第八話 敵の影
俺の名はトドロキヒリュウ。またの名を超人テレックス。
異世界に飛ばされた俺は元の世界に戻る手掛りを求めていた。
魔導国を訪れた俺は情報を得る条件として何やら調査を頼まれていた・・・
「必殺!クロス・チョップーッ!!」
『ギャアアアアアアアアアアア』
この俺”超人テレックス”の必殺技、クロス・チョップが
悪魔人ザザンボの胸板に炸裂した
右腕と左腕、それぞれ違う属性の電波振動波を
交互に”悪魔人”の体内に流し込み
身体機能の要である”悪魔心臓”を破壊する技だ
悪魔人ザザンボの断末魔が叫び終わる前に
俺は素早く飛び上がり
相手と十二分に距離を取る
悪魔人は”悪魔心臓”の停止と共に
体内にあるエネルギー源の”悪魔電池”が暴走し
大爆発を起こすからだ
その範囲、およそ半径100メートル
悪魔人が体内の”悪魔電池”の暴走により爆発四散する事が判明し
数十体の”悪魔人”との戦闘
そして捕虜となる”悪魔人”の協力による解明まで
”超人テレックス”たる俺は
必殺技を叩きこむと
直ぐに距離を取ることが慣例になった
後に、新たな必殺技
”トリプル・チョップ”
で爆発四散を抑え込む事になるのだが・・・
『グガガ・・・アクマオウ、サマ、バンザーーーイッ!!』
悪魔人ザザンボが最後の力を振り絞り
悪魔王への賛辞を口にする
瞬間、”悪魔心臓”が停止し”悪魔電池”が暴走する
倒れこんだ悪魔人の身体の中心部に熱が集まり爆発が起こる
「ヒリュウ君!」
モニターで様子を見ていたコガラシ博士が思わず叫ぶ
爆炎をバックに仁王立ちした”超人テレックス”は振り返り
通信機に声を送る
「大丈夫ですよ、博士。同じ轍は踏みません」
照り返す爆炎をバイザーに受けて
”超人テレックス”こと”トドロキ・ヒリュウ”は
改めて誓う
「待っていろ悪魔王エンダイド!貴様は必ず俺が倒す!」
「な、なぁいい加減、会話とか、無いの!?」
ロミがじれったそうに声を荒げる
魔導国の王、ヌグンの頼みにより
属領の一つ”コマー”という街へ向かう馬車の中である
馬車の中には
ロミ、ジュリ、ヒリュウ、そしてキャシーンの四人だけだ
キャシーンは魔導国に身を寄せている
”異世界からの来訪者”
特殊スキルとして植物のツタの様な物を操る
魔法使い、なのだそうだが・・・
「ね、ねぇ?アタシとなら話せる?同じ女性だし?」
ジュリも静寂というか沈黙に耐えられないようで口をはさむ
ロミとジュリで覗き込むようにキャシーンを見つめる
二人の視線をものともせず
キャシーンは目を見開くと
ヒリュウに鋭い眼光を光らせる
ごくりと息を吞む二人・・・
「・・・アイツ次第ね」
ようやくキャシーンが言葉を発する
それを受けてロミとジュリがヒリュウに顔を向ける
三人の視線を受けて
窓の外に視線を走らせていたヒリュウだったが
顔をキャシーンに向ける
「俺次第?」
特に興味なさそうにヒリュウは問いかける
「そう。アナタ、異世界から来たと言ってたけど本当なの?」
キャシーンが鋭く問い詰めるが
「それはこちらも同じことを聞きたい」
ヒリュウもオウム返しで聞き返す
再びお互いの視線が交錯し
馬車内に重苦しい空気が漂う
「ンああああああ~~もうッ!」
ロミが頭をかきむしる
「五月蠅いッ」
ジュリがそんなロミを叱る
「とはいえ、だ」
足を組み替えてヒリュウが言う
「歩み寄らなきゃ、な?」
そう言って左手首に装着してある変身アイテムの腕時計を見せる
おもむろに右手で腕時計を操作する
すると淡い光が放射され空中にホログラフィーが映し出された
おぉ~~と驚く二人と
その技術に眼をむくキャシーン
「これは俺の現在の状態を表すホログラフィーだ」
映し出されたホログラフィーは超人テレックスの姿でくるくる回る
「この技術は俺の来た世界、”アース”で生まれた物だ」
食い入るようにホログラフィーを覗き込む二人と対象に
目を見開いたまま固まるキャシーン
「この世界には無い代物、だよな?」
プン、と映像を消したヒリュウは
「これで俺が異世界からこの世界に来た、って信じてくれたかい?」
剣と魔法の世界
文明レベルは中世と思しきこの世界にあるまじき技術
魔導国での変身後の姿を見た後でのこの技術
・・・流石に認めない訳には・・・
そう思っていたヒリュウだが
「・・・違うのよ、そうじゃない」
急にかぶりを振るキャシーン
えぇ?という感じで覗き込む一同に
「宣託よ。宣託を受けたかどうかってことよ!」
キャシーンが声を絞り出す
「せんたく?」
訝しむ一同にキャシーンが重い口を開き始める
「ワタシが・・・この世界に呼ばれた時、見知らぬ場所で宣託を受けたの」
先程までの張りつめた様子は一変し
身体を固くして一点だけを見つめてる
「そうよ。ワタシは一度、死んでるの」
わなわなと肩を震わせながらキャシーンは語りだす
そこは何もない真っ白な空間だった
そこへ
管理者メノンと名乗る人物から話しかけられる
この異世界”ナーヴァテ”を救って欲しい、と
その為の”ギフト”として
植物のツタを発生させ、自在に操る能力を授かった事
さらには身体能力の強化
顔の整形、若返りまでしてもらった事
最後に救うべき行動の提示
「甦った”悪魔王”を倒す事」
「・・・何?」
そこまで話を聞いたヒリュウが逆に驚く
その声の力強さに話していたキャシーンはもちろん
ロミとジュリも驚いて振り返る
飄々としていた雰囲気だった影は無く
さながら獲物を狙う獣の如きのオーラを出すヒリュウ
その圧力に押される3人
「何と、言った?」
押し殺すような殺気に満ちた問いかけに
キャシーンは気おされながらも口を開く
「あ、あくま、おう。そう、悪魔王、よ」
その名を聞いた途端、ヒリュウの殺気が膨れ上がる
久しく、そう、久しく聞くその名こそ
かつてヒリュウが戦い
激闘の末に火山の噴火口に消えた宿敵・・・
だがそこまで考えたヒリュウは
ハッと我に返る
まさか、だな
「あぁ、スマンスマン。ついムキになっちまった」
フッと何時もの飄々とした雰囲気を取り戻すと
ヒリュウは手の平をヒラヒラさせる
その変貌ぶりに他の三人は脱力する
「ちょっと~~、急に何なのよ、もうっ」
ジュリが頬を膨らませて抗議する
「人が悪いなァ、アニキも~ハハハ」
ロミも顔を引きつらせながら笑う
ふぅと息を吐いたキャシーンは再び話し出す
「兎に角、だ。貴様がこの世界に来たのには理由があるのだろう?」
目線をヒリュウに向けて再び問いただす
「貴様をこの世界に呼び込んだのは誰だ?その時に何を言われた?」
問われてヒリュウは視線を窓の外に向ける
と、言われてもな・・・
ヒリュウはこの世界に来た時の事を思い出そうとする
残念ながらこの世界に来る前のヒリュウは
長期間におけるスリープ状態から目覚めさせられたばかりで
記憶回路があいまいなのだった
「皆さま、属領の”コマー”が見えて参りました」
馬車の御者が外から声をかけてくる
その声につられて全員の視線が窓の外に向けられる
視線の先には城壁に囲まれた街が見える
話の続きではないが上空に暗雲が立ち込めている
ヒリュウは考える
「まさか、な・・・」
キャシーンの言った”悪魔王”とは
ヒリュウの世界の”悪魔王エンダイド”と関りがあるのか?
蘇った、とは一体・・・
思わぬ所で見え始めた敵の陰に
ヒリュウは全身のメカニズムが
軋むのを感じていた
思わぬ所で耳にする事となった悪魔王の名
果たしてヒリュウの不安は的中するのか?
次回”超人テレックス”
第九話 悪魔教の恐怖
「俺は必ず、元の世界に戻る!」