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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode15 「強ぇ~じゃねぇか! 痛ぇ~じゃねぇか! バカヤロー!!」



 ラリーがカートの動きを目で追えるようになったのは、開始から1分が過ぎた頃。


 体中に切り傷がつけられ、出血もおびただしいが、致命傷にはなっていない。


「なるほど、やっと掴めてきたぜ、今度はこっちが拳を食らわせてやる」


 有利に立ち回りを続けるカートだったが、ラリーはカートとの距離感を掴みはじめ、攻撃がヒットしなくなっていく。


 だからといってラリーの攻撃が、カートに届くかと言えば、そちらの見込みは、いまのところまだ全くない。


「本当にすばしっこいな、紙一重……じゃあないな。こいつまだ余裕ある感じか」


 大振りにならないように、コンパクトに拳を繰り出し続けるが、それでも掠る事もなく、カートはカウンターを打つ。


「くっ!」


 カートが初ヒットをもらった。


「ミリシャ!? 手を出すな!」


 ラリーに集中するカートは、背後から襲ってきた蛇腹剣に気付かず、背中を引き裂かれてしまった。


「なんでさ、二人でさっさと片付けて、機関室に向かうべきだろう」


「そう言うんじゃあねぇよ。そいつの纏う殺気が変わった。さっきまでのヤローにも苦戦していたお前じゃあ、手も足も出せねぇ」


 表情の読めなかったカートが、歯を食いしばり姿勢を更に低くして、明らかに怒っている。


「苦戦してたのはあんたもでしょ」


「心配いらねぇ、俺もここからは本気だ。体がぶっ壊れても、ヤツを止めてやるよ」


 ラリーはナックルのタービンを廻し、高周波を上げる。


「いい感じだな。これが上手くいけば、足にも装備するか」


 隙だらけのラリーに襲い掛かることなく、氣を高めて背中の傷を止血していたカートの準備も万端。


「こいよ、……そう言やなんて名前だ?」


「カーティスだ。カートと呼べと言っていたぞ」


「カートか、よっしゃ! たぎってきたぜ!!」


 先手を取ったのはカート。ラリー目掛けて突進してくる、そのスピードは目測で1.8倍。


 目は追いついている。体は反応した。しかし拳が間に合うタイミングではないラリー。


「だらぁ!」


 前腕を覆う右ナックルは、ラリーの肘辺りにあるスラスターから、圧縮空気を吹き出し、突き出す拳を後押しする。


 間髪入れずブーストのかかった左フックを打つ。カートはラリーの右ストレートを右手の短刀で受け止めた。その頭を狙う。


 左フックを止める手立てがなく、カートは後ろに引く。追い風はラリーにある、空気圧ではなくジェット噴射で体ごと殴りかかる。


 右拳が壁に穴を開ける。間一髪の所で躱したカートは、一瞬動きの止まったラリーの右サイドを狙う。


「ミリシャ!?」


 ラリーへ斬りかかる手を止め、後ろから襲いくるミリーシャへ、カートは踵を返す。


 完全にカウンターとなり、ミリーシャは蛇腹剣を落とし、カートの回し蹴りが後頭部にヒット。


「おい、しっかりしろ!」


 ラリーは慌てて右手を引き抜き、ミリーシャの背中を左の短剣で突き刺そうとしているカートの左肩目掛けて、左チョッピングライトをクリーンヒットさせるが、カートは力に逆らわず一回転し、ダメージを最小限にする。


 失神しているのか、動かないミリーシャの頭近くに短剣が落ち、それを拾おうとするカートの側頭部へ放つ右前蹴りは空を切る。


 ヒットはさせられなかったが、カートに武器を諦めさせる事はできた。


 相手の武器を拾い上げたラリーは、ジェット噴射の力を借りて、地面に短剣を打ち込むと、ミリーシャを横抱きに持ち上げた。


「これは俺とお前の殺し合いだ。こいつには手を出すな」


 決闘中なのに背中を見せ、近くの誰のとも知らない客室の扉を開けて、ミリーシャを寝かせて廊下に戻る。


「諦めろよ。そいつは俺の怒りだ。簡単に抜けるかよ」


 ラリーに背中を向けて、膝をついていたカートは、立ち上がって振り返る。


「正気に戻ったか?」


 カートが放っていた殺気が修まった。気の乱れも感じなくなり、少年は悲しい目でラリーに訴えかけた。


「……まだやろうってのか?」


「いや、俺は投降する。もうお前達とは戦わない。俺の敵はアイツだ。アイツを倒したら警察機構軍に出頭する」


「アイツってのは、お前をここに連れてきたヤツか?」


「ああ、アイツは俺の仲間の仇だ」


 複雑な事情がありそうだが、ラリーは気にしなかった。


「だったらお前、俺と組まないか?」


「お前と?」


「ああ、オレらのチームに入れよ」


 オレらの=ベルトリカチームへの勧誘、ラリーは自分の直感に従い、仲間を得ようとする。


「そう言うのはいらない。アイツのトドメは俺1人で刺す」


「任せられそうなら、それでもいいけどよ。そうじゃあなくて、アイツを敵に回すという事はお前、アイツを裏切って、帰る場所もなくなるって事だろ」


「余計なお節介だ。俺は1人でも生きていける」


「つまりはどこでもいいってことだろ? だからさ」


「……考えておく」


 話はまとまった(?)


 ヴァン=アザルドは機関室にいるはず。


 2人とも無言のまま、全く同時に走り出したが、途端に船が大きく揺れ、大きな異変はすぐに起こった。


 2人がこの船内で、ヴァン=アザルドに再開する事は、叶わないのだった。






 ラリーとカートが決闘を始める少し前、ヴァン=アザルドは機関室に入り、扉をロックした。


 外からの増援を防ぐべく、扉の電子回路をショックガンで焼き切り、先に中の防衛を固めていた船の警備員と、突撃してきた海賊に対峙した。


「キサマが賊の頭目か」


「へぇ、これはこれは随分と古ぼけたジジイが、まだ現役を続けていたとはな」


「お前、ヴァン=アザルドか?」


「エルデルザル=デゼブといい、キャリバー海賊団ってのは、看板に恥じねぇ切れ者の集まりみてぇだな」


 その突撃隊長は機関室の前まで来たものの。


 自分一人の装備では、扉も壁も破れない事に気づき、大ホールにいる仲間の元へ引き返していった。


「ヴァン=アザルド、お前はもっと用心深いヤツだと思ってたんだが、1人でノコノコと何をしに来た?」


「1人がなんだよ。お前だって1人だろブラガ=ラッセンス」


「んだとぉ?」


 振り返るブラガは、我が目を疑う。


「何をしやがった!?」


 警備員6名と突撃部隊員8名が、頭から血を流して倒れている。


 警備員は全員死んでいるようだ。海賊団員は皆、立ち上がれそうにないが、ひとまずの心配はなさそうだ。


「はははぁ~、大したモンだ。本気で殺そうと思ってたのによ」


「イズライトか? どんな能力かは検討もつかねぇが、詰めは甘いって事だな」


 3分割された棒を繋いで一本の槍に。構えるブラガは先手必勝、鋭い突きでヴァン=アザルドの心臓を狙う。


「なんだと!?」


 何が起こったのかは分からない。


 男は一歩も動いていない。なのに無傷で立っている。


 幻覚を見せるイズライトなのか?


 しかしそれだけの能力では、離れた大勢を倒した理由を説明できない。


「これならどうだ!」


 幻覚なんか関係ない。連撃で避ける余裕もないほどに、広範囲に攻撃を繰り出せば必ずヒットする。


「バカな!?」


 はずだったのだが、どうしてもヴァン=アザルドに当てる事ができない。


「お前の能力はもしかして……」


「もう気付いたのか? お前は生かしておくと、後々面倒になりそうだ」


 ブラガは槍を捨てて、銃を手に取る。


「あああ、あああああ!?」


 ブラガにも今度は、自分に何が起きているのかが自覚できる。


 指先が麻痺し、言う事を利かなくなっている。銃口がこめかみに向けられる。自分の手によって。


「くそ、言う事をききやがれ! この!?」


「あばよ、ロートル。ここはお前の命に免じて、そっちのガキ共には手を出さないでおいてやるよ。直接はな」


 ブラガは相手の能力の正体を知る事のないまま、眠りにつくのだった。

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