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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode18 「モビールが揃ったぜ、暴れようじゃないか!」



 ラリー専用機のアークスバッカー、カート専用機の夜叉丸。


 ノインクラッドとキリングパズールで、一番の注目株の若きコスモ・テイカーとなった2人は、その専用モビールを見掛けるだけで、人々が歓喜の声を上げるような人気者になった。


「これがシュピナーグかぁ。このベルトリカに搭載されていた最後のモビールだな」


 エアロックがグリーンランプになり、ラリーが格納庫に入ってきた。


 ベルトリカ発見時、ロックされた格納庫の扉が開いたのは2年半前。


 アークスバッカーは半年もかからず、使用可能になった。


 豪華客船事件の直ぐ後に仕上がったのは夜叉丸。


 カートが扱いやすいように追加の改造もあったが、さほど時間も置かずに、この格納庫に戻ってきた。


「こいつは結構時間が掛かったんだな」


「うん、ボクの技術向上にって、親方がまる投げじゃあなくて、全面的に任せるって言ってくれたんだ」


「そいつはなんだ、大変だったな」


「うん、ニィーニが手伝ってくれて、親方も相談には乗ってくれたんだけど、万全に持っていくのに、すごく骨を折ったよ」


 ワンボック・ファクトリーの親方の元で、最低2年は技術を磨いて、超一流にしてやると言われていたオリビエだったが、修行を1年も短縮して、ベルトリカの専属メカニックとして、非公認に登録された。


「まだ7歳だもんな」


「公認非公認なんてどうでもいいよ。ボクはラリーの……、ベルトリカの役に立てればそれでいいんだ」


 ラリーの大きな手の平が、オリビエの可愛い頭に被さる。


 少し乱雑に撫でられて、それでも嫌がるどころか、ゴーグルで隠れてラリーからは見えないが、オリビエは頬を染めながら、されるがままに立ち尽くした。


「あらあら仲良しじゃない」


「やっと来たか二人とも」


 フランとカートに見られて恥ずかしいオリビエは、ラリーから離れてぎゅっと握って汗びしょになっていた手を拭った。


「カートよ。これ、足……だよな」


「ああ、足だな」


 ラリーはフランが使う事になる、シューピナーグの外観を見て感想を述べ、カートが同意する。


「やっぱり2人もそう思う?」


「よぉフラン、これから試乗すんだろ?」


 これまでは小型のシャトルシップで個人活動をしていたフランも、これで現場活動が楽になると、到着前から喜んでいた。


「試乗? するよ。……ねぇオリビエ、この形はやっぱり、この3機って?」


 やっぱり気になるのはそっち。


「くっつくよ。ジョイントパーツも確認してるし」


「……面白れぇな。そっちも試すか?」


「ラリーごめんね、それは無理なんだ。合体プログラムが見つからないのもだけど、合体装置が動かない理由も、解明ができていなくて」


 修行を繰り上げた一つの理由として、まだ解析が完了していない合体システムを調べる為にも、オリビエは現場にいる必要があると親方が判断した。


 後は実践訓練の中で、技術屋としての登録に必要なスキルを磨くことになったのだ。


「合体するんだって、分かっただけで楽しいじゃない」


 フランの言葉をいつも通り小馬鹿にするように。


「この3つを並べて、これが人型になると気付かないヤツがいたら、会ってみたいもんだな」


 と言うこの数年後にまさか、気付かない若者を預かる事になるとは、思ってもいないラリーだった。






 ノインクラッドで起業し、目まぐるしい急発展を遂げ、今年本社をキリングパズールに移転したオレグマグナの原点は造船業者。


 ここキリングパズールに来て、2代目の代では宇宙船を手掛けるようになった。


 3代目を約束された2代目の長男が、現場を見学するようになり、新事業として警備部門を設立することになった。


 警備部のシンボルとなる新造船の建造計画をスタートさせた。


 3代目が入社するまでに軌道に乗せようと、オレグマグナ製の汎用船を艤装した、急ごしらえの船隊で事業はスタートした。


 徐々に仕事件数を増していく日々も、隊員の訓練は欠かせず、実績のあるコスモ・テイカーとの合同演習も度々行っている。


 ベルトリカが今回受けた依頼は、オレグマグナ警備事業部との合同演習。


 次期社長も参加するとあって、ベルトリカの配置は異例のポジションとなった。


「お前が?」


「はい、フォレックス=マグナです。13歳です」


 17歳のラリーと並んで……、いや、比べる相手がわるい。


「背ぇ高いね。声変わりも済んでるんだ。言われなかったら、ラリーと同い年かと思っちゃいそうね」


 パスパード人成人女性の平均より、やや背の低いフランの目線は少年の鼻の辺り。


「それじゃあラリー、あなたがアークスバッカーに乗せてあげてね」


「なんだ、フランも出るんじゃあなかったのか?」


「出るわよ。けどシュピナーグは私1人じゃ、まだうまく動かせないから」


「うん? まさかオリビエを?」


「ボクはベルトリカ担当だよ。お姉ちゃんを補助するのは特製のAIユニット。だからコパイシートに人は乗れない」


 今日の訓練相手はキャリバー海賊団。


 新メンバーのノエル=ディスタークの初仕事、亡くなった副長の代わりに着任したのは、16歳の少女だった。


 キャリバー海賊団副長兼コーポレーション社長令嬢秘書として、地上ではその才能を活かし、まだまだ世間知らずのミリーシャを、1年前から補佐してきた。


 フランは集めた情報から、ノエルはきっとアンリッサ並みのキャリアを積むと見立てている。


『と言っても私たちが警戒する必要はないんだけどね』


「そろそろ出るぞ。坊ちゃん」


「その坊ちゃんは止めてください。フォレスでいいですから」


「それじゃあ御曹子だ。時間がねぇ。これ以上の無駄口は後回しだ」


 今回のオレグマグナの指揮を執るのは、このフォレックス=マグナ、次期社長。


 初陣ではあるが、シミュレーションだけなら52時間、しっかりと結果を残してきた。


 ネット対戦でも12戦目以後は無敗を誇っている。


 オレグマグナ5隻に対して、キャリバー海賊団は3隻。


 同業者に協力を要請して、ミリーシャの指揮下に入ってもらっている。どちらも祖父ギャレットの古い知人である。


 立会人はベルトリカ。オリビエが預かり、少し距離を置いている。


 ただしチームのモビール三機は、オレグマグナ側に付いて参加する。


 一応フランはラリーとカートに、フォレスの指示に従うように釘を刺した。


 のだが、一発目から命令を実行する事はなかった。


「だから合体はできないって言ってるだろ」


「そんなバカな話がありますか!? この形状で合体ができないなんて」


 フォレスは無類の人型変形合体ロボマニア。


 発現場でベルトリカチームに依頼したのも、広告サイトに更新されたシュピナーグを見たからだ。


『マグナさん、当方にも都合という物がございます。契約の時に条件付けがなかった要望には、お応えする義務もございませんので、その抗議は受け入れられませんよ』


 事務的に淡々としたフランの言葉は、これ以上の駄々は許されない空気が含まれていた。


 フォレスは不承不承引き下がった。


「僕の事はフォレスと呼んでください。フランソアさん」


「OK,フォレス。私もフランでいいわ」


 アークスバッカーがオレグマグナ船隊の前に出て、ランベルト号との回線を開く。


『久し振りだなラリー。今日はよろしく頼む、フォレクス=マグナ代表代行』


「は、始めましてキャプテン・ミリーシャ。よろしくお願いします」


『なんだ、緊張をしているのか? そんな状態でちゃんとした指揮が執れるのか?』


「その心配はいらないぜキャプテン。今回俺達が受けた依頼には、御曹子の補助と助言も含まれているからな」


 ここまでの打ち合わせで、助言はするが最低限にと先方から言われているのだが、ミリーシャの挑発的な態度に、ラリーに火がついて画面越しの睨み合いが始まる。


『ふん! 訓練後の反省会を楽しみにしているぞ。ラリー』


 あの事件後、初めての顔合わせだったが、彼女は特に無理をしているようには見えなかった。


 女海賊としての箔も付いたようで、遠慮なく返り討ちにしてやれそうだと、ラリーは興奮し始める。


『ラリー、打ち合わせ通りにお願いよ。こっちは防衛訓練だって、ちゃんと分かってるよね』


「おいおい、俺はお守り役だぜ。御曹子の邪魔なんかしねぇって」


 ラリーが何を考えているかなんて、ほぼ毎日ずっと一緒にいるフランには、顔を見ればほぼ当てられる。


 深い深い溜め息を零し、フランは作戦通りに、船隊の後方にシュピナーグを移動させた。

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