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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode24 「喧嘩! 喧嘩! マジ喧嘩だ!!」



 カートが3人の少年を引き付けて離れた。


「なんだよオッサン、今日は逃げずに遊んでくれるのか? それとも他にも誰かいるのか?」


「安心しろよクソガキ。見ればわかるだろ、このモビールじゃあ、あの三人以上は乗せられないだろう」


 ワールポワートの管制局に気付かせず、ヴァン=アザルドのモビールは潜入に成功した。


 他の機体が潜伏していない。という保証はない。


 しかしラリーはヴァン=アザルドの言葉を信じる事にした。


 今日は最初からフル装備だ。


 と言ってもヴァン=アザルドに射撃は当たらない。有名な話だがトリックは暴かれていない。


 ラリーは射撃も得意としているが、ハンドガンのベイカーショットは使えない。


 インパクトナックルとブロークンアンクルをオンにする。


 ワンボック・ファクトリー自慢のパワードアーマーを基に、ラリー好みに更に小型化。


 腕と膝下のみの強化ユニットは、肉弾戦に特化した特注品。


 ラリーの筋肉の動きにあわせてアシストが入る。


「あの時は一発も入れられなかったけど、今度こそぶっ倒す!」


 つもりであったが、2発3発と殴りかかるが、ラリーの拳はヴァン=アザルドを捉えられない。


 避けられて……いるのならまだ分かる。がヤツは一歩も動いていない。


「ちっ、あの時と一緒か。体が勝手に軌道を変えやがる」


 パンチだけじゃあない。


 キックも当然同じ結果だ。


 踏み込みも思うようにいかず、拳が届かない。


「なんだなんだ、息が上がってきたんじゃあないか?」


 まだまだその心配はない。そんなやわな鍛え方はしていない。


「当たんなきゃ意味がねぇ。一発だ、一発を当てるんだ!」


 ラリーは更にコンパクトに、回転を早くして、ステップを細かく踏む。


「へへっ、やっと一発だ!」


 ナックルの圧縮空気を噴射し、加速した連打。


 ヴァン=アザルドの右頬を捉えるが、感触はクリーンヒットにほど遠い。


「やべぇ、やべぇ。急にラッシュしてくるから当たっちまったぜ」


「それがお前の本当の顔か?」


 大したダメージを与えられはしなかったようだが、変装を解く力は伝わったようだ。


「なんだよ、男前じゃないか。人前に出られないほど酷いから、化けてんのかと思ってたのによ」


「ガキが興奮するなよ。一発掠らせるのに、何回向かってきたと思ってるんだ?」


 確かにここまではどんなに悩んでも、当てられる気がしなかったが、今の一発でラリーの頭に閃くモノが降りてきた。


 読みが外れても次を考えればいい。


「へへへっ、アタリだ!」


 入ったのは左ボディーブロー!


 やはり浅かったが、さっきよりいい感触だった。


 次も、その次も当てられて、ヴァン=アザルドは堪らずガードを上げた。


「どんなトリックだ?」


「おっさん、そいつはこっちのセリフだろ。俺が聞いたら教えてくれるのかよ」


「なんだ、知りたかったのか? 今まで誰も聞かないから、興味ないのかと思ってたぜ」


 ヴァン=アザルドは「イズライトだよ」と、しれっと言った。


「そいつは聞くまでもないっての」


「ジョークだジョーク。俺は相手の筋肉を自在に操れるんだよ。まっ、末端だけだけどな」


 それがバレたところで、そいつを回避する術はない。


 今の今まで自信満々だったヴァン=アザルドだが、ラリーの攻撃が届いた事に心穏やかにはいられない。


「そういや、お前はどんな能力を持ってるんだ?」


「誰も彼もがイズライトを使える訳じゃあないだろ。俺も無能組さ。今後現れるかもしれんが、今はない」


 イズライトによるものなら、精神力でなんとかできる。


 しかし確かにそう言った精神への干渉は感じない。ヴァン=アザルドは自分の手を意識する。


「何を気にして……」


 一瞬の事だったが、見ているのはウイスクだとラリーは判断した。


「なるほどな。さてはおっさん、俺達の足止めが目的だな。もういい頃合か?」


「小賢しいガキだぜ、まったく。だが50点だ。どうだ、ちゃんとした正解が知りたいか?」


 そんなものは聞くまでもない。


 いつでも叩きのめせるのに、怪我一つ負わせないのは。


「俺達はこの後もお前がらみの事で、動き回らなきゃいかんのだろ?」


「……本当に賢しいガキだぜ」


 ヴァン=アザルドが初めて構えた。


「まぁいい、お前らの事だ。多少痛い目にあわせても、俺を追ってくるだろうからなっ!」


 2、3手交わして分かった。


 わざとか能力の限界なのか、ヴァン=アザルドはラリーの筋肉操作をせずに、本気の殴り合いが始まる。


「んだよ、おっさん! 強ぇじゃねえか」


 ラリーは呼吸を読まれ、手加減をされているのに、小さな傷がどんどん増えていく。


 だがヴァン=アザルドもまた、一撃一撃が重いラリーの攻撃を嫌った。


 ここにきてラリーは確信する。ヴァン=アザルドは戦いながらイズライトは使えない。


 勝負の一撃のチャンスを窺う。殴り合いをしている間は軌道を変えられることはない。


「うぉーーーーー!!」


 我慢比べなら負けない。自信と自負と気合いで倒す。


「いくぞ!」


 呼吸を整え、インパクトナックルのタービンを周す。


 使い手の体を破壊するスピードで拳を振るい、歯を食いしばるラリーは、ヴァン=アザルドを殺すつもりで体をナックルに預ける。


「あまぁ~~~い」


 格闘中は使えないと決めてかかったイズライトが、体の一部の自由を奪う。


 だがラリーも全く警戒を解いていたわけではない。


 筋肉操作を受けたと感じた瞬間に、腰を必要以上に捻る。ナックルとアンクルのスイッチが入り、スラスター噴射するよう設定しておいた。


 体が引き千切られそうなほどの速度で逆に捻られ、飛びそうになる意識を繋ぎとめて、十分に伝わらない力を絞り出す。


「よ、よし!」


 軋む体を立て直せず、地面に叩きつけられたが、直前にヴァン=アザルドの左肩へクリーンヒットできた。


「どうだぁ!」


 ブランと下げられた片腕、足元もふらついている。


「這いつくばって吠えるなクソガキ! 殺してやりてぇが、見逃してやる。それにもう時間切れだ」


 少し離れた場所で爆音が響く。振動からして爆発だ。


「カート!」


 気を取られたのは一瞬だった。


 ヴァン=アザルドはモビールに乗り込み、あっと言う間に飛び去った。


 無理矢理起き上がって、直ぐに追えば食らいつけたかもしれないが、ラリーは相棒の安否確認を優先させた。






 爆発は3回起きた。


「カート、無事か?」


「俺はな」


 一番遠かった少年B、次に中間にいた少年C、最後に目の前にいた少年Aが弾け飛んだ。


「近くにいた少年だけでも助けられたんだ。俺が冷静さだったら」


 ラリーがカートの表情に、喪失感を覚えたのはこれで2度目。


 初めてあった日、精神支配から解き放された後、2人でヴァン=アザルドに挑み、手も足も出ずに敗北を味わった瞬間と同じ顔。


「自爆させられたんだな」


「ああ、……頭に無かった結果ではないんだ。ただ、あれだけの成長を見せる子供をこんな簡単に切り捨てはしないと決めつけた。ヤツを甘く見た俺の失態だ」


 ヴァン=アザルドは、ラリー達を殺すつもりはないと言っていた。


「つまり彼らは俺を足止めする為だけに、連れてこられたと言うのか」


「あまり自分を責めるな。相手はイカれた、なんて言葉に修まらない怪物だ」


「彼らを弔っていいか?」


「ああ……、よろしく頼む」


 カートが墓を作っている間に、ラリーはベルトリカに連絡を入れた。


 フランはティンクと2人でワールポワートを監視していたらしいが、ヴァン=アザルドのモビールが惑星を脱出するのをキャッチできなかったと言う。


『おそらくは、ワールポワートの評議会職員に、協力者がいるんじゃあないかな。でなければ古代文明科学の何かを使ったとか』


 少年たちの残った体を埋めて、簡単だが墓が完成したとカートが声を掛けてきた。


 手を合わせ終えた2人はベルトリカへ戻り、詳細をフランに報告する。


 ラリー達が戻ってくる間に、フランはヤツの足跡を探り、可能性の一つを掴んでくれていた。


「自信は?」


「28%、これ以外は全部3%以下ね」


 可能性と言っていいかも分からないものを、合わせて4通りの航跡。


「ベルトリカがどうするかは、あんたが決めなさい」


「そうだな。バラバラに行動しては、ヤツの思いツボだな。……よし!」


 コントロールに待機するティンクに、ラリーはノインクラッドへ向かうように指示をした。

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