魔王
魔王様視点です。
私は魔の国で王として育てられ、現在魔王をしている。
女として魅力がないわけではない……と思いたいが、嫁き遅れという言葉が胸にチクチクささってくる年齢となっている。
相手にふさわしい男性が現れなかっただけだろう、多分。
魔の国は大国①と②の大きな空洞の中にある地下帝国だ。常に日の光と地上に飢えている。
魔王がいる魔の国を認知しているのは、神殿とN国、大国①、②の四カ国の上層部だけだ。魔を怖れる他国に知れたら無駄に恐怖心をあおるだけだろう。魔力でいえばN国が圧倒的なのだが、それもあえて認知されていない。
そんな時、大国②の属国ユーデイアの外交員と面会する機会があった。
ユーデイアの素朴な外交員は華美ではないが誠実な信頼できる男で、婿探しをまわりからうるさくいわれていたため、ユーデイア人でもいいのではないかという下心がなかったとはいえない。自国にいないのなら認知されている他国で探さなくてはならないのだから。
だからひょっこりユーデイアになど行く必要もないのに行ってしまった。
ユーデイア王は農学を修めた学者風の温厚な老人で、とても紳士的に迎えてくれた。
日の光を求める魔の国の穴ぐら暮らしを哀れんでくれて、なんとか力になりたいと申し出てくれている。
農場には人手が必要だから、肥沃な土地での農場経営を手伝ってくれたら農作物を安く輸出してくれる、と約束してくれるくらいには仲良くなれた。
魔法で役に立つことがあれば恩返ししたいが、それは必要ないとやんわりことわられてしまった。
魔の国の人とユーデイア人が仲良く農作業するような日が早くくればいいのにね、と笑ってくれた。
王太子を婿にと思っていたわけだがこの男は父に似ず野心家で、独立運動を陰で支援するような王子様だ。N国の神殿から婿候補にといわれた、えらく年下の顔のきれいな野心家の男と大差ない、がっかりだ。
魔の国に野心家の男など必要ない、従順そうな態度こそが必要なのに。第二王子は凡庸だが実直そうな騎士だった。とくに心ひかれるわけではないが、政略結婚にはちょうどよい……思わず見入ってしまった、個人的に好みかといわれたら困るな。
簡単な同盟を結び帰ろうとしたところ、王太子に呼び止められて、今回の独立運動に力を貸してほしいと懇願された。
少し考えさせてくれと保留にしたところ、一週間後に歓迎パーティーをするのでと、その席で返事をするはめになった。
そして今そのパーティーの中、目の前にいるのはN国からの招待客で宰相補佐という要職にある、ある意味最も警戒が必要な重要人物、このパーティーの主役以上の人。私には…。
「ユーリ!!」
すべてがどうでもよかった。まわりのすべてのものは色あせて、私は一人の女の子に戻った。
薄茶の髪と目、人形のように整った顔は当時のまま呆然と私を見ていた。会場のきらびやかな光を受けてキラキラと輝き、その金糸の入った紺色の衣装は誰よりも王のようだ。
おてんば娘に抱きつかれたユーリはびっくりしているのかなにも言わない、これは夢なのだろうか。
「ユーリ、結婚してほしい」
「えっ、わたしには妻がいるんだ」
「側室でもいい」
「魔王を側室にする男がいると思うか!?」
久しぶりにユーリの声をきいた。とても幸せな音がする。
子供の頃からずっと憧れてきた、すてきな人。




