第五話 キマイラも喰わない
俺の名は超人テレックス
電波の力を借りて変身する改造人間だ
いがみ合う二つの種族の諍いに介入した俺は
なんやかんやでダンジョンに住むキマイラと対峙していた
ぐおおおおおおおっ
キマイラの咆吼が辺りに響く
本来ならばダンジョンボスとして
分厚い扉の向こう側に鎮座しているはずなのだが
ヒリュウが天井をぶち抜いて侵入してきた為
扉が解放されてしまい
のそのそ出て来てしまったのだ
「ひゃぃいいいいいいっ!!」
ロミは情けなさを通り越した悲鳴をあげる
「っく・・・!」
ジュリエッを含むエルフ族三人は
そこそこ訓練されているらしく
警戒態勢を取りながら後ずさりしている
その様子を伺いながらヒリュウも警戒態勢を取った
「どうする?」
どちらとも取れる物言いで判断を促してみるヒリュウ
「どうするったって」
「このメンツで勝てるの?」
「私は今すぐ逃げたいわっ」
「たひゅけてダンナぁぁ~~!」
最後のはロミだ
「助けろと言われればその通りにするが」
ちら、とキマイラを見やり
その戦闘能力を推し量ってみる
大きさは4~5メートル程
背中に生えた翼を広げればもっと大きいか
特殊能力は判断しかねるが
見た感じの筋肉量から推察するに
一撃の重さは10トンを超えるかどうか・・・
ざっくりな能力値を計算したヒリュウ
くるりと全員の方向を向くと
「足止めをしている間に部屋の宝箱を・・・」
言いかけると同時にキマイラが前足でヒリュウに一撃を加えた
ばんっ
布団を叩いたような音がして
キマイラの前足はヒリュウの頭に命中した
前足に首を45度位に曲げられた格好になったヒリュウ
力を逃がす為にあえて首を曲げたのだが
それが逆効果になってしまった
「~~~~~~~!!!!!」
声にならない悲鳴を上げて
エルフ族の二名は一目散に逃げ出した
「あ、まっ・・・って!?」
逃げ遅れたジュリエッが追いかけようとしたが
その足に絡みつくロミ
「ま、ままままままって!!!」
「ちょっ!?ロミ!!」
もつれ合ってその場に倒れ込む二人
じたばたする二人を見つめ
ヒリュウは溜息をつきながら話しかける
「おいおい、二人は俺の実力を解ってるんじゃ無かったのか?」
「え!あ?そ、そうですね!!」
「でしたっ!!」
ヒリュウの嘆き節に生返事をするので精一杯の二人
くるりとキマイラに向き直ったヒリュウは
「さて、態度の悪い”どら猫ちゃん”にはお仕置きだな」
両手の指をポキポキ鳴らしながらにやりと笑うのであった
「んで、この後は?」
叱られた子供みたいにうずくまっている二人に声をかけるヒリュウ
ヒリュウの傍らには”お仕置き”されて
すっかりおとなしくなったキマイラが伏せている
「・・・後って・・・」
ジュリエッはちらりと横目でロミを見やりながら口ごもる
対してロミは口をつぐんだままだ
「まぁ、取りあえずお目当ての宝箱でも開けてみるか?」
そもそもの目的である
ダンジョンボス部屋の宝箱の中身を確認するヒリュウ
箱に手をかけたとたんトラップが作動する
頭上から落石、横から長槍、正面から毒矢が向かってきたが
ふんふんと、全てなぎ払う
それを離れた場所で眺めていた二人と一匹・・・
ヒリュウが蓋を開けると中には黄金色に輝く短剣が入っていた
「こんな物が入ってたぜ?」
むんずと短剣をひっつかんで、二人と一匹に見せる
「え、ええ・・それよ、それを持ち帰るのよ」
ジュリエッがうんうんと頷く
キマイラは少し無念そうな態度だ(どんなだ・・・)
ロミはまだ何か考えているようで無言のままだ
「ふむ。そしたら?予定通り仮死状態になる秘薬とやらを飲んで」
短剣を手のひらでくるくるともて遊ぶ
「二人してここを抜け出して新天地へ向かうか?」
ぱしん、と握りを掴むと二人の間に差し出す
「飲むのはどっちだ?二人で飲んでも良いしどっちか片方でも良い」
交互に二人を見やる
キマイラは無視だ
「どちらにしろ、後は上手く誤魔化しておく」
中々答えの出ない二人にヒリュウは下駄を預けた
「・・・正直、ロミ・・・アナタがこんなに意気地が無いとは思わなかった」
静寂を破りジュリエッが口火を切る
俗に言う”体育座り”していたロミはその言葉に少しだけ反応する
「私・・・アナタと行くのは止めにするわ」
「俺も、そう、思ってた」
ロミも意を決したように言葉をつなげる
「そして」
「それで」
二人とも言葉を切らない
「ヒリュウさん」
「アニキ!」
ヒリュウの方向を向く
嫌な流れだ・・・
「アナタと一緒に行くわ!」
「俺も一緒に行きます!」
同時に言いやがった・・・
天を仰ぐヒリュウ
「な、何よ!?ロミとは一緒に行かないって言ったでしょ?!」
「何だよ!アニキとは俺が一緒に行くんだよ!!」
二人とも罵り合いの口喧嘩になった
その後ろではキマイラが大あくびをしながら寝る体制に入った
俺も寝たい・・・ヒリュウはキマイラが羨ましかった!
ダンジョンの地下で罵り合うのも疲れたところで
三人は地上へと戻る
キマイラは元の住処に戻っていった
時間がたてばダンジョンの修復機能が働いて
破壊した扉や無くなった宝箱の中身等も復活するそうだ
まだまだこの世界には不思議なことが多いな
そう感じながら地上へと出た
すると
ヒューム族とエルフ族の集まりが
殴り合いの大喧嘩の真っ最中だった
その光景を見て一緒に付いてきた二人は
もはや呆れ顔を通り越して
よくわからない表情になっていた
どうしようかと思っていた矢先
ロミとジュリエッが
二人同時に大きく息を吸い込むと
「「止めないか!!」」
大きな声で叫んだ
大喧嘩も中盤を過ぎた辺りだったらしく
疲労しかけていた両種族は
その大声で動きをピタリと止めた
「ったく、いつもいつもいつもいつも・・・・」
わなわなと両肩を震わせるジュリエッ
ロミも同じ感じだ
「何が気にくわなくて喧嘩ばっかりしてるのよ!いい加減にしてよ!」
「そうだそうだ!!」
何故か息ぴったりに叫ぶ二人
「お互いがこんなんだから何時まで経っても成長がないのよ!」
「そうだそうだ!」
二人の発言に、というかジュリエッの言葉に少しうなだれる両種族
「そうだそうだじゃないわよ!このトンチキ!」
いきなり横を向いてロミに平手打ちをかますジュリエッ
「ぐはぁっ!!」
盛大に吹っ飛ぶロミ
流石にヒューム族がいきり立つが
ジュリエッの気迫に負けて動けない
暫く、ふーふーと肩で息をしていたが
やがてふっと脱力して一言
「私、ここを出て行きます!!」
力強く宣言してすたすたと歩き出して去って行ってしまった
それを見て慌てて追いかけ出すエルフ族の面々
「おおお、おい!この続きは後だ、後!」
あたふたとヒューム族の族長に宣言して
エルフ族の族長も去って行ってしまった
それを呆然と見送ったヒューム族の面々は
エルフ族が居なくなった時点ではた、と気付き
ジュリエッに盛大に張り飛ばされたロミを抱き起こした
口々にとんでもねぇ女だとか言いながら
ロミを介抱するするヒューム族
目を覚ましたロミはしかし
そんな言葉は耳に届かないらしく
虚ろな表情でジュリエッの去って行った方向を見つめていた
「・・・どうしても付いてくるのか?」
ヒューム族の村から遠方の地へと続く街道の入り口で
ヒリュウはロミに確認する
「あぁ!俺はアニキについていって男を磨くんだ!」
勝手に決め付けている
しかも何時の間にか”ダンナ”から”アニキ”に呼び方が変わっている
・・・こっちは構っている暇は無いんだがと思案するヒリュウ
結局、両種族の諍いは収まること無く
今後も小競り合いが続くのだろう
何の解決も見いだせないまま
ヒリュウはこの地を後にすることにしたのだが
なんと宣言通り
ロミがついて来ると言って聞かないのだ
「・・・俺は迷惑なんだが・・・」
「そうは言うけどアニキ、この世界のこと、何にも知らねぇでしょう?」
そう言いながら背中に荷物の詰まったリュックサックを背負う
「だったらこの俺、ロミさんの知識が必要でしょう?」
親指を立ててウィンクしてきた
う~ん、と思いながらそれには答えずに街道へと歩を進めるヒリュウ
へっへ、と笑いながら付いてくるロミ
街道の道標らしき柱に近付くと
陰から人が現れた
「ジュリエッ・・・!」
ロミが驚く
ヒリュウは無表情
「・・・言ったわよね?付いて行くって」
背中にはロミと同じく
長旅用に荷物の詰まったリュックサックを背負っていた
「・・・約束した覚えは無いが?」
ヒリュウが答える
「そうだ!アニキには俺がついて行くんだ!お前なんか邪魔だ!」
ロミは虚勢を張る
「アナタは黙ってて!」
ぴしゃりと言い放つジュリエッ
お互いに一歩も引かない
睨み合っている
そんな有様を見てヒリュウは、それはそれは深い溜息をついた
「解った。付いてきたいなら勝手にするが良い」
二人はくるりとヒリュウに顔を向けて笑顔だ
「ただし、条件がある」
条件、と言われて笑顔が引きつる二人
「俺は俺のやりたいようにやる。お前らの面倒は見ない」
「もちろん!」
「あったりまえでさ!」
二つ返事で返してくる
「それと!」
まだあるの?てな感じの二人
「ジュリエッ!お前の名前は呼びにくい!」
そこぉ?てな顔のジュリエッ
「付いてくるなら今後は”ジュリ”だ!いいな!」
「い、いいわよ!」
そんな程度か、とほっとするジュリエッ改めジュリ
「アニキ、俺は、俺は!?」
ロミがふんふんしながら聞いてきた
「ロミは・・・そのままでいいや」
がっくん、とうなだれるロミ
それを横目で見てフフフと笑うジュリ
「んじゃ、いくぞ」
そんなロミには目もくれず歩き出す
慌てて追いかける二人組
それを背後で感じながらヒリュウは
面倒なことになったなと思いつつも
昔を思い出して、ついつい頬が緩むのであった
押しかけ付き人を連れて旅に出るヒリュウ
求めるのは元の世界への戻り方
怪しげな魔道の国でヒリュウ達が見た物とは!?
次回”超人テレックス”
第六話 魔道国の魔道士
「俺は必ず、元の世界に戻る!!」