8 「一般人」から「悪のしたっぱ」?
遅くなり申し訳ございません。
冬先琉斗とウルフェンが激しく言い合っている中、ジェンダーは少しイラついていた。
「お前ら少し落ち着け・・・。」
「この犬っころが!さんざんビビらせやがって!」
「テメエが勝手にビビッてたんだろ!!あと犬って言いやがったな?!かみ殺すぞ!!」
「うるせえぞ!!少しは静かにしやがれ!」
ジェンダーが怒鳴ると同時に凄まじい負のエネルギーが溢れ出る、それを見た一人と一匹はピタリと静かになり話を聞く姿勢に戻った。
「はあ、騒ぐのは構わねえがなるべく俺のいないところでやってくれ、寝られないだろうが。」
そう言ってジェンダーはいつもの気だるそうな声のトーンで喋る。
「とりあえずだ、リュウトは魔界にいるつもりはないんだな。」
冬先琉斗は考えていた。
確かに俺は魔界で働く気なんてないんだよなあ。それこそ働くっていうならアレがないと・・・・いや、もしかしたらあるかもしれない。
「1つ質問いいですか。」
冬先は自分が望むものが手に入るなら魔界で働いてもいいという意思で質問をする。
「お金ってもらえますか?」
「ああ・・それは無理だ。魔界には金というものがない。」
「あ、じゃあジェンダーさんすいません。俺、帰りたいです。」
僅か10秒で砕けた意思だった。
「即答だと?!もう少し考える気持ちはねえのかリュウト!!」
「ウルよ、俺は報酬とかが無いとやる気が起きない。」
「報酬ならあるぞ!」
冬先琉斗は報酬と聞いてウルフェンに意識をよせた。報酬次第では考え直そうかと思ったからだ。
「へー、どんなの?」
「力だ、負のエネルギーを沢山手に入ればその幾らかをお前が貰える。そうすればその分お前は強くなれるんだぜ!!」
「ふーん、ぶっちゃけ金が貰えねえならどうでもいいわ。」
ウルフェンは口を開けて驚愕した。何故なら魔界では負のエネルギーから得る力はとても魅力があり、今の魔界では負のエネルギーはとても重要である。
それが今の魔界の常識である。
馬鹿な?!リュウトは力が欲しくないというのか?!
負のエネルギーよりもカネというものには力があるのか?
「ウル、俺はウルと契約して負のエネルギーとかいう力を手に入れて嬉しくなかったわけじゃない、むしろ舞い上がっていた。」
「なら何故?!」
「俺は確かに人生に刺激が欲しかった。こういうファンタジーな力で人生を楽に過ごしたかった。だが!!魔界では金が貰えない!それじゃあ人生を安定してすごせないだろ!!」
ウルフェンは酷く困惑した。
目の前にいる男がなにを言ってるか分からなかったからだ。
「まあ簡単に言うと、俺はファンタジーな力で楽しく刺激的に金を稼いで安定的な生活をしたいわけだ。」
「よく分かんねえが、テメエがムカつく程に生きることを舐めてる事はよく分かった。」
ウルフェンはとても落胆していた。
「クソ!なぜ俺はこんな奴と契約できちまったんだ。」
「たまたま俺の負のエネルギーが強かったんじゃねーの?そんなに落ち込むことか?」
「リュウト。契約には相性も大事だって言ったのを覚えてるか?」
ジェンダーが少しウルフェンを憐れむ様子で琉斗に質問する。
「ああ・・・すいません。緊張しててあんま聞いてなかったです。」
「それもそうだな・・・つまりはリュウトとウルが似たもの同士だから契約できたってことだ。」
似た者同士?・・・・ああ、だから相性がよくないと契約できないのか。そういう事か、納得。
・・・・・あれ、まてよつまりは。
「それって俺とウルが似た者同士ってことですか?!」
「そういうことだ。」
琉斗も横にいるウルフェンと同じようにうなだれる。
いやいやいやいや、え?俺がこの変な勘違いするような奴と?
それは異常に嫌だ。
「ジェンダーさん、流石に契約は相性がよくないとできないというのは嘘だと思うぜ。」
ちょうどウルと同じ事を思ってしまったが正直そうであって欲しいわ。いや、絶対そうでなければダメだ!
冬先琉斗は半ば決めつけるような考えをしてジェンダーに真剣な眼差しをする。
しかし、ウルフェンと同じような思考をするということは冬先琉斗とウルフェンはほぼ似た者同士なのだが、この一人と一匹は都合の悪いことは考えようとしなかった。
「いや、お前らどう見ても・・・まあ、契約については分かんねーことが多いからな。」
そんな一人と一匹の考えを察したかのように、ジェンダーは正直に答えるのを止めた。
「そういやリュウトはもう変身とかしたか?」
「え、変身とかできるんですか?」
「ウルフェンが天界の奴を追っていた時に出会った人間の娘の事は覚えてるか?」
「ウルを一瞬で瀕死にしたやつですか?」
冬先琉斗はウルフェンから天界やそれと契約したと思われる少女の事を聞いた時、興味をもった。
天界の事はウルフェンから少し聞いていても、自分以外にも契約した人間がいたのは初耳だったからだ。
「グ、確かに一瞬でやられはしたが油断しただけだ!!」
「ちょ、急に大声だすなよウル。・・・・悔しかったの?」
「あ?」
ウルフェンが今にも喰ってかかりそうな目で琉斗を睨む。
「少し落ち着けウルフェン。聞いた話だとその娘と契約した天界の奴はかなり強いはずだ。あまり気にするな。」
「すいません。だがジェンダーさん、あの娘は間違いなく俺たちにとって邪魔な奴だぜ。」
ウルフェンは実際に会ったことがある故に焦っていた。あの強さはもしかするとジェンダーを・・・いや、ジェンダーを含む三幹部より強いと思わせるほどの力を見せたからである。
「じゃあ、俺にもそんな変身ができるんですか!?」
突然、琉斗が目を輝かせながら質問した。
「ん?ああ、まあ出来るが・・・・そうだな、試しにやってみるか。」
ジェンダーは何か言いたそうな雰囲気だったがウルフェンをチラリと見て言いよどむ感じだった。
しかし琉斗は前世では体験することが出来ないようなことが出来ることに、初めてウルフェンと会った時のような高揚感、つまりテンションが上がっており、ジェンダーの雰囲気を余り察していなかった。
「どうやって変身すればいいんですか?!」
「リュウトはウルフェンと魔界に来る時ゲートを作ったか?」
「作りました。」
「じゃあその時に負のエネルギーを感じ取ったはずだ。それを今度は自分の中にある負のエネルギーを全部出して自分に纏うようにしてみろ。案外簡単にできるらしい。」
纏う・・・今の自分の服装に負のエネルギーを包み込む感じか?
今日の俺の服装は紺色の長袖パーカーに黒のズボンだからこれを覆う感じで・・・!
その時琉斗から黒いオーラのようなものが彼を包み込む、そして一瞬光る。
「これが変身ですかジェンダーさん・・・・。確かにリュウトの力が上がっています。」
「そうだ。これにより、リュウトの力は人間の時よりも遥かに強くなっている。」
フン、リュウトの野郎、結局負のエネルギーの力にはしゃいでるじゃねえか。
あんな偏屈野郎の変身もきっと捻くれた姿だろうよ。
ウルフェンが悪態をついた時、光が収まりそして・・・。
「どうだリュウト、変身した感想は・・・・・・。」
「・・・・・。」
ジェンダーとウルフェンが沈黙する。
対して琉斗は自らの力が上がっているのを実感し、自分がどんな姿か確かめたくて気が気でない感じだ。
うお、凄え!なんか分かる!もう本能っていうのか?力がみなぎってくるのを感じる!!最初に感じた負のエネルギーの比じゃない!
これは確かにウルフェンが力を欲するのも納得だわ。
さて、一体俺はどんな姿になってるんだろう。
まず自分の手を見る、そこには刀がある。
おお、カッケェ!!なんかもう、刀ってだけでカッケェ!
さて服装はどうだろう。ズボンの方は黒のズボン・・・なるほどね。
上の服は紺色の服だな、あと頭の方に変な感触があるな・・・・これはパーカーか、へえーーーーー。
「あの、俺・・・変身の仕方間違えました?」
え、全然変わってなくね?刀持ってること以外なんも変わってなくね?
「ああ・・・まあ、その、何だ。俺も契約やら変身やらにはあんま詳しくねえからなんとも言えねえが、リュウトの力は上がってるから問題ないぜ・・・。」
冬先琉斗が困惑してるところに、ジェンダーが言葉を選びながらフォローする。
「お前の力が弱っちいんじゃねえの?」
ウルフェンがバッサリ言った。
「おま・・・・!!俺が一番言って欲しくない事をストレートにいいやがったな。」
琉斗の言葉から覇気が失われている。
マジかよ・・・ここはチートみたいな能力を手にして、なんか無双しちゃった俺?みたいな感じでいくところじゃねえのか?!
そんでギルドみたいなのでお金を楽に稼いで・・・・いや、この異世界ギルドないし、魔界だし、あと魔界お金無いわ。
「てか変身って言ったって刀持っているだけなら変身じゃなくね?」
「何言ってやがるリュウト。お前、変な被り物つけてるじゃねえか。」
「え?」
ウルフェンに言われて琉斗が自分の顔を触ろうとして、何か固いものが自分の顔全体を覆っていることに気がつく。
「本当だ、なんかある。でもおかしいな、目の部分も覆われてるのに普通に見えるぜ?」
「多分だが、変身したことでリュウトの体には今、負のエネルギーと融合した状態のはずだ。その影響でその仮面とリュウトの視覚がリンクした状態ってことだろ。」
ジェンダーが琉斗に説明するが、琉斗には全く理解できない。
「あの、すんません・・・・ちょっと分かんないっす。」
「つまりは変身してりゃ見えるってことだ。」
ウルフェンも分からないので適当に説明した。
「あ、そういうこと。」
「いや・・・まあ、そいつでいいや。」
ジェンダーは説明するのが面倒くさくなって、説明を終えた。
「お、この被り物外せるじゃん。」
琉斗は被り物みたいな物に期待した。とりあえず外見に重要な、顔をつくる部分が良ければ、見た目は及第点くらいにいくだろうと考えたからだ。しかし・・・。
「何か、地味っていうか・・・特徴的なのがないな。」
そのマスクを表現するならシンプルという言葉が正しいだろう。
黒を主体とした、お面くらいの大きさのあるマスクだ。
「ジェンダーさん・・・自分は弱いですか?」
「ハッキリ言うが、リュウトの体にはウルフェンの負のエネルギーも半分入ってる。その分の力にリュウト自身の負のエネルギーが合わさってそうだな・・・・今のウルフェンより半分くらい強いな。」
てことは今のウルフェンの1.5倍くらいの強さってことか。
あれ、それって俺の元々の負のエネルギーはウルフェンの半分程じゃねえのか?!
「なあリュウト、それってどれくらい強えんだ?」
「ん?ウルより強いってことだよ。」
「いや、そりゃそうだが何で笑顔なんだよ。」
プライドや対抗心からなのか、冬先琉斗はウルフェンより負のエネルギーが劣っていることを口にしなかった。
「さてと、じゃあ自分落ち込んだので帰っていいですか?」
琉斗は帰ろうとするが、内心焦っていた。
幾らか緊張は解けたが、ここは人間界から負のエネルギーを集めようとする魔界である。
ウルやジェンダーは悪い奴には見えないが負のエネルギーってのは人間のマイナスな感情で出るもの。
あまりいい方法で負のエネルギーは集めれない、それこそまるで悪の組織みたいな設定だ。
それとなく抜け出したいけど、やっぱ無理かなー、人間からしたら敵対してるようなもんだよなあ。
「おお、すまなかったな。帰っていいぜ。」
「え?」
ジェンダーからの予想外の返事に、琉斗は驚き、素っ頓狂な声をだす。
少なくとも琉斗は人間界に帰れるとは思っておらず、ノリでそれとなく部屋を出て、その後は全力ダッシュで逃げるという余りにも甘い計画を実行しようとしていた。
しかしジェンダーは、琉斗が人間界に戻ろうとするのを止めなかった。
「いいんですか?俺、魔界の事を人間界に教えちゃうとか思わないんですか?」
「何だ?お前、魔界の自慢とかを人に教えるのか?」
「いや、別に自慢もしないし言いふらそうともおもいませんけど・・・。」
「まあ、冗談はこれくらいにして正直な話、俺はあんま人間界の侵略とか興味ねえんだ。他の連中はどうか知らねえがな。俺はぐっすりと寝れればそれでいい。」
へー、意外だな。
俺はてっきり皆ウルみたいにやる気に満ち溢れてそうな奴ばっかだと思ってたけど、そうじゃないのもいるんだ。
「分かったんなら帰りな。俺はまだ寝たりねーからよ。」
ジェンダーは気だるそうに言いながら、また窓ガラスがない窓で寝始める。
「あ、じゃあ帰ります。えと・・おやすみなさい。」
琉斗はなるべく音をたてないようにドアを開けて部屋を出た。
部屋を出て先ずは深呼吸した。安堵だ。
はーーー。疲れたーーーー。
何か、高揚感だったり不安や絶望、驚きの連続で精神がもたないわ。
「とりあえず帰るか。」
そう独り言をつぶやく。
「ああ、そうだな。」
「・・・・なんでいるの?」
横には普通にウルフェンがいた。
「だって俺がいないと人間界に繋ぐゲートあけられないだろ?」
「そう云えばそうだったな。わりい、じゃあそこでお別れか、また会ったら負のエネルギーをやるよ。」
「なに言ってんだリュウト?俺も行くに決まってんだろ。」
え?
「契約してんだからお前の負のエネルギーがいるだろ。」
「そうしなきゃマズイのか?」
「いや、そうじゃねえが、魔界にもいろんな事情があんだよ。」
ふーん。まあ世の中ってのはいろんな悩みを抱えてるもんだしいいか。
「じゃあ帰るか。こっからゲートでも作るか?」
「いや、ゲートってのは人間界と魔界を繋ぐものだ。ここだと別の空間と繋がるらしい。」
「つまり、最初にここに来た時と同じ場所でじゃなきゃダメ
こと?」
「そういうことだ。」
めんどくさいな、ゲートもそんな万能じゃないってことか。
「とりあえず、顔を隠すために、その被り物でも着けてろ。」
「そうだな。変身は解かずにいこう。あとこれ、マスクな。」
そうして冬先琉斗とウルフェンは魔界に来た時の場所に戻りゲートを作って最初の公園に戻る。
「おお、魔界と違って明るいから眩しく感じるは。」
そう嬉しそうに琉斗は帰ろうとするが。
「ゼェ、ゼェ、やっ・・と・・見つけた。」
背後から少女の声が聞こえ、驚いて振り向くとそこには桃色を主体とした服にスカート、そしてスパッツを着ていて、長い桃色のツインテの女の子がいた。
それを見たとき琉斗は、その少女と初めて会った風には思えなかった。
ストーリー進めていくと言っておきながら魔法少女でるのは次回です。(ホントごめんなさい)