Episode25 「まさかの再会、だな」
思いがけない帰郷となったラリー。
ノインクラッドのアメルートは、何も変わっていない。
自治領の治安を担っているのは、変わらずノインクラッド統治軍。
ただその本部は別都市に移され、アメルートの治安は以前と比べものにならないほど悪化していた。
ラリーは街中を見渡せる高台に昇った。
「間違いなく俺達は、あいつの誘いに乗せられているわけだがフラン、何か新しい情報は手に入れたか?」
『パスパードに集まってたゴロツキが、アメルートの街に散らばってるらしいわ。巡査長に説得された一部は姿をくらましたけど』
評議会と警察機構軍の本部があるフリラグ大陸ではなく、統治軍のあるノザーヌ大陸に人を集めたようだが、統治軍の本部は沿岸部のサフラスに移されている。
「狙いが読めないな。アイツは俺達に何かさせるつもりだとしたら、ここで間違いないと思うが……、ミリシャとは連絡ついたか?」
『ええ、ワールポワートで巨大な爆弾を発見したそうよ。他にも無いか船員総出で、引き続き調査をしてくれるって』
やはりヴァン=アザルドは手下を連れて、ワールポワートに行っていた。
こうして相手の一手を潰したものの、それもヤツの手の内かと思うと、どれだけ手を尽くしても足りない気がする。
と言ってもこちらができる事は限られる。
アポースに警察機構の作戦内容を教えてもらい、オレグマグナの警備船隊を組み込む事ができた。
ベルトリカはノインクラッドの宇宙港にいる。
11年前にフィッツキャリバーの後押しを受けるはずだった統治軍は、軍備拡張に失敗し、本部を移転させて巻き返しを計ったが、その権限の行き届くのはノザーヌ大陸のみ。
協力を願っても、独自の行動を取るの一点張りで、正直当てにできない。
その姿勢は警察機構軍に対しても同じ、ハッキリ言って目の上のたんこぶだが、情報提供の見返りに、こちらにも干渉しないという協定は結べた。
「あと2、3手の駒があればな……」
街を見渡して一番に目が向くのは……。
「母さん、ラナー……」
この区のシンボルだった公民館はテロで燃え落ちた。
新たなデザインの白い建物を見ていても、思い出すのは昔の茶色い館。
『ラリー、いいか?』
「どうかしたか? カート」
『ヤツを見つけた。なぜかお前が暴いた本性のままの顔だ』
「どこだ!?」
カートが待機していたのは統治軍本部周辺のはず。
隣の統治区であるサフラスにいるとして、ここからは少し離れている。
『本部周辺だ。しかしあまりにも堂々としすぎている』
「確かに気になるな。……分かった。そいつを張ってくれ。何らかの目的はあるはずだからな」
『了解だ』
通信を切るのと同時だった。
ラリーは大きな爆発音と、煙が昇る駐機港へ走った。
航空機や個人のモビールまで利用される駐機港、一日の利用数はおおよそ12万人。
ラリーが到着した頃には統治軍の職員が、現場を封鎖していた。
「おいおい、俺の事は連絡しておいただろう」
「協力者のコスモ・テイカーか。話は聞いているが、この現場は我々が命令を受けた案件だ。お前の介入の報告は受けていない。お互い不干渉なのだろう? 引き下がってもらおうか」
評議会から許可を得た証明書を出した途端に、その軍人の表情が固くなった。
この表情が統治軍と評議会、ひいては警察機構軍との関係性を意味する。
「この分だと、どこへ行っても門前払いさせそうだな。いっそのことカートの所へ行くか?」
目と鼻の先にアークスバッカーは駐機されている。
しかしラリーがコクピットに潜り込む前に事態は悪化する。
街のあちこちで大きな爆発が起き、一般人も巻き込んで、阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
「この大規模破壊、……爆弾を犯罪者に仕込んで街に散らばらせたな」
街中で市民、統治軍人の怒鳴り散らす声。全く統制が取れていないようだ。
「こんだけの軍人がいて、いったい何をしてたんだ」
いくら役立たずでも、彼らに見つからず、この数の爆弾を設置するのは不可能なことに思う。
「設置式の爆弾じゃあないってことか」
ラリーの頭に人間爆弾という言葉が浮かぶ。
金に釣られて自爆テロに使われた中には、おそらくパスパードで拳を交えた奴らもいただろう。
「悪党の末路と言っても、こいつは胸くそ悪いぜ」
広範囲で混沌が拡がすぎて、統治軍は対応しきれていないようだ。
これは却って好都合。
ラリーの動きを制限する軍人はいなくなったに等しい。
向かうのは公民館か?
一般人を避難させるならあそこだ。
しかしテロリストになんらかの狙いがあるとしたら、避難所を利用しない手はない。
ここの軍人が無能でないなら、向かったところでまた、頭でっかちにかち合う可能性が高い。
「さぁて、どうするかな……」
ラリーは踵を返した。
向かうは旧統治軍本部。
なんの根拠もないし、何にひっかかったのかも自覚がない。
「ビンゴ! だったか?」
本部庁舎前に見慣れた顔を見つけて、ラリーは表情を明るくした。
「なんであんたがこんな所にいるんだよ」
11年の歳月は、男の印象を大きく変えていた。しかも表情の読めない仮面をつけている。
ラリーは戸惑うことなく男に近付く。
「親父、あんたが出てきてくれてようやく合点がいったよ」
「親父? それは私の事を言っているのかい? 若きコスモ・テイカー」
「仮面が邪魔だって言うんなら、素直になれる手伝いをしてやるよ」
ラリーが指で弾いたコインが、仮面の前面と後面を繋ぐ金具を飛ばしてしまう。
「老けたな父さん、……それに痩せちまってよ」
「お前は随分とたくましくなったな」
久し振りの再会だが、お互いの距離が縮まる事はない。
「ヴァン=アザルドはあんたの計画の隠れ蓑になって、目立つ行動を取っているってところか」
「……なぜそう思う?」
「あいつは業界では、トップクラスの大悪党で名が通っているのに、足跡も手段も、詳しい内容の残る報告書がほぼ残されていない。そんなやつがこれだけ表だった行動をとる理由。そしてあんたは最もヴァン=アザルドの行動から割り出しにくい、ここで何かを企んでいた」
ラリーの何気ない行動で見つけた、怪しい仮面の男。
それが今まで無事の報せを寄こさなかった、頭のキレる父となれば。
「目標は……、警察機構軍。あるいは評議会本部ってところかな」
「ラリー、一つ教えておいてやろう」
得物は刃渡り18cmのナイフ。左手は何も持っていない。
とてつもない殺気が放たれる父に、ラリーも最初から本気で拳を構える。
父との手合わせは7歳の時以来。
コスモ・テイカーとして、一級の仕事をこなすようになったラリーの戦闘スタイルを父親が知る由もなく、息子もまた本気の父の戦いを目にした事がない。
「速い!?」
スピードはどうやら父、フェルディラル=エブンソンことラルの方が上のようだが、ラリーの動体視力も負けてはいない。
「被疑者は取り押さえてから、御託はその後だ」
父の3手をインパクトナックルで受け止めた。ラリーの目はそのスピードに慣れる。
「そうかよ!」
ラルの突きにベストタイミングの、きれいなカウンターが合わさる。
しかしラルの目にはラリーのフックは止まってるように見えた。
ラリーの開いた右脇に、左袖に隠し持っていた短銃の鉛弾を撃ってくる。
避けられる体勢ではない。
しかしこの攻撃を想定していたラリーは、セットしていたブロークンアンクルのスラスターで、小さな弾丸を吹き飛ばした。
「さすがに今のは、油断をしすぎたんじゃあないか? 親父」
顔面を狙ったカウンターは、軌道を変えられはしたが、それでもラルのボディーにヒットした。感触も悪くなかった。
「お前が私の想像を超えてただけだ。なに、少し修正すれば問題はない」
ラルは銃を袖に戻して、左手にもナイフを持つ。
ラリーはナックルとアンクルのタービンをフル回転させる。