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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode20 「こんな休暇も悪くないな!」



 ティンクの滞在許可期間の延長手続きを終え、昼食のために個室をとって、ノインクラッドで今人気のランチを楽しむ。


「これで終わり? もう帰るの?」


「お前はどうしたい?」


「もちろん、街を見て回りたい」


 当然の反応だ。ずっと小さな惑星の小さな保護区で育ち、故郷を出たと行っても狭い船の中。あまり我が儘も言ってはならないと我慢してきただろう。


「すまなかったな。調停法で定められているとは言え、長い事閉じこめるような事をして」


「うぅうん。ベルトリカの中は自由だったし、情報もいっぱい見せてもらったし、ゲームも楽しかったから、窮屈とか思ったりしなかったよ」


 いつも同じようにそう答えてくれるティンクだが、やはり地上の街に来られたことは別格のようだ。


「早く、早く」


「おぉ! 好きなところに連れて行ってやるよ。お前は箱の中。だけどな」


『問題ないない。一緒に歩き回ってくれるって事でしょ。デートだね。楽しもうね』


 今日の日を楽しみにしていたティンクは、色んな場所をリサーチしていた。


 と言ってもこうして見て回れるとまでは思っていなかった。ボックスを作ってくれたオリビエには感謝しかない。


 観光地を回るもよし! 食べ歩きをするもよし!


 ただ何をするにしても、ネットダイブすれば疑似体験ができる世の中で、箱の中のティンクができる事も、ほとんど疑似体験と大差はない。


「なんだ、どこにも入らなくて良いのか?」


『うん、このまま散歩がいい。ラリーが歩いて、観てくれている光景が、肌で感じているみたいに伝わってくる。オリビエってすごいね』


 その喜ぶ表情は、ラリーがつけるサングラスに映し出される。


 2人は繁華街に出た。


 十分な軍資金はフランから受け取っている。


 ティンクだって、ベルトリカで給料を貰っている。


 しかし食べ歩くにしても、ティンクがお腹に入れられる量なんて、たかが知れている。


 それにノインクラッドに妖精族が着られる服は売ってない。


 サイズとしては子供の着せ替え人形の物なら。合う物もあるだろうが、作りがちゃちで着れない。


「オリビエの作ってくれたの、すごくかわいいんだよ」


 一着だけ持ってきていた専用服に、狭いボックスの中で器用に着替えて、ティータイムに入ったお店で披露してくれた。


「よく似合ってるじゃあないか。オリビエのセンスもなかなかなモンだな」


「ラリーのファッションセンスで、分かってもらえるか心配だったけど、褒めてもらえて嬉しいわ」


 ラリーは閑古鳥が鳴いて、妖精族がはしゃいでいても、店員以外に気にする目もなく。そんな店内から窓の外を見て珈琲に口を付ける。


「ティンク、ボックスに戻ってくれ、店を出る」


「えっ、なんで?」


「すまないが遊びは終わりだ。いや、確認して問題なかったら、もう少し遊べるから」


 店員に許可をもらって、ティンクのジュースをボックスの水筒に移し、会計を済ませて外に出る。


『どうしたの、慌てて』


「指名手配の犯罪者を見つけた。クリミナルファイターだ。依頼を受けた訳じゃあないから、追いかける必要はないんだけどな」


『うぅうん。それは追いかけるべきだよ。指名手配って事は、そいつを捕まえる事で、その後の大きな仕事も取れるかもなんだよね?』


「そいつはアンリッサとフラン次第だが、そうだな。優先的に回してもらえるから、ってのもあるが、単純に金払いが良いんだよ。……見つけた」


 ウイスクに撮った写真を元に、追跡サポートを開始する。


「海運会社の倉庫街に向かうな」


『かいうん……、って何?』


「おお、ティンクは知らなかったか? ノインクラッドはキリングパズールに比べて陸よりも海の割合が大きくて、重力も大きいからな。輸送品によっては陸路や海路を選択するんだよ。コストカットの為だな」


『へぇ、水に浮かべる船って、遊びに使う物だけだと思ってた。そう言えばかわいくない大きな船があったよね。ノインクラッドとガテンみたいな評議会非加盟惑星には』


 港にはあまり人影はなく、働いているのはロボットがほとんどだが、監視カメラは無数に配置されている。


「こんな所で何かをしようってのか? 見つけてくれと言わんばかりじゃないか」


 考えられるのは人目を集める囮役。


 と言う事は今この町には、こいつ以上の大物が潜伏している。その可能性が考えられる。


『ラリー、アイツは私が見張っておくから、町の方を』


「おお、その手があったか! なんて言うわけないだろ。今はアイツを抑えて終わりだ」


 見つけられるかどうか分からない相手より、目の前の捨て駒だ。


『だって、そいつの飼い主は、ここで何かをやらかそうってんでしょ!?』


「それこそこいつをサッサと捕まえて、だ。お前の事を気にしながら人捜しなんざ、上手くいくわけないだろ」


 ラリーは走り出し、目標のファイターの前に躍り出る。


 男は目的もなく徘徊している。


 港の倉庫街を2周もしているのだから、これ以上泳がせる必要もない。


 そう考えたのだが。


「掛かったな。どうも俺をつけているヤツがいると思って、炙り出そうと彷徨いたら、簡単に引っ掛かったな」


 周りをゴロツキが囲む。面倒だから数えないが、20人以上はいるだろう。


「この辺りの防犯設備はこいつらが先に来て潰したからな。ロボットばかりで目撃者もいねぇ。きっちり殺して、海に沈めてやるから覚悟しやがれ!」


「そうか、そうか、そうかよ! もしそれが本当なら大助かりだ」


 何をやって、なんで指名手配となって、どんな名前だったかも思い出せないが、それならそれで好都合。


 焦ってティンクに尾行を任せなくて大正解。


「ひっさびさの喧嘩だ! 腕が鳴るぜ」


『喧嘩って、そうだ。ラリー、あんた武器持ってないじゃない!? 逃げなきゃ!』


 ティンクが叫ぶが早いか、ラリーは「しっかり掴まってろよ」と言って、指名手配犯の前に立ちはだかるゴロツキ共に突っ込んだ。


『うそ、電波妨害まで!? これじゃあ人を呼べないじゃない!』


 アークスバッカーを呼べない。いや、そもそもが役所の駐機場に停めてあるから、無断で飛ばす事はできない。


 こうなったら自分が外に出て、一っ飛びで応援を呼びにいくしか。


『あれ、開かない。なんで?』


 その説明も受けていた。ラリーが直ぐ側にいて、起きている脳波状態で、彼がロックをした場合は、中からの開閉はできない仕組みだと。


『もう、ちょっと! ラリー、ここ開けてよ』


「お前が何を考えているのかはお見通しだ。心配すんな。直ぐに片付けるからよ」


 外の様子も見せてくれない。彼の声だけがティンクに許された情報源。確かにまだまだ余裕があるみたいだけど、ラリーが我慢強い事をティンクは知っている。


『ムリだよ。ラリーが死んじゃう……』


 そうして海に投げ捨てられて、ボックスが錘になって沈んじゃって、それでも中にいる自分だけは助かる可能性が残るなんて。


『そんなの、ダメだよ』


 涙がこぼれ落ち、次々と流れ出して止まらない。


「何がダメなんだよ」


 ボックスが開いた。


 覗き込んだのは傷一つない。いや、汗一つ書いてないラリーだった。


「あれ? ラリー、無事なの?」


「んだよ。当たり前だろ」


 外に飛び出すティンク。目の前に大勢の男。


「これ、やっつけたの?」


「26,27,28人。まあまあの数だな。歯応えなかったけど」


 呻く男達の中には、あの指名手配犯の醜く潰された顔もある。


「逃げ出したのは2人かな。そいつらがいなくなって、通信も繋がるようになったな」


 ラリーは警察を呼び、先ずは警備ロボットが来て、男達を手錠で拘束。


 まさかのラリーにまで手錠を填めようとしてくるが、そいつらを容赦なく殴っていたら、警察官がやってきて、10人掛かりで取り押さてくる。


 流石にこっちには手を出すわけにいかず、手錠を受け入れ犯罪者達と一緒に連行され、フランが身元引受人としてやってくるまで、話も聞いてもらえず、一晩牢屋で過ごす事になった。


 フランを交えてようやく話を聞いてもらえたラリーは、警察幹部から丁寧に頭を下げられ、皮肉混じりで謝罪に応じた。


 シュピナーグで降りてきたフランと別れ、アークスバッカーに戻ると、そこにはティンクの寝姿があり、起こすのもかわいそうなので、モビールを動かすことなく小一時間を過ごす。


「お、起きたか」


「ラリい?……、ラリー!? ラリーラリーラリー」


 また泣かれてしまった。


「よかったぜ。ここに戻っててくれたんだな」


 ラリーが警察を呼んで、すぐに駆けつけた警備ロボットと乱闘が始まり、ティンクはボックスに入れなかった。


 警察官が来たので急上昇して経過を観察していたら、ラリーは捕まって連れていかれてしまった。


 途方に暮れるティンクだったが意外と冷静で、取り敢えずはアークスバッカーに戻って、ベルトリカと連絡をとるのが先決と行動した。


 お陰で翌朝にはフランが、ラリーを引き取りに来てくれた。


「本当に助かったぜ。あいつら俺の言うことを聞きやがらねぇからよ」


 しばらく泣き顔の妖精の小さな手で、ポカポカと頭を叩かれ続けるラリーだったが、「そろそろ帰ろう」とティンクをなだめてボックスへ入ってもらい、アークスバッカーは飛び立つのだった。

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