第三話 戦いは誰が為に
俺の名前は”トドロキ・ヒリュウ”またの名を”超人テレックス”
電波の力を借りて変身する改造人間なのだが
何の因果か転移させられて異世界を彷徨っている真っ最中だ
獣人国の少女を助けた事から話はどんどん脱線していくのだが・・・
「タクぅぅぅぅっ!!」
「へ・・・へへへ、遅いじゃないッスか、アニキ・・・」
一足違いで拠点のある街へ到着の遅れた俺”超人テレックス”は
廃墟と化した街の瓦礫の中から弟分の”タクロウ”の身体を抱き上げた
その身体は敵の悪魔王の手下”悪魔人”によって
もはや回復不可能な状態と分かるほどの損傷を受けていた
「す、すまないッ!!」
「ぁアニキのせいじゃな、ないッスよ・・・」
「もういい、喋るなッ」
その間に無情にもタクの体温は冷え切っていく
「あ、アニキぃぃ・・・」
「タク!?タクぅううううううううううッ!!!」
力なく脱力していくタクの手を握るが
タクは既に帰らぬ人になってしまっていた
「う、うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ヒリュウの魂の慟哭が瓦礫の街に木霊した・・・
「・・・待っていたぞ、悪魔人!!」
20名ほどの部下を引き連れ
次の目標である街を目指していた悪魔人”ドグウ”はその言葉を発した人物
”超人テレックス”こと”トドロキ・ヒリュウ”を見つめる
『ゲゲゲ、キサマはヒリュウ!』
「次の目標は、そこの街だという情報を得て待ち伏せていたのだ!」
タクの残した最後の情報だった
「貴様のせいで、タク、タクは・・・」
わなわなと震えるヒリュウ
「この、俺の、腕の中で、死んだッ!!」
かっと、全身を光らせると変身する
『ゲゲゲ、飛んで火にいるなんとやらだ!!』
悪魔人”ドグウ”はそう叫ぶと眼を光らせて変体を始める
背後の部下は左右に散っていく
『ゲゲ、テレックス!ココをキサマの墓場にしてくれるゥ!!』
変体を始めた悪魔人”ドグウ”はあっという間に膨れ上がり
天を衝くほどの巨大な建造物の様になった
「むむっ!?」
身構える”超人テレックス”
『クタバレ、テレックス!!』
その建造物の如き前面の壁から無数の砲門が現れ
一斉に火を噴く
「ぬぉおおおおおおおおッ!!」
その火勢の前に
ヒリュウこと”超人テレックス”は
憎き悪魔人を倒すべく突撃していくのであった
「・・・で、元の世界に戻る方法を探している、と?」
過去の記憶がフラッシュバックしていたヒリュウだが
老神父ウルフの言葉で我に返る
「・・・あぁ。そんな訳で、俺はこの街を後にせねばならん」
ヒリュウは世話になった獣人国の教会の
老神父に事の次第を告げていた所だ
「そうか・・・そいつは難儀じゃったの」
老神父は納得顔だったが
少女キャミィはまたもやふくれっ面だ
「キャミィや、分かってあげなさい」
「でもぉ・・・!!」
老神父の諭すような話し方でも
キャミィは納得していないようだ
「だって!また、こないだみたいなヤツが出るかもしれないじゃない!」
キャミィの言っているのは
ヒリュウが倒して捉えた犯罪者”ガジャル”の事だ
「まぁ確かにあんなのが沢山いたら困るが」
「ほらぁ!!」
ヒリュウが顎に手をやり考えながら話すと
してやったりとキャミィは合いの手をうつ
「でも、出払っていた憲兵?兵隊さん達が戻って来たんだろう?」
ヒリュウは先ごろ仕入れた情報を披露して話を詰める
そんな情報もあってヒリュウはこの街を離れる決心をしたのだが
「でもぉ・・・」
密かにヒリュウに憧れているキャミィは涙目だ
そんなキャミィの頭にぽんと手をのせて
ヒリュウは優しくなぜる
「そんな顔すんな。また戻ってくるからよ」
「ほんと!」
ニヤリとしたヒリュウに、コロっと騙されてキャミィは笑顔になる
そのやり取りを老神父は複雑な表情で見つめるのだった
「どうしてもいくのか?」
旅立ちの朝、支度をしたヒリュウに老神父は声をかける
「えぇ」
わりと素っ気なく返事をするヒリュウ
キャミィも街の外まで見送りするとかで
まだ姿を見せてはいないが・・・
「実はな・・・」
「知ってますよ」
「・・・えっ?」
何やら話し出そうとしていた老神父の言葉を遮るヒリュウ
「ここ数日来、出払っていた兵の帰還やら何やら・・・」
そう言って窓の外を眺めるヒリュウ
「おぬし・・・」
「・・・近いうち、戦争が起こるんでしょ?」
ヒリュウが老神父を見ずに話す
「・・・わかっておって」
「だから、ですよ」
振り返ると老神父に向かってニヤリとするヒリュウ
「その禍根を、つぶしてから行きますよ」
丁度朝日がさしてきてヒリュウの顔が見えなくなる
「さて、と」
大泣きしていたキャミィと老神父のウルフの姿が見えなくなり
目的地である敵方とされるヒューム族のエリアに差し掛かった時だ
国境には巨大な国境門が設置されて空気がひりついている
相当前からこちらを警戒していた様子だ
「一本道の街道を徒歩で来てるんだがなぁ・・・」
小首をかしげて後ろの道を振り返るヒリュウ
相当数の兵隊が国境門の覗き穴から伺っているのが感じられる
「たのもぉ~~、てか?」
手前まで来ても閉ざされたままの門に向かってヒリュウはおどけて見せる
「何者だッ!!」
憲兵らしき人物から詰問が飛ぶ
「旅人だ。ちょいとそっちのエライさんに話があってね?」
「何だと!?怪しいやつめ!!とっとと失せろ!!」
傍若無人とした雰囲気のヒリュウに憲兵がいきり立つ
「まぁ、失せる気も無いしこんなとこで時間食うわけにもいかないんでな」
ヒリュウはそう言うと右手で門に手を当てる
「何をする気だ!?離れろ!!」
いきり立つ憲兵の言葉を無視して
ヒリュウは右手に力をこめる
「ちょうわっ」
・・・それから数時間後
国境門から遠く離れたヒューム族の城塞”ネロン”
そこを治めるヒューム族の城主、メガスの玉座の間
「も、申し上げます!!」
そこに息せき切って飛び込んできた連絡係
「何事だ。騒々しい」
落ち着いた渋い声で城主メガスはたしなめる
「は、ははっ! 只今、早馬にて報告が!」
慌てて気を付けの姿勢を取った連絡係に
側近の憲兵隊長ジャッケンは指示する
「申し上げよ」
「はっ!国境の門が突破され、何者かが此方に向かっております!」
その報告を受けてその場に居た全員がいぶかしむ
”何者かが”今、この報告係はそう言ったのか?
”軍隊”とかではなく、”個”?
皆がざわつく中、憲兵隊長ジャッケンは問いただす
「何者か、と申したか?」
「は、はい!信じられませんが、たった一人だそうです!」
ぼぉぉぉん
乗っている騎馬兵には申し訳ないが派手に飛んでもらおう
そう考えながらヒリュウは自分を取り囲んだ騎馬兵を蹴散らしていた
落下地点を計算して、まぁ骨折くらいはしかたないよな?
と思いながら騎馬兵を放り投げていく
頭から落っこちない様に上手く放り投げるにはコツがいる
さび付いていた電子頭脳を働かせながらヒリュウは歩を進める
目的の敵対種族の城塞は目の前だ
・・・とはいっても、見た目は自分と同じ種族なのだが・・・
「ヒューム族つったってなぁ・・・」
そう呟きながらずんずん進むヒリュウ
そうこうしているうちに城塞の形が見えてきた
「おぉ、あれかぁ」
緑の草原に真っ白な城門が美しく築かれている
「・・・なんか、こういうとこ見るとファンタジーだよな」
何時の間にか周りに群がっていた騎馬兵達はいなくなっている
「・・・何か始まるのかな?」
美しい光景に似つかわしくない緊張が辺りに満ちる
どぉぉん
火薬の炸裂音が響きヒリュウの横の緑の草原が弾ける
ばがっ
「・・・大砲、か」
そう呟くと同時に美しい城門のそこかしこから
赤い火花を散らせて砲撃が始まった
どんどんどん
ばがばがばがっ
火薬の音が響くたびにヒリュウの周りの緑がはじけ飛び
土の茶色が飛び散る
「ったく、こんな美しい草原なのに・・・」
火薬で押し出された、恐らくは鉄球が
周りの美しい景観を次々と荒れ果てた大地に変えていく様を見て
ヒリュウは悲しい気持ちになる
そして
その砲撃はヒリュウにとって最も忌まわしい記憶を呼び起こすのであった
「・・・タク・・・」
ヒリュウにとって唯一の弟分であった”タクロウ”を殺した悪魔人
”ドグウ”の変体した攻撃を思い起こさせるのだ
「混同しちゃいけねぇけどよぉ」
見事に命中しそうな砲弾がヒリュウの頭上に迫る
それをヒリュウは微動だにせず受けた
ごばしゃあっ
まるで豆腐が飛び散るように
ヒリュウに命中した鉄球が砕け散った
「変身!!」
左腕にまかれた腕時計型電波発信機を掲げるヒリュウ
声に反応し文字盤に当たる部分が発光し振動する
特殊な振動をキャッチした腰に内蔵された変換機が
瞬時にヒリュウの身体を強化外骨格で覆っていく
僅か数秒でヒリュウは”超人テレックス”に電波変身を終えるのだ
「・・・何者だ、彼奴は?」
その様子を望遠鏡で覗いていた城主メガスは呟く
「解りません。魔術師の類でしょうか」
傍で同じく望遠鏡を覗いていた憲兵隊長ジャッケンは考えを口にする
「どちらでも構わん。この砲撃を苦も無く進む彼奴は脅威だ」
そそくさと身支度を整え、纏った外套を翻しつつメガスは
「突破される訳はないと思うが・・・ジャッケン!」
城主メガスは威厳を保ちつつ振り返る
「は、後はお任せください」
憲兵隊長ジャッケンは丁寧なお辞儀をする
「うむ」
それを見た城主メガスは満足そうにその場を立ち去った
砲撃音が続く中、時間をかけて体を起こしたジャッケンは
「ふふふ・・・久しぶりに手応えがありそうな相手だ」
そう言うと腰の大剣の柄をなぜた
「ちょうわっ」
城門に辿り着いた”超人テレックス”は
鋼鉄で作られた城門を粉砕した
粉塵が上がる中、真ん中に立つ人物に気が付く
「ん・・・アンタは?」
強化外骨格のバイザー越しにその人物に焦点を合わせる
「この城塞都市の憲兵隊長、ジャッケンと申す」
「憲兵、隊長・・・」
腰だめにした大剣の柄に手をかけたジャッケンは
「参る!!」
短く叫ぶと超人テレックスの首を狙って横切りをした
ばきんっ
鈍い音がして火花が散る
「んぐっ・・・!!」
ジンジンと響く鈍い痛みにジャッケンは呻く
「・・・アンタ、いい腕してんなぁ」
とぼけたような受け答えをした超人テレックス
その大剣を受けた首は無傷だ
余りの質量の違いから
首を狙って薙ぎ払った大剣を握った手首は
反動で跳ね返され捻挫をおこしていた
「ぐぐぐ・・・おのれっ」
すぐさま大剣を両手持ちに切り替え
頭上に振りかぶったジャッケンは
高く飛び上がった
「きえぇぇぇいっ」
大上段からの唐竹割だ
憲兵隊長ジャッケンはその大剣でこの世界で最も硬いとされる
金剛石の塊を切り裂いた事があるのだ
だが・・・
ぱん
乾いた音と共に自慢の大剣は中央から折られていた
「ば、ばかな・・・!!」
ジャッケンは刃先が真ん中から喪失した己が大剣を見て呻く
「いい腕だし、良い剣だったが・・・俺は切れないぜ」
そう言うと超人テレックスは折った大剣の半分を
固まっているジャッケンの目の前に放り投げた
からんからん
剣先が地面に転がるのを見てジャッケンはその場に崩れ落ちる
その姿を横目に見ながら超人テレックスはその場を通り過ぎて行った
ばがんっ
城塞都市の城主メガスが鎮座する玉座の間についた超人テレックス
大扉を勢い良く開けたのだが扉の蝶番がその勢いに耐えられず破損する
がたん
半分傾いた扉をちらりとみて超人テレックスは歩を進める
その面前には玉座で座ったまま震えるメガスと及び腰の衛兵数人
「ほう、逃げないとは胆の据わった王様だな」
そう叫びながら歩み寄る
「ひ、い、いやぁーー!!」
何か悲鳴のような叫びをあげながら数人の衛兵が武器を突き出してくる
それを体に届く寸前でつかみ取り、薙ぎ払う超人テレックス
声にならないうめき声をあげる衛兵をしり目に玉座まで歩み寄る
「ひ、ひ、ふ、ひ、ひ、ふ」
何かお産の時のような呼吸音を上げながら城主メガスは此方を見ている
「・・・ふむ」
左腕の変身アイテムを解除した超人テレックスは
トドロキ・ヒリュウの姿に戻る
「一言お前に物もぉーす!」
どこかのコメディアンみたいに人差し指を城主に向けて叫ぶヒリュウ
「・・・なんてね、へへへ」
突き出した人差し指を握りこむと
「何か、侵略戦争?企んでるんだって?」
すごむヒリュウ
「し、仕方ないのだ、民草を飢えさせるわけにはいかん!」
最もな言い訳を述べる城主メガス
「だったら!」
拳を目の前まで付きだすヒリュウ
「もっと内政頑張れよ、なぁ?」
ヒリュウはそう言うと持論を述べる
「苦しいからって他人様の物に手を出そうなんざ」
人差し指でメガスの頭に乗っかった王冠を弾く
「短絡的だっつーの。その頭、王冠乗っける為だけじゃねーんだぜ?」
そう言うと人差し指で額をつついた
未だひふひふ言っている城主を一瞥すると
背を向けて来た方向に向きを変える
「戦争なんて出来ない程度に軍備は破壊させてもらったよ」
歩きながらヒリュウは大声で告げる
「それから・・・」
床に落ちていた武器を拾うと振り向き様に城主に向かって投げる
頭上の壁面にその武器が突き刺さる
「もう一度おかしな真似したら、その時は根こそぎ潰すからな」
その凄まじき力量を見てただうんうん頷くだけの城主メガス
「にしても」
ヒューム族の城塞を後にしたヒリュウ
砲撃で荒れ果てた草原と、黒煙の上がる城壁を遠方から眺めると
大きなため息をつく
「民草を飢えさせるわけには、か」
誰が為に、戦うか・・・
ヒリュウは悪魔王との闘いの日々を回想しつつ考えるのであった
種族間紛争の火種を豪快に摘み取ったヒリュウ
これで解決するかは時のみぞ知る・・・
次なる事件は種族同士の結婚詐欺?
戦え、ヒリュウ!負けるな、テレックス!
次回”超人テレックス”
第四話 ロミオでジュリエッと
「俺は、必ず元の世界へ戻る!」