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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode12 「使い慣れない武器ってのは厄介だな!」



 リーチは当然セイバーに分があるが、ベアナックル男の突進力は半端じゃあない。


 先手を取ったミリーシャの懐に潜り込み、三度ワンツーを打つとステップを踏んで、相手の左側面に回る。


 右フックはキャプテンの背中を狙い、紙一重で左肩を掠めるにとどまった。


「待たんか、小僧!!」


 エルディーが割って入らなければ、更に一歩踏み込んめば右パンチが、女海賊のボディーへめり込んでいただろう。


「この一騎打ちの決闘では、我ら海賊の流儀に従ってもらう。それに乗れぬと言うなら、我ら全員の相手をしてもらうぞ」


 エルディーはあらゆる武器という武器、武器とは言えない物も武器として戦う、ラリーが知る中で、最も強い男の1人。


「海賊の流儀?」


「先ずは名乗れ、そして開始の合図を待て」


 荒くれ者とイメージの付いている海賊だからこそ、儀礼というものを重んじていると聞いたことがある。


 ラリーは拳を引き、さっきまで自分たちが踊っていた辺りまで下がる。


 この距離だともう奇襲はできない。


 だがトレーニングをしていると言っても、ミリーシャは初心者も同然。フェイントの一つも入れれば、また同じ展開に持って行けるだろう。


「俺はノインクラッド所属のコスモ・テイカー、フィゼラリー=エブンソン。高名なキャリバー海賊団の若きキャプテン、ミリーシャ=キャリバーに決闘を申し込む」


 これも報酬分。見せ物になるのも承知の上。


「それじゃあ、さっさとおっ始めようぜ」


「待て、キサマは武器も持たずに決闘をしようというのか?」


「悪いのか?」


「悪い!」


 エルディーは後ろにいる仲間に、ミリーシャと同じタイプの剣を、ラリーに渡させた。


「俺にもセイバーを持てと?」


「そのグローブを外してな。海賊の決闘と言えばこれだ。挑戦者はお前、だから試合内容を決めるのはこちらとなる」


 ラリーは挑戦させられたのだ。なのにこんなに条件を出されるとは……。


「いやなら我ら全員を相手にするのだな?」


「分かったよ。四の五の言える立場じゃないもんな」


 エルディーは自分の立てた計画に満足していた。


 海賊としてはまだまだ新米のミリーシャだが、子供の頃から続けているフェンシングの腕には太鼓判を押せる。


 対するラリーは銃以外の武器を、ほぼ使った事のないと聞く。


 健常者ではないミリーシャだが、フィッツキャリバーで作った物よりも、高性能なワンボック・ファクトリー製を使っており、その義体との相性もいい。


 ミリーシャの勝利は確実。


 しかも不利な状況で戦わされる、新人テイカーが負けたとしても、何も傷ついたりはしない、完璧なプランだ。


「準備はいいか? これ以上は乗客を待たせられんぞ」


「キャプテン。ええ、もういいでしょう。では差し出がましくもこの俺が、号令を掛けさせてもらいましょう」


「頼むぞ、エルディー」


 セイバーに刃はない。しかし先端が丸く削られているだけで、金属で打たれればノーダメージではいられない。


「けっこうしなるな。どんな使い方するんだ、これ?」


「両者、構え!」


 エルディーからの号令、ラリーはミリーシャを観察、見よう見まねで剣を前に突き出す。


「始め!」


 エルディーの思惑通り、初手を繰り出したのはミリーシャ。ラリーはしばらく防御に徹して様子を見るしかない。


「早い! ステップも独特だな。リーチを稼いでいるのか?」


 届くと思えない位置から剣先が飛んでくる。


「ほっそい剣だな。防御に使うのも至難の技じゃあないかよ。ナックルの方がまだマシだぜ」


 剣を捨てて殴りかからないように、グローブも外させられた。手で受け止める事もできない。


 撓る剣は躱した切っ先が軌道を変えて、ラリーに突き刺さる。


「痛いじゃあねぇかよ」


「それがイヤならさっさと降参しろ」


 釣り上がった目と引きつった口角、怒髪天と言っていい気迫。


「ってお前、なんでそんなに怒ってんだ? これは見せ物だろうがよ」


「うるさい、お前はなんであの女と、あんな楽しそうに踊っていたのだ、フェゼラリー!」


「なに?」


 ミリーシャの言うあの女、フランを睨んで、ノールックでラリーの喉元を突いてくる。


「うぉっ、あぶねぇ! 楽しそうって、見てたのかよ」


「私の誘いはさんざん断っておいて、いったいどういう事なのさ」


 力もスピードも増して、これは果たしてショーのイベントと呼んでいいのか? 大振りはなし、玄人好みの技の光るラッシュでラリーを追い込む。


 だがこの男もやられてばかりではない。


「よっ、はっ、よっしゃ! 段々と分かってきたぞ」


 無手が心情だからこそ、敵の攻撃の呼吸を読む力を磨いてきた。


 天性の勘とも言える感覚で、ミリーシャのセイバーの動きを読み、自らの剣の軌道も計算道理に操作してみせる。


「小僧の動きが変わった?」


「あの程度で驚かないでちょうだい」


「小僧の連れか?」


 試合に集中していたとは言え、フランが横に並ぶのに気付けなかった事は、エルディーにとってショックはデカい。


「気にしないで。私、戦うのはちょっと苦手だけど、逃げ隠れするのは天才的だから」


 ミリーシャの推薦で選んだチームだが、姿を見せたのは若者2人組。


 ちゃんと期待に応えるかと不安だったエルディーだが、懸念はひっくり返される。


「おおー!?」


 観客が沸き立つ。エルディーはミリーシャ達に目線を戻す。


「あの小僧は何者だ?」


「ただの生意気な弟分よ。ちょっと人よりも物覚えがよくて、人よりも頭の回転が早くて、人よりも体を鍛えるのが好きなだけのね」


 生死を分けた脳改造と、子供の頃からの修練の成果である事をばらすつもりはない。


「まぁ、……天才って言っていいんじゃない?」


 いつの間にかラリーは同レベルの、好勝負ができるまでに進化している。


 少年のスーツはボロボロで、観客の目にはまだキャプテン優勢に見えるだろうが、2人の実力は拮抗していると言えるだろう。


「そう言うイズライトがあるのか?」


「違うって、ラリーはまだイズライト持ちじゃあないもの。もしかしたら、あの子には何もないのかも」


 場内の興奮も最高潮。


 素人でも分かる。ラリーが逆転し、ミリーシャの表情が歪む。


「体力の限界か。お嬢のスタミナも普通に考えれば超人と言えるのだが、小僧め、俺といい勝負か、それ以上か」


 ミリーシャの動きが鈍くなる所なんて、訓練中には見た事もなかったが、ここが限界のようだ。


 新キャプテンのデビューを気持ちよく、飾ってやろうとしたが、この相手を選んだ本人には、結果も受け入れてもらうしかない。


「そんなに気を遣う必要ないんじゃあない?」


「そ、そうか?」


「彼女の顔を見たら分かるでしょ」


 スパンコールの少女の言っている事が、古参海賊には分からない。苦悶の表情を隠せないミリーシャは、いつ倒れてもおかしくない。


「満足そうじゃない。ラリーは手を抜くことなく全力を出している。それが嬉しいんでしょう」


 それが本当ならもう十分だ。客船のイベントとしても、これだけ盛り上がれば問題ない。


 手を掲げて終了を告げようとしたエルディーダが。


「何事だ!?」


 大きな音がして、船が揺れる。


「隊長、ランベルト号から通信です!」


「ブラガからか、……何があった?」


『エルディー、不味い事になったぞ。公式航路に非公認の海賊の襲来だ』


「なんだと、ありえんぞ」


「どういう事? 非公認の海賊って?」


「嬢ちゃん、悪いが頼みがある」


 エルディーはフランに2、3言交わして、会場の中心にいるミリーシャの元へ走り、状況を説明すると一緒に出て行ってしまう。


「どうなってるんだ? フラン」


「ラリー、とりあえずはお疲れ様。さぁ、私たちも行きましょう」


「話は船に戻ってからよ」


 ラリーのように状況が分かっていない観客にも、船員からの説明が始まっている。


 2人は会場を出て、豪華客船の船底にドッキングしているベルトリカへ向かった。

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