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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode28 「ノビている場合じゃあないだろ、俺!」



「クレマンテ、済まなかった」


「全くよ。お前といい、モーブといい。俺はお前らのコマじゃないぞ」


「へへへっ、おやっさんにはいつも世話になるな」


 背負ったラリーを降ろし、アポースは辺りを確認する。


「派手にやらかしたなラルよ。まさか皆殺しにするなんて、聞いてなかったぞ」


「死を選んだのはこいつらだ。まさかカルバン=グレグ、あんたまで向かってくるとは思わなかったよ。総督閣下」


 生きる事と地位を守る事が全てだった男は、ラルの弾丸に眉間を撃ち抜かれて死んだ。


 グレグの反撃の銃弾を受けて左腕が動かせないが、ラルは目的は達成された。


 できればグレグ本人に、今回の後始末をさせたかったのだが。


「なんだ、カートも伸びてるのか」


「相手が悪いって、おやっさん。ヴァン=アザルド相手によくやったよ、こいつなりに」


 なかなか表舞台に顔を出さず、裏から軍を支配していたグレグの元にたどり着く為に、手を組んだヴァン=アザルド。


「俺も約束を果たさんとな。モーブ」


「はいはい、カートの分はこいつの中だ」


 ラルはモーブから小さなカプセルを受け取り、注射器を出して我が息子の左腕を取る。


「おや、じっ……」


「起きたか? ……まだ無理はするな」


 目を開ける事もなく、ラリーはまた眠る。


「大した気力じゃあないか」


「ああ、立派な男に育ったぜ」


 アポースとモーブに見守られ、ラルは息子の血液と毛髪を少量抜いた。


「さて、俺はまだ警察官の仕事が残ってるからな。上からのお達しで統治軍を潰せと言われたが、やつらは今回の騒動を起こしたテロリストだ。って証拠をあげないとならん」


「頑張れよ、おやっさん」


「モーブ、なんだお前ら、俺の事は助けてくれんのか?」


「ヴァン=アザルドに報酬を渡さなきゃいかん。もうちょいやる事があんだよ」


「近いうちにガキ共に会って、ちゃんと説明しろよ」


「そいつもクレマンテ、あんたに頼みたい」


「冗談じゃあねぇよ。こいつらを船に戻すまではやってやる。後は自分でケツ吹きな」


 アポースはラリーとカートを抱えて出て行く。


 深い溜め息を吐くラルも、グレグが自害したように見せかけて外に出る。


『ノインクラッドの善良なる諸君』


 まだ、あちらこちらから煙の上がる市街地の、オープン回線から声が響く。


「なに! グレグの声だと!?」


 ラルは慌てて近くの公共端末に、ウイスクを接続する。


『この街では今、我が統治軍に仇なす犯罪者が暗躍し、諸君らの平和な日常を脅かしている』


「あそこに転がるカルバン=グレグは本物だった」


「ってことは、あれは保険ってヤツか。どうするラル?」


 ブービートラップがセットされていた。モーブはウイスクをガルラゲルタに接続する。


「まずいぞラル、奴は工作員を駐機ステーションにやって、あのデカ物を地上に落とすつもりだ!」


「!?」


 ヴァン=アザルドは地上で騒動を起こしていると同時に、ステーションにも犯罪者たちを向かわせていた。


 そこには警察機構軍が出動して、激しいモビール戦が繰り広げられている。


「奇しくもヴァン=アザルドは、カルバン=グレグの手助けをしてやっていると言うことか」


 この後、ヴァン=アザルドに会う予定だが、その前にもう一働きしなくてはならない。


「評議会の連中、隠れプログラムの存在には気付いたようだが、手も足も出せていない。ってな感じだな」


「そうか、ステーションとは名ばかりの寄せ集めだからな、あれは。ガルラゲルタは今どこだ?」


「ステーションだよ。俺のモビールは市販品だからな。ここからじゃあどうにもできんよ」


 娘に一流のクラッキング技術を叩き込んだ、超一流のコスモ・テイカーは舌打ちをする。


「……行くしかないか」


 相棒の肩すくめを見て、モーブは悩まし気に天を仰ぐ。


「ベルトリカが使えれば一番なんだけどな」


「俺の判断ミスだ。許せ」


「いいや、俺が望んだ事だ。娘を気遣ってくれてありがとうよ」


 モーブが心配する娘達は今、自らの意志で行動を開始していた。






「上手く潜り込めたね、フラン」


「ベルトリカが停止した時は焦ったけどね」


 モーブがガルラゲルタへ戻って30分後、なぜかベルトリカは自動運転となり、フランの入力を一切受け付けず、ステーションからかなり離れたポイントで、生命維持装置以外の電力が落ちてしまった。


「無理矢理シュピナーグを発進させて、ハッチを粒子砲で撃とうとするなんて」


「はははっ、まさかシュピナーグの動力を使って、外に出られるとは思ってなかったから」


「ベルトリカを修復する時に、別動力でも開閉できるようにしておいたのよ。こんな事もあろうかと。ってね」


「フラン、見て見て。ステーション落下なんて言うから、港がガランとしちゃってるよ」


「出て行く船はノーマーク。入ろうとする警察とは徹底交戦。オリビエお手製の自動操縦装置がなかったら、ここまで来られなかったでしょうね」


 がらんどうの宇宙船ドック内にモビールがただ一機。


「ねぇ、アレなんだろう?」


 ティンクが見つけたのは、市販品の中で取り分け安価で高性能な救命カプセル。


「おかしいわね。生命維持装置は稼働してるのに、推進装置も通信装置も救難信号も出せなくしてある。このタイプは自動誘導で安全地域に移動する機能が付いているはずなのに」


 フランはカプセルの蓋を開けた。


「……寝ている。だけのようね」


「なんだ子供じゃん。なんで男の子がこんな所で1人なの?」


「さぁね。……離れてティンク! カプセルの中、睡眠ガスで満たされているわ!?」


 フランは慌てて男の子を抱きかかえ、カプセルの蓋を閉じた。


「どうするの?」


「どうしたらいいかなんて分からないけど。カプセルに戻すのもここに置き去りにもできない」


 しかし今は落下するステーションを、安定させなければならない。


「シュピナーグはベルトリカに戻るようにセットした。ティンクも早く乗って」


「何言ってんのよ。私も一緒に行くに決まってるでしょ。……で、どこ行くの?」


 宇宙港は評議会発足前から運用されている。


 新世紀の最古参と呼ばれ、老朽化した施設は取り除かれ、新たに穴埋めをする。そんな切り貼りだらけの不安定な欠陥建築。


「中央制御室があるにはあるけど、全ての回線を辿るだけでも骨の折れる作業になるわね」


「じゃあどうするの?」


「手間が掛かるのは作業書通りに処置を行った場合よ。まだまだ父さんにはかなわなくても、私は超天才のフランソア=グランテよ」


 ステーションに関わった企業の名前は検索済み、図面を呼び出せる準備も終えている。


「それにしても評議会預かりの施設に、評議会の職員が1人もいないのは何故?」


 この騒動の主はカルバン=グレグ、ノインクラッド統治軍の総帥だ。


 モーブは評議会もグレグの事は警戒しているはずだと言っていた。


「そうか、地上にばっかり警戒の目を向けすぎて、ここの警備が手薄になってるんだ」


「ティンク……そんな訳ないでしょ。テロが始まってから、まだそんなに時間は経ってないのよ」


 ステーション落下阻止の為に制御室に向かう。


 2人は急いで制御室に向かう。誰にも会うことなくたどり着く。


「ティンク、止まって」


 フランは制御室近くの端末にアクセスする。


「中にいるのは5人。風体からして犯罪者かしら? 足下に評議会で正式採用されているフィッツキャリバーの警備ロボット転がってる。……三体だけ? なに考えてるのかしら、作業員はどうやら逃げちゃったらしいわね」


 モニターカメラの映像を巻き戻して状況を確認した。


「どうしよう。私だけじゃあ厳しいわよね」


 うまく奇襲を成功させても、フランの戦闘力では3人がやっとだろう。


 完全制覇の確立は0に等しい。


「半分は私が倒してあげる」


「小さいナリして、なに言ってるのよ」


 手に妖精サイズの銃を持って、自信満々のドヤ顔をされて、深い溜め息が自然と溢れる。


「ああ、バカにしてるな。これは私専用にオリビエが作ってくれたモンなんだからね」


「オモチャじゃあなかったんだ」


「オモチャなんかじゃあないわよ!」


 興奮して大きな声を上げるティンクを抱え込む。


「大きな声出さないで」


「ぷはっ、ごめんごめん。私を信じてさ。飛び込もうよ」


 確かに時間はない。


 だけど失敗すれば、ステーション落下を阻止できない。


「俺が手伝ってやるよ」


 悩むフランは後ろからの声に、心臓が止まる思いをする。


「あんたは!?」


 どこからともなく現れた男、ヴァン=アザルドは返事を聞くことなく、制御室に飛び込んでいった。

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