表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
119/144

Episode29 「……果ての結果に、俺は!」



 ラリーとカートが目覚めたのは、ノインクラッド宙域に停滞する警察機構軍の戦艦の中。


 メディカルルームで点滴を受けていた。


 目を覚ましたと言っても、まだ意識がハッキリとしない。


 大事な何かを忘れている気がするが、点滴には微量の精神安定剤も入っている所為だろう、睡魔に勝てない。


 2人が治療を続ける最中、ステーションの制御室ではフランとティンクがピンチを迎えていた。


 制御室にいた賊はヴァン=アザルドが、あっさり片付けてくれた。


 落下阻止の障害を取り除いてもらって、端末に取り付こうとするフランの前に男が立ちはだかったのだ。


「おい、聞きたい事があるんだがよ」


「そんな場合じゃあないって、あんたも分かるよね」


「うっせーよ。こっちはそれどころじゃあねぇんだよ。分かってるんだぜ、お前らがガキを攫ったのはよ」


 焦りを隠せないフランだが、男の怒気に圧される。


「思い出したぜ! お前、モーバンド=グランテの娘だろう。と言うことは……。くそっ! メンドくせぇ事してくれやがってよ」


 フランは突然の出来事に防御が全くできず、胃の中の物を全てリリースした。


「お、女の子のお腹を思い切り殴るなんて……」


 血反吐を吐くフランに飛びつこうとしたティンクだったが、ヴァン=アザルドの右手に捕まれ、いや握りつぶされてしまう。


「ガキの行き先はあの船だよな……。今回はここまでだな。統治軍から引き抜けただけで良しとするか」


「あ、あんた……」


「あ~ん? 無理すんなよ。内臓をぶっ潰したんだ。大人しく寝てろよ」


「こ、この、……このままじゃあ、このステーションは」


「ああ、落っこちるだろうな。俺じゃあどうすることもできんしな」


「だ、から、私が……」


「別にいいじゃあねぇか。きっとスカッとするぜ。カルバン=グレグの思い通りになるのは、ちょっと癪だがな」


 そんな事をさせるわけにはいかない。


 フランは体を起こし、端末を目指す。


「おお! いい根性してるじゃんか。けどよ!!」


 四つん這いになるフランのお腹を蹴り上げる。


 フランは声も出せず、その場で崩れた。


「さてと、俺もさっさと脱出しないとな。けどその前に」


「ははぁ~、あっ、あっ……」


 声も発する事のできないフランの手の、10本の指が誰も触れないのに、あらぬ方を向く。


「あばよ、ガキ共」


 ヴァン=アザルドは立ち去り、邪魔者はいなくなった。


 けれど流石のフランも、この状態では落下阻止を諦める他なかった。


「フランだいじょうぶ?」


「ティン、ク……」


 涙をこぼすフランの耳に、小さな妖精の声が届く。


「あなた……、どうして?」


 フランの体はゆっくりと抱え上げられて、近くの椅子に座らされる。


「私もね。もうダメだって思ったんだけど、みんなと、フランとお別れするのがイヤで恐くて、そう考えてたら」


 妖精族であるフェラーファ人は手の平サイズで、背中の羽根で飛ぶ事ができる程体が軽い。


「驚いちゃうよね。いきなりだもんね」


 虫の息だったティンクは思いを遂げて、フェニーナとなった。


「なによ、すっごい美人じゃない。……可愛さが欠片も残ってない」


「それだけ軽口を叩ければ、まだ頑張れるよね」


「あんたこそ、なんでそんなに元気なのよ」


 ヴァン=アザルドに握り潰されて、フラン以上の大怪我を負っていたはずなのに。


「進化の得点みたい。……と言ってもまだ上手く動けないんだけどね」


 何はともあれ、ティンクの無事は確認出来た。


「だったら早く脱出しなさい」


「これ、堕ちるの諦めるの?」


「私が何とかする。だからティンク、あんただけでも……」


「バカ!! 私だってチームメイトだよ」


 ティンクは両手でフランの頬を挟んだ。


「ベルトリカでだって、ずっと遊んでいたんじゃあないからね。フラン」


 そうだ、ここにはまだ頼りになる仲間がいる。フランの目に希望の灯が蘇る。


 指が上手く動かせないフランは、自分とティンクのウイスクを同期してもらい、ティンクに目線カメラを付けてもらい、手元で映像を見ながら作業を指示する。


 言われた事を理解して、ティンクが全ブロックの分解から始め、各ブロックの姿勢制御が完了した頃、制御室の落下が始まった。


「フラン、どうにかならないの?」


 最大の脅威は去った。制御室くらいのサイズなら、大気圏でほとんどが燃え尽きてくれるだろう。


「……ごめんなさい」


 フランは自分の両手を眺め、痛みを忘れて拳を握ろうとした。


「今からじゃあ、落下シークエンスを実行する回路を、見つける事もできないと思う。だから!」


「そっか、残念だな。せっかくフェニーナになれたのに……」


「何言ってるの? あなただけなら、まだ脱出できるはずよ」


 自ら端末を操作出来ていれば、もしかしたら間に合ったかも知れないという後悔。


 これ以上後悔を重ねたくない。


 しかしその想いは、首を横に振るティンクも一緒だ。


「……やっぱりラリーなの? フェニーナになれたのって」


「半分正解。私が好きなのはベルトリカのみんなだよ。誰1人欠けちゃ意味のないベルトリカチーム」


 フランがいなくなる。死んだら誰にも会えなくなる。その想いが天に届いた。


 でもそんな奇跡は、これ以上起きそうもない。


「ごめんね。フェニーナになれたのに、まだイズライトが使えない。どんな能力かも分からないけど、どうにかできたかもしれないのに……」


 フェラーファ人がイズライトを得る為には、フェニーナになる必要がある。


 人間サイズになると背中の羽根がなくなり、代わりに特殊能力を得る。


 それは人間同様に、自分が望んだ物を手にする訳ではない、が。


「どういう能力なのかを見られなかったのは、少し残念ね」


 この3分後、ステーションの制御室は大気圏に突入し、あっと言う間に真っ赤になって、バラバラになりながら、無数の流星となって地上で観測された。






 モーブは宙航船ガルラゲルタを限界ギリギリで飛ばすが、制御室の落下に間に合わせる事ができなかった。


「くそったれが!? ヴァン=アザルドのヤロー!!」


「すまなかったモーブ、俺の見立てが甘かった」


「黙ってくれ、ラル! 意味もねぇのに、お前を殴っちまう」


 荒れるモーブは一番に自分を責めた。他者の声に耳を傾ける余裕はどこにもない。


 もし、ベルトリカを動けなくしていなければ、シュピナーグも使えないようにしていれば、ヴァン=アザルドを甘く見ていなければ、もっと慎重に情報収集をして、カルバン=グレグのブービーとラップを見抜いていれば。


 なにより見届ける必要もなかったのに、娘達の傍に居らず、ラリーの父、フェルディラルのフォローに回っていなければ。


「……悪かったなラル、少しは頭が冷めてきたみたいだ」


「そうか、なら今度は俺が借りを返す番だ。モーブ、お前を手伝わせてくれ」


「いいのか? まだ完全に後始末が終わった訳じゃあないのに」


「なに、統治軍はいずれ消滅するだろうし、評議会にも隠せない爪痕が刻まれた。俺の仇討ちは終わりだ。後は俺の子にしては優秀すぎるあいつが、世界を変えてくれるだろう」


 敵はヴァン=アザルド。


 ラルは本来の目的を完遂するには、ヤツの目的を果たさせるのが一番と考えていたが、今度はその目的を潰すことが目標となる。


「地獄の果てまでつき合おう」


「そうか……、今度は俺が仇敵を討つ番なんだな」


 モーブはガルラゲルタの進路をワンボック・ファクトリーに向けた。


 オンボロ船をリストアする。


 最善の準備を整える。


 一度沸騰した頭は冷静さを取り戻し、ベテランコスモ・テイカーは、いつも通りに頭をフル回転させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ