリザだけか? ティンクは来てないのか?」
最近はラリーも二人をちびスケだとか、嬢ちゃんなんて呼ばなくなった。
『ティンクはソアを手伝ってる。作戦の最終確認だからって、キャプテンと社長さんも呼ばれてたよ』
手透きだったのは、リリアとエリザの二人だけ。
「リリアーナは随分と大幅な改造がされているな。リリアロボット用の、パワードスーツと言ったところか」
ラリーが興味を示す。
手足を折りたたんで、スマートなシルエットだった飛行形態は、手足を畳まず俯せになり、機首が付くだけの簡単な形状となったリリアーナ。
2メートルほどのモビールから、170センチメートルくらいのリリアロボットが出てくる。
「ここを落とすの? たったの4人で?」
リリアはリリアーナの前腕を引き抜いて手に持つ。
「ああ、4人いれば十分だろう」
エリザの武装は、見慣れたトンファータイプのヴァラキリアとブーストナックル。
結局エリザは武装を強化しなかった。
「戦闘スタイルを変えるのは大変だからな。ここで無理してバランスを崩すのもよくないか」
「お前は無理してでもテストするんだぞ」
カートにダメ押しをされ、渋い顔をしながらラリーは作戦を決める。
カートのイズライトでここ以外の出入り口と、格納庫への扉をロックし、端末は入力ができないように操作する。
「俺とカートで突っ込むから、逃げてくるヤツは頼んだぞ」
リリアとエリザに見送られて走り出すベテラン二人。
「ラリーとカートがザコを取り逃がすなんて、あると思う?」
リリアはラリーから手渡された物を眺めながら、エリザに声をかける。
「知らない。未来なんて分からないよ」
「そうだよ。……ねぇエリザ、私たちは模擬戦でもやってようか」
「はあ?」
「いや、だから模擬戦。と言うか私はまだ、あんたのことを信じてないからさ」
そう言われてはエリザに返す言葉はない。
実際のところ今のリリアの言葉は、そのまま皆の意見だと、エリザは受け止めている。
「少しでも認めて欲しかったら、もっと努力しなさいよ」
リリアが差し出したのはヴァラキリアそっくりの武器。
「オリビエが寂しそうにしてたって。せっかく作ったのに受け取ってもらえないって」
とまどうエリザは、まっすぐリリアを見つめながら動けずにいる。
「早く受け取りなさいよ」
「あ、うん……」
武器を持ち替えたエリザに次は。
「カチューシャ?」
「あんたは武器を受け取らなかっただけじゃあなく、オリビエに説明されたことも聞いてなかったの?」
リリアは渡すものを渡し終え、振り返ってリリアーナの装甲の一部を外して身に纏う。
「スピードが15%も落ちるからあまり使いたくないけど、これならあんたがもし、私に当てられたとしても怪我しなくて済むし、模擬戦って言っても本気のケンカができる」
エリザも髪飾りをつけた。
「準備はいいわね」
「……本当に犯罪者を無視してやるの? センサーくらいセットしておいたら?」
「わっ、分かってるわよ! いまやろうと思ってたのよ!!」
最後の最後でグダグダになったが、二人は武装を整え終えて向き合い、バトルを開始した。