Episode17 「面白そうなモン手に入れたよな!」
ラリーとカートがバディーを組んだ初仕事を終え、ベルトリカへ帰還した。
「ラリーあんた! 調停法は頭に入ってるわよね!」
「も、もちろんだ」
「じゃあ、その子はいったいどうしてここにいるの!? 何があったの!?」
フランが両手を腰に当ててラリーを睨む。怒っているのが一目で分かる。
その視線はラリーの左肩に乗っかり、首にしがみつくフェラーファ人に向けられている。
「ラリーは命の恩人よ。その時にワタシを抱き抱えて、頭も守ってくれたの」
「それでプロポーズが成立しちゃった。ってことね」
「へんな風習よね。まっ、そのお陰で、あんな辺鄙なところから、こうして出てこられたって訳だけど」
星の決まりで、住処を出る事を許されないフェラーファ人。
ただし教えにも調停法にも向け道はある。
機会を待ち望んでいた妖精族は、依頼遂行のために人工惑星へ訪れた、コスモ・テイカーに接触し、望みを叶えてもらった。
「つまりあんたは、その穴だらけの策に乗ってあげたってこと?」
「ぐっ!」
ラリーの様子を見て、カートが肩をすくめる。
「もしかしてこのバカ」
「ああ、禁止区域に犯罪者が逃げこんだ。場所を気にもせず追跡、その妖精族に出会った」
フェラーファ人がフェニーナとなり、イズライトが現れるのを銀河評議会は望んでいる。
しかし全てのフェラーファ人が、フェニーナとなるわけではない。
少なくとも本人に強い意志がないとならない。それに気付いた研究者が、妖精族に風習を後付けして、信じ込ませたのだ。
フランはフェニーナが、パートナーの生命力を奪う習性がある。その伏せられた情報を掴んでいる。
厄介毎を引き込んだものだと、呆れるばかりだが、このフェラーファ人の様子からすると。
「あなた、名前は?」
「名前? ティンク=エルメンネッタよ」
「OK,ティンクね。それで? ラリーとはどうなりたいの?」
フランは危険度を確認する。
「どうって? ああ、……別に本当に結婚したいとかじゃあないよ。同い年らしいけど、法的には後2年は籍を一緒にできないし。先の事は分からないけどね」
「了解。つまりあなたは別にフェラーファに戻されるのも、場合によっては構わないと考えているのね」
「外の世界が期待はずれなら、苦労を自分から買って出ることもないからね」
調停法に基づき、外に出たフェラーファ人は、パートナーと籍を一緒にしないといけない。二年後、それを拒めばティンクは星に戻される。
希少なフェラーファ人を守るための措置だ。
「まぁ、いいわ。お疲れ様、明日はファクトリーに行くからね」
フランは議題を先に進めた。
「それじゃあ俺の?」
「そう、カートに合わせて積み替えた、コクピットの調整がしたいから、パイロットを連れて来いってさ」
ベルトリカ同様、積載モビールは古代文明の産物。並みの技術者では手をつける事もできない代物。
「ワンボックか、オリビエはどうしてるかな?」
ラリーはランベルト号の豪華客船事件前に潰した、人身売買組織に捕まっていた少女の事を思い出す。
少女は大事な商品のはずなのに、檻の中は暖房もなく、寒さの中で薄着の裸足、手足の末端が壊死し、切除するしかなかった。
もう少し遅ければ、命も落としていたかもしれない。
「久し振りに会えるわね。元気になってればいいけど」
フランはその子の将来を考えて、銀河最高の技術力を持つファクトリーで、義手義足作ってもらい、今はリハビリ中だ。
ワンボック・ファクトリーのドックにはランベルト号も入港していた。
副長と数人の突撃隊員を失ったキャリバー海賊団は、しばらく人員補給に時間を費やしていたが、なかなか見つからない副長は、エルディーに兼任してもらうとして、営業再開が可能となる人員は集まり、仕事前に船体のメンテナンスをしに訪れたのだ。
「なんだよ親方はランベルト号を見てるのかよ」
「あの船は特別で、特殊だからな」
「それじゃあウチのモビールは、まさかフンデが?」
「俺じゃあ不安か、ラリー?」
「ああ、不安だな」
「お前なぁ……まぁ、いいさ。安心していいぞラリー。あれの改造は親方がして、仕上げをとある天才が任されている。そろそろ終わっている頃だ」
フランはファクトリーの事務所に行っている。
カートを入れた3人は、モビールを調整中の工作室へ向かっている。
このファクトリーの代表であり、親方と呼ばれる銀河一の技術者、オルボルト=ベッツェマック。
その一番弟子であるフンディフラ=フォラフディアが、天才と呼ぶ人物。ラリーは自然とワクワクしていた。
「連れてきたぞ」
「……ニィーニ」
工作室にいたのは、ファクトリーの作業着を着た、ゴーグル姿の小さな子供だった。
「おいフンデ、これは何の冗談だ?」
頼んでいたモビールがあると言う事は、場所はここで間違いない。
「ガキんちょを見習いにする事もあるとは聞いていたが、そんなちっこいのを現場に立たせるものなのか?」
大きなゴーグルで顔立ちは読みにくいが、見た目では4、5歳といったところだろうか。
「そうだな、普通は早くても8歳くらいだな。6歳で親方の目に止まるなんて、本当にビックリしたよ」
「6っておま!」
「驚くよな。作業は親方がやったんだが、仕上げをこいつにやらせようと言った時は、耳を疑ったけど反対しなかったお陰で、ホンモンの天才ってヤツを拝むことができた」
「っておい、お前が天才と認めるのが、あんなガキんちょなのか?」
カートにコクピットの仕様について説明をする6歳児、異様な光景だと感じるラリーだが、それは夢でも幻でもない。
「まぁいいか。そんじゃこの間に、俺はオリビエでも見舞うかな」
「……なに言ってんの、お前? オリビエならカートとずっと喋ってるじゃないか」
「はあ?」
重傷のオリビエを評議会の運営する連盟病院ではなく、ファクトリーに連れてきたのは、普通の外科手術では救えないとフランが言ったからだ。
確かに期待はもてると賛同したが、こんな短時間で動けるようになっているはずがない。
ましてやラリーは万年見習いと茶化しているが、一流の技術者であるフンデが天才と認める技術者になってるなんて有り得ない。
「お前、本当にオリビエなのか?」
「……ラリーは、全然お見舞いに来てくれなかったモンね。ボクの顔も覚えていないなんて」
「待て待て待て、長かった髪を切って、そんなゴーグルつけたヤツを、顔で判別なんてできないっての」
カートへの説明を一通り終え、オリビエはグローブを外す。
「やっぱスゲーな、ファクトリーの義手は」
「うん、見ただけじゃあ全く分からないよね。でもそれだけじゃあないよ。精密作業をしていても、生身の手みたいに使えるんだから」
「……なんでゴーグルも外さないんだ?」
「いいでしょ、ボクだって分かってんならさ」
「そのボクってのも、急に変えちゃってさ。初めてあった時はアタシって言ってたのによ」
オリビエは赤面と共にフランとの会話を思い出した。
命懸けで救い出してくれた恩人の顔が、真っ直ぐ見れないと言う相談に、ゴーグルの着用を提案され、お陰で今も顔が赤い事を気付かれずに済んだ。
自分の事をボクと言うようになったのは、見舞いに全然来てくれなかったラリーへの、ささやかな反抗である。
「オリビエ、いいか?」
カートが呼んでいる。
「あっ、うん。ごめんね」
元々は引っ込み思案だったオリビエが、ファクトリーの職員や、初対面のカートとも上手くやれているのもゴーグルのお陰だ。
「そういやカートは、どんなオーダーを出したんだ?」
二人が入っていったモビールに近付き、ラリーは顔を覗かせる。
「なんじゃ、こりゃ!?」
「なに?」
覗き込んだそこには、レバーもペダルもシートすらなく、カートが腰にベルトを付けて立っている。
「どういう構造なんだ?」
「せっかく腕が付いているから、武装も刀にして、モーショントレースで扱いたいってオーダーもらったから。親方の懇親の作だって」
広々とした空間で、両手両足を目一杯に伸ばせる中、カートの動きに合わせてマニュピレーターが動き、スラスターが姿勢を変える。
「へぇ、反応速度が面白いくらい良さそうだな」
一通りの操作法を覚え、シミュレーターで体験。
360度スクリーンにも戸惑うことなく、カートは一発で対応できた。
いよいよ宇宙で。
の手前でフランからの通信が入り、ラリーはオリビエをアークスバッカーに乗せて、ベルトリカに二機のモビールは帰還した。