第六話 魔道国の魔道士
俺の名はトドロキ・ヒリュウ
またの名を超人テレックス
異世界で冒険を続ける改造人間だ
ひょんな事から二人の仲間を得てしまった俺は
元の世界へ戻る手掛りを求めて
新たな国へ到達した
「しっかりしろ、ミサキッ!」
「う、うぁ・・・」
悪魔人ドゴゴンの卑劣な罠により
ミサキは俺をかばって
瀕死の重傷を負ってしまった
「あ、アネゴ~~~~」
普段から”アネゴ”と慕う
俺の舎弟分のタクロウも
瀕死のミサキを覗き込んで
泣声を上げている
「バ、バカだねぇ・・・オトコが泣くんじゃぁないよ・・・」
薄目を開けてミサキはタクロウを叱責する
サーチアイでミサキの体を調べるが
脇腹と心臓付近に深刻な損傷があり
もって数分と俺の計算機がはじき出してしまっていた
「くそっ、コガラシ博士さえ生きていてくれたら!」
先の戦いで俺を改造してくれたコガラシ博士は
戦いの中で命を落としていた
「ふふ、アンタと、同じ、改造人間に、なるってのも、悪か、ない」
そこまで話したミサキは盛大に吐血する
「おい、しっかりしろ!もうしゃべるな!」
慌てて口から溢れた血塊を拭いつつ
ゆっくり床に寝かせる
「いいんだ、もう、助からない、よ・・・」
「馬鹿を言うな!意識をしっかり持て!」
俺も半ば半狂乱に近い絶叫をしてしまう
心の中でくそうくそう、と言いながら
ミサキの損傷部分を手で押さえる
止めどなく染み出す血液が
ミサキの寿命を更に短くしていく
どっかん
離れた場所で凄まじい破壊音が響く
「グガガガガ!ドコダ!デレッグズゥゥ!」
倒したと思った悪魔人ドゴゴンが
傷だらけの体で瓦礫の中から復活していた
どうやら視界が覚束ないようで
辺りをキョロキョロしながら
闇雲に暴れ始めた
その姿を見ながら
俺は静かな怒りがこみ上げてきた
そして、奴にトドメを刺すべく立ち上がる
「見ててくれ、ミサキ」
立ち上がったままミサキに話し掛ける
「アイツを地獄へ送り返してくる」
そう言いながら俺は歩み出した
背後ではミサキを少しだけ抱え起こした
タクロウと微笑を浮かべたミサキが
俺の背中を見つめていた
「ここだ!悪魔人ドゴゴン!」
超人テレックスにチェンジした俺は
怒りに燃えて必殺技を繰り出した
「・・・と言う訳なんですよアニキ」
魔道国の入国審査待ちで長い行列の中
前回から仲間になったロミが
一生懸命何かを話し掛けていたらしい
「・・・」
無言で頷いた俺に
「・・・絶対、聞いてなかったしょ・・・」
小さく呟いたロミはうつむいて
足下の小石を蹴った
「いてっ!」
前列の厳ついおっさんにその小石が当たり
鬼の形相で振り向かれる
「あ、あ、すみません、すみません」
慌てて謝罪するロミ
ったく、気を付けろと言いながら鬼は前を向く
「あぁ、びっくりした・・・」
ほっと胸をなで下ろすロミを見て
なんでこいつは毎回毎回
面倒事を起こすのかと
ヒリュウは心の中で天を仰いだ
「ねぇねぇ、情報情報!」
そんな事を言いながら
これまた前回仲間になったジュリエッことジュリが
両手に露天で購入した軽食を持ちながら戻ってきた
「何か分かったのか?」
偉そうにロミが話し掛ける
「アンタに関係ないでしょ?」
前回のトラブルから
相思相愛だったはずの二人は
犬猿の仲にガラリと関係が変わってしまっていた
「なんだと!?」
気色ばむロミをほったらかしにして
ジュリはヒリュウに向き直る
「魔道国に今、他国のお偉い様が来てるんですって」
「・・・成程、それで審査に時間をかけているのか」
ヒリュウもその話に納得いった感じで
相づちをうつ
そんな二人を見て
ロミが少しいらつきながら
「何だよ、そんな情報!」
「だから、アンタに関係ないでしょ!」
ジュリが返した為、険悪な空気が増す
「うるせぇぞ、さっきからよ!」
前列の厳つい鬼が
振り向き様、怒鳴ってきた
「す、すみません」
「ごめんなさい」
鬼に怒鳴られた二人は首をすくめる
「・・・オメェのせいだぞ」
「何よ。アンタが悪いんでしょ」
小声でまだお互いを罵り合う
「・・・取りあえず、ここは大人しく待つか」
ヒリュウが助け船と言うか
二人の諍いの妥協点を落とし込む
「へい」
「はい」
素直に小さく返事をする二人
こういう所は息ぴったりなんだがなぁと
ヒリュウは思う
ところが
「おい、それ何だよ?」
先程からジュリが手に持っている
露天から購入して来たであろう
食べ物らしきものに反応するロミ
・・・嫌な予感が頭をよぎる
「何よ、アンタのじゃないわよ!」
「俺も小腹が空いてんだよ、少しくらい分けろって!」
案の定、露店から購入した品物を巡って
ジタバタやりだした
あ~ぁ、とヒリュウは予測されるトラブルに
眉間にしわを寄せる
「良いから寄越せ、って」
「いやよ、って」
がっ
「あ」
「あ」
二人がもみ合ってる内に
手に持っていた品物が宙に舞う
包みが開き
中の串焼きや穀物の焼き物がばらまかれる
さくっ
ぼとぼとぼと
串焼きの一本が前列の
厳つい鬼の頭頂部に綺麗に刺さり
その体に他の品物が浴びせかけられた形になった
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人が青い顔をして
視線を外さないで居ると
鬼の手が
ゆっくりと伸び、串焼きを掴んだ
ぷしゅっ~~~~~
串焼きを引っこ抜くと
見事に血液の噴水が
噴き上がる
ぎぎぎ、と音が聞こえるような
動きをしながら
”激おこ”鬼と化した
厳ついおっさんが振り向いた
「きっ・さ・ま・ら~~~~~~!!!」
「ひぃぃ~~~」
「ごめんなさ~~~い」
鬼の怒り声を合図に
ヒリュウの周りで
追いかけっこが始まった
「まてごらぁ!」
「まちません、すみません!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
謝りながらも逃げまくる二人に
鬼は怒りマックスで
ついに腰の刃物を抜いて振り上げた
「ぶっこr・・・」
危険な台詞が言い終わる前に
鬼はヒリュウの伸ばした腕で
クローズ・ライン
つまりは首にラリアットを食らって停止した
その様子を見ていた鬼の仲間達が、いきり立つ
「やろう!」
「てめぇ!」
「やりゃあがったな!」
「そっちが先だからな!」
口々にののしり声を上げながら
各々得物を手にして
ヒリュウ達を取り囲んだ
審査待ちの列はそれを見て悲鳴や怒声が上がり
一気に騒々しくなっていく
「・・・まずいな」
ヒリュウはその喧騒を見てボソリとつぶやく
「あ、アンタが悪いんだからね!」
「な、なにぉぅ!」
ジュリとロミはヒリュウの後ろで縮こまっている
ざわつく周りに少しばかり気を取られると
背後に回った鬼の仲間が無言で斬りかかってきた
それを合図に他も一斉にヒリュウ達に襲いかかる
一瞬、ヒリュウの電子頭脳が最適な撃退順をはじき出す
おもむろに前へ歩み出ると
前方から襲いかかって来た人間の内
動きが速かった一人の顎を右ストレートパンチで打ち抜く
直ぐさま左右の人間の顎を戻した右と左のワンツーパンチで撃退
ステップバックして左足を軸にした右足の後ろ蹴りで
背後から襲いかかった人間を黙らせた
その間わずか0.2秒
肉眼では殆ど捕らえきれない速さである
周りの人々は何が起こったかすら理解出来なかったはずである
一瞬にして全員が地べたに倒れ伏す
それを見て周りの野次馬から歓声が起きる
「さ、さっすがアニキ!」
「す、すごいわね!」
ロミとジュリの二人も興奮状態だ
だがヒリュウはその間に此方に近付いてくる
魔道国からの衛兵らしき数人に気がいっていた
「何の騒ぎだ!」
「首謀者は誰だ!」
直前まで人混みに紛れて分かりづらかったが
衛兵の大声がそれをハッキリと認識させる
ざわついていた野次馬達は一斉に黙り込む
「すまんな。ちょっとした手違いだ」
ヒリュウがよく通る声で説明する
絡んできた人間達は全員ノックアウトされているので
ヒリュウの話に反応も出来ない
「貴様がこの騒ぎの首謀者か!」
「この倒れている連中は貴様がやったのか!」
「怪しい奴め、拘束しろ!」
衛兵も気が立っていたようで
矢継ぎ早にヒリュウ達の拘束が決定してしまっていた
まぁ事の発端はヒリュウ達にあるので
あながち衛兵の判断は間違っては居ないのだが
それにしても乱暴な話だった
「お待ちなさい」
ヒリュウ、ロミ、ジュリの三人を拘束しようと
衛兵が武器を構えた時
それを制するような声が列の後方から響いてきた
「誰だ!」
「何者だ!」
いきり立つ衛兵が声のした方向へ向き直る
すると人垣がささっと割れて
声を発した人物を露わにした
見ると如何にも上流階級ぽい服装と
左右にお付きの人間を従えた
見るからに偉そうな人物が見えるようになった
「・・・おい」
「え?」
軽く脇腹を小突かれたジュリが反応する
「何者だ?見たことはあるか?」
小声でヒリュウがジュリに尋ねる
「・・・ちょっと、分からないわ」
「そうか・・・」
意外に博識なジュリが知らない相手のようだ
すると
衛兵達がその姿を見た瞬間
一斉にしゃがみ込み頭を垂れた
どうやら相当地位の高い人物のようだ
「あぁ、よいよい。顔をあげい」
鷹揚な態度で衛兵達に声をかける
「失礼いたしました、殿下!」
衛兵の一人が顔を上げて敬礼する
その様子をウンウン頷きながら受け入れると
殿下と呼ばれた人物はヒリュウ達に向き直る
「その方ら、余の魔道国に用がある者達であろう?」
物言いからどうやら魔道国の国王様らしい
「お騒がせして申し訳ない。ちょっとした手違いがあったようで」
ヒリュウがぎこちなく衛兵達をまねて敬礼する
「ふっふふ、先程の立ち回り、見せてもらったぞ?」
殿下、国王様をよく見ると
長めの足下まで隠れるローブを纏い
頭にはインド風のターバンを巻いている
だが使用している素材が高級そうなのと
色使いが光沢のある乳白色なので
成程身分が高そうだなと納得する佇まいだ
ヒリュウのボロとはエライ違いだ
「その方、特にデカいお主。只者ではないな?何用があってここに来られた?」
ヒリュウを顎でしゃくり
人なつっこそうな笑みを浮かべているが
その目は笑ってはいなかった
「俺は異世界から来た。元の世界に帰る方法を探している」
ヒリュウは周りに沢山の人がいる中で
己が目的を口にしていた
「異世界、とな?」
どうやら異世界という言葉はあるらしい
意味が解ったのか
周りの野次馬達もざわつき始める
「どうだろう?心当たりはないか?」
ヒリュウが更に言葉を投げかけると
「貴様!無礼な口の利き方を慎め!」
王様の両側に付き従っていた人物が声を荒げてきた
そりゃもっともだ、と周りも思う
「あぁ、よいよい」
側近の怒りを王様が制する
「その方、異世界から来たとか言うたか?」
王様は右手を顎にあてると含み笑いをする
「実は此方にも異世界から来たとか言う者がおっての」
言い終わる前に王様の背後から陽炎のように人影が現れた
陽炎のように現れた人物は王様と同じく中東風の服装だ
その人物の両目が光ると同時に
ヒリュウ達三人の体に何処から出現したのか
植物のツタのような物が現れてあっと言う間に拘束した
「きゃ!」
「うお?」
「・・・」
三人がツタの拘束に驚いて声を上げる
「この者がその異世界人だ」
ぎりぎりと体を締め付けるツタに
不快感を覚えながら
ヒリュウはその人物に視線を移す
その人物は双眸に燃えるような光を宿しながら
ヒリュウの視線をはね除けるように
にらみ返してきた
魔道国で出会った、もう一人の異世界から来た人物
果たしてヒリュウの味方になるのか、敵なのか?
テンプレ通りなら、女性で味方になるフラグなのだが・・・
次回”超人テレックス”
第七話 異世界人の憂鬱
「俺は、必ず元の世界に戻る!!」