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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode26 「親の心なんて分かってたまるか!」



 父にラリーが刻まれた切り傷は数知れず。


 しかしダメージの蓄積はフェルディラルの方が高い。


 攻防は一進一退。実力は僅差だが、年齢や体力差を考えれば結果は火を見るよりも明らか。


「年寄りが無理するなよ」


「……お前が強くなったんだよ。俺はまだまだ現役だ」


 腕が重い。急に体に異変が起こり、ラリーはうっすらと冷や汗をかき始める。


「顔に出さない事も褒めておく」


「なにしたんだよ、親父?」


 今まで感じた事のない倦怠感、構えを取っているのもツラい。


「教えてくれよ」


「針だ。このナイフには仕込み針を打ち出す機能がある。それをお前の体に打ち込んだ」


 医療用の小さな針が、ラリーの肌に刺さっている。


「人には療養のモノもあれば、有害なモノもある」


「なるほど、ツボを突かれちまってる。ってことか」


 謎が解けたからと言って、体のあちこちで動きが制限され、ラリー自らそれらを排除するのは困難な状態。


「大人しろ。勝負はついた」


「悪いがよ、親父。あんたの息子は往生際が悪いんだよ」


 体が重いと言って、全く動けない訳じゃあない。


 手足に填めた装備は、確かに体の動きに合わせて起動するように設定しているが、もちろんボタン操作でも動かす事は可能。


「なに!?」


「ふぅ、どうやら全部を吹き飛ばせはしなかったが、あんたともう一戦殴り合える程度には動けるぜ」


 スラスターを全開で噴射させ、一目には分からない刺さった針を除去した。


「まだ他にも動きを封じる策はあるぞ」


「親父に怪我をさせていいなら、俺にもあるぜ」


 ラリーが手加減をしている事は、ラルにも分かっている。


「俺を手伝ってくれないか」


「……気でもふれたか、親父」


「お前が受けた依頼は、ヤツの行動を抑える事なのだろ?」


 第一目標はヴァン=アザルドを捕獲する事。ラルの捉え方は概ね間違いない。しかし……。


「俺が作戦行動中はアイツも姿を隠す事はない」


 選択肢を狭められ、ラリーは提案を受け入れた。


 正直、父に実力を買われた事はうれしい。


 それよりなにより、これだけの騒動を起こして、いったいどんな目的を果たしたいのか?


 狙いが評議会や警察機構軍でない事は明白。


 目標は恐らく統治軍。しかしその本部とこことは距離がある。


「ノインクラッド統治軍の本部は今もここにある」


「なんだよ、それ?」


「そもそもあの騒動は、当時の統治軍の総督の計略によるモノだ」


 父、フェルディラルが姿を眩ましていた11年間。


 可能な限りの情報と資金と、練りに練ったという計画の実行。


 子供だったラリーは足手まといでしかなく、そして将来を見据える息子が統治軍に入らぬようにと、モーブに預けられたのも計画の一部。


 そしてラリーは想像を超えるテイカーに育った。いや、あまりにできすぎた事は誤算と言えるが……。


「この移転前のここが、今も統治軍の本部だって?」


 あの時のテロリストを先導したのは当時の総督だった。


 懇親会を利用して、フィッツキャリバーと交した条件をもっと優位にしようと一計を案じる。


「その総督と改革方法を異にする提督が、テロリストの目を公民館に移したのさ」


「親父?」


 態度の変わるラルの表情は、初めて会った時のカートの顔に重なる。


「総督の想定の数倍に膨れあがった破壊活動で、大勢の犠牲者が出てしまった」


 総督は事件の収拾がついた後に更迭されたが、組織が解体される事はなかった。


「あの提督は事件のどさくさに紛れて、組織の立て直し、自らがトップに立ったんだ」


「あれだけの大事件に発展させたと言われ、統治軍の発言権なんて無いに等しくなったんだ。何が問題になっているんだ?」


「軍を嫌う有力者は多い。統治軍を頼る権力者も少なくはない」


 コスモ・テイカーはグレーゾーンにいるように思われがちだが、法の範疇をはみ出す事はほとんどない。


 よっぽど統治軍の方が黒に近い活動をしている。


「親父の狙いは、その提督から総督となったヤツということか?」


 統治軍旧本部、あの日に父の友人であると紹介された、コスモ・テイカーのモーブに預けられたのもここだった。


「奴らはこちらの思惑通りに動いている。ここは評議会の目も届かない。奴らにとって最も好都合な場所だが、こちらにとっても同じこと。全て計画通りだ」


「悪いが親父、俺はここまでだ。相手がどれだけの悪党であっても、これは犯罪行為だ」


「ヤツは2人を殺した。2人だけではない。それこそ数え切れないほどに。これは千載一遇のチャンスだ」


 ラルの主張は理解出来る。


 しかし今のラリーにはチームメイトがいる。


 どこの誰を敵に回したとしても、チームメンバーに迷惑を掛ける事はできない。


「カートならヴァン=アザルドを逃しはしない。親父、久し振りに会えて嬉しかったよ。できる事なら……」


 その銃弾はラリーの顳顬こめかみを、寸でのところで撃ち抜けなかった。


「本当にいい動きをするようになった。……なにがなんでも手伝ってもらうぞ。ラリー」


 反射的に体が動き、ラルの顔面を右拳が潰す寸前で通信が入った。


 強制的に開いた回線の向こうには、フランとティンク。それと……。


『久し振りだなラリー、随分とデカくなったもんだ』


「モーブ!?」


 ベルトリカを手に入れた後、直ぐにいなくなったフランの父親で、ラリーの身元引受人のモーバンド=グランテ。


「……あんたも親父とグルか?」


『まぁな。フランと妖精の嬢ちゃんを大事に想ってくれるなら、親父さんを手伝ってやってくれ』


 なんてロクでもない大人ばかりなんだ。


 娘や息子の気持ちを、どうしてこんな簡単に後回しにできるのか。


「はぁ~、しょーがない。家族を盾に取られちゃあな」


『家族?』


「そうさ。俺にとってはフランもティンクも、父さんに母さん、ラナーと同じ家族さ。もちろんカートもな」


 しかしこんな茶番は理由にはならない。


 ここでラルに荷担すれば、恐らくはコスモ・テイカーとしての資格を失う事になるだろう。


「証拠だ。そいつを見せてくれたら、今度こそ親父とモーブに手を貸す。あるんだろ? そいつを先に見せてくれていたら、俺もこんなイヤな思いをしなくて済んだんだけどな」


「証拠はある。しかし決定的なものではない」


「だろうね。そうでなければ、こんな回りくどい事はしなかったろうからな」


 ヴァン=アザルドのテロ工作計画、目的を果たすための障害として、ラルとターゲットが重なった事で協力体制を取った。


「ヤツの狙いはなんなんだ?」


「そいつを素直に話すヤツではないことは、言うまでもないだろう。それでも目的達成のためには、ヤツと手を組むしかなかった」


 ヴァン=アザルドは有能な子供を集めたがっていた。


 ラルは統治軍が絡んでいる人身売買組織を潰し続けてきた。


「こっちはカートを欲しがって、チームを潰した件だな。人身売買組織か、そんな話なら評議会も動かせたんじゃあないのか?」


「評議会も警察も、立証出来る証拠がなくては動けない。その証拠を潰すのが統治軍の一番の役割りだ」


 ここに来ているというターゲット達を一網打尽にすれば、こういった統治軍の裏を一気にクリーンにできる。それがラルの目標だ。


「それが済んだら、親父はどうするつもりなんだ?」


「お前の言う通り、俺は犯罪を犯そうとしている。評議会だって信用ならないが、俺の身柄を預かってもらうつもりだ」


「……そうかよ」


 ラルは自分が身につけていたマントと、仮面をラリーに渡した。


「お前はモーバンドを名乗れ。あいつはずっとそれを付けて、俺の手伝いをしてくれた」


「……気遣いどうも」


 マントはただの布でしかないが、マスクはかなりの高性能だ。ラリーのウイスクとリンクをする事で、様々な情報をリアルタイムで提供してくれる。


『よう、ラリー』


「モーブ、あんた何を娘に無理させてるんだ」


『いい娘に育ったよな。お前のお陰だな。って感謝してるんだぜ』


「言ってろよ。それで? あんたが俺をフォローしてくれるのか?」


「おう、任せとけ」


 軽く溜め息が出るラリーは、態とらしく深い溜め息を改めて吐いて、走り出したラルの後を追った。

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