Episode21 「忙しいのはいい事なのか?!」
ラリーの仕事に監視役、いやサポート役のティンクが相棒になって十数ヶ月。
2人は18歳となり、無事成人を迎えた。
銀河評議会が定める法の下、結婚が認められるようになった2人。
だがしかし、ティンクはフェニーナには至っていない。
しかし妖精族は星に帰されることなく、滞在許可も更新が受理され、今日もコスモ・テイカーとしての仕事に励んでいた。
「また、ヴァン=アザルドの名前が挙がったのに、これまた目撃者はいなかったって?」
フランはキーボード操作の手を止めることなく、先日の依頼の報告書に目を通している。
「ああ、去年の港町での捕り物、その裏にあった事件にもヤツが絡んでいたとか聞かされて、苦虫を咬んだ思いをさせられた」
ラリーが大立ち回りをし、1人の指名手配犯と多くのゴロツキを捕まえた件だ。
「あれから頻繁に、ヤツの名前を聞くようになったよな」
町では1人の大物議員が拉致され、殺害された。その犯行声明文にヴァン=アザルドの署名があったという。
結果、その議員の汚職が白日の物となり、芋づる式に多くの政治犯が捕まる大事件に発展し、軍の情報までもが捜査対象となり、恐らくはその中にヤツの狙いがあったのではと、フランは目をつけていた。
他にも評議会本部に爆弾を送ったり、新たに潰した人身売買組織の名簿に自筆の署名があったり、食糧輸送船を襲ったり……。
直接関係はなくとも、どこかで繋がりのある案件がいくつも起き、民間人にも被害が及ぶ事件が多発した。
「この1年の警察機構軍の資料には、ヴァン=アザルドの介入が認められた事件が14件あった」
「またクラッキングかよ。いいかげん捕まるんじゃあないか?」
「火消し役を見つけたから大丈夫よ」
「火消し?」
「クレマンテ=アポース巡査長」
「モーブ親父のダチじゃんか。あんなヤツとやりとりしてんの? 大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、悪い人ではないもの。でも私は雑務が多すぎるから、窓口はあんたにしておいたから」
「なっ! おま!?」
2人が朝から事件の検証をしているこの時、カートは本来の所属であるガテン、フウマの里に帰還した。
「あいつは諜報組織の一員なのに、俺達とずっといるが大丈夫なのか?」
「所属は既にベルトリカよ。工作をしたのはアンリッサだけど、向こうのガーディアンとのドッグファイトは燃えたわ。どうにかカートのデータバンクにアクセスする事はできたから、勝ったのは私ね」
「そこまでしても捕まらないように、アポースを抱き込んだのかよ」
「ほらほら巡査長の仕事が入ってるでしょ。あんたはサッサと依頼を片付けてらっしゃい」
「ちょっ、まっ、俺たちはついさっき帰ってきたばかりだぞ!」
「しょうがないでしょ、ウチは極小チームなんだからさ」
「今度話し合うぞ。ルールをちゃんと作るぞ。いまさらだけど」
この姉貴分が味方である事を頼もしくある反面、隙を見せれば好きに使われる。問答無用の暴君に頭を悩ませるラリーだった。
末端の工作員であるカートが、里のトップである親方様にお目通りできるなんて、前代未聞の一大事。
戻ってきたカートは同期に囲まれて、いろんな質問を受けた。
カートが親方様へのアポをとったのは、この星での仕事をするのに、里の協力が欲しいため。その無理を通してくれたアンリッサの苦労が目に浮かぶ。
「6年振りなのに、随分と人気者じゃない?」
「……ヘレンか」
「なに、今の間? もしかして私の顔を忘れていたとか?」
「想像以上に大人びていたからな」
「あのカートが、そんなセリフが言えるようになってるなんて……、女でもできた?」
「お前は変わってないようだな。元気そうでなによりだ」
今回フウマの里に協力を求めたいのは、このヘレーナ=エデルート。
「私なんかを指名しなくても、あなた達には怪物ハッカーが付いているでしょ?」
「……俺は彼女が苦手だ」
ヘレンはそれを聞いて素のままに大笑いした。
「ごめんごめん、すごく嬉しくってね。そうね。あなたのパートナーは私じゃあないとね」
「フェゼラリーを取られてしまったからな。よろしく頼むぞヘレン」
チクリと釘を刺された気分のヘレンは、無言で相方にクナイを投げる。
「難しい顔をしてどうした? もう聞いているだろうが、目的地はこの星の反対側だ」
受け止めたクナイを何もなかったかのように、ヘレンに返す。
「あんた、モビールをもらったそうじゃない」
「ああ、そいつで行こうと考えている」
カートが夜叉丸を乗りこなせるようになったのは、実のところつい最近。
ただ移動のための道具として使ってはいたが、AIに目的地をインプットするのが関の山だった。
「立ち乗りなのね。……私はどこに乗ればいいのかしら?」
「……自分で考えてくれ」
「……本当にあなたって、変わらないのね」
アポースとの久し振りの再会。
ラリーは内心の陰鬱さが伝わろうと、気にせず表情に出した。
「いい面構えになったじゃねえか」
「おやっさんの事はモーブの親父に散々教えられたからな」
「昔は色々あったからな。ある事ある事聞いてんだろうが、気にすんな」
「チームの為ってんじゃあなきゃ、一生見たくない顔、№1だよな」
「ひでぇ、言われようだな」
「そんで? 俺に何をやらせたいんだよ?」
わざわざ警察機構軍本部があるノインクラッドから離れ、評議会が現在進行形で加盟手続きを進める、このパスパードまで連れて来られたのは、観光をさせてくれるつもり、な訳がないだろう。
「おお、今まで水面下で暗躍していた特別指名手配犯が、ここでよからぬ悪巧みをしているというタレコミだ」
名前は聞くまでもない。
「本部は他の件で動けねぇとか、ここがまだ非加盟惑星だから、大っぴらに公僕が動き回れないとか、言い訳ばかりしやがってよ」
「それでおやっさんが?」
ガテンには裏世界を監視する目が存在するが、それなりの科学文明でありながら、評議会非加盟惑星には、クリミナルファイターが潜伏しやすい。
「この星に隠れ住む犯罪者を、秘密裏に集めてやがるんだよ」
密告の内偵は機構軍の捜査員が進めていた。
その最中、ヴァン=アザルドの名前がチラついたところで、ストップが掛かって捜査員は帰っていった。
「おやっさん、あんたまさかの単独行動か?」
「ヤバイ山に前途ある若いモンを巻き込めるか」
「俺ならいいのかよ!?」
「ただ金だけ払えば、何でもやるテイカーなんて願い下げだ」
だから俺ならいいのか。ともう一度聞きそうになるラリー。
「お前らは本当にいい面構えをしている。頭を張る嬢ちゃんも、仕事を割り振ってるボンボンも、働きアリのお前とあのボーズも。モーブはいい若者を育ててくれたよ」
遠回しにだが、好意的な評価をされてラリーも悪い気はしない。
「それで、あんたは俺に何をさせたいんだ?」
「難しい事じゃあねぇよ。俺と一緒に奴らの集会に参加するだけだからよ」
「なに言ってんだ。俺もあんたもヴァン=アザルドに、いや、ファイターのほとんどに面が割れてるだろう」
「俺はともかくお前はそうだろうな。心配するな。喧嘩を売りに行こうってんじゃあねぇ。チンピラが集まって、何をしようとしているのか聞きに行くだけだ」
人の話を聞くよりも、拳に聞く方が得意なんて連中の前に堂々と出ていって、どんな勝算があるのか?
「俺の経験上、なんの問題はない。が、そんなヤツばかりじゃあないだろうから、頼むぜ。お前の腕っ節をアテにしてるぞ」
ティンクをアークスバッカーに置いてきてよかった。
「……でたとこ勝負だな」
腹を括るラリーは、アポースの背中を眺めながら、無言でついていく。