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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode21 「忙しいのはいい事なのか?!」



 ラリーの仕事に監視役、いやサポート役のティンクが相棒になって十数ヶ月。


 2人は18歳となり、無事成人を迎えた。


 銀河評議会が定める法の下、結婚が認められるようになった2人。


 だがしかし、ティンクはフェニーナには至っていない。


 しかし妖精族は星に帰されることなく、滞在許可も更新が受理され、今日もコスモ・テイカーとしての仕事に励んでいた。


「また、ヴァン=アザルドの名前が挙がったのに、これまた目撃者はいなかったって?」


 フランはキーボード操作の手を止めることなく、先日の依頼の報告書に目を通している。


「ああ、去年の港町での捕り物、その裏にあった事件にもヤツが絡んでいたとか聞かされて、苦虫を咬んだ思いをさせられた」


 ラリーが大立ち回りをし、1人の指名手配犯と多くのゴロツキを捕まえた件だ。


「あれから頻繁に、ヤツの名前を聞くようになったよな」


 町では1人の大物議員が拉致され、殺害された。その犯行声明文にヴァン=アザルドの署名があったという。


 結果、その議員の汚職が白日の物となり、芋づる式に多くの政治犯が捕まる大事件に発展し、軍の情報までもが捜査対象となり、恐らくはその中にヤツの狙いがあったのではと、フランは目をつけていた。


 他にも評議会本部に爆弾を送ったり、新たに潰した人身売買組織の名簿に自筆の署名があったり、食糧輸送船を襲ったり……。


 直接関係はなくとも、どこかで繋がりのある案件がいくつも起き、民間人にも被害が及ぶ事件が多発した。


「この1年の警察機構軍の資料には、ヴァン=アザルドの介入が認められた事件が14件あった」


「またクラッキングかよ。いいかげん捕まるんじゃあないか?」


「火消し役を見つけたから大丈夫よ」


「火消し?」


「クレマンテ=アポース巡査長」


「モーブ親父のダチじゃんか。あんなヤツとやりとりしてんの? 大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫、悪い人ではないもの。でも私は雑務が多すぎるから、窓口はあんたにしておいたから」


「なっ! おま!?」


 2人が朝から事件の検証をしているこの時、カートは本来の所属であるガテン、フウマの里に帰還した。


「あいつは諜報組織の一員なのに、俺達とずっといるが大丈夫なのか?」


「所属は既にベルトリカよ。工作をしたのはアンリッサだけど、向こうのガーディアンとのドッグファイトは燃えたわ。どうにかカートのデータバンクにアクセスする事はできたから、勝ったのは私ね」


「そこまでしても捕まらないように、アポースを抱き込んだのかよ」


「ほらほら巡査長の仕事が入ってるでしょ。あんたはサッサと依頼を片付けてらっしゃい」


「ちょっ、まっ、俺たちはついさっき帰ってきたばかりだぞ!」


「しょうがないでしょ、ウチは極小チームなんだからさ」


「今度話し合うぞ。ルールをちゃんと作るぞ。いまさらだけど」


 この姉貴分が味方である事を頼もしくある反面、隙を見せれば好きに使われる。問答無用の暴君に頭を悩ませるラリーだった。






 末端の工作員であるカートが、里のトップである親方様にお目通りできるなんて、前代未聞の一大事。


 戻ってきたカートは同期に囲まれて、いろんな質問を受けた。


 カートが親方様へのアポをとったのは、この星での仕事をするのに、里の協力が欲しいため。その無理を通してくれたアンリッサの苦労が目に浮かぶ。


「6年振りなのに、随分と人気者じゃない?」


「……ヘレンか」


「なに、今の間? もしかして私の顔を忘れていたとか?」


「想像以上に大人びていたからな」


「あのカートが、そんなセリフが言えるようになってるなんて……、女でもできた?」


「お前は変わってないようだな。元気そうでなによりだ」


 今回フウマの里に協力を求めたいのは、このヘレーナ=エデルート。


「私なんかを指名しなくても、あなた達には怪物ハッカーが付いているでしょ?」


「……俺は彼女が苦手だ」


 ヘレンはそれを聞いて素のままに大笑いした。


「ごめんごめん、すごく嬉しくってね。そうね。あなたのパートナーは私じゃあないとね」


「フェゼラリーを取られてしまったからな。よろしく頼むぞヘレン」


 チクリと釘を刺された気分のヘレンは、無言で相方にクナイを投げる。


「難しい顔をしてどうした? もう聞いているだろうが、目的地はこの星の反対側だ」


 受け止めたクナイを何もなかったかのように、ヘレンに返す。


「あんた、モビールをもらったそうじゃない」


「ああ、そいつで行こうと考えている」


 カートが夜叉丸を乗りこなせるようになったのは、実のところつい最近。


 ただ移動のための道具として使ってはいたが、AIに目的地をインプットするのが関の山だった。


「立ち乗りなのね。……私はどこに乗ればいいのかしら?」


「……自分で考えてくれ」


「……本当にあなたって、変わらないのね」






 アポースとの久し振りの再会。


 ラリーは内心の陰鬱さが伝わろうと、気にせず表情に出した。


「いい面構えになったじゃねえか」


「おやっさんの事はモーブの親父に散々教えられたからな」


「昔は色々あったからな。ある事ある事聞いてんだろうが、気にすんな」


「チームの為ってんじゃあなきゃ、一生見たくない顔、№1だよな」


「ひでぇ、言われようだな」


「そんで? 俺に何をやらせたいんだよ?」


 わざわざ警察機構軍本部があるノインクラッドから離れ、評議会が現在進行形で加盟手続きを進める、このパスパードまで連れて来られたのは、観光をさせてくれるつもり、な訳がないだろう。


「おお、今まで水面下で暗躍していた特別指名手配犯が、ここでよからぬ悪巧みをしているというタレコミだ」


 名前は聞くまでもない。


「本部は他の件で動けねぇとか、ここがまだ非加盟惑星だから、大っぴらに公僕が動き回れないとか、言い訳ばかりしやがってよ」


「それでおやっさんが?」


 ガテンには裏世界を監視する目が存在するが、それなりの科学文明でありながら、評議会非加盟惑星には、クリミナルファイターが潜伏しやすい。


「この星に隠れ住む犯罪者を、秘密裏に集めてやがるんだよ」


 密告の内偵は機構軍の捜査員が進めていた。


 その最中、ヴァン=アザルドの名前がチラついたところで、ストップが掛かって捜査員は帰っていった。


「おやっさん、あんたまさかの単独行動か?」


「ヤバイ山に前途ある若いモンを巻き込めるか」


「俺ならいいのかよ!?」


「ただ金だけ払えば、何でもやるテイカーなんて願い下げだ」


 だから俺ならいいのか。ともう一度聞きそうになるラリー。


「お前らは本当にいい面構えをしている。頭を張る嬢ちゃんも、仕事を割り振ってるボンボンも、働きアリのお前とあのボーズも。モーブはいい若者を育ててくれたよ」


 遠回しにだが、好意的な評価をされてラリーも悪い気はしない。


「それで、あんたは俺に何をさせたいんだ?」


「難しい事じゃあねぇよ。俺と一緒に奴らの集会に参加するだけだからよ」


「なに言ってんだ。俺もあんたもヴァン=アザルドに、いや、ファイターのほとんどに面が割れてるだろう」


「俺はともかくお前はそうだろうな。心配するな。喧嘩を売りに行こうってんじゃあねぇ。チンピラが集まって、何をしようとしているのか聞きに行くだけだ」


 人の話を聞くよりも、拳に聞く方が得意なんて連中の前に堂々と出ていって、どんな勝算があるのか?


「俺の経験上、なんの問題はない。が、そんなヤツばかりじゃあないだろうから、頼むぜ。お前の腕っ節をアテにしてるぞ」


 ティンクをアークスバッカーに置いてきてよかった。


「……でたとこ勝負だな」


 腹を括るラリーは、アポースの背中を眺めながら、無言でついていく。

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