第二話 野獣の咆哮
俺の名前は”トドロキ・ヒリュウ”またの名を”超人テレックス”
電波の力を借りて変身する改造人間だ
異世界に転移されてしまった俺は元の世界に戻る為
さすらう内に獣人ばかりの国に紛れ込んでしまったようだ
そこで出会った獣人族の少女と知り合いになってしまったのだが・・・
「これで最後だ悪魔王!!喰らえ、必殺!」
『オノレ、テレックスゥゥゥ!!!』
「トリプル・チョップーーー!!」
悪魔王エンダイドの脳天に
この俺”超人テレックス”の必殺技”トリプル・チョップ”が炸裂する
ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
悪魔王エンダイドの超絶な悲鳴が木霊する
反動で俺もはじけ飛んでしまう
体勢を立て直すと視線を敵に向ける
長い格闘の末にようやく叩き込んだ必殺技だ
さすがの俺もエネルギーが余り残されていない
『グ、ゴォォォ』
悪魔王エンダイドは仁王立ちしていたが
そのダメージは深刻そうだ
だが
必殺技を受けた脳天からヤツの体液が噴水の様に吹き上がる
「やったか・・・!?」
思わずそんな言葉が口をつく
『グガ・・・コノママデハ・・・』
何かつぶやいている・・・?
『コノママデハ、シナヌ!ワシハ、カナラズ!』
「・・・」
無言で悪魔王エンダイドの最後の言葉を聞く
『カナラズ、フッカツスル!ソレマデ!!』
ぐい、と身構える俺
『フルエテ、ネムレ!!グハハハハッ!!』
そう叫んで高笑いする悪魔王エンダイド
じりじりと後ずさりするように後退をしていく
その先にはぐつぐつと燃え盛る火山の噴火口がある
あっという間もなく悪魔王エンダイドはその噴火口に倒れこむ様に落下した
すぐさまその最後を確認するべく噴火口まで駆け寄って覗き込む
すでにその姿は眼下の溶岩に飲み込まれ見えなくなっていた
水落は生存フラグ・・・
そんな言葉が脳裏をよぎったがこれは水じゃないしな・・・
こうして俺の戦いは幕を閉じたのであった
「ねぇ、聞いてますぅ!?」
はっと我に返った俺を
前回知り合った獣人族のキャミィが
ほっぺをぷぅと膨らせて睨んでいる
「あぁ、すまん。聞いてなかった・・・」
思わずそんなひどいセリフが口をついてしまった
「はっはっはっ。キャミィ、お客人は疲れていらっしゃるのだよ」
そう言ってフォローしてくれたのは
この街の教会の神父、ウルフと名乗った年老いた狼型の獣人だ
暴れ馬からキャミィを助けた後
折角だからと自分の急ぎ先であった教会に招待され
そこで紹介された老神父にお茶に誘われたのであった
提供された黄色い湯気の立つお茶を眺めるうちに
その湯気が悪魔王エンダイドとの最後の戦いを思い出させていたのだが・・・
「で、何の話だったんだい?」
気を取り直して聞き直すが
「もう、知らないッ!!」
ブンむくれだ
時すでに手遅れ、というヤツらしい
「はっはっはっ、これこれ、客人を困らせるでない」
さすが年の功!すかさず助け船を出してくれる神父様、素敵!
神父様はそう笑うと、さっきまでしていたであろう話をしてくれる
「つまり、俺にこの街の教会の警護をして欲しいと?」
「もうっ、さっきからそう言ってるじゃないの!」
老神父のウルフが言うには
昨今の種族間のいざこざが発端で
敵方・・・どうやらヒューム族らしいのだが・・・
そちらからの間者、つまりスパイ活動が活発なのだとか
おまけに戦争期の混乱に乗じて治安も悪くなっており
不貞を働く輩も増えているのだそうだ
「しかしそれじゃぁ、ヒューム族とやらに似ている俺の方が怪しいんじゃないのか?」
「だから私を助けてくれたじゃない!」
さっきからブンむくれのキャミィが
テーブルをぱんぱん叩いて怒鳴る
「まぁまぁ、キャミィ落ち着きなさい」
老神父がなだめる
ずずずと一口茶をすすった老神父が
湯呑をことり、とテーブルに置く
そして伏し目だった目を此方に向ける
「こう見えて若い頃はそれなりでしてな」
急に射抜かれるような眼光を発した老神父
「人を見る目は、あるつもりじゃ」
その眼光に負けたわけじゃないが・・・
「解りました。それじゃその治安とやらが落ち着くまでの間ででも」
「暫くしたら出払っている兵達も戻りましょう」
即答した俺に老神父のウルフは直ぐに好々爺的な素振りをする
「やったぁ!よろしくね、ヒリュウ!」
横で聞いていたキャミィが
尻尾を振りながら腕に絡みついてくる
見た目と裏腹にボディタッチの多い子だなぁ
そんな事を考えながら
俺は反対側の手で出されたお茶をゴクリと飲んだ
その夜から泊まり込みで
教会近辺を巡回するハメに・・・ではなく、警護だ
ヒリュウの見た目は不審者その者なので
(グレーのローブを身にまとっているだけなので)
腕に教会の腕章をつける事にする
「では今夜から頼みますぞ」
外へ出ようとした瞬間、老神父のウルフから声を掛けられる
「まぁ、引き受けたからには全力を尽くしますよ」
そんな会話を交わしながら外へと出る
異世界の夜は漆黒の闇の様な夜空を呈していた
「・・・変わらんのだな」
悪魔王エンダイドとの長い闘いで
幾度となく夜の空を見上げてきた
異世界に来てからも何日も夜を過ごしたが
やはり吸い込まれるような黒は変わらなかった
「違うのは輝く星々が全く異なるくらいか」
元の世界で記憶していた星座の配置が全然違うことから
夜空を見上げるたびに実感するのであった
「さて、仕事仕事」
気を取り直し夜の闇に歩みだす
・・・夜は好きだ
・・・暗い闇が全てを覆い隠すからだ
・・・自分の犯した罪をも隠してくれるようだ
・・・そしてうっすらと光る明りに照らされた
・・・こちらを見る怯えた表情も好きだ
戦争期の混乱に乗じて暗躍している犯罪者
流れの獣人族、ガジャルは舌なめずりをする
・・・この街でも楽しめそうだ
ガジャルは猫系獣人の俊敏さを生かした動きを見せる
音も無く忍び寄り
目的の物を奪い、喰らい、犯すのだ
丁度目の前の建物の窓から
中の様子が窺える
・・・ククク同じ猫系の獣人族の娘か
彼が目にしているのはなんとキャミィだ
・・・家人が寝静まったころに動くか
屋根の上に身をひそめる
・・・さてどうするか?
ガジャルはこれから起こるであろう計画を
入念に頭の中でシュミレートする
・・・まずは両親とか大人から楽しもうか
家族構成はよく知らないが夫婦ならそれなりに楽しめる
片親だけならオスは殺す、メスは犯す
・・・そして殺す
その後はメインディッシュだ
・・・ククク、肉が柔らかそうだ
愉悦の瞬間を想像し、高ぶりを押さえられない
「ハイ、ダメ~~」
その瞬間、背後から何者かの声がかかる
びくっとなったガジャルは恐る恐る首を動かして背後を見る
・・・屋根の上だぞ?
自分の事はタナにあげてそんな事を考える
そこに立っていたのは教会の腕章を付けた
トドロキ・ヒリュウだ
「大人しく投稿すれば痛い思いはせずに済むぞ?」
言った後で顎に手を当てて少し考える
「あっ違った。投降するだ」
・・・変換ミスなんて文章じゃなきゃわかんねーよ!
小声で盛大な突っ込みをいれながら戦いやすいポジションに移動する
「ほう、大人しくする気はない、と?」
ガジャルの動きを見てヒリュウはそう判断する
・・・いいやもう一つ選択肢はあるぜ
「何かな?」
・・・何者かは知らねぇが貴様を殺して
充分に腰だめして夜空に跳躍する
・・・後でタップリと楽しむコトさァァァァァ!!
勢いをつけた跳躍から繰り出す
利き腕の鋭い爪を使った斬撃だ
いまだかつてこの斬撃から反撃出来た者はいない
・・・くたばりなッ!!
寸前でも相手に動く気配がない
完全に斬撃の射程にとらえた
・・・馬鹿か、こいつッ!?
かすっただけでもその爪は深々と体に食い込み
致命傷を与える事が出来るのに
それを微動だにしないで受ける気か?
過去の経験からこの態勢に入って相手が助かった試しはない
・・・ならばッ!!
一撃で決めるべく腕に力を籠める
が
自慢の爪は敵に届く事は無かった
ぼきりべりり
信じられないような音を立てて
自慢の爪は砕け散り
根元から剥離した
・・・あああああああああああ
声にならない悲鳴を上げるガジャル
「大声を出さないところは流石、賊と言うべきか?」
微動だにせずにガジャルの渾身の斬撃を受けたヒリュウ
その当たった場所をぽんぽんと片手で払う
・・・こいつ、ヒトか?
だらだらと血が流れ落ちる利き腕を
もう片方の手で手首を締めて止血する
「さてお前の力量は大体解った」
ヒリュウは軽く身構える
「夜中に屋根の上で騒いでるのはよろしくないんでな」
・・・くそっ
瞬時に逃走経路を見定めるガジャル
・・・ここは逃げて
「逃がさねぇよ?」
ガジャルの考えを先読みするかのように
ヒリュウがすぐ横に移動してきた
・・・ぐ
判断の遅れたガジャルが呻く
「よっと」
その首筋に強力な手刀を打ち下ろすヒリュウ
「ぐげぇぎゃッ!!!」
とんでもない悲鳴を上げて下の石畳の通路に落下していくガジャル
流石に騒ぎに気付いて住民が現れ始める
眼下の石畳の上でけいれんしているガジャルを見下ろしてヒリュウは呟く
「変身するまでも無かったな」
振り返ると騒ぎを感じたのか
キャミィが窓を開けてキョロキョロしている
その姿を見てフッと口元を緩めるヒリュウ
にしても、だ
「最後の咆哮だけは頂けなかったな」
そう言ってヒリュウは
眼下の野獣に目を向けたのであった
世間を騒がせる間もなく悪党を退治したヒリュウ
次なる事件は他種族との種族間紛争!?
強固な城塞都市にトドロキ・ヒリュウの真の力が発揮される!
戦え、ヒリュウ!負けるな、テレックス!
次回”超人テレックス”
第三話 戦いは誰が為に
「俺は、必ず元の世界に戻る!」