7 やる気のない幹部は案外接しやすい
遅くなった理由? それは文字数を伸ばしたからだ!!(言い訳)
ああ、処刑台に向かう気持ちというのはこういうものなのだろうか。まだ自分は死ぬと決まった訳じゃないが、なんとも言えない気分だ。
走馬灯が見えるかなと思ったけど、俺はどうやらそれほど濃い人生を送っていないかもしれない。だって退屈だった。それも前世よりもだ。
・・・・・そういえばどうして退屈なんて思ってるんだ?俺の人生は前世と変わらずにゲームをしたり、小説や漫画を読んでたんだけどな。
まあ、今となってはどうでもいいや。
冬先琉斗が重い足取りで歩いているのに対してウルフェンは少し軽い足取りになっていた。
驚いたな、リュウトの負のエネルギーが上がると同時に俺の力も契約する前には及ばないが、確実に上がっている。
さらには、俺が負のエネルギーに困ることがあまり無くならないのもいい。これが契約の力か、・・・俺は運がいい。
契約というのは成功もすれば失敗する時もある。もし、あの時リュウト以外の人間だったら契約も失敗していたかもしれん。
何より、普通なら逃げられてもおかしくなかった。そういう意味では、リュウトは頭がぶっ飛んでる。
だが、そうなると疑問が残る。あの天界のチビを追ってた時に会ったあの女、チビと契約した風に見えるがアイツにそれほどの力が感じられなかった。いや、むしろ俺より弱い奴だった。
だとすると、あの女はいったいどいつと契約しやがった?
・・・まあ、今は考えてもしょうがねえ。
しかし驚いたな・・リュウトにうっかり魔界の目的を喋っちまった時、逃げるなり抵抗してくるかと思ったが黙って俺の後をついてきてやがる。
これは、リュウトが俺たち魔界側に協力してくれることに違いねえ!!
よく考えたらリュウトは俺を助けようとしたり、魔界にも来てくれた。・・・・へっ、変わった人間もいやがるぜ。
「・・・リュウト、お前は良い人間だな。」
「・・・・・。」
しまった、つい、らしくねえ本音をだしちまった。思ってるより恥ずかしいが、これが俺の本音だぜリュウト。
・・・・・・なんでリュウトの負のエネルギーが上がってんだ?
おっとそれよりもジェンダーさんの部屋まで来ちまった。
冬先琉斗は半ば覚悟を決めていた。
はあ、もう何かどうでもいいや。俺の人生こんなもんだろ。
「おいリュウト。ジェンダーさんの部屋だくれぐれも下手な真似はお前に限っていえばしないと思うが注意しろよ。」
つうかさっきから何?この狼が妙に優しくしてきやがる。
あれか?最後の慈悲って奴?だったら俺を家に帰せや。
それともあれか?分かってて敢えてやってんのか?だとすると流石は人間界を侵略するだけのことはあるねまったく。
「ご心配なく。一切口を出そうとは思ってないです。」
「いや、そこまでする必要はねえぞ?」
奴隷扱いや拷問にかけられそうになったら思いっきり大声で嫌み言ってやろう。その前にこの狼に食い殺されるか?
だって怖えよ!!俺は犬とか蛇が苦手なんだよ!
何考えてるか分かんねえから、いきなり噛んでこねえかビクビクしてた。
そういう意味ではウルフェンには意思があったから喋れたから問題ないと思ってたのに、この野郎、犬から狼になって危険性がおかしい。
何?魔界に行くと力がみなぎるのか?!
まあ考えたところで、今の俺には不要だ。どうせ人生終了するからな・・・。
そうして覚悟を決めた冬先琉斗はウルフェンの後に続く形でジェンダーがいる部屋に入ろうとした。
「ジェンダーさん、俺です、ウルフェンです。」
・・・・・・・・・・・。反応がないんだが。もしかしてなんかあったのか?ならもしかしたら逃げれたり・・・、
「もしや・・・・。リュウト、ついてこい。」
ですよね、そうだと思ったわ。
諦めて俺はウルフェンに付いていった。
部屋の中は只々シンプルで、机と椅子だけがあり、そこにジェンダーと言われる奴が・・・・いない。
いや、奥にいた。奥の、人がギリギリ寝れそうなくらいの窓にその男はいた。ていうか寝てない?
というかよく見たらあの窓には窓ガラスなくない?
え?落ちたら死ぬんじゃない?
「大丈夫だリュウト。いつものことだ。直ぐに慣れる。俺も最初は驚いたがな。」
え?いつもあんな危ないところで寝てるの?だってここ結構高い位置なんですけど?落ちたら死ぬよ?
・・・もしかして寝るのが上手いのかな。
「ジェンダーさん、ウルフェンです。戻るのが遅くなってしまい、申し訳ございません。」
「・・・・・・・・んぁ?リズか?それともオクターか?」
気の抜けた返事をして、男が起きたが驚いた。
明らかに人間じゃないか!!両手を頭に組んで、寝ていたせいか、腕が邪魔でよく見えなかったけど、顔や肌の色は人間のそれだ。
顔は少しやつれていて疲れてそうな感じの茶髪の40歳くらいのオッサンだ。
あと目の色も青だ・・・・・・いや、目の色は珍しくないな。前世のおぼろげな記憶だとみんな黒色とかだった気がするけど、この世界には目が黄色やら青の奴がいるんだよな。しかも同じクラスにいるし。
いやあ、最初は驚いたな。そんな奴は異世界にきてから14
歳になるまで1度も見たことなかったからなあ。
でも皆は違和感なく接しててビックリしたよ。
しかもそれをあいつらに話したらキョトンとされたから多分、昔から皆あの女子達を知ってたかもしれないと思ったわ。
だって俺は人の顔覚えるの苦手だからな!!
というかウルの言う通り本当に人間みたいな奴もいるんだな。そこは以外だった。
「いえ、ウルフェンです。ジェンダーさん。」
「・・・おお!遅かったな。一瞬わからなかったぞ。というかその格好はどうした?イメチェンか?」
ジェンダーは一応驚いてる感じはするも、淡々と冷静に、そして気だるそうな感じで喋る。
「いえ、契約の影響で力を半分くらい失ったのでこんな姿になっちまいました。」
「おお、マジか。契約なんてのは早々できるもんじゃねえし、なにより負のエネルギー寄りの人間なんてそんないないからな。・・・・てことはお前は人間か。」
ジェンダーは視線を冬先琉斗に向ける。
「はい。そうです。」
「ん?緊張してんのか?まあいい、座れよ。」
「え?でもその椅子はジェンダーさんが座るところじゃ・・。」
「俺はいつもここら辺で寝てるだけだからな。気にする必要はねーよ。」
「はあ・・・分かりました。」
なんていうか、緊張してたのに随分と気が抜けちゃうな。・・・・ここは座っておこう。
「そんでお前、名前は?」
「あ、琉斗です。」
「リュウトか、よろしく。ウルフェンから知ってると思うが、ジェンダーだ。気楽にジェンダーと読んでくれてもいいし、正直なんて読んでも構わねえ。」
「じゃあジェンダーさんで。」
流石に最初から年上(?)に対して呼び捨てはマズイよな。
ただ、なんか思ってたイメージと違うな・・・。もしかして、立ち振る舞いによってはここから帰れるんじゃね?
「へえ、ジェンダーさんね・・・・。」
ジェンダーは納得した様子で言った。
「あの、何かまずかったですか?」
「ん?いや問題ねえよ。・・・そうか、リュウトは契約の事をあまり知らねえのか。」
「そうっすね・・・・ただ、ウルの力を半分もらうってのは知ってます。」
「おい、リュウト!!ジェンダーさんの前でその呼び方を言うんじゃねえ!!」
後ろが騒がしいがどうでもいいから放っておくとして、もしかして契約ってのはリスクとかあるのか?それなら軽い気持ちで契約した自分をぶん殴りてえ。異世界舐めてわ。
「お、いいなその呼び方。俺も次からウルって呼ぶわ。」
「ジェンダーさんまで・・・勘弁してくださいよ。」
「そうか?ウルフェンが嫌ならやめるぞ?」
「いえ、ジェンダーさんの好きにしてください。」
へえ、あのやたらとつっかかるウルが素直に従うなんて、ジェンダーさんは相当偉いのか?まあウルのボスって言うんだし当然と言えば当然か。
「話がそれちまったが、契約ってのは簡単にできるもんじゃねえ。魔界の奴らの場合は負のエネルギーをかなり持っている奴はもちろんだが、契約する奴との相性もあってなきゃならねえ。」
「あの・・・質問なんですけど契約ってリスクとかあるんですか?」
「ああ、リュウトに関してはリスクはねえよ。どっちかってーとウルの方にリスクがあるな。」
あぶねー、なんとか最悪の事態は逃れたって感じだな。
ウルのリスクってのは力を半分失ったやつだろう。まあ、ウルがどうなろうとどうでもいいから気にしなくていっか。
「・・・・?!まずい、力が?」
俺がいろんな事に安心した瞬間なんとウルフェンが狼サイズから中型犬サイズに戻った。
「ん?もしかしてそれが本来の姿か、ウル?」
ジェンダーさんは少し驚いた感じだ。そらそうだ、俺も驚いた、けどそれ以上にウルが全然怖く見えないから安心してるな俺。
「はい・・・まあ、これが契約した時の姿です。」
「そうか。まあ、確かにリュウトからの負のエネルギーが無くなったから、当然と言えば当然だな。」
ん?どういうことだ?ウルが元のサイズに戻ったことに俺の負のエネルギー(?)が関係してるのか?
「すいません、負のエネルギーってなんですか?」
冬先琉斗はジェンダーに質問した。
「なんだ知らねえのか?人間のマイナスの感情が出た時にでる概念の副産物みてえなもので・・・・まあ早い話がストレスを感じたらでるモンだ。」
随分ザックリな説明だな?!まあどちらにせよ、よく分かんなかったからいいけど。
「とりあへずそれが魔界の皆にとっての力の源?なんですか?」
「力の源っつーか、すべてだな。俺たちは負のエネルギーから生まれたもんだ。」
「え?それって人間から生まれたって事ですか?」
「細かく言うと違うが、だいたいそんなところだ。」
なんか話のスケールがどんどん大きくなってるな。
あれ?それならなんで人間を侵略するんだ?でもそんなこと聞いたらどうなるか分かんないから黙ってよう。
「話はこれくらいにして、リュウトはいつから働くんだ?」
ぐ、なんかいい感じに話がそれたけど、ついにきたか奴隷の話。
いつからだと?そんなもん、俺の寿命が済んでからにしてほしいわ!!
「ジェンダーさん、リュウトはすぐにでも魔界のために力になってくれる覚悟があります。」
ウルフェンが即答する。
こ、コイツなに勝手に言ってんだ?!
「おいおい本当かよ。俺より真面目なんじゃねえか?」
違いますよジェンダーさん。本当は働くなんて嫌だから!普通に家でゴロゴロしていたい人間だから!
畜生あの犬っころ、元はと言へば誰のおかげで生きていると思ってんだ。
・・・・ん?まてよ何か妙だ。奴隷なら下僕だのこき使ってやるだのというが。「力になってくれる」は少し違うような。
ここはもう覚悟して聞いてみるか。
「あのジェンダーさん、人間界を侵略すると聞いたんですけど、どう侵略するんですか?」
「詳しい事はわからねえが、とりあへず人の負のエネルギーを集めて、力を蓄えるらしい。」
「人間も皆殺し・・とかですか?」
「?、そんなことはしねえだろ。人間がいねえと俺たち魔界の連中は生きられねえ。」
「え?そうなんですか?」
「ああ、説明してなかったな・・・・・まあ俺たちは定期的に負のエネルギーを取り込まなきゃならねえ。人間でいうところの「食事」ってやつだ。」
それウルも言ってたな、負のエネルギー重要すぎじゃない?というか魔界の奴らにとって、負のエネルギーはすべてなのかも。
「じゃあ、俺はここでなにするんですか?」
「なにするってそりゃ、人間界で負のエネルギーを集めることだろ?」
まじか。どうやら俺は勘違いしてたらしい。奴隷じゃないなら大丈夫か?
「?、リュウトはそのためにウルと契約したんだろ?」
「え?」
「ん?」
なんか話がかみ合ってないぞ?
「すいませんジェンダーさん、それも含めて報告しなくちゃなりません」
そう言ってウルフェンが契約に至った経緯、冬先琉斗は魔界の目的を聞いても黙ってついてきたから魔界側に協力してくれる意思があることを説明した。
そうして冬先琉斗は自分の勘違いに気づいた。
「・・・なるほどな、てことはもしかしてお前魔界側につく気ないんじゃねーの?」
「ええ、全くその通りです。」
「何だと!?じゃあなぜあの時黙っていた!!」
「馬鹿かお前!普通に考えてあそこは黙る場面だろ!ああービビッて損したわ。」
冬先琉斗とウルフェンは激しく言い合いしているが、そもそも彼らの思考がかなりズレていたのが原因だ。
それを見透かしたジェンダーは軽い溜息をついた。
これを楽しみにしてくれた人(いるかどうか自信ないけど)ごめんなさい。
ただ1つ言わせて欲しい、肉体労働はキツイ。