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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode14 「これ、放っておいていい訳ないだろ!」



 客船に乗り込んだキャリバー海賊団突撃部隊だったが、護るべきは大ホールの乗客。他にもブリッジと機関室。


 部隊員は2対1体1に別れ、ホール、ブリッジ、エンジンルームに向かった。


 会場直ぐのエアロックから入ってきたミリーシャは、そのままホールへ入っていき、副長のブラガは機関室へと足を向けた。


「状況は?」


「間もなく賊が姿を現します。あれ(・・)を当てにしたんですが、向こうの用意周到振りは、なかなか侮れませんぜ」


 あれ=ガードロボットが稼働しているが、アザルト海賊団が放った戦闘ロボットとの力は同等。賊の足止めはできていない。


「来ましたよ。キャプテン」


「ああ、悔しいが私よりよっぽど、海賊らしい面構えな連中だな」


 海賊業もそこそこ長い突撃隊長は、賊の先頭に立つ男の顔に見覚えがあった。


「ザザスレ=ガップラン、一世代前の悪投がこんなところで登場するとはな」


「世代遅れはお互い様だろう、エルデルザル=デゼブ」


 ギャレット=キャリバーの時代に因縁がついた元同業者。


「公認を受けた海賊でありながら、野党のような行為を繰り返して、免状を取り上げられた犯罪者ですよ」


「ああ、聞いた事あるよ。とんだ守銭奴の小悪投だとな」


 名は売れているが、こんな大掛かりな事をやる行動力を、持ち合わす大物ではない事も、ミリーシャは知っている。


「アザルト海賊団と言っていたな、キサマもあの男に、尻尾を振り回しているということか」


 エルディーには、この乱入してきた首謀者の正体に心当たりがある。


 だがその男の姿はここにはない。


「キャプテン、ここはさっさと片付けてブリッジへ向かうぞ」


「エルデルザルめ、キサマは俺を嘗めきっているな」


「分かってるじゃあないか。ウチの大将に一度も勝てなかったお前なんかに、お嬢が負けるわけがないからな」


「エルディー、お嬢はやめろ」


 苦笑いの突撃隊長の顔に、怒髪天のザザスレからの先制攻撃。


 得意武器はショックガンが仕込まれたシャムシェール。


 曲刀のつばにある銃口からスタングリッドが飛んでくる。


「洒落のきかんヤツだな」


 ミリーシャは絶縁されたサーベルで高電圧弾を受け流し、そのままザザスレの心臓目掛けて突きを繰り出す。


「小娘の割に鋭い剣捌きだ。だが!」


 シャムシェールを叩きつけられ、ミリーシャは剣を落としそうになるが、左手に持った銃をで男の足を撃つ。小悪党は慌てて後ろに下がる。


「やはりこの程度か」


 ザザスレと共にいる連中も合わせて、ミリーシャと突撃部隊員で対処できると踏んだエルディーは、先にブリッジに向かう事にした。


「キサマ、そこまで俺を侮るか!?」


「目の前に集中しろよ。そんなだから小悪党なんだよ、お前は」


「エルディー、もう聞こえていないようだぞ」


 銃を向けられているのに余所見をした。撃ってくれと言っているようなもんだ。


「ヘッドショットですか、容赦ありませんな」


「子供の頃にこういう輩に殺されそうになったからな。遠慮はいらん」


「海賊になる覚悟は、ずっと持ってましたな」


 指揮官の死に動揺する敵海賊団に、士気で勝るキャリバー海賊団突撃部隊の勢いを信じて、ミリーシャはエルディーと走り出した。






 ブリッジには先客がいて、乗員は全員殺されていた。


「ウチの連中も皆殺しか、酷い事をしやがる。……お前がヴァン=アザルドだな」


 前科8犯。十数年前から幾度となく、キャリバー海賊団とも事を構えてきた。


 全銀河指名手配犯。賞金も最高額と、名前だけなら裏社会で知らない者はいない。


「あ~ん、よく分かったな?」


 名前は広く知れ渡っているが、人相を知るものは少ない。


 手配書なんて意味がないほど多くの人相書きが出回っており、誰も本当の顔を知らないとされている。


「名前を晒しておいてよく言うぜ。しかもこの殺気、不気味な雰囲気がお前を本物と教えてくれる」


「なるほどな、お前がエルデルザル=デゼブか。そんでそっちのお嬢ちゃんがジジイの孫だな」


 評議会公認のキャリバー海賊団の情報は、キャプテン交代も更新されている。顔を知られていても当然だ。


「キャプテン、あいつはヤバイ。二人でやるぞ! 一気に片付けないとマズイことになる」


「待て待て、お前らと遊ぶのは俺じゃあない。俺は忙しいんだよ」


 ここにいる賊はヴァン=アザルドのみ。いや、その後ろには……少年が一人。


「お前の仕事は足止めだ」


「ああ、分かってる」


 立ち去ろうとするヴァン=アザルドに、ミリーシャが斬りかかる。


「おっと、小僧! お前の相手はこの俺だ」


 少年がミリーシャを襲おうとするのを、エルディーは銃で牽制する。


 ミリーシャは邪魔を受けず、加速して突きを繰り出す。


「へぇ、なかなかやるじゃあねぇか。それにお前、生身の体じゃないな」


 ヴァン=アザルドは女海賊のセイバーを躱して、するどくナイフを投げた。


 ミリーシャは左手でナイフを払いのける。


「女だからと見くびるなよ。お前の首をへし折る力はあるぞ」


 続けて投げられるナイフも腕で弾き、距離を取ろうとする男目掛けて突っ込む。


「なんだ足も作りもんか、めんどうくせぇな」


 義足の限界ギリギリの加速を活かして、ミリーシャは突きを出すが、後ろに飛ぶヴァン=アザルドにセイバーが届かない。


「小僧、女の相手をしろ。俺は機関室へ向かう」


「分かった」


 短刀を二刀流に構える少年がエルディーから離れて、恐ろしいスピードでミリーシャの前に躍り出る。


「んだ!? なんてスピードだよ。俺を相手に手を抜いてやがったのか?」


「こ、この!」


「キャプテン!?」


 機械仕掛けの腕と下半身を巧みに防御に使い、ミリーシャはなんとか最初の攻撃を防ぎきった。


「エルディー、ここはいい。あの男を追え!」


「しかし、そいつは……」


「強さが問題ではない。さっきの男は危険な匂いがする。私ではダメだ。あっちはお前に任せる他ない」


 少年のスピードはミリーシャがどう足掻いても、傷一つ付けられるものではない。


 しかしヴァン=アザルドという男を、1分1秒でも自由にさせておくわけにはいかない。


「了解だ。キャプテン、その坊主を相手に難しいかもしれんが、ホールまで下がれ! いいな、死ぬなよ!!」


 エルディーを邪魔しようと短剣を突き出すが、ミリーシャはそれを胸で受けて仲間を庇う。


「ここも生身じゃあないのさ」


 ミリーシャはセイバーを投げ捨てた。


「名前、まだ聞いてないな。私はミリーシャ=キャリバー、キャリバー海賊団の2代目船長だ。……どうした? あの男に名前を伏せるように言われているか?」


「いや、カーティス=リンカナムだ。カートと呼ばれている」


「そうか、ではカート、お前に押し切られないように、私のとっておきを見せてやろう」


 ミリーシャは背負う剣を抜いた。


「まだまだ修行中だが、お前のスピードに対するには、こいつの力を借りるしかない」


 片手で楽々振り回せていたセイバーから、義体のお陰で片手でも扱えるが、基本は両手持ちになる大振りの剣を正眼に構える。


「蛇腹剣か?」


「一目で見抜くかい? 驚かしてやろうと思っていたのにな」


 刀身が分割し、ワイヤーで繋がった刃を鞭のように振り回せる。


 そんな実戦向きではない剣を見て、普通の感覚ならバカにして、油断してくれただろう。


「脳波誘導型か」


「本当に面白くない男だ!」


 ミリーシャは剣を振るい、分裂した刃は勢いのままに、弧を描いて敵を襲う。


 なにも細工がなければ、避けられたそれは地面を叩いて終わりだ。


 だが脳波誘導により、自在に操れる蛇腹剣をカートは華麗に避けるが、短剣が届く位置まで近づけない。


 このままうまく仲間の元へ、誘導ができらば……。


「……なるほどな。このような武器がこれほどに効果的とは、本当に驚かされた」


 表情一つ変えずに、カートは蛇腹剣を二刀で捌いて、ミリーシャの懐に入ろうとする。


「もうこの動きに対応できるようになったのか……」


 ミリーシャは上がる息を整える間もない。


 カートが蛇剣の動きに慣れてきているのは間違いない。


 この分だと直に手が届くようになる。


 まだホールまでは距離があるのに。


「ここまでか……」


 カートが初めて殺気を放った。トドメを刺そうとしている。


 ミリーシャは固くなるが、殺気はこちらに向けられた物ではなかった。


「よく頑張ったな」


「な、なんであんたがここにいるのよ? 高みの見物を決めてたんでしょ!」


 緊張の糸が緩むミリーシャは、すんでの所で涙が溢れるのを止める事ができた。


「助けに来てやったのに、随分だな。さぁ、選手交代だ!」


 ラリーは大きなナックルを構え、カートに勝る殺気を発した。

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