[Main Episode 1]
※注意
・この作品は進むにつれタイトル詐欺になることが予想されます。タイトルを見ただけで作品の内容を判断するのはご遠慮下さい。
・この作品には各所に別タイトルのゲームを連想させるような言葉、及び別作品を連想させるような言葉があります。
・誤字または脱字は寛容な心でお受け入れください。
・この作品は全体的に頭がゆるい人たちが好き放題言って好き放題行動しております。
・会話文が多いことが予想されています。
これらの注意を踏まえた上で、それでも読みたいと思う人は、どうぞ何も考えずにお読み下さい。
「Online・Fantasy・Adventure」――略して「O・FA」。
それは、配信から10年を迎えた今でもユーザー数を増やし続けている、国民的MMGRPG。
私もそのゲームの魅力に取りつかれた1人であり、毎日パソコン室にゲーム仲間と集合しては、最終下校時刻までゲームに勤しんでいた。
――そう、あの日。
12ヶ月連続大型アップデートの8回目、「黄昏の残光―陰陽表裏」が行われた、あの日までは。
「――Hello! コメディアン兼horn playerのChiehでーすっ! 今日も元気にゲーム内lifeを満喫! 皆さん楽しくやっていきましょー!!」
黄色いベレー帽を被った少女・Chiehはカメラの前でピースサインを作る。直後「カーット」とハンディカメラを持っている紅い髪の少年......いや、少女が棒読みで叫んだ。
「Chieh......これ撮影してどーすんの? 意味なくね?」
「え? 楽しいからいいじゃん!」
やれやれ......と紅い髪の少女が呆れたような顔をした。
「お前なあ......。この状況がどれだけやばいか、本当に分かっているんだろうな?」
「まあ、一応......?」
「じゃあ何でそんなに呑気にしてんだよっ!」
紅い髪の少女が語勢を荒げると、彼女の肩に乗っている猫の耳がついた小さい少女が「らーそんなのどーでもいいからとりあえずおかしたべたい」とぼやいた。
「ほらな。らおれもこう言っていることだし、いい加減『ゲーム世界探索動画で一発当てて金がっぽがっぽ作戦』をやめた方が」
「やだー!」とChiehが紅い髪の少女に向かって言う。
「だってLiam、まだロゼの意見聞いてないじゃん! 止めるのはロゼの意見聞いてからでいいでしょ!」
Liamと呼ばれた紅い髪の少女は溜め息を吐いた。
「......あいつどこほっつき歩いているんだ。出掛けてからもう2時間経ってんぞ」
「焼き鳥買いに行ってるか、街でスリしてるんじゃない?」
「『スリ』ってなあに?」とらおれが尋ねる。Liamは少し考えてから「あー、その、何だ。所謂盗みってやつだ」と答えた。
「じゃあ、わるいことしてるってこと?」
「平たく言えば......」とLiamが言うのとほぼ同時に、遠くから「おーい!」と声が響いた。声の主は、何故か頬と目の中に黒い星が3つある少女――つまり、先ほどから話題に上がっていた人物だった。
「たっだいまー! いやぁ、遅くなってすんませーん! ちょっと寄り道していたらこんな時間に......」
「焼き鳥の匂いにつられて昼間から焼き鳥屋をほっつき歩いていたんだろ?」
「えっ何で分かるの!? Liamエスパーだったの!?」
「分かるわお前の考えてる事くらい!」
ロゼに対するLiamのきれいな突込みが、どこまでも続く平原に響いた。
一応、現在の状況を説明しておこう。
Chiehを始めとする「O・FA」のプレイヤーは、ゲームの中にいる。
そして、今のところゲームから出る術はないのである。
先日、ゲーム配信10周年記念12ヶ月連続大型アップデートの8回目「黄昏の残光―陰陽表裏」が行われた。今回のアップデートの最大の目玉は「新システム追加」であったのだが、この新システムというのが事前に情報が一切明かされておらず、その真相は闇に包まれていた。
その新システムを導入した結果がこの状況なのだ。
要はこの新システムは「ゲームの中に意識を送る」というものである。イメージ的には「ゴーグルをつけていないVR」といったところだ。ただ「イメージ的には」なので、正確に言えば違うのだが。
~「黄昏の残光―陰陽表裏」施行当日(現在よりも数日前)~
――勇者、世界を救う勇者。
今こそ目覚めの刻。
世界は今、侵食されつつある。
見えるでしょう? 貴方の周りを包む闇が......。
この闇は今は小さいものでも、いつか世界に蔓延するときが来る。
さあ、今こそ旅立ちの刻。
この世界の闇を払い、平和の光を再びこの世界に灯すため――
『アナタのナマエをニュウリョクしてください』
ええっと......Chieh。うん。私、このゲーム内ではChiehって名前だもん。
『アナタのセイベツをニュウリョクしてください』
女だよ。ばりっばりの女子高生だもんね!
『アナタのショクギョウをニュウリョクしてください』
女子高せ......いや、こんな職業がこのゲームにある訳ない。ホルン吹き......かな?
『アナタのネンレイをニュウリョクしてください』
15歳。......あれ? こんな感じの質問、前にどこかで......。
『IDをハッコウしました。ユーザーIDとパスワードをニュウリョクしてください』
パスワードって、前使っていたやつでいいよね? はい。
『ドウイツパスワードのアカウントがソンザイしています。データをヒキツギますか?』
え? まあいいや。引き継ごうっと。
『トウロクありかとうこざいました。ゲームのセカイをオタノシミください』
「――おい、おい起きろChieh! いつまで寝てるつもりだよ!」
Chiehは上から降ってきたLiamの声に「うーん......」と返したが、その直後すぐに身体を起こした。Chiehの視界に映る景色は、先程まで彼女がいた場所のものではなかったからだ。
「えっ、ここどこ!? 高校パソコン室じゃないんだけど! あとこの格好何なの!? 高校の制服じゃないじゃんゲームの格好じゃん! コスプレした覚えないんですけど!? ってかLiamもゲームの格好になってるし! もしかして今コスプレ大会中!?」
Liamは顔をしかめながら「あー......それなんだが」と非常に言いにくそうに答えた。
「ここ多分『O・FA』の世界」
「......は?」
「いやだから、ここは『O・FA』の世界なんだよ」
「つまり......ゲームの世界ってこと?」
「さっきからそう言ってんじゃねーか」
Chiehはぽかんと口を開けてLiamを見つめる。そのまま、数秒が過ぎ去っていった。
「......え、冗談とかじゃなくて......」
「何でアタシがChiehに嘘吐かなきゃいけねーんだよ」
「からかいたいとか、そんなんじゃなくて......」
Liamはやれやれと言いたげにChiehの方を見た。
「あのなぁ、いくらなんでもそこまで意地悪くねーから、アタシ。本当にからかいたかったら『コスプレ大会どーとか』の下りで合わせてるっつーの」
「まあそっか......。でもでも、何でここがゲームの世界って分かるのさ?」
「Chiehさ、意識が戻る前に何か聞かれなかったか? 名前がどうとか性別がどうとか......みたいな」
「うん。されたけど」
「あれってゲーム初回ログインのやつじゃん」
Chiehは何のことやらと言いたげな表情をしていたが、間を開けて「......あああそうだった思い出した! どっかで見たことあるなー、とか思ってたけど!」と叫んだ。
「お前記憶力大丈夫か? やっぱし病院で1回診てもらえよ」
「meそこまで酷くないもん!」
Chiehは大きく手を振って抗議する。その様子を見たLiamはくすくす笑った。その動作を見てChiehは何かを思い出したのか「そういえば」と言った。
「あのさあ、らおれとロゼはどこに行ったの?」
Chieh、Liam、らおれ、ロゼ(本当はロゼリータという名前なのだが)は現実世界では同じ学校の同級生で、学校のパソコン室を借りてゲームをする時はいつも一緒。つまり、ほぼ同時にゲームを起動させたらおれとロゼがここにいないという事は考えにくいのだが......。
「確か、ロゼが『この世界って焼き鳥食べられるのかな?』とか言い出して、んでらおれも『らーおかしたべたーい』とか何とか言って、2人で食糧探しの旅に......」
Liamが言いかけたとき、向こうから「りあむーっ!」と叫ぶ声が響いた。
「あの声は......らおれか!」
「たすけてぇ~! このおじさん、なんからーたちにへんなこといってくる~!」
「変なおじさんとは何だ! 余は王であるぞ!」とらおれの言葉に反論する声が飛んだ。
「やべっ、らおれが悪質なストーカーに絡まれてるじゃんか! 自称王様とかほんっとうにタチ悪いな」
「いやLiam、まだ自称かどうかは分かんないんじゃ......」
そう言っている間にも、らおれとロゼ、それと王様(真偽のほどは分からないが)はどんどんChiehたちの方へ向かってきた。
「Chieh-! この人わたしたちに用があるんだってー! 何かこの人、わたしたちの事を『世界を救う勇者』とかいかにも厨二臭い呼び方してるー!」
「やっぱ悪質なストーカーじゃねえか」
「うんこれはやばいかも......」
「お主等、一体何を言っておる!」
王様と思しき人物が怒鳴った。
「余は嘘など言っておらぬ! 余は見たのじゃ、お主等が世界を救う夢を!」
「人違いじゃないんですか」
「あのなあ、アタシたちはただのユーザーなの。そんな大層なものじゃねえの。それでもまだそんなことをほざくようだったら手前マジでぶっ飛ばすぞ」
「とりあえず、お主等は『世界を救う勇者』ということを忘れるでないぞ! 余は忙しい! 故に帰る!」
「はあ!? 手前何言いたいんだよ! 手前も王なら責任果た」
「さらばだ世界を救う勇者よ!」
王様であろう人物は、Liamの言及を全く聞かずに元来た道を帰り始めた。仮にも国を治めているはずなのに他人の意見を聞かないとは一体どういうことだろうか。
「......うん、聞かなかったことにしよう」
Chiehがぽつりと呟いた。他の三人も、全く同じ心境だった。まあそうだ。誰だって突然「お前が世界を救うんだ」などと言われてもはいそうですかと受け入れきれないだろう。それこそゲームの主人公でもない限り、そう簡単に受け止められるはずがない。ましてや、今Chiehたちがいるゲーム世界では現在のところ大きな問題というものも無い。よってますます「世界を救う」とは一体何かが分からなくなるのだ。
「さてと! ゲーム世界も満喫したことだし、もうそろそろログアウトするか! ええと、ログアウト......ログアウトは......ああ、あったあった」
Liamの視界の端には「メニュー」と書かれているものがあった。そちらに目線を移すと不思議なことに、メニュー画面が勝手に開いた。Liamは目的であるログアウトの項目を必死に探す。
「ログアウト......どこだログアウト......」
Liamの視線が下に向けられると共に、メニュー画面も下にスクロールされていく。しかしその直後、Liamの顔は凍りついた。らおれが不安になったのか「りあむー、どしたー?」と尋ねる。
「......ねえ」
「はい?」
「ログアウトの項目が......ねえ」
「......いやいやLiam、それjokeでしょ?」
「んな訳あるか! 疑うならメニュー画面開けよ!」
はいはい、とChiehたち3人はメニュー画面を開く。目的であるログアウトの項目は、果たしてLiamの言うとおり綺麗さっぱり消え去っていた。
「あれれー? 無いね、ログアウトの項目」
「じゃあらーたち、ここからでられないってこと?」
ロゼとらおれは顔を見合わせた。そして同時に「家の焼き鳥がっ!」「おうちのおかしがっ!」とまるで死活問題であるように叫んだ。まあ自他共に認める焼き鳥好きのロゼとお菓子好きのらおれにとっては、確かにこれは死活問題なのだろうが。
「Liamこれやばくない!?」
「まあやばいだろうな」
「[alexandras]の新アルバム発売されるのにこれじゃ買えないじゃん予約もしたのに!」
「......ああ、そう」
Liamは心底どうでもいいような顔をした。
「にしてもこれってあれだよな、SA○みたいだよな」
ロゼはLiamの顔を見て「え? わたしログホ○みたいだなーって思ったけど」と首を傾げた。
「は? これどうみてもSA○じゃねえか」
「違うでしょ、これログホ○でしょ」
「いやだから......」
「でも......」
互いが互いに対する意見を言おうとしたその時、住宅街にほど近い平原の方から思わず耳を塞ぎたくなるような音が響いた。そちらの方に反射的に視線を向けると、そこにはぐにゃりとした生物が一瞬の内に現れていた。あえて表現するならば「ふやけたミミズ」と言ったところだろうか。
「わっ何あれ気持ち悪っ! 何か変にぐにゃぐにゃしてるしー!」
「......おい、あれって」とLiamが呆然とした表情で呟いた。
「『O・FA』に出てくるモンスターじゃねえかよ......」
他の3人は暫く口をあんぐりと開けたままLiamの方を見ていたが、状況を理解したのか、Liamの発言からきっかり10秒後に「はぁーっ!?」と仲良く声を揃えて叫んだ。
「ちょちょちょ! ここって、え、モンスター出んの!?」
「まあここが『O・FA』の世界ならそうなるよな」
「いやそうだけど!」
慌てるChiehと彼女に対して冷静に突っ込みを入れているLiamをよそに、らおれとロゼは「わーもんすたーっておおきいんだねー」「何か迫力あってすごーい」等、やや危機感に欠けている発言をした。普段焦ることもなくのんびりと生きているこの2人にとっては、この行動のほうが余程当たり前の事なのかもしれないが。
そんな会話を繰り返している間にも、「ふやけたミミズ」――もといモンスターはどんどん住宅街の方、というよりもChiehたちの方に近づいているように見えた。それに気付いたのか、Chiehは顔をやや強張らせて「あ、あのさ......」と切り出した。
「あのmonster、こっちの方に来てる気がするんだけど......」
「いやあそんな馬鹿な」
Liamがいやいや冗談だろ! というような表情を浮かべた瞬間、電子音を立てて視界に何かが追加された。らおれが目を凝らしてそれが何なのかを確かめる。
「んーなにかなあこれ......。なんか『こーげき』? とか『ぼーぎょ』とかあるけど」
「え? それってさ、戦闘のときの画面じゃない?」
再び顔を見合わせる4人。そして再び同じタイミングで「はぁーっ!?」と声を揃えて言った。
「いやちょっと待てこれ戦うやつ? っていうか戦えるやつ!?」
「画面にそう映っているってことはそうだろーな。......え、まじかよ」
「あっははぁーたーのしそー! でも如何せん見た目が気持ち悪いねあのモンスター! 戦う気がどんどん失せていくわー!」
「らーおかしたべたい」
待て待て! とLiamがやや混乱してきた現場を収拾しにかかる。
「あのなあ、あのモンスターが襲ってきたらアタシたちは全員死ぬからな! 御陀仏だからな!」
そのLiamの言葉を聞いた瞬間に、その他3人の表情が一気に固まった。
「[Alexandras]の新アルバムがぁーっ!」
「おかし......らーの、おかしがっ......」
「今日学校の帰りに買おうとしていた焼き鳥がっ!」
「ロゼのそれはまだ買っていないやつだよなつまり心配する必要は全くないということだよな!」
「あの焼き鳥のお店の焼き鳥はわたしが買ってくれるのを待ってるんだよ!」
「んな訳あるか!」
「んな訳あるもん!」
「2人とも! モンスター! モンスター来てるから!! ねえ聞い」
「うっさい少し静かにしろ!」
先ほどまで激しい討論を繰り広げていたLiamとロゼの声が見事に重なる。とほぼ同時に、何かが破壊されたような音がすぐ近くで響いた。そちらの方に意識を向けると、半壊された民家からゆらりとモンスターが出てきた。至近距離で見るとそのフォルムの異様さがさらに際立つ。
モンスターがゆっくりと体の先端部分であろうところを動かす。やがてぴたりと動きを止めたモンスターは、わざとかどうかは定かではないがChiehたちがいる方を向いているような気がする。
「こ、これってさ......」とChiehが震えた声で言う。その左手には、いつからあったのかは分からないが金色のホルンが握られていた。
「このホルン使って戦えってこと......?」
「じゃね? アタシもさ、ほら」
Liamが視線を下に向ける。彼女の視線の先には、その年季が伺えるような鈍い色の剣を握っている右手があった。
「ねえねえねえ、らーは? らーはこのほーせきみたいなたまでどーすればいいのー?」
「わたしもミニロッドだよー。これじゃ敵殴れないじゃん」
らおれの右肩辺りには三日月のような飾りが付いた宝玉――オーブが、ロゼの右手には折り畳み傘のようなサイズのロッドがある。これを見て何かに気づいたのか、ロゼが「あっ」と小さく声を上げた。
「これってさ、わたしたちそれぞれがゲームで使っていた武器じゃない? Chiehはホルン、らおれはオーブ、Liamは剣。わたしはミニロッドでしょ? 見た目もぱっと見同じ感じだし」
「てことは」
Chiehが顔を上げる。何故かその瞳は、希望に輝いているように見えた。
「meホルン吹けるってこと? やったぁーい! 早速吹いてみよーっと!」
「お、おいやめ」
Liamの牽制もほんの少し遅く、Chiehはホルンのマウスピースを口にあてた。
Chiehのホルンから放たれた音は、住宅街中に響いた。しかしその音は、心地よいというのとは正反対のものだった。どれほどのものか是非言い表したいが、巧い喩えが見つからない。それほどこの音は、端的にいうと汚くうるさかったのだ。
「うっるさああいっ! 何この音ふざけんじゃねえよお前元ホルン吹き設定は一体どこ行ったんだよ!」
「はあ!? 何言ってんのLiamこの音が汚いですって!? Liamの方こそ耳ぶっ壊れてんじゃないの!?」
「ぶっ壊れてんのはお前の耳のほうだろ!」
「Liamの方でしょどう考えても!」
「すとっぷ! すとーっぷ!」
らおれが両手をぶんぶん振って2人の討論を中断させる。
「それよりあれ! あれきもちわるいからとっととやっつけて!」
Chiehがらおれの言葉に「え? らおれが戦えばいいんじゃ?」と首を傾げる。その言葉をChiehが発した刹那、Liamの顔が一気に鬼の形相になった。
「お前らおれに戦わせる気なのか......? お前正気なのか......?」
「ふえっ......?」
「お前はらおれに戦わせる気なのかっつってんだろーが! こんな小さくて可愛くて愛らしいらおれに戦わせるって、お前鬼か! 一回頭冷やせよ!」
「じゃあLiamが戦えばいいじゃん!」
Chiehが発した言葉にぴくりと反応し、Liamは静かに笑い出した。Chiehたちはその様子を見て、静かに後ずさりした。
「ほお......お前言ったな......? 言いやがったな......?」
「あ、あのねえLiam、me別に怒ってる訳じゃ」
「いいよ戦ってやるよぉっ! おらあかかってこいやモンスターめ!」
Chiehの発言により、Liamに何かしらのスイッチがかかってしまったのだろう。Liamは剣をしっかりと構え直してモンスターを見据えた。モンスターは、先ほどChiehが演奏したホルンの音など全く聞いてなかったかのように、ただ悠々とその場に立っている。
小気味のよい音を立てて、戦闘画面の中の『戦う』が選択される。行動ゲージが溜まるや否や、Liamは「おらあ死ねこのくそモンスターがぁぁっ!!」と叫びながらモンスターに突撃していった。モンスターはまるで絵に描いたかのように、Liamの剣によって綺麗に真っ二つに切り裂かれた。成す術もなく、モンスターは崩れ落ちた。
「見たかアタシの実力を! アタシを敵に回したお前が悪いんだよバーカバーカ!!」
モンスターを倒して上機嫌なのか、Liamは血が滴り落ちる剣を右手に高笑いをする。
「わあ......Liam、機嫌良さそ......」
「りあむはもんすたーたおしたときだいたいえがおだもんね」
「あっははー! Liam、笑顔だー!」
ロゼが「じゃあ焼き鳥探しの旅に」と言いかけたその時、後ろで物音が響いた。恐る恐る4人が振り返ると、そこには確かに倒したはずのモンスターが蘇っていた。いや、『分裂して』蘇っていた。
モンスターの総数は、いつの間にか2体に増えていた。
「な......何で増えてんの!? あれ不死身!? しょっぱなの敵が不死身とかんなの反則でしょ!」
「剣がだめなら......」
Liamが思いつめたような顔をして、ロゼの方を向いた。ロゼはきょとんとした顔でLiamを見つめる。
「どしたのLiam? やっぱログホ○派になるの?」
「ロゼ、お前の召喚獣で燃やすってのは?」
「! そゆことね、任しといて!」
ロゼは急に笑みを顔いっぱいに広げ、ブイサインを作った。右手にロッドを構え「よっしゃいくぜー!」と声高らかに叫んだ。しかし、彼女が召喚獣を呼び出す気配は全くない。
「ろぜ、なんでよびださないの?」
しびれをきらしたのか、らおれがロゼに問う。
「えー? だって、召喚呪文分かんないんだもん! 召喚呪文分からないのに呼び出せるわけないじゃない!」
「はあ――っ!?」
3人の声が、見事に木霊した。
「いややばいって、それはまずいって!」
「何かしらねーのか呪文に関すること!」
「ええっとねえ、何だったっけなあ......とにかく厨二くさかったって事だけは覚えてるんだけどね」
「何の情報にもなってねえじゃんかよ! あれだ、とりあえず何か言っとけ! 数打ちゃあたる!」
はーい、とロゼは不満そうに口を尖らせながら返事をした。
「じゃ早速......。出でよーっ! 出て来いこんやろーっ! 出てこなかったらぶっころ」
「ちょストップ! 過激! 言葉が、過激すぎるって!」
「あぶらかたぶらっ! ちちんぷいぷいっ! オープンセサミぃ!」
「何でさっきのやつ日本語じゃなかったんだ......?」
大声で呪文(?)を唱えているロゼを遠目で見つめる3人は、冷静かつ的確な突込みをいれる。ただしそれは、ロゼには聞こえていないようだった。
「いっけーおっけーよ! わーよーかけにこーえ、そーたーをあーわせ!」
ついにロゼが日本語かどうかも分からないような言葉を口走ったその時。
ロゼの目の前には、細かい紋様の緑色の光を放つ召喚陣が現れた。
「......なあにこれ?」
「もしかして何か召喚できるんじゃないのか? ロゼ、やってみろよ」
「え? じゃいーや。出でよ、赤炎のフラメ......?」
疑問系でロゼが言う。召喚陣は、その声に反応していないのか緑色の光を放ち続けている。
「ほらあ、やっぱり何も出ないじゃん! Liam、ここは諦めて」
ロゼの台詞を遮るようにして、唐突に召喚陣から炎が立ち上った。呆気にとられている一同の前で、召喚獣「赤炎のフラメ」がその姿を現した。髪の色・瞳の色も赤なら、洋服の色も赤色。召喚獣自体が炎のような、そんな雰囲気だった。そんな大規模な登場にも「おー大迫力だねえ」と、ロゼは冷静さを保つ。
「ねえねえフラメ、召喚呪文ってあれであってた? ......え? 本当は『異界の者よ、我が呼びかけに応え、その姿を現せ!』だって? 長いし覚えられないしさ、『異界の者』って略しちゃだめ?」
「いやそれは略しちゃだめなやつじゃ」
「え、いいの? やったー! 次からそうするね!」
「呪文って略していいものなの!? ていうか召喚獣何も言ってないよね!?」
「それじゃいっくよー!」
再三の突っ込みもロゼの耳にはもはや届いていないのか、彼女はロッドを持った右手を前方に突き出し、元気よく叫んだ。
「一発ぶちかませ! フラメ、Main skill『炎焼』発動!」
ロゼが叫んだのと同時に、フラメの周りから赤い炎が上がる。次の瞬間、その赤い炎は勢いよくモンスターを包んだ。これにはモンスターもなす術なく、ただ炎の中でうねっていた。
そして、一段と大きな炎が上がった瞬間――Chiehたちの視界に表示されていた攻撃画面が、消えた。
「......これ、かったの?」
「まあそういうことでいいんじゃない......?」
らおれとChiehは顔を見合わせて互いの意見が合致したことを悟ると、深く呼吸をついた。
「わー! よく燃えたねあのモンスター! フラメありがと! 『フラメ、ゲートアウト』!」
ロゼが言った刹那、フラメの足元には召喚陣が現れた。フラメはその召喚陣に飲み込まれるようにして消えていった。
「いやあ、やっぱり召喚獣さんってすご......Liam何でそんな怖い顔してるの?」
「......あのな、お前周りを見てみろよ」
え? と首を傾げつつ辺りを見回すロゼ。周囲の状況が分かったのか、ロゼの顔は段々青ざめていった。
その時、遠くから馬が駆けてくるような音が聞こえた。四人が音のした方を振り向くと、丁度誰かが馬車から降りてくるところだった。そしてその人物は――。
「おいおい、あれって王様もどき野郎じゃないか」
「いやー、おーさま(かり)でしょ」
「王様らしき人じゃない?」
「えー? コスしてる中年のおじさ」
「それはやめとけ」
各々表現が若干異なるが、モンスターが現れる前にChiehたちに謎の発言を残して帰っていった(おそらく)王様であった。
「先ほどぶりじゃのう! 会議が終わったので来てみたのじゃ」
傍迷惑な奴だな......という言葉を、Liamはすんでのところで飲み込んだ。
「で......来てみたはいいのじゃが......」
ロゼは思わず視線をそらし「あ、あはははは......」と苦笑いをする。
「どしたのろぜ? しょーみきげんぎれのおかしでもたべた?」
「い、いや、そういうわけじゃなくてね、えとね、その......」
王様らしき人はため息を吐いた反動で、大きく息を吸い込んで怒鳴った。
「何故一瞬にしてこの通りの建物が跡形もなく消えているのじゃ――!」
そう。
ロゼが召還した召喚獣・赤炎のフラメは、モンスターのみならず周辺にあった民家も一軒残らず燃やしていたのだった。さらに、民家の裏に広がっていた森林や草原まで焼け野原にしてしまっていた。
「いや違うんですよ! こうでもしないとあのモンスターを倒せなかったんです! だって『斬ってもだめなら燃やしてみな』っていうことわざもあるじゃないですか!」
「おいロゼ、そんなことわざねーだろ」
「あるもん! だって今わたしがつくったからね!」
「勝手に新しいことわざをつくるなー!」
ロゼの言い訳に綺麗に突っ込みを入れるLiam。尚も言い訳を続けようとするロゼの口を閉じさせたのは、王様らしき人が放つ威圧感だった。
「幾ら勇者とはいえ見逃すわけにはいかんのう......。とりあえず城まで一緒に」
突然、らおれがこれまでの言動からは考えられないような素早い動きでオーブを取り出した。オーブは紫色の光を放ちながら、らおれの左手の上のほうに浮上した。
「『テレポーテーション』!」
らおれが呪文を詠唱した刹那、Chiehたち四人の姿は消え去った。王様らしき人は目の前で起こったことが信じられないとでも言いたげな顔をして、その場に突っ立っていた。
体全体に軽い衝撃を感じたと同時に視界の端に草原が映る。Chiehは勢いよく立ち、大きく背伸びをした。
「らおれnice! あのタイミングで瞬間移動って、よく思いついたね!」
「だってー、ろぜのとばっちりをうけたくなかったんだもーん」
すんとすました顔で答えるらおれ。その発言に反応するかのように、ロゼはらおれの方を振り向いた。
「えー? 私だって街を燃やす気なんてさらっさらなかったもんね! ......あれ? そういやモンスター燃やせって最初に言ったのはLiamじゃなかったっけ!?」
「アタシは別にあそこまで燃やせとは言ってねーだろーが! ていうかさっきの状況ってロゼだけ捕まればそれでよかったんじゃないのか......?」
「たしかにー」
「そこで納得するのやめて! 皆薄情だね仲間を見捨てようとするなんて! わたしがあそこでフラメ召喚してなかったらモンスター倒せてなかったでしょ?」
「はーいはいはい結果論だなそれ!」
「うっわ......」
ロゼが後ずさりしたところでChiehが「ぶっ」と吹き出す。そして堪えきれなかったのかChiehは大声を上げて笑い出した。そのあまりの元気よさにつられて、らおれも、口げんかをしていたLiamとロゼまでもが笑い出した。
「あー、何かいつも通りだねこれ! ゲームの世界でも変わんないんだね!」
「変わるわけねーだろ」
「にちじょーってやつだね」
「じゃあ大丈夫そうだね! ゲームの世界から出られなくても!」
ロゼの発言に、その場が一瞬にして凍りついた。ロゼは一人だけ訳が分からず「え? 皆どしたの?」と首を傾げ尋ねる。
「......そういえば、meたちゲームの世界に閉じ込められてたんだっけ......」
「ああ。何か、すっかり忘れてたけどな......。いやまじで、完っ璧に忘れてた......」
「らーおかしたべたい」
途端に顔が蒼白になる三人。ロゼは三人の顔を順番に見て無邪気に「皆大丈夫?」と言った。Liamは一瞬きつくロゼを睨むと、大きく息を吸った。
「大丈夫なわけあるか――! おい運営、さっさと元の世界にアタシたちを戻せ――!」
Liamの渾身の叫びは、草原に消えるようにして吸い込まれていった。
はあ、と一人の女性がため息をついた。
「ついに始まっちゃったわね、これ。さて、どうなるのかしら......」
その女性の前には、薄紫色の髪を一つにまとめた少女が腕組みをして立っていた。少女はきつい目線で女性を見つめる。
「どうなるのかしら、じゃないでしょ! あんたねえ、一応曲がりなりにもこの世界の『万能神』じゃないの! この世界がやばいってのに何にもできないって、それ役割を果たしてないのと一緒よ!」
「それは我もどうにもできん。そもそもお主がそのように我を『創った』のだからな」
少女は舌打ちをしてそっぽを向いた。
「はあ......。にしても、あの子たちは本当に大丈夫なんでしょうね?」
「当然であろう。何しろ我が見込んだ四人だ。きっと奴らの計画を阻止できるはずだ。もし、その前に」
「何も起こらなければ、ね......。分かってるわ。分かっているけど......」
「......まあ、なるようにしかならぬ。見届けるか、あの子らの行動を......」
女性は、手元にあった水晶に手をかざした。
そこには、黄色いベレー帽を被った少女たち四人が映し出されていた。
どうも。なろう初投稿となる夏藤柚雪です。
この後書きでは、主な登場人物や、作中で登場した用語、及び職業の解説を行う予定です。ぶっちゃけ言って、本編よりこちらの方が重要かもしれません。
この話は、私が中学二年生から三年生にかけて、友達三人と合作した話を元にして書いております。正直読者の皆様には伝わりにくいところがあるかと思います。こちらもよりよい表現や後書きでの解説を行いたいと思っておりますので、温かい目でご覧下さい。ちなみに主人公格の四人は、私を含め全員実在の人物を元にしております。尚、許可はとってあります。
次の連載は11月末を目安に行いたいと思っております。何しろ筆が遅いわ、勉強があるわで全然話が進まないのです。申し訳ありませんが、長い目でお待ち下さい。
こんな者の作品を読んでくださりありがとうございました。