婿候補
この会場では、ある意味最強の二人に誰もが恐れおののいて近づいてこないから、婿どころではない。
ただの顔見せ程度の会ではないはずなのに、ここで交渉を始めたら脅しにしかみえない状況になってしまった。魔王様はなぜかやる気満々だ、エスコートするのやめようかな。
「それじゃ、今日は帰ります、魔王様のお邪魔だろうし、まだ仕事が残っているんで。
後日王と王太子にお会いしたいので、仲介してくれませんか?」
「すぐに設定するよ、明日の朝だ、いいよね?」
即決なんだね、もちろんいいですよ。
N国には、少し面倒な事案があり(魔王の婿探しだけど)交渉が長くなりそうだと連絡を入れておいた。早くしろ、と無理をいってくるからちょうどいいかも。
次の日の朝早く王城に到着するが、王、王太子、魔王がまだ寝ているというふざけた連絡が入ったため、騎士でもある第二王子の接待を受けた。
「情けないことで、本当に申し訳ありません」
「いえ、朝という連絡で時刻の設定はありませんでした、決して遅刻ということではありませんよ」
深夜まで夜会があれば、通常昼まで寝ているものだ、戦時中でない通常であればね。ここで怒っても意味がないから一応笑顔で対応しておく。彼にこれ以上の謝罪は必要ない。
朝食が用意されて、それも食べ終わる。
「ところで殿下はどのような立場でいらっしゃいますか?」
「私は一応魔法騎士でして、魔力はほとんどないレベルですが騎士団長をしております。N国の方を相手に恥ずかしいですけれど」
「そうですか、この度の独立運動では?」
「兄が積極的に進めておりますのでその指示に従って進軍中ですが、N国の騎士団と戦うつもりはありません。民や農地を傷付けるつもりはないのです。専ら大国②の大使館を包囲しているだけですよ」
「なるほど」
それならばN国騎士団は早期撤退できるな。
王、王太子、魔王と会談したのは昼前で、第二王子との話を確認して、大使館包囲以上の軍事活動をしないと確約させて、国境のN国騎士団の元へ向かった。
「で、どうなの?第二王子は」
魔王様と婿の話をしている。
「可もなく、不可が多少あるな」
ずいぶんな言い草だ、個人的には良い人だと思うが。
魔王様とレイナード君のところへ転移した。
N国騎士団は地味に訓練している。
「撤退だ、不満は受け付けないよ、訓練はできただろう?戦争は終わる、帰ってくれ」
「結局何もしてませんけどね、戦争が終わるのは喜ばしいことです、順次引き上げます。不満は後ほど団長の方からいくと思いますが……その方はどなたですか?」
いやな感じがしている。にこやかに問いかけてくるレイナード君に、目を見開いたまま固まっているお嬢ちゃん。
「こちら魔の国の王、女の子だけどね、仲良くしてやってよ」
「魔王、様?ですか。ずいぶん若くてお美しい方ですね」
固まったまま顔が赤くなって、照れている。
「魔王様、N国副騎士団長のレイナードです」
「はっ、はじめまして、魔の国の王です、レイナード様はおいくつですか?」
レイナード君は婿として魔王様に見初められてしまった。これまずいなー、宰相様や団長にがっつり怒られそう。
(ユーリ、これを連れて今すぐ帰っていいか?)
と小声できかれるが、そんな事になったら大変だ。
(やめてくれ、後でまた会わせるから、戦後処理が先。彼は今多忙で倒れるくらいの仕事があるんだ)
(わかった、後で迎えに来よう)
来るな、と言いたいが、レイナード君も興味津々でわたしたちの方をみている。このお嬢ちゃんが他国の辺境にいるなんてあり得ないことなのだ。




