ヒュー
さて、それでは大国②へ行こう。
不思議そうな顔をしたレイナード君を残して、大国②の王城前へ転移した。
「で、誰に会うの?」
「宰相様だよ、ついてくるかい?」
「もちろん」
大国②では宰相が国のトップにいる。王宮ではないが、案内された宰相室は必要以上に装飾が多い、まるで王の部屋のようだ。
ここの宰相ヒュー・ベルリハルトは、黒髪黒目で冷たい切れ者という印象がある。実際その通りだが、話が早くて仕事がしやすい、悪い感じはしない。
ところが、婿探しに積極的だった魔王様が尻込みしている。どうした、いい男だろう、お嬢ちゃん?
「ユーリ宰相補佐、わざわざご苦労様。で、どうなったの?そこの魔王様がらみで何かあった?」
本当に話が早い。
「彼女はただの付き添いですよ、今回のことには全くといっていいほど関与していない。王太子殿下は独立を認めてくれたら、という一方的な言い方しかしませんから。
N国は撤退します、国境へは攻めて来ないという確約がとれましたので。大使館は包囲されますが、交渉が始まれば退くようです」
「うん、それで交渉の打ち合わせ?それとも私と魔王様のお見合い?」
本当に状況から全てを悟る男だね。
「両方ですよ」
「ほほう、彼女は私の嫁になる気があるの?」
なんでここで引っ込むかな、ヒュー・ベルリハルトがいいというのなら、願ってもない政略結婚じゃないか。
(取って食われそうで怖い)
魔王が人にか?大国②の宰相と魔の国の王が夫婦なら、怖いものなしだろうが、なぜためらう?
(人が悪そうに、にやにや笑うし、威圧してくるし)
宰相なんてやってたら腹の中は黒くなるし、相手を圧倒するくらいの力がなきゃできないよ、そういう仕事の人だからだよ。
(ユーリとレイナードもいいから)
こっちは困るけどね、わかった。
「まあ、今日は顔合わせということでご挨拶だけですよ」
「なんだ、私を選んでくれないの?ユーリさんの仲介なら文句はないよ、私の婚約者候補たちも処理してくれそうだし。
それとも強力なライバルがいる?私に対抗するような?」
本当におもしろそうだな、戦争の交渉以上にやる気があるね。
「最近ないくらいおもしろい話だね?」
嫌味のある笑顔だが楽しそうだ、魔王様が固まってるけど。
「あー、こういった話は急いでいいものでもないですから」
「で、独立の方向で動くんだ?」
「王太子殿下のこだわり方からして、その方がいいでしょう。これから第二王子でも立てて争うなんてことしたいですか」
「いや、第二王子じゃ今後の交渉もできないよ、あの国を滅ぼすのが目的じゃない。
独立で最大限利益がこっちにくるようにしてくれたらいいよ、N国も協力してくれるんでしょう?とんでもない利益を期待しているわけじゃない、うまくやってよ。
魔王様も付けてくれるなら多少のことで文句はいわないから」
からめてくるね、でもこれで了承ということだ。
「ご期待通りうまくいくといいですが、とりあえず、できるだけ安く農産物を大国②へ輸出するという交渉ですね?」
「魔王様の方が重要かな、それでいいよ、決まったら王と直接会おう。王の策なの?魔王様を嫁にくれるっていうのは」
「そんなわけないでしょう、彼女は自分の意志でここにいるのですよ」
「思ってたより美人だしかわいいね、大事に隠されていたわけだ」
ヒュー・ベルリハルトが簡単に受け入れたことにほっとしたが、お嬢ちゃんの顔色が悪い、自分で勝手について来たくせに。




